表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

いろいろとあるのです

 確かに我が屋敷は、豪華絢爛な装飾をしているわけではありませんし、宝石やドレスに大金を使うこともありませんから、そう思われてもしかたがないかもしれません。なんと言っても我が家は質素倹約がモットーですから。


「まぁ、世間一般の認識はそんなものでしょう。しかし、実際には我が家は王家の財政を援助するくらいの財力はあります」

「そ、そんな……」

「ただこのことは公にはしない、と陛下と約束しているのですよ」

「なぜだ? なぜ隠す必要がある? そのことを公にすれば、カトレアが私の婚約者になることは簡単だったではないか! 何も私があんなことを言わなくても……」


 あんなこと? なんのことでしょうか?


「もしそれを公にすれば、私や私の家族、とくにカトレアは何かと面倒ごとに巻きこまれていたでしょう。貴族の妬みはなかなか陰湿ですからな」


 新興貴族の商売人など、妬み僻み嫌がらせの対象にはもってこいです。ただでさえ、私が殿下の婚約者候補に選ばれ、面白くないとも思っている人も多いのですから。


 考えるまでもない、と言いはなつ父の言葉に、殿下はかぁっと顔を赤くされました。なぜ、その程度のこともわからないのだと言いたげな父の視線は、殿下の自尊心を傷つけたことでしょう。


「伯爵が王家に資金援助をしていることは誰が知っているのだ?」

「そうですな。陛下、王妃殿下、宰相、それと財務部副長官、あとは……そうですな。上位貴族のうち政治の中枢にいる人たちくらいでしょうか」

「本当にひと握りしか知る者がいないということか。だが、それは帳簿を見ればわかること」

「さよう。しかし、その帳簿を管理しているのは、財務部副長官ですからな」

「長官であるアーバイン侯爵は知らないということか」

「ああ、彼は仕事なんてしていません。帳簿になんて目を通さずサインをするだけです。財務部の実権を握っているのは実は副長官ですし、書類は全部陛下のもとに行くので、問題もありません。まぁ、長官はお飾りというやつですよ。ご本人にはその自覚はないようですが」


 父は事もなげに言って笑っています。


「おわかりいただけましたかな? 私が援助をやめれば、王家の財政は少なからず影響を受けることになります。つまり、私の意にそぐわないことを陛下が許すことはないのですよ」

「……だが、レアが側妃になったとして、金銭的にレアが苦しむようなことを貴殿は望むのか?」

「なるほど。カトレアを人質にして、金を出せと?」

「そ、そんな乱暴なことは言っていない」

「まぁ、そうなればしかたがありません。レアは王族の人間ということになりますから、覚悟をして嫁ぐことになるでしょう。ただ――」


 殿下を睨みつける父の目が鋭く光りました。


「私の援助なく、王家が威厳を保つことができるのなら、の話でしょうな。その前に、陛下がお認めになるとは思えませんが」


 リチャード殿下はがっくりと膝を突かれました。

 それにしても、この方は何を考えていらっしゃるのでしょう。話を思いだせば思いだすほど、不快感が押しよせてきました。


「殿下。お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 顔を上げたリチャード殿下は、僅かに期待を込めた目で私を見ています。


「なんだい? なんでも聞いてくれ。私は君が納得してくれるならなんでも答えるよ」


 納得できる話が聞けるとは思っておりませんが。


「殿下が私を側妃にしようと思った理由です。殿下とマーガレット様はお似合いだと私は思っております。とても仲睦まじい様子も拝見しましたし」

「……」


 少し嫌味っぽかったでしょうか?


「マーガレット様は優秀な方だと殿下もおっしゃっていました。私も、マーガレット様は将来の王妃として申し分ない方だと思います。それなのに、結婚もしていない今の段階で、私を側妃に望まれるのはどういうことなのでしょうか?」


 リチャード殿下はグッと拳を握られました。


「マーガレットは、普通だ」


 普通?


「勉強の成績も真ん中くらい。王太子妃教育もカトレアの半分くらいしか進んでいなかった」

「どういうことですか? 殿下は私に、ほかのお二人の候補者より勉強が遅れているから、もっと頑張れとおっしゃったはずです」

「それは……マーガレットもキャシー嬢も侯爵家で力や財力があるから、婚約者として選ばれる可能性が高かったし、カトレアは伯爵家で二人より家格が下だし、その……力もないから、カトレアが二人より優秀であることを証明してもらわないといけないと思って」

「……」


 私はながーい溜息のあとに、「そうでしたか」と呟きながら、あのときの恥ずかしくて情けなかった感情を思いだしました。


 初めて「二人より遅れているから」と言われた日。私は、馬車の中でひたすら泣いていました。リチャード殿下のお心を煩わせてしまった自分が情けなくて、勉強だけは後れを取らない、なんて思いあがっていた傲慢な自分が恥ずかしくて。

 だから、睡眠時間を削って勉強をしたのに。

 結局それでもまだ足りないと言われていたのですけど。


「それで、そこまでした理由はなんでしょうか?」

「理由? そんなのレアのことが好きだからに決まっているだろう?」


 いったいどの口が言うの? というのは、こういうときに使うのでしょうね。


「それならマーガレット様とは?」

「彼女には気持ちなんてなかったんだ。ただ、彼女が、思い出が欲しいというから」

「思い出、ですか?」




読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ