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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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62/142

16-3


 現れたクァンさんはボロ布を身にまとい、鞄を肩に提げ杖をつきながら俺達の方に近づいてくる。

 杖はついているけど、足取りはしっかりとしていた。


 俺達を見つめる、いや睨むその眼光は鋭い。

 最初はちょっと怖かったぜ…。


「はじめまして」

「うむ」

「僕はユウジ。彼はタイガです」

「どうも…」

「手紙と領主の手紙を見せい」

「はい」


 ユウジが手紙と書類を出す。

 クァンさんは奪い取る。


「…」


 クァンさんは何も言わずに読み進めた。

 そして、大きくため息を吐く。


「ミャン隊長はクァンさん事が心配らしくて、僕達にクァンさん様子を見てきてほしいと」

「心配するほどもうろくしとらんわ」

 と言いつつも、咳き込む。

「大丈夫かよ…」


「わかった」

 そう言って手紙と書類を突き返す。

「そうですか。ミャン隊長に伝言は…」

「今の、この状況を伝えればよい」

「それだけ?何もなし?」

「いいと言ったらいいんじゃ。それよりもお前達は吸血族であろう?なぜシュナイツなんぞに属しておる?」

「いや~色々あって…なあ?」

「うん…」


 クァンに俺達の事情を話した。


「あのいけ好かん気配はゲオルグじゃったか…」

「ばあちゃん、ゲオルグ知ってんの?」

「まあな」

「ゲオルグはアリス様が倒してくれました」

「アリス?…あー姫君じゃな。よう倒したな」 

「アリス様の事も知ってんのかよ。ばあちゃん何者?」

「長く生きてると裏の事にも詳しくなる」

 そんなの当然みたいな顔でクァンさんはそう話す。


 この人、ただもんじゃねえ…。

 吸血族内の話だぜ?。

 王国の諜報員とかならわかるけど、その辺にいそうなばあちゃんがどうやって知ったんだよ…。


「若い頃一度だけな、吸血族の里に入った事ある。どうしても欲しい薬草あってな、なんとか説得して取らせてもらった」


 説得できるのが、すげえ…。

 

 普通、吸血族以外は簡単には入れない。

 事前に申し合わせしないとけないはずなんだけどな。


「アタイが元気な事はわかったじゃろ?さっさと立ちされ」

「今日は疲れたし、明日の朝帰るよ」


 クァンさんは大きくため息を吐く。


「ここは、妖精族が住む神聖な場所なんじゃ。迂闊に近づいてはならん!」

「ならんって言われても…」

「二晩、ここに野宿しましたけど」

「何をしてるんじゃ…」

「クァンさんを待っていたんです」

「ウィル様も野宿したらしいし、固いこと言わずに」

「全く、近頃の若もんは何を考えてるのかわからん…」


 クァンさんは呆れすぎれたのか、それ以上は何も言わなかった。


 そして、御神木の側に行き、何かを供え何度も頭を下げる。


 俺達もクァンさんと同じように何度も頭を下げた。


「クァンさん」

「なんじゃ」

「お供えはどれくらいの頻度でしているんですか?」

 ユウジがこっちに戻ってくるクァンさんに話しかけた。

「さあな。いちいち覚えとらん。だが、この森に来た時は必ず寄る事にしている。アタイはこの森に守られるし、この森を守ってるは妖精族じゃからな」

「そうですか」


「妖精族に会った事は?」

「子どもの頃、一度だけな」

「俺も昨日会ったんですよ」

「なに!?本当か?それは?」

 クァンさんは持っていた杖で、俺の胸を何度も突く。

「痛い!本当っすよ」

「お前もか?」

「僕は見てません。ですが、胡桃がたくさん上から降ってきました。胡桃の木はないのに…」

「んー…」

 

 クァンさんは俺達を睨む。


「ほんとだって!。びっくりして大声あげちゃったけど」


 ビビってたわけじゃない。


「妖精族は滅多に姿を現す事はない。お前達に見せたという事は…」

 考え込むクァンさん。

「え?なんかヤバい?」

「ぼ、僕達、何もしてませんよ…」

「勝手にここで寝ちゃったのがダメだった?」

「謝ろうよ」

「お、おう。そうだな」


 俺達は御神木に向かて土下座した。


「「すみませんでした!」」


「バカもの」

「へ?」

「妖精族はそんな事で起こったりはせん」

「じゃあ、どういう事ですか」

「迷子だと思ったんじゃろ。アタイと同じくな」


 クァンさんは子どもの時に、森で迷子になった。

 キノコの採集を家族でしていたが、夢中になり森の奥へ奥へ入って行ってしまった…。

 

「今は迷ったりせんが、東西南北なんぞ分からず右往左往してな」


 そして、夜をむかえ、木の下で一晩明かす。


「こういう時は動かない方がいいんじゃが、何もせずにいるのが不安で仕方なかった」


 声を上げても返事はない。

 喉が乾き、お腹が空いてくる。


「二晩開けたその時、頭に木の実がどっさとり降って来てな」

「それ僕と同じ…」

「うむ」


 クァンさんは不思議に思いつつもそれを食べ空腹をしのいだ。


「三日目。朝、目を覚ますと目の前にふわふわと妖精様がおった」

「俺と同じ」

「ああ、アタイもびっくりした」


 妖精はクァンさんに手招きしながらどこかへと飛んで行く。


 妖精の姿は俺が見たものと同じだった。


「その妖精様についていくと、きれいな湧き水が湧いてる水辺あったんじゃ。喉が乾いていたからもしれんが、ただの水なのにうまかったのを覚えておる」

「妖精族がクァンさんを助けてくれた?」

「そうじゃよ。妖精様は村まで案内もしてくれた。妖精様はアタイには命の恩人なんじゃ。あの時以来、姿は見ていない…直接、礼を言いたいんじゃがな」

「お供物で十分にクァンさんの気持ちは伝っていると思いますが…」

「礼とは相手がいてこそ伝わるものじゃ。アタイの単なる押し付けなのかもしれん」

 そう言って御神木を見上げる。


「アタイはもう会う事はないと思うが、お前さん達は会う事あったらきちんと礼をせいよ」

「はい」


 なんだか、クァンさんは寂しそう。


 クァンさんは御神木から少し離れて、枯れ葉を足で払い地面の土を出し始めた。


「お前さん達は野宿じゃろ?」

「はい」

「アタイもここで夜を明かす。火を起こすからよく燃えそうな、枯れ枝を集めろ」

「いいんですか。ここで寝ても?」

「まあ…あまりしてほしくはないが、仕方ない」

「ありがとうございます」


 俺達は枯れ枝を集める。


「よかったな。出て行けって怒鳴られるかと思ったぜ」

「うん。根は優しい人そうだ」


 集めた枯れ枝を運ぶ。


 クァンさんは火打ち石で器用に火を起こした。


 鞄から果物やら干し肉、固いパンとチーズとかたくさん出す。


「ほら、食いな」

 俺達に食べものを放り投げる。

「…おっと。貰っちゃていいの?ばあちゃん」

「ああ」


 初対面なのに。

 

「お前さん達は賊ではないし、ミャンの…バカ孫の頼みで来たからな」

「はは…」

「シュナイツの領主やヴァネッサとも面識もある。それに…」

「それに?」

「妖精様の姿を見てる」

「妖精の姿を見たのが決めてなんですか?」

「うむ」


 妖精族は森で迷ったからいって、誰でもかれでも姿を現れすわけでないらしい。


「お前さん達が賊なら姿を見せなかっただろう」

「人を見てるのでしょうか?」

「見ておるじゃろうな」


 森で迷っただろう賊と思われる死体がいくつもあるのだとか。

 

「うわぁ…マジか…」

「ゲオルグの手下の頃なら姿は見れなかったかもね」

「ありえるぜ…」


 よかった。

 シュナイツに行かずに、こっちの森に来てたら、餓死してたかもしれねぇ…。


「話は終わりじゃ。食ったら寝えよ」

 クァンさんは外套に包まり横になる。

「はい」

「明日朝、すぐにシュナイツに帰りますので」

「ダメじゃ」

 

 クァンさんは横になったまま俺達を睨み、なぜか引き止める。


「お前さん達にやってもらいたい事がある」

「なんですか?」

「せっかちなやつじゃの…明日言うから、さっさと寝ろ」

「はい…」


 何をするのかわからないまま眠りについた。 


 


Copyright(C)2020-橘 シン

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