「俺、彼女と生きることにしたから」って……結婚式一週間前にそんなこと言いますか!?
結婚式のちょうど一週間前に。
「俺、彼女と生きることにしたから」
婚約者アドビーが見知らぬ女を連れてきて。
「だから、婚約は破棄な」
そんなことを言ってきた。
婚約から半年以上が経っている。
そしてもうすぐ結婚式だ。
だというのに、堂々とこんな宣言をしてくるなんて。
……正直どうかしていると思わざるを得ない。
「本気で言っているの?」
「ああそうだよ。だってもう彼女しか見えないんだ。このままお前と結婚したとしたって彼女との縁を切ることはできない」
「なんて勝手な」
「結婚するだけしていきなり不倫されるってのも嫌だろ?」
「それはそうだけれど……」
「ま、そういうことだよ。じゃあな。今までありがと、ばいばい」
いやいや! おかしいだろう! ばいばい、だって? そんなの、あまりにも身勝手だ。全部自分の都合ではないか、私のことなんて周りのことなんて欠片ほども考えていない。 そんな行動は、明らかに、一人の大人として相応しくないだろう。おかしい! はっきり言わせてもらえるなら。間違っている! と、そう言わせてほしい気分だ。
そんな風に怒りが吹き上がった刹那、上空から一匹の巨大蜘蛛が落ちてきた。
そしてそれはアドビーとその横にいる女を即座に捕らえ食してしまう。
「ぎゃあああああ! 何これえええええ!」
響きわたる女の悲鳴。
「うわあああ! た、た、助けてえええ! 頼むぅ! 頼むよおお! 助けてくれええええ! お願いしますうううう!」
そしてアドビーの声も続く。
……かくして、二人はこの世を去ったのであった。
◆
あれから三年ほどが経った。
私は今、心優しい夫と共に、穏やかに暮らせている。
あの身勝手過ぎる婚約破棄には苛立ったけれど、でも、それがあったからこそ今日があるのだと思えばもう怒りは湧いてはこない。
あの二人に未来はなかった。
でも私には良き人と出会え結ばれることができるという幸せな未来があった。
それだけで十分だ。
私はこれからも夫と共に前を向いて生きてゆく。
ありとあらゆるもの、すべての経験が、その糧となり明日を彩るのだ。
◆終わり◆




