幼馴染みの嘘を信じた王子が婚約破棄を告げてきました。しかも真実を主張しただけなのに国から追放されることにまでなってしまい……?(前編)
二十歳の春、婚約していた王子フィレットから婚約の破棄を宣言された私は、恐ろしい国王が支配する北の国へと送られることとなってしまった。
フィレットは幼馴染みである女リフェッタの嘘を信じた――私が昔からフィレットと親しいリフェッタに嫉妬し裏でこそこそ虐めをしている――そんな何の根拠もない嘘を、彼はすっかり信じ込んでしまったのである。
私も自身の名誉のため「その話は嘘である」と何度も主張した。が、主張を繰り返しても一切聞き入れてはもらえず、むしろ余計に嫌われたほどで。意見を述べたがために、婚約破棄だけだったところを国からの追放や北の国送りまで追加されてしまった。
それほどにフィレットはリフェッタの言うことだけを信じていた。
◆
「話は聞いている。確か君が――噂の女性スイートだな」
「……はい」
北の国へ送られ、そこの国王とついに対面。
彼は確かに少々怖い雰囲気をまとっている人であった。けれども悪さは感じない。噂で聞いていたような冷ややかさや残酷さもそれほど感じない。その瞳は冬の空のように青く澄んでいる。
私は彼に捧げられる予定らしいが、詳しいことはまだ分からない。
「スイート殿、わたしは、君を愛することはないだろう」
「……承知しております」
「だがまぁ傷つける気はない。よって、自由に過ごすがいい」
「えっ」
「最低限の生活は保障しよう」
こうして私は北の国にてそれなりに生活させてもらえることになった。
ここはとても寒い。それゆえ外へ行く時は防寒具が必須だ。一応建物内は空間を暖める工夫がされているようだが、それでも、部屋から廊下に出れば少々冷たさを感じる。それほどの寒さがここにはある。
でも、それとは対照的に、働いている人たちの心は温かかった。
「お花持ってきました!」
「あ。今日もありがとうございます」
「この前お好きだと聞きましたので……今日はこちらを多めに入れておりますっ」
「あ、これ! そうなんです、私、この花とても好きで」
「気に入っていただけました?」
「はい」
「わぁっ、なら良かったです!」
部屋に飾る花を持ってきてくれる可愛らしい三つ編みの少女も。
「本日の朝のスープはコーンを使っておりますので甘めです」
「コーンですか……!」
「ええ。コーンはあちらの国でも食されているとお聞きしましたので、そちらを使ったスープといたしました」
「ありがとうございます、好きなんですコーン」
料理を運んできてくれる使用人も。
「陛下より、新しいお召し物が届きました」
「えっ!? へ、陛下より!?」
「はい。服が少なくて不便しているのでは、とのことで、陛下は貴女にこちらを贈ることにされたようです」
「あ、そうなんですね。お気遣いありがとうございます」
身の回りの世話をしていくれる侍女も。
皆、揃って、とても優しい。
ここでなら心穏やかに生きていけるかも。
いつからかそんな風に思うようになって。
こんな人生も悪くないのかもしれない、なんて、少しずつ思い始めていた。
――そんな矢先、事件が起こる。




