幼馴染みで婚約者の彼が婚約破棄を言いわたしてきました。しかし私はそのおかげで幸せになれたのでなんだかんだで幸運でした。
「お前、いいとこないだろ」
幼馴染みで婚約者でもある同じ年齢の彼グイングリッドは片側の口角を持ち上げて黒い笑みを滲ませる。
「だからさ、婚約破棄するわ」
彼はそう言って目を細めた。
その笑みは綺麗なものではない。
明らかに黒く、明らかに自己中心的なものだ。
きっと彼は「婚約破棄したい」とばかり考えていたのだろう。
「本気で言ってるの?」
「あったりまえだろ」
彼と離れることになるのはべつにそれでもいい。
けれどその点以外に気になる点はあった。
「でも、もう式の日も決まっているのよ。皆に報せもしたし。そちらにもこっちにもだけれど……今さらやめるとなったら多くの人たちに迷惑がかかってしまうわ」
皆に迷惑をかけることになってしまう。
そういう意味で私は婚約破棄には反対なのだ。
でも。
「知るかそんなん」
彼がさらりとそう返してきたのを聞いて。
「……それでも婚約破棄したいのね」
「ああ」
もう無理なのだと悟った。
「分かった。じゃあそれでいいわ。そうしましょう」
私たちは幼馴染みだった。付き合いは長く、互いのことはよく知っている。だからこそ、同じ未来を見つめることができるものだと思っていた。互いのことをよく知っていて、これまでも長い時間を共に歩んできて。その実績があるからこそ、これから先の未来へだって手を取り合って行けるだろうと信じてきたのだ。
でもそれは私の勝手な思い込みだったのかもしれない。
「オケ。じゃあな、ばいばい」
ああ、終わってゆく、すべて――。
◆
あの後私は運良く別の人と結婚することができた。
たまたま父の知り合いに婚約相手を探している青年がいて、それで、父が勝手に私を立候補してきてしまったのだ。
ああ、なんてこと――最初はとにかくその想いでいっぱいだった。
だって知り合いでもなかったのだ。彼と私。お互い、顔を見たこともない。そんな二人だった。そんな二人が上手くいくわけがない、そう思っていた。
けれど彼と一度会ってみてからは考えが大幅に変わった。
彼はとても話しやすい人だった。
途中で共通の話題が見つかったこともあって急激に仲良くなり、婚約、そして結婚するに至った。
出会ってからまだ五年も経っていない私たち、でも、心の距離は近く絆も固く強いものとなっている。
彼とであればきっとどこまでも問題なく歩んでゆけるだろう。
今は彼を信じている。
そして明るい未来が訪れることも純粋に信じられる。
◆
そうそう、ちなみにグイングリッドはというと、あの後一人の女性に惚れるも強い言葉で拒否されてしまったそうだ。
で、そのショックで正気を失ってしまって。
女性が仕事場から帰るところを待ち伏せして刃物で襲いかかり、殺してしまおうとしたそうだ。
――だが作戦は失敗に終わった。
素人一人では人一人を殺すなど難しいことだったのだろう。
で、その事件によって、グイングリッドは牢屋送りとなったそう。
彼は今、殺人未遂で、冷たい飯を食わされている状態だ。
そしてこれから先も。
恐らく当分解放されることはないので、今の暮らしがずっと続いていくこととなりそう。
それにもし解放されても既に前科持ちみたいなもの。
真っ当な人とは結婚できないだろうし、普通の人のように生きていくことだってかなり難しいだろう。
グイングリッドの人生は終わったも同然である。
◆終わり◆




