とあるパーティー会場にて、義妹からとんでもないことをされてしまったのですが……そこに救いの手が差し伸べられまして!?(前編)
私には親の再婚によってできた義妹がいるのだが、彼女からは大変嫌われており、ことあるごとに嫌がらせをされていた。
そんな彼女と一緒に参加することとなったパーティー、その会場にて。
「ぶぅふぇへっくしょん!!」
私は義妹に顔の前で巨大なくしゃみをされてしまった。
それによって私の顔面やら胸もとやらは義妹の唾や鼻水で濡れることとなってしまった。
「あっははは、どろどろですわねお義姉さま」
義妹は人に体液をかけておいて笑っている。
馬鹿にしているのか?
さすがに酷すぎる!
他者を馬鹿にし続けるのもいい加減にしろ! といった気分だ。
でも……ここで大きな声を出すわけにはいかないので私はただひたすらに耐える外ない。
「なにあれ~、汁だらけできったなぁ~い」
「服も顔もどろどろじゃーん」
「それなそれな。もっと綺麗にしてこいよって感じだよな」
「うっそ、あれ、もしかして鼻水!? いやいや無理無理、あり得なぁーい……どうしてあんな状態で……サイッテー」
参加者の女性たちからそんな言葉をかけられても、それでもなお我慢し続けるしかなかった。
だってここで「義妹にくしゃみされたんです」なんて言えるわけがないではないか――そんな恥ずかしいこと、事実だとしても言えるわけがない。
私は汚い女だ。
しかもそんな不潔な状態でパーティーに参加してくる女。
……そう思われてしまっても仕方ない。
「じゃ、お義姉さまはそこにいてちょうだいねっ」
「え」
「ついてこないで! 汚い女とは一緒にはいたくありませんから」
「あなたがしたんでしょ!?」
「うるさいですわね。不潔なのを他人のせいにしないでくださる? では、これにて失礼」
煌びやかなドレスをまとった義妹は私と共に在ることを放って歩いていってしまった。
ぽつんと放置され、悲しい気持ちになっていたら。
「あの、少しよろしいでしょうか」
声をかけられて。
振り返るとそこには一人の金髪の青年。
「あ……は、はい」
「先ほど、あちらの女性に嫌がらせをされていらっしゃいましたよね?」
「え」
「いきなりこのようなことを、失礼しました。無礼かとも思ったのですが……少し気になりましたので、声をおかけしたのです」
青年はそっと微笑む。
「よければ代えの服をお貸ししますよ」
「えっ……」
「その状態では歩くことすら難しいでしょう? お着替え、持って参ります」
私は頼ることにした。
こんなどろどろな状態でパーティー会場を歩いていては皆を不快にしてしまう。それを避けられるのであれば、少しくらい協力してもらうというのも悪くはないだろう。たとえそこにリスクがあるとしても、だ。何もしないよりまずは小さなことでもやってみろ、そんなことわざもあるし。
「すみません、では、どうか……お願いいたします」
「ええ! ではこちらへどうぞ。着替えのための部屋にまで、案内します」
「あ、ありがとうございます。それは助かります、とてもありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします」
私は彼のおかげで身体を綺麗にできたし新しいドレスに着替えることもできた。
「き、綺麗……!」
「素敵ですよ」
「ありがとうございます! こんな素敵なドレスを! 本当に、本当に……助かりました! ありがとうございました」
少し間を空けて。
「あの女性、義妹だったのですね」
「はい」
「その事実、参加者に明かしましょう。虐められているのでしょう?」
「えっ……」
「放送しますよ。皆に話します。彼女はどういう悪質な行為をしたのかということを」
彼はそんなことを言い出す。
それは私にとってとてつもなく想定外な展開であった。
「そ、それは……後でまた怒られますので、ちょっと……」
どうしても事なかれ主義を貫こうとしてしまう。
動くべきだと分かってはいても動けない。
それは動いた後のことが怖いからだ。
動いた先に穏やかでいられる保証がないと動こうとはどうしても思えない。
「ですがああいうことがこれからも続いて良いのですか?」
「それは……その、嫌、ですけど。でも、もし行動してより一層虐められるようになったら、それはもっと怖くて。嫌、なので」
すると。
「では保護しますよ」
「保護?」
彼はさらに提案を投げてきた。
「はい。貴女だけ城に残れば良いのです。そうすれば誰からも虐められはしないでしょう」
「し、城、に? また、どうして……といいますか、そもそも、そのような勝手なことが可能なのですか?」
困惑することしかできない。
話の展開に頭が追いついていかない。




