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スケバン悪役令嬢!

作者: ヤスゾー

 その日、私は故郷を追い出されました。


「被告、ディアナ=デストロイ! お前に判決を言い渡す! 国外追放!!」

「お待ちください!」


 私は、ある小国の侯爵令嬢として生まれ、何不自由なく暮らしてきました。

 しかし、身に覚えのない罪で、突然、拘束されてしまったのです。


「今まで読み上げてきた罪は、どれも知らない事ばかり! 何かの間違いです!」


 父も母も、もちろん私自身も、必死に無実を訴えてきたのに、何の力が働いたのか、私は罪人として裁かれました。


 牢獄の生活は酷いものでした。私のブロンドの髪は白髪に変わり、瑞々しかった肌もすっかり荒れてしまうほどです。


「ディアナ」


 国外追放される日。

 私は、父にも母にも、別れの挨拶をする事すら許されませんでした。

 飢え死にするかもしれない。野生の動物が襲ってくるかもしれない。

 そんな今生の別れなのに。


 最後に私を見送ったのは、この国の王子。パワー=ロードマウンテン殿下。

 ……私の婚約者だった人です。


「信じてください! パワー様! 私は無実です! 何もやっておりません!」


 国境の門の前で、まさか王子に会えると思わず、私は必死に無実を訴えました。

 しかし、老婆のような姿になった私が言ったところで、王子の心には届かなかったようです。


「残念だよ、ディアナ。さようなら」

「……」


 今まで見た事ないような、冷たい瞳でした。

 元々、大人の都合で決まった婚約です。私が罪人となれば、態度が一変するのも当然でしょう。


 嗚呼。

 侯爵令嬢の身で、王子の妃候補になったのが、私の運のツキでした。妃候補になった時は、嬉しさのあまり、周囲の嫉妬に気付けなかった。

 私に対する殺気を含む鋭い視線に。


 こうして、私は故郷に追われる身となったのです。




▽▲▽▲▽


 そして、今、まさに……。


「ほら、照子よ! 持っているんだろう! 金!」

「よこせよ! これからアウトベーダーゲームで遊ぶんだからよ!」

「私は『スター・ワォーズ』が見てぇわ!」


 恐ろしい怪物たちに襲われそうになっています。


 今、思い出しました。

 私、壊魔かいま 照子てるこは、前世で侯爵令嬢だった事を。

 無実の罪を着せられ、故郷を追われた事を。


 今は1978年。

 私は日本と言う国で、女子高校生をやっています。

 ……カツアゲされていますが。


「聞こえているのか!? あぁ!」

「黙りこくっていちゃあ、わかんねーんだよ!」


 女性の不良……いわゆる、スケバンさん達が長いスカートを引きずって、こっちに睨みをきかせています。

 仕草も言葉遣いもとてもまともに聞いていられない程、酷いものです。


 入学するまで気づかなかったのですが、私が高校に選んだ学校は県内でも指折りの不良達が集まる女子高だったようです。

 なにせ、挨拶のように「死ね!」「馬鹿野郎!」「殺す!」といった言葉が飛び交うのですから。

 前世で、「ごきげんよう」と上品に挨拶をしていた時が懐かしいです。

 あの頃は、こんな風に体育館の裏に呼び出される事もありませんでした。


「何とか言えよ! この野郎!」


 スケバンさんの一人が、私の肩を強く押してきました。

 あまりの強さに私はバランスを崩し、地面に倒れます。


「きゃっ!」


 その時。

 私の脳裏に、野太い男性の声が響きました。


「立て……立つのだ、ディアナ」

「……」


 この声は……!

 厳しくも温かい、私の人生を照らす声。 


「師匠様!」

「ああん?」


 私が突然、天に向かって声を上げたので、スケバンさん達は首を傾げています。


 私は愚かです。

 前世で一番大切な人の事を忘れていたなんてっ……!

 国外追放された私を救ってくれたMr.ホワイトマスクの事を!!




▽▲▽▲▽


「立つのだ、ディアナ」

「師匠様、私は無理です! これ以上の修行にはついていけません!」


 前世にて。

 国外追放され、飢えで倒れていた私を拾ってくれたのは、伝説の格闘家ホワイトマスクでした。

 常に白いマスクをかぶり、誰もその素顔を拝見した事は一度もありません。しかし、伝説の技である五の字固めは、私の国だけに止まらず近隣の国まで知れ渡っているほどです。


「私は今まで侯爵令嬢として生きてきたのです! 腕立てやスクワット、クランチ、レッグレイズをそれぞれ50回なんて、とても……!」


 私は泣きながら、師匠であるMr.ホワイトマスクに修行の中止を訴えました。

 救ってもらったのはいいのですが、何故か、そのまま私はMr.ホワイトマスクに弟子入りする事になってしまったのです。

 来る日も来る日も厳しい修行の日々に、私は疲弊していました。

 しかし、師であるMr.ホワイトマスクは首を振ります。


「いや、お主には才能がある。ワシにはわかる」

「しかし……」


 私は戸惑いました。

 今まで家事一つ、自分でやってこなかったのに、格闘の才能なんてあるのでしょうか。


「お主は優しいおっとりとした顔をしている。だがな、心の中には燃え上がるような野心が燃えておる!」

「……え」

「考えている暇はない! さあ、もう一度! スクワットが途中で止まっておる!」

「そ、そんな……!!」


 私の涙に同情することはなく、地獄の特訓がずっと繰り返されたのでした。




▽▲▽▲▽


「いつまで座り込んでいるんだよ!」


 前世の記憶に思いを馳せていると、スケバンさんの一人が、私の肩を掴みました。

 いつまでも、立ち上がらない私にしびれを切らしたようです。


「早く金を……」

「放しなさい」

「あん?」

「放しなさいと言っているのですわ!」


 私は相手の頭を両手でつかみ、思いっきり己の頭で叩きつけました。


「ぎゃあぁぁぁ!!」


 無様な悲鳴を上げて、相手は地面に転げまわります。

 額を一生懸命、押さえているあたり、相当痛いのでしょう。

 わかりますわ。

 修行の時のクセで、私、頭にレンチを仕込んでいたみたいです。

 今まで、何故このようなクセがあるのか不思議でしたが、やっと謎が解けましたわ。

 うふふ。


「照子! てめぇ!」

「先ほどから「金」「金」「金」と物乞いのように……。それほど欲しいのなら、差し上げますわ」


 前世の記憶を取り戻すと同時に、自分の力がどんどん湧き上がってくるのが分かります。

 あの地獄の修行の成果が、この世界でも引き継いでいるなんて!


 私は百円玉を取り出すと、それを人差し指と親指で挟みました。

 思いっきり、力を込めて。

 すると、あら、不思議。

 百円玉はあっという間に、小さく潰れていきました。

 角度を変えて、同じことをすれば、更に小さくなっていきます。

 それを数回繰り返すと、ビー玉のように丸くなってしまいました。


「それで、よろしければ」


 その丸めた百円玉を指で弾き、スケバンさん達に投げつけました。


「痛っ!」


 見事、スケバンさんの一人に直撃。

 本当は五百円玉が良かったのですが、この時代、まだ五百円玉はございませんの。


「くっ!」


 二人の仲間をやられて、スケバンさん達もなかなか動けないようです。

 結構ですわ。

 それなら、こちらが動くまで。


「では、ご覚悟を」


 私がにじり寄ると、スケバンさん達の顔は恐怖で歪みました。



▽▲▽▲▽


 数か月後。


「おはようございます! 照子さん!」

「おカバン、お持ちします!」

「てめえら、照子さんに挨拶しろや!」


 私には、たくさんの配下が出来ました。


 前世を思い出した、あの日。

 私は、脅してきたスケバンさん達全員に四の字固めをかけましたの。

 師匠の五の字固めには及びませんが、スケバンさん達は膝の痛みに耐えきれず、しばらく歩行困難な状態になっていましたわ。

 それから、私を慕うようになってきたのです。


「あら、あなた達、挨拶がなっていませんわね」


 私は優しい口調で、取り囲んでいるスケバンさん達を鋭く睨みつけました。


 長すぎるスカートは、膝丈にするように指示。濃すぎる化粧も品がないと伝え、ナチュラルメイクにするように伝えました。

 誰が見ても品位ある女子高校生になったと言えるでしょう。

 もちろん話し方も。


「私が教えた挨拶は覚えてらして?」

「もちろんです!」


 スケバンさん達は背筋を伸ばすと、優雅に片手を振り、笑顔を浮かべました。


「ごきげんよう!」

「素晴らしいですわ」


 まだぎこちない人も何人かいますけど、いずれ自然と慣れてきますでしょう。

 今はこの学校だけ支配している状態ですが、そのうち近くの学校を支配し、いずれは全国制覇を目指すとしましょう。


 そう。

 たくさんの人を支配する事は、前世でも私の夢でした。残念ながら途中で暴かれ、成し遂げる事ができませんでしたけど。

 今回こそ野望を叶えてみせますわ。

 

 新たな人生の大いなる夢を見て、私は優雅に挨拶を返すのでした。

「ごきげんよう」







最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こんにちは。  口調と、やってることがなんかチグハグで、面白かったです。   [気になる点]  前世結局、どうなったか、気になりますね。   [一言]  他の作品も読みました。  面白…
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