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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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72/142

17-6


 シュナイツを飛び立ち、まずは南へ。


「ワオ!」


 眼下は草原あり、ジル達が走っているのが見える。

 それを追うように、ぼくは飛んだ。


 こんな状況でなければ、美しい風景だ。


 やはり、人を持ちながらの飛行はキツいな。

 急がなくては。


「ジル達が森に入ったよ」

「ああ、見えてる」


 ここからでは賊がどの程度いるかはわからない。

 彼女達を信じて飛ぶしかない。


 ぼくも森に到達する。

 枝の隙間からジルがちらりと見えた。


「警備隊の詰め所だ」


 ミャンが指差す。


 詰め所の所は木々はない。

 ジル達は警備隊と話をしてるようだ。


「ジルがサインを送ってきた」

「なんと言ってる?」

「えーっと、賊は、少ないが、注意。もっと、高く。だって」

「もっと高く?」

 雲の下、すれすれを飛べと言う事か。

 雲の高さは一定ではない。雲の中に入ってしまうかもしれない。

「見えなくなってしまわないか?」

「アタシがちゃんと見てるヨ!向こうも見えてはず」

「わかった…」


 高く飛んだ方が、弓矢で狙われるリスクは減る。

 ぼくはさらに上昇する。


 警備隊の詰め所を越えたら次はワーニエだ。


「ライア、ワーニエを東、左だヨ!」

「了解だ!」


 ワーニエ上空を左へ旋回する。

 ここからは道沿いを東に行く。


 道を行き交う人々。

 ぼくに気づいた人達が見上げ指差している。


 道の両側は森だ。

 枝の隙間は少ないから、弓矢の心配は…。


「ライア、止まって!」

「おっと」

 眼の前を矢がかすめる。


「危なかった…」

「道に出て来たヨ」

 

 当たり前だが、森の中から狙うより道に出たほうが狙いやすい。


 先程の矢を放った賊はタイガによって討ち取られた。


 安心できる暇はないようだ…。

 これは中々辛い。

 ジル達を信じているが、完璧に防げるわけではない。


「ミャン、よく見張っててくれ」

「わかってるっテ!」


 道を確認しつつ、飛びつづけた。

 矢が飛んで来る事が数度あったが、ミャンが見つけてくれて、射抜かれる事はなかった。

 高く飛んでいたのが功を奏しようだ。


「ミャン、まだか?」

「まだ、もう少し。右前にさ、高い木あるでしょ?」

「ん?…ああ、ある」

「あれのもっと向こう、東側だヨ!」


 まだかなり距離があるな…。

 ジル達は大丈夫だろうが、ぼくは疲れ始めていた。


「落ちて来てる。ライア?」

「ああ、すまない…」

 翼に力を込めて上昇する。

「ライア、大丈夫?」

「もちろん、大丈夫だ」

 ここで弱音を吐いたら、ミャンが下ろしてくれと言うはず。

 今、下ろす訳にはいかない。

 賊の拠点はまだまだ先なんだから。


 ミャンが言った高い木を右に見ながら、さらに飛び続ける。


「はあ…ふうぅ…」


 自分一人なら距離的に全然問題ないが、ミャンを抱えていては…。

 

 考えが甘すぎた…。

 

 だが、ここまで来て諦める訳にはいかない。


「もう少しだヨ」

「ああ…」

「このあたりから、右に飛んで」

「何も見えないぞ…」

 眼下は森が広がっているだけに見えた。

「大丈夫。近づけば見えてくる」

「わかった…」


 ミャンが言う通りに、ぼくは飛んだ。


「ジルは、ジル達は見えるか?」

「見えない。けどタイガとユウジはわかってるから」

「そうだな」


 少しづつ高度を下げていく。


「あそこか…」


 少し開けた場所が見えた。


 ぼくは力を振り絞り、速度を上げる。


「準備はいいか?もうすぐ着く」

「いつでもイイヨ!」

「よし!」


 賊の拠点、いやミャンの村に入った時だった。


「マズイ!」

「くっ!」

 

 矢がいくつも飛んできた。

 矢を避けつつ、上昇し西に旋回する。


「ばあちゃん!ライア、ばあちゃんがいた!早く下ろして!」

「待ってくれ!」

「アイツら…絶対に許されない!」


 西側から近づけば夕日を背にできる。

 逆光で狙いにくいはず。


「ライア、早く!」

「わかっている!」

 

 ロープを解くための短いめにしたロープの先端を引く。


「村の上空を通り抜けながら君を下ろす、というか落とす。いいか!」

「やっちゃって!」

「行くぞ!…」


 最後の力を振り絞り、下降しつつ速度を上げ、村に近づく。

 翼が限界だ。


「ロープを解く。今だ!」

 

 ぼくはミャンを落とす。


「うおおおああ!」

 ミャンが叫び声とともに賊に襲いかかっていった。


「さすがにもう無理か…」

 ミャンを下ろした安心から疲れが一気にくる。

 

 いつもなら奇麗に降り立つのだが、今回はそんな訳にはいかなかった。


 地面を滑り落ち、転がる。

 なんともカッコ悪い…。

 翼人族の仲間からは笑われるだろうな。


「はあ…はあ…」

 息をついている暇はない。


 膝に手を当て、息を整える。


 ミャン達に加勢しなければ…。

 彼女の怒号する方へ歩き出した。


 村の中央に賊が集まり出している。

 賊の人数はわからない。

 三十人くらいと聞いていたが、それ以上にも見える。


「おい、翼人族がいたぞ!こっちだ!」

 賊に見つかり彼らに囲まれた。

「翼をもぎ取れ!あれは高く売れる!」

 売っても買っても死刑だがな。わかっているのか?。


 剣を抜き賊に向かって構える。

 剣が重く感じる…だが…。


 近づく賊達に、ぼくは興奮していた。


 思い切り真剣を触れるのは久しぶりだったからだ。

 

 模擬剣と真剣では振った時の感覚か全然違う。

 

 空を切り裂き、相手の体を貫き、叩き斬る。

 その時の感覚は真剣でしか得ることはできない。


 人の命を削る行為だが、甘美なものでもある。

 後味は悪いが。


「囲め!」

「疲れてるみたいだな、へへっ」

「苦しまないようにしてやるから、諦めな」

 賊達四名に前後左右を囲まれる。


 賊達は余裕の表情だ。


 見くびられたものだな。

 疲れているとはいえ、お前達に負けるぼくじゃないぞ。


「真っ先に死にたいのは誰だ?」

 ぼくは賊達を見回す。

「死ぬのは、てめえだよ!」

 

 真後ろにいた一人が突っ込んで来た。

 それとヒラリと飛び上がりつつ少しだけ後ろに下がった。


「おう!?」

 

 賊はぼくの足の下の通り過ぎる。

 通り過ぎた賊の真後ろの降り立ち、一気の距離を詰め、彼の背中を貫いた。

 

「ぐああ…くそぉ…」


 貫いた剣をねじりながら引き抜く。

 

 賊は倒れ蹲り、血反吐を吐く。

 彼はもう助からない。

 

 剣に付いた血を振り飛ばす。

 

「ぼくは悪魔じゃない。ここで引けば…」

「ざけんじゃねえ!」

 

 賊の一人が正面から迫る。

 が、右から何かがぶつかり、横に転がっていった。


「こいつ!参ったか!」


 転がっていった賊に馬乗りになり、ナイフを突き立てる。


「ユウジか?」

「はい…。ライア隊長、大丈夫ですか?」

 ユウジは立ち上がり、ぼくの左前に立つ。

「もちろん、大丈夫だ」

「次は誰だ?」

 彼は賊達にナイフを向ける。


 賊二人は怖気づいているようだ。


「ミャンはどうした?」

「どうしたもこうしたも、暴れまわってますよ」

 ここまで彼女の叫び声が聞こえくる。

 

「死にたくないなかったら、剣を置いて立ち去れ!」

「…」

 二人はお互いの顔を見合わせる。


「ならば覚悟せよ!」

 ぼくは一歩踏み出す。

「わかった!」

 二人は剣を捨て、逃げて行った。

「すんませんでした!~」


「ミャンの所に急ごう」

「はい」


 ミャンの所に着くと…。


「これは…」


 屍累々。


「次はどいつだ!」

 ミャンは怒りの形相で短槍を振るう。


「全員、動くな!」

 と、響く声。

 そちらに目を向けると、丸太に縛り付けられているお婆さんが一人。

 そのお婆さんに賊が剣を向けていた。




Copyright(C)2020-橘 シン

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