19-6 初めての買い出し護衛任務2
無事にポロッサに着き、休む間もなく買い出しとなる。
「サムとステイン、ミレイは買い出しを手伝って来てくれ」
「あいさ」
三人とグレムさん、ベックさんともに市場へ向かった。
僕とライノは竜に水をあげるため井戸へ。
「結構、賑わってますね」
「ああ」
夏をすぎて収穫時期入っている。
近隣農村からの来ているのだろう。
竜に水を飲ませ、足に水をかける。
「スチュアートさん」
「どうした?」
「おれ、竜騎士としてどうです?」
「よくやってるよ」
「ほんとですか?」
彼は苦笑いを浮かべる。
「スチュアートさんの時を比べたらどうです?」
「人と比べても意味はない。自分がどう思うかだ」
「まあ、そうですけど…」
シュナイツには竜騎士の新人が三人だけ。
後輩はいない。
正規の竜騎士なら、次々と後輩が入って来て先輩として教える事もあるし、しっかりしなければいけないと、自覚することもあるだろう。
上からは叱られ、指導されるばかりだから、自分の成長に疑心暗鬼になっているではないかと思う。
実際、僕はそうだった。
「竜騎士になって一年経ったか…」
「はい。二年目ですね」
「なら、自分のスタイルを見つけたほうがいい」
「スタイル?」
「ああ。戦い方だ。個々人に特色があるだろう?ガルドさんは力で押すタイプ。ヴァネッサ隊長はどちらかというと速さ重視。レスターはバランスが取れたタイプだ。僕は速さ重視」
「はい」
「自分はどうするか考えながら訓練を積む行く」
「自分で決めるんですか?」
「ああ。竜騎士は自主独立」
「はあ…」
ライノは歯切れの悪い返事をする。
「僕はそうしろと教えられていない。自分で見つけて訓練を積んだ」
「見つけるってどうすればいいんです…」
「見つける事も竜騎士としての訓練の中に入っている」」
「えぇ…」
「ライノ、君が決めなければ、君の竜も成長しない」
「竜の成長…隊長が話してましたね…」
「竜と竜騎士は共に成長する。君が足踏みしていれば、竜も足踏みして成長しないぞ」
「参ったな…」
彼はそう言いながら自分の竜を撫でる。
「竜騎士はみんな悩むんだ。それを乗り越えて一人前になる」
「はい…」
「さっき言った事は、全部受け売りだから」
僕はライノの肩を笑いながら叩いた。
「え?」
「僕も成長途中なんだ。偉そうな事言えないだろう?」
「そんな事ありませんよ!スチュアートさんは一人前の竜騎士だと思います」
「ありがとう」
後輩は励まされるとは。
僕はまだまだということだろう。
買い物組が次々と荷台に食料を運び乗せていく。
「なんか、いつもより多くないすっか?」
「地下倉庫で保存が効くようになったからな。すこし多めに買った」
「すげえもん作ったよなぁ」
ベックさんは倉庫に感心してる。
「これ昼食な」
そう言って渡された物。
硬いパン、干し肉、果物。
「いつものですね」
「いつものだ」
買い出し任務で憂鬱なのは、まともな食事がないこと。
代わり映えしないが、いつもの食事が恋しい。
昼食を食べ終え、帰ろうとした時だった。
「おーい」
遠くから聞こえる声。
「ん?」
「…あれですかね」
ステインが指を指す先は町の南側。
「待ってえ!」
今度は女性の声。
「ソニアさんだ」
「ってことは、小麦の輸送から帰って来たんだ」
ソニアさんとハンスさん、それとリックスさん。
彼らをまつ。
「ご苦労様です」
「ほんとご苦労だったぜ」
ハンスさんは苦笑いを浮かべる。
「雨で、リカシィに丸二日足止めになっちまった」
リックスさんもうんざりといった様子。
「雨?小麦は大丈夫なのか?」
グレムさんがリックスさんが操る荷馬車に近づく。
「ギルドの倉庫に入ったから大丈夫だと思うが、どうだ?」
「問題ないな。これが二年物の小麦か?」
「ああ、そうだぜ」
「ウィル様の言ったとおり、二年物にしては異常がない。よし…」
彼は満足気に小麦が入った麻袋を叩く。
「今日は五人なのね」
「ほんとだ」
「付き添いなし言って来いと」
「へー」
「スチュアートが班長っすよ」
「そうなの。じゃあ、班長さん。シュナイツまでの並びはどうします?ご命令を」
ソニアさんは姿勢を正し敬礼までする。
その隣でハンスさんも。
「やめてくださいよ…」
敬礼されるほど偉くはない。
「そうですね…ソニアさんとハンスさんを先頭に。リックスさんが続いてください」
その後ろを、僕達は行きと似たような並びでついて行く。
ソニアさん達が合流したことで、護衛対象が増えた。
荷馬車三台か。
「サム、殿についてくれ」
「あいあい」
「いつもの感、頼りにしてるぞ」
「おう、任せろ」
「ステイン、私語はしてもいいが警戒を怠るなよ」
「了解」
シュナイツへの帰り道は上り。
早朝の薄曇りから晴れて、青空が広がる。
「シュナイツはいつ通り?」
ソニアさんが話しかけてくる。
「はい…あ、いや…」
「何かあったの?」
「ウィル様とリアン様が喧嘩したんすよ」
サムは何でもないかのようにさらりと言ってしまう。
言い淀んでしまった僕も悪いが、もうちょっと気を使ってほしいよ。
「いつも仲良さそうなのに、何があったんだ?」
ハンスが興味深げに馬を寄せて来た。
「ウィル様に無理させまいと、仕事を奪ったようで…」
「なるほど」
ハンスさんは苦笑いを浮かべる。
「ウィル様はもう大丈夫なんだろ?」
「はい、もちろん」
「まあ、目の前で倒れられたら心配はするよな」
「過剰に出てちゃったのね。リアンらしいといえば、らしいけど」
「で、喧嘩は継続中?」
「いえ、すぐに仲直りを」
「何それ?…ホントに喧嘩なの?」
ソニアさんは呆れるように話す。
「僕は伝え聞いてるだけですので…」
仲直りしたのであればそれでいいんじゃないかと僕は思う。
「本当の喧嘩ってのはな、一週間くらい口聞かないとか、相手のコンプレックスを突くとか、過去の喧嘩まで持ち出すとか、これくらいが本当の喧嘩よな」
ハンスさんは自慢げに話す。
「何言ってんの…」
ソニアさんは、ため息を吐いている。
「経験者は年季が違うな」
リックスさんがボソリ呟き、小さな笑いが起こった。
ポロッサとシュナイツの中間地点で休憩を挟んで再び道を進む。
何もなければ、美しい景色だ。
北に雪をいただく山脈、小川のせせらぎ。
紅葉しつつなる山並み。
隊長は見慣れて、
「なんとも思わないね」
と、言ってるけど…。
竜の揺れに変化しているのに気づく。
なんだ。
たてがみが逆だっている?。もしや…。
「スチュアート」
殿のサムが声をかけてきた。
振り向くと、彼は左を見て頷く。
やっぱりか。
サムに向かってサイン出す。
-人数は?-
-一人じゃない。複数-
人数まではわからないか…
「べっくさん、速度上げれます?」
「今日は荷物多いから、ちょっと…上りだし。このペースだとシュナイツに着くの夜になっちまうかい?」
「いえ、大丈夫だと思います」
賊が潜んでいる。
見た目にはわからないが、竜が警戒してる様子とサムの気づきから確定だ。
賊に気づいているの僕とサムだけだ。
何事もなければ、黙っていたい。
無用な心配はさせたくないし。
しかし、遅かれ早かれライノ達も竜の変化に気づくだろう。
襲撃が無いとは言い切れない。
報告し、皆で警戒すべきだろう。
僕は口笛を短く吹く。
それを聞いた皆が僕に注目する。
左側に要警戒とサインを出す。
皆の顔に緊張が走った。
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