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美しき白銀の竜は、気高き花嫁に優しく語りかける

月イチ更新にしないとすぐ停滞するというのに、書き上げたらすぐ投稿したくなるこの気性。

そうならない為、不人気作家にとって悪手である「予約投稿」にすがることにしました。

どうか、なにとぞ本作品をよろしくお願いいたします。

 わかっている。

 自分はただの花嫁、ドラゴンに捧げられる生贄でしかないことをーー。


 ヒルダの中に、自分でもよくわからない怒りの感情が込み上げてくる。

 それまで自分の人生をただひたすら嘆き、命の終わりを待つばかりで恐怖していたヒルダ。

 身内や他人の前では毅然と振る舞い、弱さを見せないよう、見苦しくないよう気丈に振る舞っていた。

 だが今は違う。

 自分の運命を嘆くことをやめ、前を、上を向いた。

 ヒルダは祈祷師を始め、後方に控えている騎士達に怒声を上げる。


「見苦しいのはどっちだと思っているの!? 私はただ、こちらにおられる守護竜様が何か言いたげだったから耳を傾けなければと思っただけよ!? それをあなた達は、一体何を恐れているの! 怖がっているの!」


 指を差し説教するヒルダに、全員が反論の言葉を飲み込んでいた。

 全て事実、本当のことだからだ。

 しかし小娘に言い負かされてばかりではない祈祷師もまた、怒りに任せて声を荒らげる。


「黙れ! 貴様さては、花嫁になるのが嫌だからこのような非礼を働いておるのではないだろうな!? 先ほども言っただろう! 高潔な乙女でなければ、花嫁は務まらないんだぞ! 話の腰を折って儀式の邪魔をしているのはどっちだと言うんだ!」


 祈祷師がそう言い放った時、彼が右手を挙げて合図を送る。

 すると後方に控えていた騎士達が、一斉にヒルダに対して剣先を向けた。

 たじろぐヒルダに、ドラゴンの咆哮がこだまする。

 すぐ真上で雷鳴が轟いているかのような、体の中まで振動する程に空気が響き渡る。

 突然の咆哮にヒルダは思わず両手で耳を塞ぎ、半身を前のめりにして振動に耐えた。

 ドラゴンによる威嚇だ。

 それに驚いた祈祷師は、腰を抜かして地面に尻餅をつくと、恐怖に染まった表情で儀式用の錫杖の先をヒルダに向けて、悲鳴に近い声を上げる。


「お、お、お前のせいで儀式が失敗になるかもしれん! いいから大人しく食べられてしまえ!」


 そう本音を叫ぶと、咆哮の後に剣をしまっていた騎士が駆けつけ、腰を抜かした祈祷師を抱き起こす。

 驚くことに彼等はそのまま逃げるように、この場を去ってしまった。

 花嫁さえ差し出せばいいと思っているらしく、その後の顛末などお構いなし。

 ここにいたら怒りに触れたドラゴンの餌食になるかもしれないと、そう判断した結果なのだろう。

 取り残されたヒルダは、祈祷師のように腰が抜けそうになるのを必死に堪え、震える膝を拳で叩いて叱咤しながらドラゴンに向き合った。


 爬虫類独特の獰猛な瞳、鋭い牙が並んでいる大きな口、どんな武器の刃も通すことのない美しい白銀の鱗。

 しかしヒルダにはどことなく、獰猛そうに見えたアイスブルーの瞳がなぜか優しく、宝石のようにキラキラとまばゆい光を放っているように見えた。

 それで先ほどよりは幾分か心を落ち着かせることが出来たヒルダは、レディの嗜みと言わんばかりにドレスを軽く上げて会釈する。


「先ほどの彼らの無礼、私がお詫びいたします。ですから守護竜様、どうかご機嫌を直してくださいませ。私は守護竜様の花嫁、逃げも隠れもいたしません。少しでも美味しく頂いてもらえるよう、昨日からしっかりと栄養のある食事を摂り、たっぷりと睡眠も取り、この身を磨いて参りました」


 声を震わせることなく言えた喜びに、ヒルダは自信ありげにドラゴンと目を合わせようとした。

 変なことを言ったつもりは全くないのに、なぜだろう。

 ドラゴンが困ったような表情で首を傾げていた。

 ヒルダは慌てて、最後の言葉を告げる。

 いや、最期の言葉かもしれない。


「さぁ、どうぞお召し上がりください!」


 そう言って両手を広げて一歩ドラゴンに近付くが、やはり本能的に恐怖が増しているのだろう。

 ヒルダの体は小刻みに震えてしまっている。

 必死で恐怖を堪えているのが、ドラゴンにもわかった。

 すると大きな風がヒルダの全身に吹きかけられる。ドラゴンがため息をついたのだ。


『全く、ここの人間達は何百年経っても何も変わらないようだね』


 突然ドラゴンの言葉が聞こえてきて、ヒルダは呆気に取られた。

 何か言おうとしていたことはわかっていたが、ここまではっきりと人間と同じ言語を操るとは思っていなかったので驚きを隠せない。


『こちらは別に花嫁とか生贄が欲しいだなんて、一言も言ってないのだが……。勝手にあの国の人間達が解釈して、国の為とか言って人間の少女を差し出して来る。ーー私に人間を食べる趣味なんてないというのに』

「え、ーーと、いうことは?」


 ドラゴンと会話をしている?

 不思議で初めての経験だが、ヒルダはもっとドラゴンの話を聞きたいと思った。

 ドラゴンの優しく、心が落ち着くような声をもっと聞きたいと思っていたのだ。


『君が私の花嫁になる必要も、食べられる必要もない、ということだね』

「で、ですがそれでは……国の繁栄は?」

『元々私にそんな力はない。人間達が勝手に思い込んでいるだけだよ。私は何もしていない』


 拍子抜けするヒルダだったが、しかし国を挙げての盛大な生贄祭りの最中に戻るわけにもいかなかった。

 もし戻って今の話をしたとしても、誰も信じないことはヒルダでもわかる。

 現にヒルダ自身、想像もしていなかった内容の話を聞かされて動揺しているのだから。

 つまり、この先の行き場所がヒルダには残されていないということになる。

 どうしようかと途方に暮れていると、ドラゴンは慣れたように声をかけ誘った。


『私と来なさい。一応、人間の住める場所がある』

「え……?」

『元よりそういうことになるだろう? 守護竜と呼ばれる()()()()()()()嫁がされてきた娘は、皆そうしている。ーー安心しなさい、別に言葉の通り君を私の花嫁として迎え入れようというわけではないよ』

「は、はぁ……」


 そう言うとドラゴンは跪くように地面に伏せると、自分の背中に乗るよう促した。

 ヒルダはウェディングドレスの長い裾をたくし上げて、なんとかよじ登る。


『私の首筋にタテガミがあるだろう。それにしっかり掴まっていなさい』


 サラサラとした真っ白いタテガミを両手一杯に抱きしめる。

 失礼ながら獣の臭いがするのかとも思ったが、まるで香水でも付けているように良い香りがした。

 

(なんて心地良い香りなのかしら。これは……ムスク? 奥行きがあって、温かみのある大人っぽい香りだわ)


 ドラゴンのタテガミからそんな香りがするのは意外だったが、ずっと緊張感に包まれていたヒルダにとってやっとそれが解けるような瞬間だった。

 だから忘れていたのかもしれない。


「きゃああああ!!」


 ドラゴンは空高く舞い上がり、山の反対側へとヒルダを連れて行く。

 さっきまでの癒しの時間が嘘のように、今は振り落とされないよう必死にタテガミにしがみつくという、恐怖の時間が待っていた。

ドラゴンさん、名乗ってないですね。

次回もよろしくお願いします。

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