17-8
次の日。
クァンさんを埋葬するため墓地に向かう。
墓地は村の南。
開けた場所で日当たりの良い場所だった。その分、雑草が生い茂り墓地には見えない。
倉庫から鎌や鍬、鋤を持ち出し、雑草を除いていく。
「ここがいい…」
ミャンの指示通りに地面を掘る。
クァンさんのお墓については、ミャンとタイガ、ユウジに任せて、ぼくとジルは賊の死体の処理をした。
処理と言っても、数ヶ所に集めて土を被せただけ。
「この後はどういたしましょう?」
「うむ。ヴァネッサ達がこちらに向かっている。それを待つ」
「わかりました」
「すぐに帰ってもいいが、ミャンが居たがるじゃないかと…」
「そうですね…別れを惜しむ時間は必要です」
「ああ」
ミャンが、シュナイツにすぐに帰るのというならそうしてもいい。
彼女の意思を尊重したかった。
クァンさんの遺体を埋葬し終えたミャンは、その上に石を積み上げた。
「終わったヨ…」
「ああ」
ミャンはクァンさんのお墓の前に座り、ため息を吐く。
彼女は何も言わず、時折涙を拭うだけ。
クァンさん遺体からネックレスやブレスレットなどのアクセサリーを取り、ミャン自身が身につける。
クァンさんのもう一つの遺品。
鞄と杖は茂みの中に、雑に捨てられていた。
それを受け取ったミャンは、杖をお墓に刺し、鞄の中を漁る。
「これは二人に」
ミャンは手帳をユウジに渡す。
「はい…預かります」
手帳は分厚く、革表紙で丈夫そうな物。
「すごい…」
「どした?」
手帳を見ていたユウジの感嘆の声にタイガも手帳を覗き込む。
「薬草の事が細かく書かれてる。薬草をスケッチしてまで…」
「採取場所と採取季節、量って…これ全部、一人でやったのかよ…」
「それは代々受け継いできた物なんだよ…」
ミャンが小さく呟く。
「ばあちゃんは全部暗記してた」
「マジですか…」
「紙の色が違う部分が多数あります。継ぎ足して来たんでしょうか?」
「うん」
深き森における薬草の百科事典といったところか。
「君達が受け継いだ物は、相当重要だぞ」
「はい」
「はい…」
タイガは自信なさげな表情だが…。
「クァンさんをがっかりさせたくない。俺はやるよ」
彼は大きく息を吸い、拳を握りしめる。
「ミャン。申し訳ないが、シュナイツに帰らなけいけない」
彼女の小さな背中に話しかける。
「うん、わかってるヨ…」
「ヴァネッサ達がこっちに向かってるんだ。それまで待つか、こちらから迎えに出るか。どうする?」
「ヴァネッサを待つ。それまで居させて…」
「わかった」
「ごめん…」
「いいんだ。謝る必要はない」
その日も夜まで、ミャンはクァンさんのお墓から離れなかった。
ミャンは夕食からまともな量の食事をしてくれた。
安堵したよ。
これはぼくだけじゃなく、ジル達もだろう。
「ライアの家族は生きてるの?」
ミャンにそう尋ねられた。
「さあ。わからない」
「わからないって、どういう事?どっかに住んでるんじゃないの?」
「翼人族は定住するのは珍しい。怪我や年老いた場合を除いて」
「家族とは会わないの?」
「会わない」
独り立ちする。という事は、今生の別れと、教えられた。
「そうなんだ…寂しくないの?」
「寂しかったよ、最初はね」
兄弟姉妹がいれば、そんな事はなかっただろう。
だが、ぼくは一人っ子だった。
「慣れれば、気楽でいいものだよ」
「慣れれば、か…今回はちょっと…」
ミャンは涙を拭う。
村で、ただ一人の生き残り。
辛くないわけがない。
「人というのは、薄情な生き物だ。忘れがたい辛い事があっても、いずれ記憶は薄れ、思い出になっていく」
「うん…」
「思い出が心に残る事が大事なんだと思う」
「うん…」
頷くミャン。
言葉一つで、悲しみから逃れる事ができたら、どんなに楽か…。
ぼくの言葉は、彼女の慰めの言葉になっただろうか?。
次の日。
今日も、ミャンは朝から墓地に座り込む。
ぼく達は墓地の外からミャンを見守った。
「早ければ今日、ヴァネッサ達が到着するはずだ」
「はい」
「昼なったら、道まで誰か迎えに出てくれないか?」
「わたくしが行ってまいります」
「よろしく頼む」
迎えはジルに行ってもらうとして…。
「タイガ、ユウジ。君達はまた巡回に出てくれ」
「はい」
「賊を見つけても、刺激はするな。深追いもだめだ」
「はい、わかってます」
昼に一度戻るように伝えて、二人を巡回に出した。
ヴァネッサ達が到着したのは夕方遅くだった。
遠くから、竜独特の足音が聞こえてくる。
「ヴァネッサが到着したようだ」
「そう…先にさ、行ってよ」
「ああ」
ミャンを残し、村へ戻った。
「ヴァネッサ!」
ヴァネッサ達竜騎士隊の方へ歩み寄る。
「ライア…ジルから聞いたよ。クァンさん、ダメだったんだね」
「ああ…。暴行されたようだが、大きな怪我をして様子はなかった。病気を発症していたらしく、そちらが死亡の原因と思われる」
当時の状況を詳しく話した。
「そう…」
「賊に捕まってなくても、遅かれ早かれ…」
「悪い事が重なったか…」
ヴァネッサは大きくため息を吐く。
「ここ、井戸はありますかね」
「ありますよ。こっちです」
ユウジが井戸へと案内する。
「あたしのもお願い」
「俺のも頼む」
「うっす」
サムとスチュアートがユウジに案内され、竜に水をあげるため離れる。
「ここが拠点?」
カルドがタイガに尋ねた。
「そうだぜ」
「賊は全部殺ったのか?」
「そん時いた連中は全員殺ったぜ。半分以上ミャン隊長がぶっ倒しだけどな」
「一人で?三十人はいるって話だったかが」
「ああ。すんげえ怖い顔して、槍をぶん回して、バッサバッサと…」
「お、おう。そうか…」
「で、ミャン本人は?」
ヴァネッサは周囲を見回す。
「墓地にいる。もうすぐ来るはず」
「やっぱりさ…落ち込んでる?」
「落ち込まないほうがおかしい」
「だよね…」
「今日も朝からクァンさんのお墓の前に座りこんでいた」
「あー…」
などと話していると…。
「いやぁ~、ワザワザごめんねェ」
ミャンが落ち込んでいたとは思えないほどの明るい口調で姿を現した。
その場にいた者はミャンの変わりように驚いただろう。
ヴァネッサには落ち込んでいるところを見せたくなかったんだと思う。
「どもども」
「ミャン…」
「賊はアタシがやっつけちゃったよ。ヴァネッサ達の分はナシ!」
「それはいいって…」
ヴァネッサは小さく息を吐く。
「どしたの?」
「あんた…目、赤いよ。相当泣いたね」
「何言ってんさ…そんなに…」
ヴァネッサがミャンに近づき、彼女の肩を抱き、頭を自身の肩に寄せる。
「やめてよ…」
「無理するんじゃないよ…」
「うん…」
ミャンの方から、ヴァネッサを離した。
両者とも目に涙が溜まいる。
「帰るまでに直しなよ。そんな顔で帰ったらみんな心配する」
「わかってるヨ」
ミャンは笑顔で涙を拭う。
「賊の残りは、もういないんですか?」
「いるにはいるが、何もしてこない」
その状況については、ジルとタイガが説明する。
「なるほど」
「拠点するにはいい所かもね。林に囲まれて道からは見えないし」
「北の検問所までそう遠くはないです。あの辺は露天商もあるし、物資の調達にも困らないでしょう」
「ああ、そうだね」
井戸に行っていた三人が戻ってきた。
「あー二人もご苦労さんデス」
ミャンはサムとスチュアートにそう声をかける。
スチュアートはちょっと驚いた様子だったが…。
「ミャン隊長、意外に元気っすね~」
「バカ野郎っ」
サムの言葉にガルドがすかさず後頭部の平手打ちする。
「え!?…なんで?」
「サム、あんたって奴は…」
ヴァネッサがため息を吐いた。
「ミャン隊長、ご家族のご冥福をお祈りします」
スチュアートが丁寧に言葉に発し、頭を下げる。
「いやいや…どうも、ご丁寧に」
「これが、普通でしょ!」
「すみません!」
「いや、いいから…気にしてないから…」
ミャンは困り顔だ。
「アタシ、お腹減ったヨ…」
「はいはい…ワーニエで買ってきたから、それ食べよ」
夕食の後、交代で見張りに立った。
いつものミャンに戻ってくれた事に安堵したよ。
戻ったら戻ったでうるさいが、やはり彼女らしくいてほしいからね。
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