捨て子から聖女になった私は婚約者の王子に侮辱されたうえ婚約破棄されました。~後から何を言っても無駄です、貴方のもとへは帰りません~(前編)
私エイリーシアは元々捨て子だった。
まだ赤子であった頃に王都近くのごみ捨て場に置き去りにされていた、そう聞いている。
しかしたまたま力ある家の主が拾ってくれて。
それゆえ私は経済的に豊かで余裕があり権力を持っているという家の娘として大切に育てられた。
そんな私は、十五の春、国を護る聖女であるということが判明。
それによって人生は大きく変わった。
というのも、王子エルヴェルトと婚約しなくてはならないことになったのである。
だが私はエルヴェルトを嫌ってはいなかった。
整った容姿、どことなく漂わせる冷たい空気、そして王子の風格。
そういったものを私はそれなりに気に入っていたのである。
だからエルヴェルトの妻となれることを嬉しく思っていたし、彼を支えて生きてゆこうと心を決めていた――のだが。
「エイリーシア、貴様とはもう終わりだ。婚約は破棄とする」
ある夏の日、エルヴェルトから告げられたのは、関係の終焉であった。
「そ、そんな、どうしてっ」
「貴様が聖女だというのは嘘なのだろう?」
「え……」
「ニーナから聞いたぞ。貴様、捨て子だったそうではないか。今の家にいるのは拾われたからだけだとか」
確か、ニーナというのは、エルヴェルトの周りをちょろちょろしている女の名だった気がする。
「あ、は、はい。それはまぁそうですけど……」
「そんなやつが聖女なわけがない!!」
「ええっ」
「嘘をついて王子である俺と結婚しようとするなど、最低だな」
「待ってください、嘘ではありません。私が聖女であるという結論を出したのは国の機関です! 私が勝手に言っているのではありません!」
本当のことを言ってみるけれど。
「うるさい女だ」
睨まれるだけで終わってしまった。
「ま、なんにせよ、俺はごみ捨て場にいたような女と生涯を共にする気は一切ない」
「酷い言い方ですね……」
「だが事実だろう? お前は捨て子だったのだ」
「それは……そう、ですけど。でも、だからって、ごみ捨て場にいたような女、なんて言わなくても……」
泣きたくなるのをこらえて。
震える声で言葉を懸命に紡ぐ。
「エイリーシア、今すぐ俺の前から去れ。消えろ。いいな? そうすればもうこれ以上何も言いはしない」
こうして私は彼の前から去らされることとなってしまった。
「婚約者さん、今までお疲れ様でしたっ」
城から出ていく時、誰も見送りには来てくれなかった。が、本当に出ていく、という時になって一人だけ見送りに来てくれた。しかしそれは良い印象の人ではなくて。馬鹿にしたような笑みを向けてくる女性ニーナであった。
「エルヴェルト様も、国も、あたしが幸せにしますから! 貴女はもう一生あたしたちの前に現れないでくださいね? うふふ、じゃ、さようなら~!」
彼女は明らかに嫌がらせのために来たようであった。
「でしゃばってんじゃねぇよ、クソ女」
「え――」
「捨て子は捨て子らしくごみ捨て場這って生きてろや」
そして、別れしな、ニーナはそんな汚い言葉を吐き捨ててきたのだった。




