幼馴染みの嘘を信じた王子が婚約破棄を告げてきました。しかも真実を主張しただけなのに国から追放されることにまでなってしまい……?(後編)
「陛下! しっかりなさってください!」
「……す、スイ……ト」
国王が刺客に命を狙われたのだ。
その時私はたまたま近くにいたので、必死になって割って入って、何とか彼の命は奪われずに済んだが――共に負傷してしまった。
「君、も……怪我を、して……」
「私は平気です! 元気もりもりスペシャルパワー、です!」
ついよく分からないことを言ってしまって。
「……何を、言っているんだか」
ふ、と、呆れたように笑われてしまった。
「スイート様! これは一体!?」
「刺客が襲ってきたのです! 陛下を狙っていました!」
取り敢えず何が起きたのかを報告しておく。
「な、なんということだ」
「信じられん」
「こんなことが起こるなど」
警備の者たちは動揺しているようだった。
どうやらこういう事件はこれまであまり発生していなかったようだ。
「貴女も怪我しているではないですか!」
「あ、いや、これはまぁ……」
「取り敢えず貴女はこっちへ! 手当てしますから。ちょっと! 救護班呼んで、早く!」
私はというと、侍女の一人に腕を引っ張られ、強制的に手当てできる場所へと連れていかれることとなった。
――その日以降、私と国王の距離は急激に縮んだ。
「スイート殿、わたしのせいで怪我をさせてしまい申し訳なかった」
彼がやたらと私のところへやって来るようになったのだ。
「いえ、陛下がご無事で何よりです」
しかも何度も謝ってくる。
「だが……女性が怪我するなど大問題、なのだろう?」
「この程度であれば問題なしですよ、すぐ治ります」
彼は私が怪我をしたことを酷く気にしていた。
あんなのはたまたまだし、彼がやらかして傷つけたわけでもないのだから、そんなに気にしなくていいのに……。
「し、しかし! スイート殿!」
「何ですか?」
「婚前の若い身に傷をつけてしまい申し訳ない……」
「大丈夫ですって」
「わたしでよければ責任を取るが」
「え……?」
そこから話は思わぬ方向へと進み始めて。
「君を愛することはないと言ったが」
「え」
「今、わたしは、君に興味を持ち始めてしまっている――その身を盾とし我が命を守ってくれた、勇敢な君という女性に」
◆
暗殺未遂事件から一年半、私は、国王と結婚した。
あの事件がなかったらきっと今日もなかった。
負った傷はもうとうに癒え消えているけれど、ある意味では、あの時の傷が私を今日この場所へ連れてきてくれたとも言えるだろう。
負傷したことによる苦痛は確かにあったけれど、結果的にはあれは悪い出来事ではなかったのだ――今はそう思うし、迷いなくそう言える気がする。
「スイート殿」
「は、はい」
「いつまでも、共に……」
「こちらこそどうか末永くよろしくお願いいたします」
ちなみにフィレットとリフェッタはというと、あの後破滅したようだ。
私がいなくなってから二人は婚約したそうなのだが、それからというもの王家の金を使ってリフェッタがやたらと贅沢をするようになったそうで、それによって二人の周囲からの印象は急激に悪化したらしい。
次第に民からも批判されるようになって。
それでもフィレットはリフェッタを咎めなかった、むしろ擁護していたそうだ。
そうして多くの人たちから嫌われた二人は、やがて、災難に見舞われることとなる。
フィレットはある日の視察中不審な男による襲撃を受け刃物でめった刺しにされて死亡。
リフェッタはその後城内にて謎の死を遂げた。
それは彼女を批判的に見ていた女性王族が雇った刺客による暗殺であったとも聞く。
なんにせよ、二人に幸せな未来はなかった。
でもそれは悲劇ではない。
彼らの日々の行いが悪かったからこそそういう結末になった、ただそれだけのことである。
◆終わり◆




