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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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18-18


 倒れた翌日。


「熱は引いたな」

 フリッツ先生が僕の額に手をあてる。

「はい」

「気分はどうだ?」

「だいぶ、いいです」

「うむ」


 先生は今日一日様子みる、と話す。


 僕的には、もう大丈夫だと思うんだけど、リアンとヴァネッサ達が先生の言う通りにするようにと。


「わかったって…」


 寝てるだけは辛かったので、体を起こしていていい許可を得る。


 ベッドに座ったまま、シアリバへ向けた小麦受け入れ関する手紙の文面を考えたりしていた。

 大まかにはリアンとシンディが考えてくれていたので、僕がしたのは修正だけ。.


「これで清書していい?」

「うん、いいよ」

 リアンは笑顔で執務室へと戻る。


「仕事熱心だねぇ」

 そばで見ていたヴァネッサがそう話す。

「いつもあれだけ頑張ってくれたらいいのに」

「リアンはちゃんとやってるよ」

「そうかい?」

「ヴァネッサの方がサボってんじゃない?」


 彼女がサボっていないことはわかっている。


「輸送隊のことを聞きに来たんだよ」

「だと思った」


 彼女とは、小麦の輸送についての打ち合わせ。


「シアリバの手紙はリアンが清書している」

「ああ」

「それに僕のサインを入れたらすぐにポロッサに行って郵送してもらってくれ。速達で」

「あいよ。引き渡しの日付は?」

「二十日後」

「ぎりぎり過ぎない」

「多分大丈夫だと思う。ギルドが仲介に入ってくれるから、シアリバの方が早かったらギルドに一旦預かってもらう手はずだし、こっちが早かったら一日か二日待つかもしれないけど」

「うーん…」

「もう少し後にした方がいいかな?」

「とりあえずそれでいい。不備が出たら、次はもう少し日数を後にしたほうがいいね」


 このへんはまだ手探り状態。

 シュナイツもそうだが、シアリバも分かっていないはずだ。


「それだけだから、じゃあね」

「ヴァネッサ、ちょっと待って」

「なに?」

「昨日の事なんだけど…」

「昨日?」

「兵士向かって怒っていただろう?」

「え?。あー…それがどうかした?」

「どうかした?じゃないよ。僕は別のなんとも思っていない」

 これは正直な気持ちだ。


 警備と訓練の合間に行くんだ。

 リカシィまで行って小麦を受け取って帰ってくる。

 それだけの仕事。

 賊の襲撃があるかもしれないが、単調な仕事だ。


「単調だろうとそうじゃなかろうと、仕事は仕事でしょ」

「そうだけど…」

「あんたは律儀に頼んでいたけど、命令するのが本来の形だよ」

 ヴァネッサは腕を組みそう話す。

「僕はそういうの嫌いだって分かっているだろう?」

「だったら、あたしらに任せてくれればよかったんだよ。そうすればサクッと決まるし、あんたも倒れずにすんだかもしれない」

「…」

 

 僕は言い返す事ができなかった。

  

 僕自身の考えが間違っているとは思わないが、ヴァネッサの命令すればいいという考えにも納得できなかった。


「特別な事情、状況じゃない限り命令はしたくない。これは僕の、いや領主としての考えだ。尊重してほしい」

「そいつは 命令 かい?」

「違う。お願いだよ」

「お願いね…」

 彼女は僕を見下ろしながら小さく息を吐く。


「あんたの考えを否定する気はないけど、もうちょっとさ…上から物を言ってもいいと思うよ」

「ああ。頭に入れておくよ」


 彼女は部屋を出ていった。


 翌日。

 体調は元に戻る。


 フリッツ先生からお墨付きをもらう。


「無理をするなよ。少しでも不調になったら、わたしの所に来い。いいな?」

「はい、分かりました。ご迷惑をおかけしました」

「迷惑などと思っておらんよ。医者の努めを果たしたまでだ」

 先生は笑顔を僕の肩を叩き去っていく。


 今日は久し振り…いや、二日ぶりの多目的室での食事だ。


 多目的室に入ると、拍手で迎えられる。


「やめてくれないかな…」

「あんたの全快を祝ってんだよ」

「二日寝ていただけなのに」

「あたしに言わないでよ。リアンだよ、やり始めたの」

「リアン…」

「祝うとかじゃなくて、元気になって良かったねって」


 普通に、いつも通りに迎えて欲しかった。


「元気になったのは、とても良い事」

「アリス様の言う通りです。一時はどうなるかと…」

「わたしはびっくりして、声も出なかったです」

 今日はアリスとジル、ソニアも一緒だった。


「みんな、心配をかけてしまった。申し訳ない…」

大事(おおごと)にならなくてよかったんじゃないか」

 ライアは肩を竦める。

「ウィル様の負担をできる限り減らすべき」

「そうだネ~」

「言うほど負担になってないから大丈夫だよ」

「エレナの言う通りよ。私もだけど…」

「気をつけるから…」

「はいはい。朝食、配ってっ」

 ヴァネッサがメイドにそう声をかける。


 朝食が運ばれて食べ始めた。


 いつもの賑やかな食事風景。

 やっぱりこれが良い。


 食べ終わった後、各所に顔を出そうと思ったんだけど…。 


「そういうのいいから」

「どうして?」

「詫びに回ったら、みんなのほうが申し訳なるよ」

「そうかな?…」

「それに病み上がりだし、二、三日後でいいって」

 ヴァネッサだけじゃなく他の者もしなくていいと言う。


 ということで、いつも通りの日常に戻る。


 小麦の輸送に関しては、問題なく行われた。

 のは、良かったんだけど…。

 

 次回の輸送隊を募集した時だった。

 

 ほぼ全員が希望し、奪い合いとなる。


「宿屋の食事が美味いって聞いて…」

「数量限定のパイが美味いって…」

「ギルドの受付にかわいい娘がいるって…」

「あんたらね…」


 別の意味でヴァネッサが頭を抱えていた。

 

 動機は別にして行ってくれるのなら、ありがたい。

 輸送隊の人員について悩む事はなくなった。


 小麦を安く手に入れた事はできたが、買い取った分だけでは一年持たない。 

 不足分は通常通りに仕入れなければいけない。

 しかし、かなりの節約になった。

 

 来年はもっと早くに交渉したい。

 

 体調に関しては、リアンによって厳重に管理されている。

 最初は、ちょっとやり過ぎなくらいだった。

 まあ、彼女の気持ちを考えれば当然といえば当然なんだけどさ…。




「この頃はやりたい事、しなければいけない事がたくさんあって、手に余るほどだったな」

「今は、だいぶ他の者に任せるようにしているから仕事量としては減ったと思う」

「なんて油断してると、急用ができたり急務が発生するから無理は禁物だね」


「あなたはすぐ無理するから、私が良い枷になっているでしょ?」


「ロープで縛られているみたいだよ」


「そこまで言う?あなたのためを思っての事なのに…」


「ごめんごめん。分かっているよ。いつもありがとう」


「いえいえ。どういたしまして」


「そういえば…初めて喧嘩したのは、この頃だったよね?」


「あー…そうだったわね。あなたが強情で…」


「君のほうが…」


「なんですって?」


「いえ、なんでもないです…」


「あんた達、そろそろ仕事に戻った方が良いんじゃないの?」


「やあ、ヴァネッサ。いいところに来てくれた」

「後は彼女に聞いてくれ」


「いや、あたしも用事あるから…」



エピソード18  終わり

Copyright(C)2020-橘 シン

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