名刀クエスト(好事百景【川淵】出張版 第九i景【刀】)
和風ファンタジー!
※noteにも転載しております。
「この国に、伝説の名刀をもたらすために、悪しき龍の棲まう洞へと行ってほしいのだ」
我が主からの呼び出しを受け、城へと参じた拙者に下った命がそれであった。
剣聖と呼ばれた師を持ち、国で五本の指に入ると言われる剣豪の拙者である。主の命とあれば、どれほど困難な旅になろうとも承ろうぞ。
「伝説の名刀、でございますか?
その悪しき龍とやらの腹にでも、埋まっておるわけですな。
かしこまってござる。見事、龍を退治して、名刀、持ち帰ってご覧にいれましょう」
「あ、ごめん。そうじゃなくてさ」
かしこまる拙者に、何故か主はすまなそうに頭を掻きながら。一振りの——お世辞にも業物とは思えない、鈍い輝きの刀を抜いてお見せくださった。
「この刀、うちの甥っ子が打ったんだけど。
これで龍を倒して来てくんない?
箔がつけば、こんななまくらでも名刀って呼ばれるだろうし、おまえ強いからいい刀じゃなくても、いけるっしょ?」
どうやら、主のかわいがっている甥っ子が、両親の反対を押し切って刀鍛冶をやっているらしい。
それを応援してやるために、彼の打った刀で龍を倒し、刀に「伝説」をあとづけしてやってほしいというわけだ。
断るわけにもいかぬ拙者は、なまくら一振りを腰に、旅に出る。
これも試練と、腹を括ったが。その切れ味の悪さには、たいそう苦労をさせられた。
それでも。こうして、ラスボスである龍の目前へと、なんとかたどりたどり着いたのでござった。
「ちょえすとぉお!!」
拙者の渾身の斬撃が、悪しき龍の硬き鱗を薙ぐ。だが、すでに刃こぼれだらけの刀はそれに耐え切れるはずもなく。
ぱきぃいん。
乾いた音を立てて折れる刃。
丸腰となった拙者が、死を覚悟したそのとき!
剣聖と呼ばれた師の言葉が、脳裏に浮かぶ。
「剣の極意は無刀ぢゃ」
拙者は無意識のうちに、龍を殴り倒していた。
一流の剣豪ともなれば、その身体能力もすさまじく。丸腰の喧嘩だからといって、そんじょそこらの輩に負けるはずもない。
剣を極めれば、おのずと拳も極まる——これこそが無刀の極意!!
ならば、ひたすら殴る、蹴る。
これまでは理解できなかった、それを会得した拙者にとって。
悪しき龍などは、もはや敵のうちではなかった。
龍を倒して無刀の極意を会得した報告に、主のもとへと帰り着いた拙者だったが。
「あ……うん。おつかれ」
見るも無惨に砕けた刀を見て、主はお褒めとも呼べない、労いをひとことかけてくださるだけであった。