17-6
シュナイツを飛び立ち、まずは南へ。
「ワオ!」
眼下は草原あり、ジル達が走っているのが見える。
それを追うように、ぼくは飛んだ。
こんな状況でなければ、美しい風景だ。
やはり、人を持ちながらの飛行はキツいな。
急がなくては。
「ジル達が森に入ったよ」
「ああ、見えてる」
ここからでは賊がどの程度いるかはわからない。
彼女達を信じて飛ぶしかない。
ぼくも森に到達する。
枝の隙間からジルがちらりと見えた。
「警備隊の詰め所だ」
ミャンが指差す。
詰め所の所は木々はない。
ジル達は警備隊と話をしてるようだ。
「ジルがサインを送ってきた」
「なんと言ってる?」
「えーっと、賊は、少ないが、注意。もっと、高く。だって」
「もっと高く?」
雲の下、すれすれを飛べと言う事か。
雲の高さは一定ではない。雲の中に入ってしまうかもしれない。
「見えなくなってしまわないか?」
「アタシがちゃんと見てるヨ!向こうも見えてはず」
「わかった…」
高く飛んだ方が、弓矢で狙われるリスクは減る。
ぼくはさらに上昇する。
警備隊の詰め所を越えたら次はワーニエだ。
「ライア、ワーニエを東、左だヨ!」
「了解だ!」
ワーニエ上空を左へ旋回する。
ここからは道沿いを東に行く。
道を行き交う人々。
ぼくに気づいた人達が見上げ指差している。
道の両側は森だ。
枝の隙間は少ないから、弓矢の心配は…。
「ライア、止まって!」
「おっと」
眼の前を矢がかすめる。
「危なかった…」
「道に出て来たヨ」
当たり前だが、森の中から狙うより道に出たほうが狙いやすい。
先程の矢を放った賊はタイガによって討ち取られた。
安心できる暇はないようだ…。
これは中々辛い。
ジル達を信じているが、完璧に防げるわけではない。
「ミャン、よく見張っててくれ」
「わかってるっテ!」
道を確認しつつ、飛びつづけた。
矢が飛んで来る事が数度あったが、ミャンが見つけてくれて、射抜かれる事はなかった。
高く飛んでいたのが功を奏しようだ。
「ミャン、まだか?」
「まだ、もう少し。右前にさ、高い木あるでしょ?」
「ん?…ああ、ある」
「あれのもっと向こう、東側だヨ!」
まだかなり距離があるな…。
ジル達は大丈夫だろうが、ぼくは疲れ始めていた。
「落ちて来てる。ライア?」
「ああ、すまない…」
翼に力を込めて上昇する。
「ライア、大丈夫?」
「もちろん、大丈夫だ」
ここで弱音を吐いたら、ミャンが下ろしてくれと言うはず。
今、下ろす訳にはいかない。
賊の拠点はまだまだ先なんだから。
ミャンが言った高い木を右に見ながら、さらに飛び続ける。
「はあ…ふうぅ…」
自分一人なら距離的に全然問題ないが、ミャンを抱えていては…。
考えが甘すぎた…。
だが、ここまで来て諦める訳にはいかない。
「もう少しだヨ」
「ああ…」
「このあたりから、右に飛んで」
「何も見えないぞ…」
眼下は森が広がっているだけに見えた。
「大丈夫。近づけば見えてくる」
「わかった…」
ミャンが言う通りに、ぼくは飛んだ。
「ジルは、ジル達は見えるか?」
「見えない。けどタイガとユウジはわかってるから」
「そうだな」
少しづつ高度を下げていく。
「あそこか…」
少し開けた場所が見えた。
ぼくは力を振り絞り、速度を上げる。
「準備はいいか?もうすぐ着く」
「いつでもイイヨ!」
「よし!」
賊の拠点、いやミャンの村に入った時だった。
「マズイ!」
「くっ!」
矢がいくつも飛んできた。
矢を避けつつ、上昇し西に旋回する。
「ばあちゃん!ライア、ばあちゃんがいた!早く下ろして!」
「待ってくれ!」
「アイツら…絶対に許されない!」
西側から近づけば夕日を背にできる。
逆光で狙いにくいはず。
「ライア、早く!」
「わかっている!」
ロープを解くための短いめにしたロープの先端を引く。
「村の上空を通り抜けながら君を下ろす、というか落とす。いいか!」
「やっちゃって!」
「行くぞ!…」
最後の力を振り絞り、下降しつつ速度を上げ、村に近づく。
翼が限界だ。
「ロープを解く。今だ!」
ぼくはミャンを落とす。
「うおおおああ!」
ミャンが叫び声とともに賊に襲いかかっていった。
「さすがにもう無理か…」
ミャンを下ろした安心から疲れが一気にくる。
いつもなら奇麗に降り立つのだが、今回はそんな訳にはいかなかった。
地面を滑り落ち、転がる。
なんともカッコ悪い…。
翼人族の仲間からは笑われるだろうな。
「はあ…はあ…」
息をついている暇はない。
膝に手を当て、息を整える。
ミャン達に加勢しなければ…。
彼女の怒号する方へ歩き出した。
村の中央に賊が集まり出している。
賊の人数はわからない。
三十人くらいと聞いていたが、それ以上にも見える。
「おい、翼人族がいたぞ!こっちだ!」
賊に見つかり彼らに囲まれた。
「翼をもぎ取れ!あれは高く売れる!」
売っても買っても死刑だがな。わかっているのか?。
剣を抜き賊に向かって構える。
剣が重く感じる…だが…。
近づく賊達に、ぼくは興奮していた。
思い切り真剣を触れるのは久しぶりだったからだ。
模擬剣と真剣では振った時の感覚か全然違う。
空を切り裂き、相手の体を貫き、叩き斬る。
その時の感覚は真剣でしか得ることはできない。
人の命を削る行為だが、甘美なものでもある。
後味は悪いが。
「囲め!」
「疲れてるみたいだな、へへっ」
「苦しまないようにしてやるから、諦めな」
賊達四名に前後左右を囲まれる。
賊達は余裕の表情だ。
見くびられたものだな。
疲れているとはいえ、お前達に負けるぼくじゃないぞ。
「真っ先に死にたいのは誰だ?」
ぼくは賊達を見回す。
「死ぬのは、てめえだよ!」
真後ろにいた一人が突っ込んで来た。
それとヒラリと飛び上がりつつ少しだけ後ろに下がった。
「おう!?」
賊はぼくの足の下の通り過ぎる。
通り過ぎた賊の真後ろの降り立ち、一気の距離を詰め、彼の背中を貫いた。
「ぐああ…くそぉ…」
貫いた剣をねじりながら引き抜く。
賊は倒れ蹲り、血反吐を吐く。
彼はもう助からない。
剣に付いた血を振り飛ばす。
「ぼくは悪魔じゃない。ここで引けば…」
「ざけんじゃねえ!」
賊の一人が正面から迫る。
が、右から何かがぶつかり、横に転がっていった。
「こいつ!参ったか!」
転がっていった賊に馬乗りになり、ナイフを突き立てる。
「ユウジか?」
「はい…。ライア隊長、大丈夫ですか?」
ユウジは立ち上がり、ぼくの左前に立つ。
「もちろん、大丈夫だ」
「次は誰だ?」
彼は賊達にナイフを向ける。
賊二人は怖気づいているようだ。
「ミャンはどうした?」
「どうしたもこうしたも、暴れまわってますよ」
ここまで彼女の叫び声が聞こえくる。
「死にたくないなかったら、剣を置いて立ち去れ!」
「…」
二人はお互いの顔を見合わせる。
「ならば覚悟せよ!」
ぼくは一歩踏み出す。
「わかった!」
二人は剣を捨て、逃げて行った。
「すんませんでした!~」
「ミャンの所に急ごう」
「はい」
ミャンの所に着くと…。
「これは…」
屍累々。
「次はどいつだ!」
ミャンは怒りの形相で短槍を振るう。
「全員、動くな!」
と、響く声。
そちらに目を向けると、丸太に縛り付けられているお婆さんが一人。
そのお婆さんに賊が剣を向けていた。
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