表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/142

18-12


「さあ」

「失礼します…」

 クラーク卿に促され中へ。レスターも一緒に。

 クラーク卿も入り扉は閉められた。


「こちらをお使いください」

 ランプを渡された。


 中は採光の窓もなく、ランプがなければ真っ暗だろう。

 そしてもう一つ、倉庫の異様さに気づく。


「涼しい…いや寒いくらいだ」

「ですね。これは…」


 息が白くなるほどではないが、今の服装で長時間いれば風邪を引くだろう。


「クラーク卿、これはどういう事でしょうか?」

「ふふふっ…」

 ランプを持っいるクラーク卿は笑顔を浮かべるだけ。

「この倉庫についての質問にはお答えできません」

 補佐官がそう話す。

「話せないって…」

「申し訳ない。機密事項なのでな」

「機密事項…」

「とはいえ、気になるだろう。少しだけ話そう」

「ご当主!」

「みなまで言わんよ」

 補佐官に止められたが、クラーク卿は補佐官の肩を叩く。


「小麦の長期保存には低い温度がいいと研究によりわかった。なのでこうしている」

「なるほど。それで一昨年の小麦でも問題なく保存できていると」

「左様」


 しかし、外との温度差が異常だ。

 煉瓦造りだけではこうはいかないはず。


 氷室?

 ランプでかざして倉庫内を見回すが、それらしいものは見当たらない。

 なのに寒い。


「ウィル様。天井を見てください」

「なに?」

「光ってます」

「光ってるね…」

 

 天井、正確には梁の一部が光っていた。

 ランプやろうそくとは違う。


 あれは…。


「「魔法だ」」

 レスターと声が合わさる。


「クラーク卿、魔法ですね?魔法で温度を下げている」

「…」

 クラーク卿は何も言わず、真顔のまま。


 クラーク卿は否定も肯定もしない。


「間違いありません。魔法ですよ」

「うん」


 魔法で間違いない。

 

 ここと同じようなものを作れば長期保存ができる。

 エレナに頼んでみよう。彼女ならきっとできるはずだ。


「倉庫の話はこれくらいで。小麦の状態を見てほしいな」

「はい。すみません…」


 倉庫の奥に小麦が麻袋に入れられて、高く積まれていた。

 その中から小さな小袋(二年物)を一つ外に持ち出す。


 袋の中の小麦を確かめる。


「どうです?」

「害虫はいないみたいだ…」


 中をかき混ぜて入念に調べたが、害虫などはいなかった。


「どうですかな?」

「問題ないと思います…」

「何かまだ言いたい顔だが」

「いや…」

「まだ聞きたい事があるなら答えよう」

「はい…。品質に問題ないと思いますが、食べてみないと…」

「定期的に食味は確認しており、問題ありません」

 補佐官が少し怒りを込めたような口調で話す。

「問題ないなら、今食べても支障はないのでは?」

 レスターが補佐官に近づく。

「こちらを信用していないですか?」

「信用してほしいなら、食べさせてほしいですね。それともできない理由があるんですか?」

「失礼ですよ。こちらは売らずとも飼料として近隣に売却してもいいんです」

 二人の丁々発止は止まらない。

「クラーク様のご厚意より売却を止めているのです。勘違いしているではないですか」

「勘違い?」

「あなたは、マリウス家の者の聞いていますが…」

 これは、まずい…。

「圧を加えるなら、こちらも対処させていただきます」

「圧って…おれはマリウス家の人間じゃない!」

 レスターが激昂する。

「なんでおれの話が出るんです?関係ないでしょ?」

「レスター!落ち着いて」

 彼の前に立ち、肩を抑える。

「やめないか」

 クラーク卿も自身の補佐官を退かせる。


「申し訳ありません」

 僕はクラーク卿も頭を下げた。

「いや、こちらの補佐官が言い過ぎてしまった。謝りなさい」

「しかし…」

「謝罪するんだ」

 クラーク卿は厳しく窘める。

「はい。申し訳ございませんでした」

 補佐官が頭を下げた。

「レスター、君も」

「おれは…」

 僕は彼の背中を押す。

「すみませんでした…」

 

「イシュタル卿。その小麦で昼食を作り、私と一緒に食べいただくというはどうか?」

「はい。ぜひに」

「ではそれを持って厨房の方に」

「自分が持ちます」

 レスターがすぐに小袋を持ち上げる。


「おまえは厨房へ連絡を」

「かしこまりました」

 補佐官が小走りで邸宅へ向かう。

 僕達はその後を追う形で邸宅へ歩く。


「なんだか申し訳なかった」

「クラーク卿が謝ることではありません」

「うちの補佐官は生真面目過ぎてな…。いいやつなんだが」

「不真面目よりはいいかと」

「はははっ。確かに」

「こちらにも非はあります」

「申し訳ありません…」

 後ろを歩くレスターが頭を下げる。


「君も悪気があったわけでないだろう?シュナイツとイシュタル卿を思ってこと」  

「そう言って頂けると…恐縮です」

 彼は小さく息を吐く。


 小麦は厨房にて石臼で挽かれ粉となり。

 そして、こねられてパンとなる。

 その工程、全てを見せてくれた。


「ここまでされたて、買わないと逆に失礼なるね」

「ですね」

 

 補佐官が激怒するに違いない。


 出来上がった昼食は広いダイニングに運ばれる。

 

 サムとスチュアートを呼び、クラーク卿とともに昼食となる。

 昼食には遅い時間だったが。


「それでは、いただきます」

 焼き上がったばかりのパンをちぎり食べる。


 味は問題ない。おいしい。


「二人はどう?」

 サムとスチュアートには倉庫に保存していた小麦とは伝えていない。

「うまいっす」

「美味しいですよ」


 普段シュナイツで食べているのも去年のもの。そちらは味に問題ない。

 今食べてのは厳重に管理されてものだ。美味しくなかったら困る。


「今食べたのはここの倉庫で二年間保存されたものなんだ」

「そうなんすか?普通に美味しいっす」

「自分もです」

 何も知らずに食べて、この感想なら問題はない。


「クラーク卿、在庫の小麦買わせていただきます」

「そうか。価格は後ほど相談して…」

「いえ、先程ご提示頂いた価格で結構です」

「いいのかね?」

「はい。十分お安いですし、小麦に問題ない事も証明していただきました。これ以上交渉は必要ないかと思います」

「うむ。イシュタル卿がそう言うなら、価格については決まりという事で」

「はい。ありがとうございます」

「諸々は後ほど決めよう」


 この後は雑談を交えつつ、昼食を摂る。


「今日の宿は決まっているか?」

「いえ、まだです」

 忘れていた。

「なら、ここに泊まって行けばいい」

「お邪魔ではありませんか?」

「今日は客人もいないから気兼ねする必要はない」

「そうですか…。どうしようか?」

 僕はレスター達を見る。

「ご家族は?」

 レスターがそう尋ねた。

「妻は先月亡くなってな」

「失礼しました」

「いや、いいんだ」

 クラーク卿は笑顔で首を振る。


「今、娘夫婦は王都にいて、私の代理をしている。ここには私一人なのだ。だから話し相手がいない。孫も向こうに行ってしまってな…」

 そう言って苦笑いを浮かべる。

「なるほど」

「良ければの話だが」

「そういう事であれば、お言葉に甘えさせていただきます。いいね?」

 レスターは頷く。

「そうか。旨い料理を出す。ゆっくりしていってくれ」

 クラーク卿は嬉しそうに昼食を口に運ぶ。


 そして、昼食後客室へと案内される。


「ご用があれな何なりと」

 メイド数名が付く事になった。


 さすがと言うべきか、客室は広い。

 二人で寝れるくらいのベッドが四つ。それでも部屋に余裕がある。

 

「クラーク卿っていい人っすね」

「いい人過ぎて、怖いです」

「クラーク卿は裏表のない方だ」

 スチュアートの言葉にレスターがそう話す。

「レスターさんは初対面じゃないんですね」

「親父が友人みたいなもんだし。竜騎士になる前に何度か会ってる」

「元老院繋がり?」

「でしょうね」

 

 部屋のドアがノックされる。

 スチュアートが応対に出た。


「ウィル様、契約と輸送の相談をしたいと」

「わかった。入れてあげて」


 入って来たのは女性従業員。

 僕達を最初から案内してくれている人だ。それともう二名。


 部屋のすみにあるテーブルへ。

 

「こちらの契約書に目を通し頂いて、サインをお願いします」


 契約書には量と価格が書かれている。

 それを確認しサインをする。


「お支払いは現金でしょうか?」

「いえ、金券で」

「かしこまりました」

 金券を鞄から出し、担当者へ渡す。端数は現金で。

「確認いたします」

 確認は担当者だけでなく、他二名にもさせる。


「全額揃っています。お買い上げありがとうございます」

 金券と現金が持っていかれる。


「輸送に関して、ご当主よりリカシィまではこちらで、リカシィからシュナイツまではそちらで伺ってますが、間違いありませんか」

「はい」

 これは昼食中に話しあったもので、クラーク卿が気をきかせたくれたものだ。


 輸送には兵士を割かなけれいけない。

 守備力の低下をできるだけ短期間にするための処置である。


「日程についてはいかがいたしましょうか?こちらいつでも輸送できる体制は整っています」

「まだ倉庫の準備ができていないので、少し待っていただきだいです」

「わかりました。いつぐらいになりますでしょうか?」

「そうですね…」


 帰って、エレナに相談して、倉庫を準備して、輸送隊の編成…。.

 一ヶ月後なら大丈夫か?…。


「はっきりとした時期は言えないですが、一ヶ月くらい後になるかと…」

「なるほど…」

 担当者はメモを取る。

「準備が整いしだい手紙をお送りいただけますか?」

「はい」

「よろしくお願いいたします」

 その他細々した相談して担当者は帰っていく。


 夕食まで何もせず体を休めた。



Copyright(C)2020-橘 シン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ