ヲタッキーズ142 腐女子の寄宿舎
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第142話「腐女子の寄宿舎」。さて、今回は腐女子専門のエリート校生が不審死を遂げ警察とヲタッキーズの合同捜査が始まります。
富裕層独特の排他的、利己的な学友達を相手に捜査は難航、さらにあまりに用意周到な不審者の出現に謎は深まるばかりですが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 FJ達の寄宿舎
FJ。"腐女子"がそう呼ばれ、いつしかヲタクな女子全般を指すワードになって久しい。
そんなFJを載せて、ボートは滑るように水面を走る。彼女の手がポトリと水面に落ちる。
FJは…死んでいる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風にしたら居心地が良くて常連が沈殿、回転率が落ちメイド長はオカンムリだw
で、今はスピアがミニコミ誌?を読み耽ってる。
「驚いたな!まだ紙に印刷した活字を読む人がいるンだね。ソレ、昭和の頃に流行ったミニコミ誌って奴?今じゃパピルス文書と並ぶ考古学上の遺物だ」
「でしょ?インディの新作を見た影響かしら。ホラ、コレは"若い頃の"姉様じゃない?」
「わぉ!ワンレンだょ、激レア…ぎゃ!」
次の瞬間、紫の電光に撃たれ僕は黒焦げに…プスプス
「テリィたん!今度、アキバ工科大学の市民講座で教えるコトになったわ…あら?何で黒焦げなの?」
「落雷に撃たれた。で、何を教えるの?」
「"POSITIVEヲタク入門"ょ!私は、超天才としてはともかく、1人の社会人としても普通に世の中の役に立ちたいの。そうだ。名刺も作ったのょ」
モニターに史上最年少で秋葉原D.A.大統領補佐官を務める超天才ルイナが映る。角の丸い名刺を僕に振ってみせる。
「おや?僕の名前が顧客リストに載ってる…」
「だって!私は、ずっとテリィたんを教え導いてきたじゃない!貴方は、私の立派な作品なのょ」
「そ、そーなのか?」
呆気にとられてるとスマホが鳴る。
「ラギィょ。パーティだけど来る?」
「ゾッとするような奴?」
「とりあえず、ボートに"BLUE"が乗ってるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィは、万世橋警察署の敏腕警部で、僕とは彼女が前任地で"新橋鮫"と呼ばれ、恐れられてた頃からの付き合いだ。
「トニモ・トドル、17才。聖アシス寄宿舎学園の3年生。で、"blood type BLUE"」
「え。単なるFJかと思ったら覚醒したスーパーヒロインなのか?聖アシス…寄宿舎学園って?」
「私立のお嬢様学校。スーパーヒロインに憧れる腐女子が、思春期に"覚醒"出来るように寄宿舎で学ぶ学校らしいわ」
何だソレ?"BLUE"はスーパーヒロイン反応で、この反応が出ると警察とSATOは合同捜査の体制をとるコトになる。
あ、ヲタッキーズは、南秋葉原条約機構傘下の民間軍事会社だ。
「ソレがなぜボートに?」
「さあ」←
「あぁ!池の水が生温い」
現場は、アキバのダウンタウン、東秋葉原の和泉パーク。良くNYのセントラルパークに模されるが普通の児童遊園だ。
まぁ少し大き目の児童遊園なので、中央に"少し大き目"の"じゃぶじゃぶ池"がアル。ソコに浮かぶボートに死体w
鑑識が長靴を履いて、池の中から死体を検分中←
「状況は?」
「大きな口径の音波銃で撃たれてます。ボートに血がついてナイので殺害現場は他だと思われます」
「殺されて、その後ココまで運ばれた?」
池の中でうなずく鑑識。音波銃は、対ヒロイン用兵器だ。
「靴底に泥がついてます。争った形跡は無し。死亡推定時刻は昨夜正午」
「殺害現場は近くのハズね。ボートの向こうから神田練塀町までのエリアで血だまりと薬莢を探させて」
「了解」
刑事と警官が一斉に散る。僕はラギィの耳元で囁く。
「ラギィ。コレはバイキング戦士の弔い方だ。水葬だょ」
「(またテリィたんの戯言が始まったw)秋葉原のバイキングは音波銃を持ってるの?」
「生贄が欠けてる。あと酒と美女も」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィに同行して被害者の両親と会う。
神田山本町にある中古のマンションだ。
「なぜ彼女は和泉パークに?」
「存じませんわ」
「お嬢様と最後に会ったのは?」
「実は先週末、帰宅してまして、家族で食事をしました」
澱みなく応える母親。娘が変死したのに取り乱す風もナイ。
「お嬢様はよく御帰宅を?」
「はい。聖アシスは寄宿舎気分を味わうための学校でして、外泊には寛容です。娘は、小学校からアシスだったので友達も多く、家にもしょっちゅう連れて来てました」
僕は変化球を投げ、母親のペースを崩す。
「最近引越しされましたか?」
「え。あ、はい。実は数ヶ月前に…私は金融業界にいましたが、今回の大規模金融緩和策で破産し、全てを失いました」
「子供には辛い話ですね」
「確かに、私達の生活は激変しました。でも、夫の責任ではありません」
父親が話に加わり、母親がフォローに回る。夫唱婦随?
「…お嬢様の様子は?」
「彼女は強い子でした。まぁ全てを失えば、後は耐えるしかないが…」
「お気持ちお察しします」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
聖アシス寄宿舎学園へ移動スル車内。
「テリィたん。なぜ引っ越しだってわかったの?」
「壁の風景画が明らかにミスマッチだった。部屋の割に大き過ぎる。破産したら娘の私立の学費とか、かなり厳しいだろーな」
「詳しいのね。実は隠し子で苦労してるとか」
「あのな。僕は問題児だったから、私立を転々とタライ回しされた。だからワカルのさ」
「大変だったのね」
「ソレが最近じゃ当時のタライ回し先から寄付金をせびられる御身分だ。人生は、最後まで生きなきゃワカラナイょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
聖アシス寄宿舎学園の理事長に話を聞く。
「彼女には、奨学金を考えていました。過去に多額の寄付の実績があり、成績も非常に優秀な生徒でしたから(順序が逆だw)」
「彼女は和泉パークで何をしてたのでしょう」
「学外での行動は分かりかねます」
学食の陽当たりの良い席にいるグループを指差す。
「私よりも彼女達に聞いてみてください。あそこに座ってるグループです。みんなトニモの親友ばかりだ」
「わかりました。ありがとう」
「では、私はコレで」
理事長は去る。寄宿舎学園らしからぬサバサバした校風←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ねぇねぇ聞いて!驚かないで!今宵から両親がアブダビに行くわ。"シンお面ライダー"を見て、パパ秘蔵のマッカランのハイレンジを開けようと思うの。みんな、来てね!"
パーティのお誘い動画を見せられる。
「お引っ越し前のトニモょ」
「仲が良いのね。昨夜も一緒だったの?」
「5時頃別れて帰寮したわ」
何と"親友"の1人は肌が黒い。
「肌は黒いけどアメリカンだから。念のため」
「貴女と別れた後、トニモはなぜ和泉パークに行ったのかしら?」
「知らないわ」
まるで示し合わせたかのように全員が沈黙。
「あら。ダンマリなの?…貴女達のローカルルールは想像がつくわ。私もヨーク校の卒業だから」
「え?ヨーク校?貴女、ヨークを出て警官になったの?」
「人生って色々アルわ」
グループ全員の注目を集めるラギィ。
「友達や思い出を汚したくないのはワカルけど、そのためにウソをつけば、必ずバレる。ホントのコトを話せば、犯人逮捕がソレだけ早まるわ」
すると…一斉に口を開く"親友"達。
「トニモは、全てを失ってしまったの。おウチが破産してからは、一緒に遊ぶ時にも気を遣うようになって、正直ウザかった」
「そのクセ、お金を貸そうとスルとプライドが高くて断ったりして、マジ面倒臭かった」
「でも…トニモだって苦しんでたのょ」
"その場にいない者の悪口"が続く中、中華系女子が反論←
「悩んでた?どんな風に?トニモのためにも教えて」
「…トニモは"覚醒剤"に手を出した」
「腐女子をスーパーヒロインに"覚醒"させる"覚醒剤"ね?でも、とても高価なモノょ?トニモは、金欠だったのでしょ?」
蛇ピアスをした"親友"が語る。
「ヤッてたンじゃナイ。彼女は売ってたの。和泉パークで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
聖アシス寄宿舎学園のエントランスホール。
「お決まりの悲劇だね。裕福な家庭が崩壊し、子供は道を踏み外す。その先に待つのは転落、没落、凋落だ。まさに悲劇だょ。ところで"悲劇"の語源は"ヤギの歌"だって知ってた?あ、僕は語学ではラテン語(だけw)がAナンだ」
「何でヤギなの?」
「え?さぁ…ヤギに何かあったンだろ?」←
ラギィと足早に歩いていたら、スマホが鳴る。
「はい。ラギィです」
ラギィのスマホを聞こうと耳を近づけたら、何となく恋人同士が頬を寄せ合うような感じに(勝手にw)なり良い雰囲気…
「わかったわ!急行スル…テリィたん、邪魔!」
逆側の耳たぶをつねりあげられて絶叫スル僕←
さらにラギィに耳たぶごと引き摺り回されるw
「ぎゃぎゃぎゃ!恋人気分じゃなかったのか?」
「何の話?誰が新橋鮫の恋人なの?」
「頼むょ、鮫の旦那」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び和泉パーク。"じゃぶじゃぶ池"の畔の森に黄色い非常線のテープが張られ、制服警官が野次馬を追い返している。
「ヨーク校のギンガムチェックの制服姿、可愛いだろうな。ラギィの当時の写真を見てみたい」
「はい?ソレで良くポーカーでランチ代を稼げるわね。私は公立の卒業ょ。話を合わせただけ」
「え。ウソ?演技派だなw」
鑑識が調べてるベンチの前で話を聞く。
「昨夜、この近くから警察に通報がありました。地面のシミは血で"blood type BLUE"。恐らく、被害者は撃たれてベンチに座らされた。その後、仰向けに倒れ、池まで引きずられたと思われます」
「被害者はベンチで何をしてたのかしら?」
「この界隈は夜は"覚醒剤"の売人がうろつくエリアです」
ラギィは唇に人差し指を当てる。おぉ萌えポーズ…
「腐女子を強制的にスーパーヒロインに"覚醒"スル奴?」
「YES。高価らしいけど金銭のモツレでしょうか」
「ホントにそうかしら。血の量がかなり多いわ。大口径の音波銃みたいね」
僕は、遠巻きに意見スル。
「ソレに、引きずられた割には死体に傷が少なかったな」
「死後、しばらく放置したのカモ」
「その後で動かした?」
推理が進む。ラギィとは波長が合う。
「自分が疑われると売人が気づいたンだろーな」
「つまり、捕まる可能性が高いって?」
「ソレで死体を動かし、警察を欺こうとしたんだ」
「でも、テリィたん。そんな気がつく売人がいるかしら」
僕は持論を述べる。
「誰だって必死になれば知恵は働くさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。万世橋に立ち上がった捜査本部。
「もしもし、テリィたん?エアリだけど目撃者ょ。ファル・シグノ夫人。昨夜、犬の散歩中に銃声を聞き、走る腐女子を見たって。今、売人の画像を見せてる」
「メイドさん、ちょっと」
「テリィたん、切るね…知った顔がいた?」
僕とのスマホを切り、目撃者の方を向くエアリ。
彼女はヲタッキーズの妖精担当で…メイド服だ←
「メイドさん、元気ナイね。昨夜の女がいるのに」
「ホント?」
「私を疑うの?コイツょ」
顔写真の1枚を指差す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「アンタ。呼ばれた理由がわかる?」
「全然」
「和泉パーク公園でアンタが"覚醒剤"を売る姿を警官が見たのょ」
「惜しい。人違い」
鼻で笑うラギィ。
「そんな言い訳、通じるとでも?スコビ・コビル、薬物所持と違法薬物の売買で過去2回も捕まってる」
「だから?」
「昨夜もパークで商売?」
「行ってナイし」
「練塀町方向へ走るアンタを見た人がいるの」
実は、マジックミラー越しの隣室で僕達は息を殺してる。
「ラギィは、何で音波銃の話をしないのかな」
「テリィたん、先ずは証拠固めからょ」
「定石ょ焦らないで」
メイド達から口々に嗜められるw
「警部さん。練塀町へ走ると違法なの?一方通行だっけ?」
「走ってもいいけど、音波銃殺は犯罪だから」
「音波銃殺?」
ラギィは、トニモ・トドルの遺体写真を示す。
「知り合い?」
「知らない…走ってたから」
「ウソ臭」
隣室ではエアリがドヤ顔だw
「コレで現場にいた確証が取れたわ」
「ソンなモンか?」
「良く見て。ココからょ」
僕達はマジックミラーの向こうに視線を戻す。
「免責ょ」
「理由は?アンタ、三振法を知ってる?3回重罪を犯すと、終身刑の確率が爆発的に高まるの」
「わ、わかった。実はソイツを見たわ」
「昨日の夜?」
「YES」
またまたドヤ顔のエアリ。ウザい←
「ほーら被害者とつながったわ」
しかし、ココで売人スコビが驚異的に粘って黙秘w
「売ったの?どこで彼と知り合いに?…そ?もう良いわ。25年後に連絡を頂戴」
売人にウィンクして立ち上がるラギィ…泣きが入る。
「ま、待ってょ。言うわ。奴に売ったわ」
「いつ?」
「だから、昨夜。前にも売った。その前も。しょっちゅうょ。他の連中にもね」
「え。他の連中って?」
「知らないわ。奴のお友達でしょ」
「詳しく!」
「FJばかりのグループょ。アフリカンとアジアンが1人ずついたわ」
「アンタ、昨夜パークでメンバー全員を見たのね?」
「YES」
隣室は騒然だ。
「ラギィってスゴーイ」
「目撃者を見つけちゃうナンて!」
「しかし、平気でウソつくンだなw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
聖アシス寄宿舎学園の階段教室に"親友"達を集める。
「貴女達、ウソをついたわね。貴女達は全員、現場にいた。司法妨害に問われるわょ」
「因みに、司法妨害って刑事事件に関してウソの情報を流した罪のコトだ」
「大変な罪なのょ。どうなの?ガミラ?ロミラ?」
ラギィと息のあったワンツーをカマす。
ラギィが予め調べた名前で名指しスル。
「わかったわ。確かに私達、パークにいたわ」
「和泉パークに?」
「YES。でも、トニモを止めるためでした」
中華系が敬語を使う。突破口になるか?
「ふん。どーせまたウソでしょ?」
ロミラが口を開きかけたが、ソレを橙髪女子が遮る。
「もうヤメょ?私達、以前にもよくパークに行ってました。寄宿舎を抜け出して、みんなでパークに行きパーティしてたの」
「トニモが"覚醒剤"の調達役か?」
「あの夜、何があったの?」
鮮やかな橙色のショートボブ。リーダーか?
「私達、いつも通り遊んでました。ソコに銃を持った女が来て突然"金を返せ"とトニモを怒鳴りつけた。借金は200万円でした」
「女が持っていたのは、銃口がラッパ型に開いた音波銃?」
「YES。銃声がしてトニモが倒れた」
淡々と語る橙髪女子。冷静な話ぶりだ。
「その後は?」
「直ぐ逃げました」
「なぜ警察に通報しなかったの?」
答がフルってるw
「もう死んでたし。ソレに通報しても…」
「警察は役に立たない?」
「役に立たないドコロかワンパターンな先入観で身近な者を犯人に仕立てたがる。警察って知能の低い連中ょ」
ラギィは溜め息をつく。
「否定し切れない…で、貴女達。トニモを撃った女の顔は覚えてる?もう1度見たらわかるかしら」
「さぁ。トニモはいつもグループの端にいたから…」
「その時、トニモの隣にいたのは?」
グループ全員が中華系を見る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
中華系の名前は、ロミラ・アマタ。何と両親同伴で"捜査協力"にやって来る。万世橋の取調室の"隣室"に通される。
例のマジックミラーで取調べの模様が見られる部屋だ。
「ロミラ。向こうからコチラ側は見えないの。安心して」
「ホント?」
「約束スルわ。貴女は絶対に安全ょ。見覚えのアル顔がいたら教えて。OK?」
母親とうなずき合うロミラ。父親はミラーを睨みつけてるw
「じゃ始めるわょ…入れて頂戴」
番号札を持った女達がヲタッキーズのエアリとマリレに連れられてゾロゾロと入室スル。因みにエアリ達はメイド服だw
ココはアキバだからね。
「1番。1歩前に出て」
「1番、前に出ろ」
「どう?見覚えはある?」
首を横に振るロミラ。
「1番下がって」
「下がれ1番」
「2番、前へ…見覚えある?」
ロミラ・アマタはうなずく。
「そう。何処で会ったの?」
「和泉パークです。彼女がトニモを撃った!」
「わかったわ。ありがとう」
声を殺して泣き出したロミラを母親がハグ。
父親は…マジックミラーを睨みつけている。
第3章 朝焼けが窓を染めるソファ
"潜り酒場"は駅ビルに直結した高層タワー最上階にある。
ソファで寝落ちスルと、東京湾から登る朝日で目が醒める。
「おはょ…テリィたん」
スピアが目を覚ますと目の前に朝日を背負った僕←
キモいカモしれないが、彼女の寝顔を見てたのだ。
「何か…SF美女の殺し方でも考えてたの?」
「違うけど。昔は良くスピアの寝顔を眺めてたなと思って」
「私が…元カノになる前の話?」
スピアは、僕の元カノ会の会長だ。今は←
「ヨダレは…昔のママかな」
「時折、口から泡が出る」
「…テリィたん。何の用?」
意を決して彼女にしか聞けないコトを聞く。
「スピア。"覚醒剤"、ヤッたコトあるか?いわゆる"ドラッグ"じゃナイぞ。FJがヤる奴だ」
「うーんドラッグなら一通りやったけど。ほら、私はストリート育ちだから」
「だから"覚醒剤"だょ。あ、僕には隠すなょ」
スピアは、未だ寝惚けてるみたいだ。
「私、無気力で怒りっぽい?目が充血してる?お仕事の腕が落ちた?」
「全然」
「なら、秋葉原D.A.の教育委員会が示すガイドラインに拠ればセーフみたいょ。ウチの薬物集会に出てみる?」
ウチって…
「そんな集会があるのか?ウチって…ストリートギャングのコトか?」
「モチロン。組織をあげて撲滅運動中だから」
「ウソだろ?」
スピアは破顔一笑。
「バレた?…聖アシスの子は、真夜中の和泉パークにいたンでしょ?和泉パークなんて観光客が行くトコロ。昭和通りで薬をヤるなら、パークになんか行かないわ」
「そっか。でも、スピア。僕に隠す必要は無い。何しろ僕の方が格段にワルだったンだから」
「渋谷の百軒店でねずみと呼ばれてたンでしょ?クスクス。でも、私の世界はテリィたんのとは違う。元カノだからって心配しないで。何かあればヲタ友が助けてくれる」
僕はうなずく。
「そうだな。ソレがヲタ友だょな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
元カノの寝顔を見てから万世橋に顔を出す。
「ラギィ。彼女達なら払えたと思うンだ」
「何のコト?」
「仲間を救うためなら200万円くらいポンと出すと思うょ」
ラギィに問いかける。
「でも、売人が音波銃を振り回してルンだょ?素人さんならビビるでしょ?」
「全員がか?」
「確かに難しいコトじゃナイ。お金を出せば終わりだし」
ヲタッキーズのメイド達も集まって来る。
「テリィたん。せっかく解決しかけてるのに蒸し返さないで。スコビ・コビルは立派な犯罪者ナンだから」
「証人だっているのょ」
「じゃスコビが無関係だとして、なぜFJ達はウソをつくのかな。ソレはさ…」
僕はヒソヒソ声になるw
「仲間が真犯人だからさ」
眉を顰めるラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋地下の留置所。弁護士が先に来てる。
「やあ。待ってたょラギィ。おや?このオッサンは?」
「彼はアドバイザー」
「ラギィ。無実の人間を逮捕する前に、先ず彼のアドバイスを聞くべきだったな」
ヘラヘラ笑う弁護士。ラギィとは顔馴染みらしい。
「あらあら。何処の誰が無実なの?」
「捜査に協力して情報を提供したら逆手に取られたと、僕の依頼人は御立腹だ」
「そもそも、アンタの依頼人は非協力的だった。でも、今からでも全てを話せば釈放しても良いけど?」
依頼人?の売人スコビ・コビルが口を挟む。
「ソンなのウソょ!」
「話さないと殺人罪に問われる恐れがアル」
「アドバイザーの言う通りだ!」
試しに僕も口を挟んでみたら、なんと弁護士が引っ込むw
え。と言う顔でパニくる売人を横目に弁護士は涼しい顔。
さぁどーぞと依頼人を差し出すw
「さて。あの夜、彼女達に"覚醒剤"を売ったわね?」
「いいや?売ってナイ」
「おっと。その対応はマズいな」
僕としては助け舟を出したつもりだったが…
「だって、売ってない…売らせたの」
「誰に?」
「だから、FJ達にょ。あの金持ち嬢ちゃん達は、売人気取りで"覚醒剤"を売ってたの」
"売人ゴッコ"か?
「アンタ、彼女達に売らせてたの?」
「YES。そして、彼女達はスリルを楽しんでた。いっぱしの売人気取りでね。コレってウィンウィンだと思わない?」
「思わない!じゃ音波銃の銃声が聞こえた時、アンタは何処にいたの?」
ラギィは焦り出してる。見てらんナイw
「売人仲間と"赤い靴の少女像"の近くでつるんでたわ。銃声が聞こえたから急いで逃げたのょ…走って」←
「あの音波銃はどうなの?」
「知らないわ。私のじゃないモノ。音波銃ってカッコ悪いから嫌いだし」
たちまち前面に躍り出る弁護士。
「依頼人の過去の記録にも音波銃所持の記載は無い。コレで殺人罪の可能性はグッと薄れてきたな」
「うーん」
「今は何も言わなくて良いょラギィ。最終決定が出るのを待ってる」
なかなかのヤリ手だw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「ミユリ姉様、どーしよー。実は…犯人を挙げたと上には報告済みなの」
「え。ソレは…少し早まったカモだわラギィ」
「署長が喜んでスク水バスケの観戦にも誘われててw」
ラギィが珍しく先走ってる。異動時期だからな←
「売人が犯人だと都合が良い人ばかり増えたなw」
「つまり、彼女が犯人であるべきなのょ」
「冤罪だ。あの売人の話、ちゃんと筋が通ってる。警察の仕事は、犯罪者を捕えるコトだろ?」
ラギィは溜め息をつく。
「でも、証言もアルし、彼女を釈放出来ない。とりあえず、今宵はスク水バスケの試合に行って来るわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「売人は金銭を求めたのね?」
「YES」
「でも、貴女達は応じなかった」
うなずくロミラ。
真っ赤なソファのある広々とした応接室。ココがタワマンのペントハウスであるコトを忘れてしまいそうだ。
ムーンライトセレナーダーに変身したミユリさんと中華系のロミラ・アマタの御宅を訪問。両親が付き添う。
「GUCCI?」
「え。ソレが何か?あ、ヤメて」
「令状も取れるけど」
有無を言わせずミユリさん…じゃなかった、ムーンライトセレナーダーがロミラのブランドバッグを手に取り中を検分w
「アメックスのブラックカード…ねぇ貴女達ならトニモの借金ぐらい、簡単に肩代わりできたでしょう?でも、彼女は死んだ。なぜ誰もお金を出さなかったの?」
「おい!何の話だ?」
「本件は、被害者からスーパーヒロイン反応が出たコトから警察とSATOの合同捜査になってますが、警察はともかく、SATOは娘さんの話を疑っています」
ロミラのパパが絶句スル←
「ロミラ、お前…」
「私は関係ナイわ!」
「ロミラ、何があったの?」
両親に交互に問い質され泣き出すロミラ。
「事故だったの!ゲームをしてただけょ。ロシアンルーレットだって…」
「貴女、音波銃で遊んでたの?」
「だって、いつもやってたのょロシアンルーレット」
「遊びでか?」
両親が怒り出し、慌てて割って入る僕達。
「音波銃は誰が持ち込んだの?」
「スペサ。でも、彼女は持ち込んだだけ。カートリッジを装填したコトはなかった!」
「じゃトニモはナゼ死んだの?」
割って入る、というより追求に加わってる感じだが、ムーンライトセレナーダーが突っ込むとソフトな感じがスルのだw
「スペサが空き缶を撃ったりしたコトはあった。多分、その時に装填したカートリッジが残ってたのょ」
「…誰が引き金を引いたの?」
「言うのょロミラ。貴女が撃ったの?」
またまた夫婦が詰め寄る。
「マクシょ。彼女が撃った」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田山本町のアパートメントを訪ねる。母親が対応。
「ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーです。コチラはヲタッキーズCEOのテリィ様。マクシはいますか?」
「おりませんけど何か?母親ですが」
「何処にいるかご存知ですか?」
メイド服のスーパーヒロインにも動じない。母は強い。
「いいえ、知らないわ…しかし、ムーンライトセレナーダーってホントにメイド服なのね。で、何の御用?」
「彼女の逮捕状です」
「逮捕?!一体、何の容疑かしら」
「殺人です」
さすがに、母親も顔色が失せる。
「何ですって?!」
「今すぐスマホに電話して、居場所を聞き出してください。そして、ソコから動かないように言って。今から、ヲタッキーズのエアリが付き添います」
「逮捕状を見せて!」
娘の逮捕状を見せられて愕然とスル母親。
メイド服のエアリに付き添われて寝室へ。
「はい。ムーンライトセレナーダーです。あ、ラギィ…え?!」
今度はスーパーヒロインが絶句スル番だ。
「姉様、どーしたの?ラギィは何だって?」
「マクシが和泉パークで自殺したわ」
「ムーンライトセレナーダー、娘はスマホに出ないわ。次に何をすれば良いかしら…」
寝室から戻った母親。不穏な空気を察知。
「え。何なの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝焼けが窓を染める頃、僕は、ようやく"御屋敷"のソファに倒れ込む。
そのママ泥のように眠り込むハズが、何回か瞬きしたら目の前にスピアw
「おはよう…でも、オヤスミ」
「テリィたん!私、貴方にウソをついてた」
「後にしてくれ」
「ダメょ起きて。起きろー!」
泣く子とスピアには勝てないw
「何だょ」
「この前"なんぱ組"の地下ライブがあったでしょ?物販が終わる頃には大雨になって、タクシーが捕まらなかった。みんなズブ濡れだったの。だから、地下鉄で帰るコトにした」
「そりゃ賢明だ。雨の日にタクシーを捕まえるのは、パーツ通りでイリオモテヤマネコを見るより難しい。バブルの頃、沖縄で…」
スピアに話を遮られるw
「聞いて!物販で使い込んで小銭がなくて、でも、ヲタ友は待ってたし、終電だし、私もクタクタになっちゃって…あぁでも!やっぱり言えないわ!ごめんなさい!」
「そっか。じゃオヤスミ…」
「らめぇ!起きろー!…で、光より速く"量子テレポート"したの!」
「え。なんだって?」
「改札を飛び越えちゃったのょ!」
呆然とする僕。
「…で、終電には乗れたのか?」
「もちろん乗れたわ。でも…"地下鉄戦隊サブウェイ5"の作者の元カノが、あろーコトか地下鉄の改札を"量子テレポート"してしまったのょ?」
「改札を飛び越えただけだろ?スピア、確か日頃からストリート育ちが売りだったょな?」
コレは"優等生プレイ"か?
「ソレに!あぁ私ったら、昨日テリィたんと話した時、そのコトを内緒にしてた。元カレにウソをついた!私、貴方の元カノ会の会長を返上スルわ!」
「(そりゃ良かった。ついでにその何トカ会とかいう迷惑な秘密結社も解散してくれないかなw)余りの罪深さに声も出ない。挙句"覚醒"してないのにスーパーヒロインのフリまでしたとは!」
「翌日、地下鉄料金を3倍払ったけどダメ?」
ツブラな瞳で僕を見上げる。萌え。何で別れたのかな。
「全然足りない。じゃオヤスミ…」
「起きろー!ねぇ私、ウソをついたのょ?罰して」
「確かに悪い子にはバツが必要だ。起きたら"331アイス"でも食べに逝こう」
「真面目に考えて」
「アイスじゃダメか」
「当然だわ。謹慎する」
「え。妊娠?!」←
ソファに寝たママ、スピアを抱き寄せる。
バラライカの奇妙な音色が聞こえて来る。
「ありがとう。テリィたん」
スピアが僕の胸に顔を埋め…た時には、もう寝てるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ラギィ、昨夜のスク水バスケ、楽しかったか?ソレは?」
「売人のスコビを釈放する書類一式。マクシの指紋が音波銃から出たの…私、迂闊だったわ」
「マクシと会ったのは、せいぜい30分だろ?仕方ナイさ」
マクシの死を契機に本部は縮小だ…いや、解散カモw
「彼女は苦しんでたハズょ。心も折れてしまって」
「うーん。そーでもナイんじゃナイか」
「え。何で?」
僕は口を尖らせる。
「彼女は…遺体を運んでる」←
「ソレを忘れてたわ!罪の意識を感じた人間が、遺体を隠したりスルかしら」
「しない。むしろコレは冷徹な殺人者の行動だ。モチロン冷徹な殺人者は、自殺など絶対しない。少なくとも、僕のSFの中ではね」
ラギィは頭をヒネる。
「やっぱりマクシは犯人じゃないわ。じゃ誰?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋地下の検視局。
「テリィたん。一見ごくありふれた自殺に思える。でも、気になる点がいくつかあるわ」
「そのいくつかを、いや全部、教えてくれょルイナ」
「音波銃を撃った手を見て。右手の人差し指に微細な傷がアルでしょ?普通の鑑識はココまでは調べないンだけど」
ルイナは史上最年少で秋葉原D.A.大統領の補佐官になった超天才。彼女に"オンライン検視"をリクエストしてみる。
果たして…
「その微細な傷の意味は?」
「ズバリ。誰かが引き金を引くのを手助けしてるわ。因みに血中アルコール濃度は0.228%」
「0.228%?泥酔状態か」
「YES。コレだけの濃度だと、かなり意識朦朧、いいえ、完全に意識がなかったと思う」
僕の結論。
「マクシを泥酔させて殺した奴がいる?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「ミユリさん。犯人は、マクシが罪悪感から自殺したと思わせようとしてる。つまり、マクシは殺してナイ」
「でも、音波銃を撃ったのはマクシでしょ?」
「だから、撃ってナイとは逝ってナイ」
禅問答?屁理屈?に飽きもせズ絡んでくれるミユリさん。
「FJ達は、音波銃を使って遊んでた。つまり、犯人は手を下さなくても殺せたワケですょね?」
「つまり、マクシはハメられた、と思うンだ」
「なるほど。スゴい展開ですね」
カウンターの中で、メイド長は溜め息をつく。
「すると、今頃ラギィは…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
音波銃の所有者スペサを召喚。弁護士がついて来る。
その眼前に手をついて、強い口調で詰問するラギィw
「音波銃のカートリッジを買ったのは貴女ね?」
「ア、アレは遊びだし」
「ワザとカートリッジを装填してマクシを死に追いやるのが遊びなの?コレは自白ね?故殺罪の成立だけど」
ラギィは、弁護士を睨みつける。
「警部さん、依頼人は未成年だ。不用意な挑発は控えてください。そもそも空砲を撃って遊ぶだけだから、カートリッジを買う必要はナイのです」
「そもそも私、カートリッジは装填してないし」
「じゃ誰ょ?カートリッジを装填したのが犯人だけど?」
スゴむラギィ。弁護士は依頼人をチラ見。
「音波銃もカートリッジも貴女のモノょね?貴女、昨夜はどこにいたの?」
「…ブラルと会員制クラブに。パパも一緒だった」
「OK。ブラルに聞くわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
引き続き、万世橋の取調室。
「ロミラとスペサが全部話してくれたと聞いて、実は、私も安心しました」
「そう?良かったわね」
「はい。最初から話すべきでした」
いつも優等生なブラル・オルシ。第1印象から変わらない。
「その通りょブラル」
「そうですね。全てはマクシを庇うためでした」
「ソレで売人を犯人に仕立て上げたの?」
うなずく優等生ブラル。
「間違ってるとは思いましたが、そもそも、あの売人がトニモを利用したのがコトの始まりだし」
「昨夜は何処にいたの?」
「スペサとクラブにいました。彼女に聞いて」
余裕で答えるブラル。
「いつも口裏ピッタリね。でも、最初は撃ったのは売人だと証言し、次はマクシだと主張スル。悪いけど、全く信用出来ナイわ」
「なら仕方ないですね。でも、コチラには証拠がアル。私達、良く遊びで動画を撮ルンです。その動画をクラウドに上げてルンだけど。警部さんも見ますか?」
「え。あの夜の動画がアルの?」
「YES。蛇ピアスのジョナが撮影をしました。トニモが撃たれた時、消そうかと思ったけど…残しておいて良かったわ」
ブラルのスマホで再生スル。
真夜中の和泉パーク。じゃぶじゃぶ池の畔で"ハイレンジ"と殴り書きしたスキットルを回し飲み。全員が酩酊してるw
"その調子!もっと飲んで"
"まだ撮ってるの?もうヤメて。ねぇママのブレスレット、返してょ"
"超高級ね。盗んだの?"
"まさか。借りただけ…ねぇ早くやろ?"
"OK。じゃ撃つわょ"
"さよなら、トニモ"
銃声。絶叫、そして悲鳴…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室をマジックミラー越しに見る隣室。
「あちゃー。ゲームチェンジャーな証拠画像が出て来たぞ。ラギィ、大丈夫かな」
「テリィ様、ほとんど他人事?しかし、この動画を見たらトニモの御両親はどう思うかしら」
「しかし、いつもタイミングが良過ぎるな。段取り上手なFJって、何か好きになれないょ」
ミユリさん(変身してナイw)は、僕を見る。
「私が段取り下手だとでも?」
「え。いや、ソンなコトは口が裂けても…蛇ピアスのジョナが動画を撮ってたのは偶然か、必然かって話さ」
「今は"1億総MyTuber"の御時世ですから。老いも若きも総活躍です。ところで、あの蛇ピアスですけど…」
ミユリさんは、何か語りたそうだが、僕が遮ってしまうw
「仲間内の動画ナンて、最初の数回は夢中になって撮るけど後は…よっぽど特別な時しか撮らないょ」
「トニモの死亡の時とか?つまり…」
「FJは知っていた?」
ミユリさんは、僕を見てユックリうなずく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いつ頃?…そーなの。ふーん」
ミユリさんはスマホを切る。
「テリィ様。聞いてください。1ヵ月前、トニモはジョナと破局したそうです」
「破局って?2人は…百合?」
「YES。寄宿舎モノのお約束ですから」
ミユリさん、誰に電話したのかなw
「で、どっちがフッたの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室に蛇ピアスのジョナを召喚。
「今日は学校に行かなかったの?」
「気分じゃなかった」
「友達が亡くなったンだモノね…動画を見たわ」
平然としてるジョナ。
「知ってる。ブラルから聞いたわ」
「貴女、なぜ動画を撮ったの?」
「いつも撮ってるから」
ひっかかったなクスクス。
「ウソだょな?あの前はいつ撮った?」
「忘れたわ。何?私に追い込みかけてるの?」
「別に。動画を撮ってた理由を知りたいだけさ。ホラ、日常ナンて撮っても面白くも何ともナイだろ(特に君達の退屈な日常ナンてさw)」
「私が、あの日が"特別な日"だと知っていたとでも?」
「まさか。だって、アレは事故ナンでしょ?トニモが死ぬなんて誰が予想出来た?音波銃にカートリッジを装填した人間以外に」
ミユリさん…じゃなかった、スーパーヒロインに変身してるからムーンライトセレナーダーなんだけど、一気に王手だ!
「ちょっと!何ですって?!」
「貴女、トニモと百合だったわね」
「YES。でも、1ヵ月前に破局してるわ」
「だから!殺人の動機になるの」
血相を変えるジョナ。自らホイホイに突っ込んだG?
「誤解だわ!トニモには確かにフラれた。でも、ソレは私がブラルと浮気したからょ」←
「何?ブラルに"推し変"したのか?」
「だって…トニモの家が破産した時、ブラルが必死にトニモを支える姿に感動した。彼女は心の清い、良い人だわ」
百合の世界って激動だ。"ゆるふわ"は昔の話?
「でも、その清い心のブラルだけが、クラウド動画の存在を教えてくれたょ」
「きっと何か理由がアルのょ」
「貴女、誰から動画を撮れと言われたの?」
ハッと口を押さえる蛇ピアスのジョナ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
聖アシス寄宿舎学園。キャンパス裏にある噴水のベンチでゲームをしているブラル。フト顔を上げると僕とミユリさん。
「スペサが証言を覆した。君のアリバイは消えたょ」
「マクシは自殺です。アリバイは必要ナイ。みんなが順番に犯人扱いされてるから、次は私だと思ってました」
「いいや、君さ。君だけがアリバイがナイ」
直球を投げて様子を見る。
「マクシは自殺です」
「では、事件の夜は何処に?」
「東秋葉原の執事キャバです。実は、ガミラと一緒だった。彼女に聞いてください」
またかょ。ムーンライトセレナーダーが引き取る。
「そうやって、いつも仲間同士で口裏を合わせるのね」
「そうですょ。貴女、いくらベテランの年増メイドだからって、証拠ナシでは私を逮捕出来ないわ。ホラ、あの動画にはマクシの姿が映っていたでしょ?」
「…コレは、貴女にはゲームなのね。売人ゴッコの続き?」
「そして、ゲームの勝者は私ょ。ねぇ私を疑うなら証明してょムーンライトセレナーダー!」
啖呵を切るブラル。あぁマズいな。このアキバでミユリさんに喧嘩をうって生き残った奴はいないンだ。僕以外にはさ←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「証明って、時には退屈なモンだな。ブラルは、最初から全て計画していたンだね」
「でも。この世に完全犯罪はありませんょテリィ様」
「いいや。いつか僕がSFで描くさ」
ソコヘヲタッキーズのエアリ&マリレが御帰宅。
「姉様。和泉パークの売店や路上生活者の聞き込み終了」
「誰もFJ達を見てナイみたいです」
「あらあら。現場にいた証拠は絶対に必要ナンだけど」
2人にヲリカクをサービスするミユリさん。
「ロシアンルーレット以外の動画はナイの?」
「姉様。スマホの中のデータは、万世橋が全部調べたわ」
「マクシ殺害の動画とかは、どーかしら」
エアリ&マリレは一笑に付す。
「ソンな動画があれば、直ぐに仲間同士で…」
ココで顔を見合わす2人のメイドw
「同期スルわ!」
「スマホが同期した記録を探せば良いのね?」
「さすが、姉様!年の功」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。ブラルは、余裕の微笑だ。
「ブラル。貴女には弁護士を雇う権利があるわ。公選弁護人も頼めるけど」
「弁護士、要らないわ。楽しみが減るから」
「御両親に電話スル?」
スマホを差し出すムーンライトセレナーダー。
「不要ょ。じゃ供述を始めるわね?私は、年増スーパーヒロインのツルペタに触りたいと思ってるわ…コレで良い?あぁスッキリしたわ!」
顔を見合せる僕と年増…いや、ムーンライトセレナーダー。
「…この前"ホテル24"に入ってる"NOBU"の店先で編集者から電話がかかって来て…」
「あら。意外にお洒落なお店に通うのね?」
「イカスミのパスタが絶品で…ちょっとした瞬間だけど途中で通話が切れた。ちょうど車で通りかかった編集のミューさんのスマホと同期しちゃったのさ」
すかさずムーンライトセレナーダーがカットイン。
「まぁテリィ様。年増の"推し"には見切りをつけて、実は若い編集と"ホテル24"でベッドインしてたのでは?」
「作家仲間から"鬼編集"と呼ばれてるミューだぜ?あー見えて空手の黒帯ナンだ。萎えちゃうょ」←
「とゆーコトは、単にミューちゃんのスマホとテリィ様のスマホがニアミスしてデータを共有しただけなの?あぁ良かったわ」←
何が始まったの?と呆気にとられるブラル。
「だから!ブラル、君のスマホとマクシのスマホだけど、2人が近づくとスマホ同士が同期してお互いのスマホに記録が残る。いわば"電子の指紋"だね」
「あら?テリィ様、スマホ会社が任意に提出したデータを見ると"あの夜"に2人のスマホが同期しています。コレって2人が"あの夜"一緒にいた証拠では?」
「ええっ?まさか優等生ブラルが気弱なマクシの罪悪感を利用して泥酔させた挙句、そのコメカミに音波銃を当て、一緒に引き金を引かせた夜のコトかな?」
さすがに慌てる優等生ブラル。
「待って!私には動機がナイわ」
「アルわ。トニモ殺害の隠蔽」
「ソレこそ動機がナイわ。私がトニモを殺す動機は?」
しかし、ミユリさんは老獪に畳み掛ける。さすが年増…
「ジョナ。貴女の百合の相手」
「何ソレ?彼女はトニモと別れて私を選んだのょ?」
「お金の力でね」
息を呑むブラル。
「エリート学校のトップグループにいる貴女にとって、自分が2番手であるコトは許し難い"事実"だった。さぞかし辛かったでしょうね。ジョナは、ツルペタ以外もトニモに許してた…」
「マクシがトニモを殺したんです!私じゃない!」
「ブラル。君の綿密な計画には恐れ入るょ。しかし、そんな君もマクシには手を焼いたハズさ。マクシは"あの夜"のコトが頭から離れズ、自分に音波銃を握らせた君に連絡して来た」
すかさずムーンライトセレナーダーが"夫唱婦随"。
「スマホ会社が任意に提出したデータに2人の通話記録が残ってるわ」
「危険を感じた君は、マクシの好きなヴィンテージなウィスキーで彼女を酔わせる。マクシは、君達の三角関係を前から知っていた。そのマクシが、自分はハメられたのでは?と疑い始める。そして、その通りだと気づく。君は思ったハズさ。蔵前橋行きは御免だわ、なぜマクシはこんなに小心者なの?なぜトニモを立場をわきまえないの?サッサとジョナを諦めれば良かったのに。身分の卑しいFJは身の程知らズで頭が悪い。だから、私がみんなを導いてあげるのょ…」
「そうょ」
定評アル僕のストーリーテリングに思わズ首肯するブラルw
「今、認めた?」
「はい。テリィ様、はっきり聞こえました」
「ま、待って!私を…ハメた?」
呆然とするブラル。
「ハメる?今のは"不利益な事実の証言"だ」
「つまり自白ね」
「録画、録れてる?」
立ち上がってマジックミラーを叩く僕。
向こう側からはOKと叩き返して来るw
「お疲れ。完璧だ」
「1つ教えておいてあげるわ。貴女は、遺体を動かすのは名案だと思ったみたいだけど、逆にソレが糸口になった。もっとも気づいたのは私じゃないわ」
「僕が感じたんだ」
最後には"花"を持たせてくれる。
ミユリさんって最高の"推し"だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝焼けが"潜り酒場"の窓を染めて逝く。
「あぁ朝になっちゃった。今回の事件で、唯一わからズにいるのは、ミユリさんが本件の背景に百合がアルと見抜いたのは何でってコトさ」
「ソレはですね…雌蛇のピアスです」
「雌蛇のピアス?」
カウンターの中のミユリさんはクスクス笑う。
「東秋葉原のコンカフェじゃ、右耳の雌蛇ピアスは"推し変終了"のサインなんです。メイド長仲間から聞きました」
「へぇ知らなかったな」
「テリィ様も御存知無いコトがアルのですね。昔は国民的ヲタクと呼ばれてたのに…ソレも遥か昔?」
知るハズ無いだろ?蛇に雌がいるナンて。その時…
「おおっ!ココが伝説の"潜り酒場"か?」
「ホントに摩天楼の最上階なのね!絶景!」
「あ、ミユリさんとテリィたんだ!リアルは初めて見た!まさか、ソックリさんかな?蝋人形?」
ドッと観光客?がなだれ込んで来る。同時に"潜り酒場"のモニターがハッキングされて…超天才ルイナの画像が映る。
「あぁ!ミユリ姉様にテリィたん(呼ぶ順が逆だw)、その人達は私の"POSITIVEヲタク入門"講座の生徒さん達なの。なりたいヲタクに脱皮したい人達で、決して騒いだりしないから!」
もう騒いでるょ!ミユリさんの前にはチェキの行列が…
「今日は講座の"フィールドワーク"の日で、みんなが楽しみにしてたのょ。テリィたんの新刊本には無料サインの特典付きって言っちゃったから、よろしくね」
「ルイナ、テリィ様はともかく、せめて私には予め…え?萌えキュンポーズ?はい、萌え萌え…」
「ホントにみんな悩めるヲタクなのか?悩みなら、実は僕も太陽系海軍シリーズの"航宙戦艦ぱれんばん物語"が滞ってルンだけど…」
全く無視して御屋敷の全ての画面から語り出すルイナ。
「みなさん、コレは大人のヲタクの集まりです…」
大人のヲタクなんていないょ。
いるのはヲタクな大人だけさw
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"エリート校"をテーマに、富裕層のエリート校生達、殺された生徒、多国籍な学友達、ジャンキー、音波銃オーナー、気弱で自殺に走る者、事件の目撃者、"覚醒剤"の売人、強盗を追う超天才や相棒ハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、エリート校に通うヲタク富裕層の実情などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、酷暑に焼かれる秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。