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エルフが通る!  作者: 唐辛子塗る系うさぎ
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大学4年 転生

転生した。トラックにひかれて転生するのが「トラ転」というのならば、俺の転生は何転というのだろうか。

ともかく、俺は転生した。

種族はエルフ。

父親はエルフの国の王様だ。

どうやら今回の親ガチャは大当たりのようだ。

…いや。そう判断するのは速いだろうか?どこかの物語のように、赤字国家であっては目も当てられない。


****


まあいい。取り敢えず、俺の転生経緯をお伝えしよう。

俺の前世の家は一般家庭だ。

両親は大手企業で働いていたが、母親は高卒、父親は生涯平社員。

ということで、年収の方は可もなく不可もなくだ。

ただ、流石大手。福利厚生は良かった。

――なぜこんな話をしているのか?

簡単だ。

俺は大学4年生。就活性である。

両親のように大手の内定は得られず、福利厚生も中の下ぐらいのところに内定をもらった。

両親から得られる言葉は、

・福利厚生がしっかりしているところがいいよ。

・退職金はあるの?

・売上は?

・そこで本当にいいの?


自信をもって、ここがいい!と言えなかった俺は、毎日枕を濡らした。

死にたいと思った。

屋上にも行った。


ただ残念。俺にそんな勇気はない。屋上から一歩踏み出す力はない。

ベッドに横になって思うことは、「このまま目覚めることなく死ねないだろうか」ということ。


死にたいと思ったことは何度かある。

高校受験、大学受験。

人生の節目でよく死にたいと思っている。

それを踏みとどませてくれているのは、恐怖と趣味のせいだ。

せいなのだ。

ちぢんじゃった系名探偵の最後はどうなるのか。

どこぞの海賊の宝はなんなのか。

織田信長とかが異世界でバトってる漫画はいつ再開するのか。

全てがゲームで決まる異世界の続きは?

ネズミの国はまた新しい場所が増えるね。行きたいな。


矛盾だ。死にたいけど死にたくない。


そんな悶々とした日々を送り続けていたある日の朝。

電車に乗ろうと思ったら、ナイフを持った人影がひとつ。

それが向かう先は俺――ではなく隣の女性。


「殺してやる殺してやる」


血走った目で女性の首にナイフを突きつけている。

なぜだろうか。この光景を見て、うらやましいと思ってしまった。


俺はこの日、すこぶる運が悪かった。

どのくらいかと言えば、天井が100連のガチャ(いつもなら60くらいから確率が上がり7、80連でレアキャラが出る)で100連まで引いた結果すり抜けたぐらいには運が悪かった。


運が良ければきっと、この男は俺を人質にしてくれたんじゃないか?

俺は涙が止まらなかった。

情緒不安定だったのだろうか。

俺の心は疲弊しきっていて、殺してもらえる女性がうらやましくなってしまったのだ。


ここから先の俺の行動は、意味不明だ。

ただ追い詰められた人間が。心が疲弊しきった人間が。とちくるった事をするのは、精神がいかれちまったからなのだろう。


俺は長男で。変なプライドもあって。見栄を張ってて。そんなんだから壊れちゃったんだ。


「いいなあ。ねえ、俺にしない?」


そういった俺に男は目を見開いた。

酷い顔だったと思う。

女性の顔も引きつっていた。つい数秒前までは恐怖で歪んでたのに。


「誰でもいいなら、俺にしてよ」


周りの人間が言葉を発することはなく。あるのは無数の目。

きっとさらされるんだ。

なんだかそれが嬉しくなった。

俺が生きた証が無数の入れ墨の仲間入りをしてくれたらいいな。


俺は男の方へと歩みを進める。

すると男は、刃物を持っている腕を女性から外し、持っていない腕で素早く女性の首に巻きつかせた。女性が苦しそうな声をあげる。


「ちがうちがう!!!幸せなやつを殺してやるんだ!そこに意味があるんだあ!!」


男はさらに女性の首を絞めつけ、逆の手で刃物を不規則に振り回す。


「え?俺幸せじゃないの?高校にも、大学にも行かせてもらったよ?両親も仲良しだし」


さらに歩みを進める俺。そして俺の言葉に男の目が泳ぎ、女性を締め付ける腕が緩んだ。

なぜだろう。男は泣きそうな顔をしている。

ついに男は女性から腕を解き、俺の方へすべてを向けた。

男はまだナイフを持っている。

俺は腕を広げて男を待った。

俺が歩み寄っていたため距離は僅かだ。

男が動き出したことを確認して眼を閉じた。

出来れば心臓に近い当たりで頼む、なんて思いながら。


それから数秒後、衝撃が来た。

痛みは、ない。


俺はお礼の意味も込めて、男の背中に腕を回した。

****


これで終わりだったら綺麗なのにね。

なんかさ、この男俺にナイフを持たずに突進してきたんだよ。

つまり、俺はただ犯人を抱きしめただけのやつになっちゃったんだよね。

ネットでは思った通りさらされて拡散だよ。

そんで教祖って呼ばれ始めちゃって。

犯罪者どもが来るわ来るわ。

なんでか俺のところに自首しに来るんだよ。

警察行ってくれ。

しまいにはヤのつく自由業の方もいらっしゃるようになって。

お布施でガッポガッポで!

人生さいこおおおお!って思ってたら、警察に撃たれてあっけなく死にました。

そのとき丁度、ヤーさんが来てたんだよ。

それでさあ、粉末状のお薬(漢方薬)を渡してたら警察が突入してきて。

新米のチンピラ君が発砲しちゃって。

銃撃戦よ。

この世は地獄ですね。


こんな感じで人生終了。

まあ、面白い人生だったよね。

<おまけ>

教祖の葬儀は大々的に行われた。

死に急いでいる方だとは思っていた。

しかし、こんなに早くいかなくてもいいではありませんか。

あなたに救われた罪人がどれほどいたでしょう。

あなたに救われたかった人間がどれほどいるでしょう。

お布施が届くたびに、苦虫を嚙み潰したような顔をなされていましたね。

罪人を許す行為をするたびに、その遺族や被害者の方からひどい扱いを受けていたのに、あなたはそれを表に出さず、ただただ許しを与えていましたね。

そんなあなたを愛していました。


必ずやあなたを私から離した人間に鉄槌を。

ついでにあなたに邪な感情を抱いていた人間にも思い知らせなければ。

大丈夫。殺しはしません。あなたと同じところに行かせるわけないじゃないですか。


葬儀もお墓も形だけ。そこにあなたはいない。

だってここにいますもん。

ホルマリンにつけましょう。

私も死んだらいっしょです。

大丈夫。自殺なんてしません。

あなたが一番嫌っていましたからね。

自殺しようとする者を見るたび悲しそうな顔をしていましたから。知っていますよ。

あなたの偉大さを、後世にまで語り継ぎましょう。

そうしたら、貴方の隣にいてもいいですよね。



***

お布施が届くたびに苦虫を嚙み潰したような顔をしていたのは、お金がいっぱいで嬉しい表情を隠すため。

罪人の被害者には永遠と(もういいって言われるまで)土下座してる。でも自分でもなんで土下座しているのかわかってない。この人起こってるから土下座しとこ~っていうノリ。最低です。でも遺族は勘違いして泣く。主人公もよくわからなくて泣く。でまた勘違いされる。



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