18-5
「行っちゃった…」
「行っちゃったね」
笑顔が消えてしまったリアンの肩に手を乗せる。
「やっぱり心配かい?」
「心配じゃないわけないでしょ。ウィルは心配しなくていい、信じて待っていてほしいって言ってたけど…」
そんな事話してたの。
「あなたが行ってくれていたら、多少は心配が少なくなったかも」
「そうかい?」
それはレスター達に失礼ってもんだよ。
「ふふ…」
「笑い事じゃない」
「ごめんごめん」
リアンは口を尖らせる。
「アリス、タイガとユウジを借りたいんだけどいい?」
「二人を?構わない。けど、王都に行くと言っていた」
「王都?なんで?」
「詳しくは聞いてない」
タイガとユウジを呼び寄せる。
「あんた達、王都に行くって?」
「はい」
「今すぐじゃないぜ」
「何しにいくの?」
「薬草の需要がないか調べに。とウィル様から手紙をいくつか預かってます」
「ウィル様の友人に会えたら、その人に薬の事聞こうって。会えなかったら、まあ適当に」
「なるほどね」
二人なりにクァンさんの後を継いでいくために勉強か。
「今すぐ行っても問題ないよね?」
「え?まあ…」
「ジルもいい?。二人に借りるよ」
「よろしいですが、何をさせるのですか?」
「訓練さ」
あたしが訓練と言った途端、タイガが顔を顰める。
「えー…」
「今日は休みってジルさんが…」
ユウジも乗り気じゃないみたいだね。
「あんた達のための訓練なんだよ」
「具体的には何をするんだ?」
そばにいたライアが聞いてくる。
「尾行訓練」
「びこう?何それ?」
リアンも話しに加わる。
「対象人物に気付かれないように、後をつけ、行動などを監視することです」
ジルが説明してくれた。
「した事ないでしょ?」
「はい」
「高等訓練ですので、彼らまだです」
「ならちょうどいいね」
「はい」
「見つからなければいいんだろ?余裕じゃん」
タイガは自信満々。
「そう?」
「で、内容は?対象人物が必要らしいが」
「ウィル達だよ」
ウィル達に見つからないよう後をつけてもらう。
と、同時に賊にも見つからないように。
ウィル達に危険が迫った場合は支援、救出へ移行する。
「なんだなんだ。えーっとウィル達にもバレずに、賊もバレずに、危なくなったら助けろ?」
「そういう事」
「ヴァネッサ…それだったら、二人をウィルに同行させればよかったでしょ」
「それじゃ訓練にならない」
「訓練とウィルの安全どっちが大事なのよ!」
リアンがあたしの腕を叩く。
「ウィルの安全は十分確保されてる。あんたが王都に行った時とは状況が違う。ウィルも竜に乗ってるし」
「ヴァネッサらしいネ。エグイ」
「そりゃどうも」
「ミャンは褒めてないぞ…」
ライアはこめかみを押さえる。
「だいたい今やる事?」
「今やらずに、いつやるの?で、どうする?やる?やらない?」
「えっと…」
タイガとユウジは、アリスとジルを見る。
「許可は出てんだよ。後はあんた達のやる気しだい」
「やります!」
二人は頷く。
「よし!準備してきな」
敬礼して一旦離れていった。
準備の間にシンディにお金を用意させる。
「訓練の機会をいただき、ありがとうございます」
「さすが、ヴァネッサ様」
「いいんだよ」
「さてどうなることやら…ふふっ」
「ウィル様達は知らないのだろう?」
「一言も言ってない」
「大丈夫なのか?」
ライアは心配を口にする。
「大丈夫でしょ。抜き打ちテストみたいなもんだよ」
「やっぱりヴァネッサはエグイ」
用意ができた二人が戻ってくる。
「これは遊びじゃないんだからね。気を引き締めてやりな」
「でも、訓練なんですよね?相手は味方ですし」
「あんた達の訓練とウィルの安全を守る。この二つを兼ねてんの」
「はい」
と、言いつつも気合が入ってる様子がない。
「もしレスター達に見つかったら、ケツ蹴るから」
「えっ…」
「マジですか、姉御の蹴りだけは…」
「姉御はやめなよ…」
最近、タイガが変なあだ名で呼ばれようになった。
「相手は竜騎士ってことを忘れるんじゃないよ」
「レスターさんはともかく、サム兄とか余裕でしょ」
「サムはああ見えて勘がいいからね」
「マジで?ふざけた感じなのに」
「君が言うなよ…」
ユウジがため息を吐いている。
「スチュアートも経験は少ないけど、状況分析に長けてるから気をつけたほうがいい」
「はい」
「見つかった、見つからないの判断はどうするんですか?」
「名前を呼ばれたら、かな。後はレスター達本人から聞く」
「わかりました」
「それから、訓練はウィル達が目的の領地に着くまででいいから」
「帰りはいいんすか?」
「帰りはいい。行きだけやって、あんた達は王都に向かいな」
「はい」
「これお金ね」
「うっす」
二人にお金を渡す。
「じゃあ出発!」
「はい!」
二人が門に向かって駆け出した。
レスター達にとっても訓練となるものだ。
まさか尾行されてるとは思ってないだろうね。
まだまだ新米吸血族に気づくかどうか。
こっちも見ものだね。
「さてと、あたしらはいつも通りに行くよ」
「そうだな」
「まずは朝食だよネ?」
「あなたがいつも通りで安心した」
「でしょ~」
「褒めてない」
「アハハ!」
みんなそれぞれ捌けていく中、リアンだけは黙ってウィルがいるであろう方向を見つめる。
「リアン」
「ウィルはシュナイツのために行った」
「ああ」
「私もシュナイツのために、私自身の事をしなくちゃ」
「そうだね」
リアンは涙をひと拭きして館へと入って行った。
リアンとウィルがこれほど離れ離れになるのは初めて。
特に何もなかったけどね。
リアンも成長というか心が強くなったと思う。
そうでないと困る。
シュナイツの補佐官なんだから。
シュナイツを出発した僕達は無事にポロッサに到着した。
ここで必要な物を買い揃える。
日持ちする食料品が中心だ。
「これくらいあればリカシィまで持つだろう」
「あとはいいですかね?」
「うん。すぐに食べれるものも買ったし。僕はこれでいいと思うけど」
事前に考えておいたメモを見ながら話す。
「インクやペンは帰りでいいし。レスター達はどう?必要なものがあれば買うよ」
「おれ達も特にないですね」
「なら、行こう」
ポロッサからリカシィは何度も通った道だ。
道にはやはり人々が行き交っていた。
「ウィル達の言ったとおり少し混んでいますね」
「うん。久しぶりに見る光景だよ」
ここを通ったのは王都に行った帰り。
竜は走らせず、人にぶつからないよう気をつけながら進む。
「道じゃなく、路肩走ります?」
先頭を行くサムが、振り返りそう話す。
路肩は踏み固められておらず雑草が生えている。
「いやこのままでいい。路肩は不安定だ。おれ達は大丈夫だが」
「ですね、了解」
レスター達は竜騎士だから大丈夫。
問題は僕だ。
平坦ならほぼ大丈夫。凸凹した道を走るは無理。
下手打って竜から落ちたりしたら大怪我になる。
「なんか…すまない」
「いいんですよ」
「オレの方こそすみません」
「いや…」
週数回の走り込みだけじゃたかが知れている。
リカシィまでは数回どこかで泊まらなければいけない。
泊まるのは僕達だけでなく商人達なども同じ。
道沿いまたは道に近い村で納屋などを借りる。
ほかの商人達と共同になる事も。
それでも雨風をしのげるのはいい。
今回もうまく借りる事ができた。
しかし、リカシィまで一日というところで雨に降られてしまった。
Copyright(C)2020-橘 シン




