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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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16-2


「うわああ!出たああ!」

「タイガ!どうした!?」

 俺はどこからか帰ってきたユウジの後ろに隠れた。


「賊か!どこだ!」

 ユウジはナイフを抜き構える。

「いや、賊じゃねえよ…」

「…え?」

「妖精だ。妖精族が出たんだよ!」

「妖精が?まさか、見間違いだろ?」

「見間違いじゃねえって。昨日、上から胡桃が落ちてきたろ?」

「うん」

「やっぱ、妖精族がいるんだよ」

「だとして、何でそんなにビビってるの?…」

 ユウジはちょっと呆れ気味。 

「いや、ビビってねえし。びっくりしただけだって」

 俺はユウジから離れた。


「で、どんな姿だった?」

「あー、女の子っぽい?半透明の光る羽で飛んでた」

「へー」

 ユウジはそう言って、御神木を見上げる。


「お前はどこ行ってたんだよ」

「食べもを探しに行ってた」

「あったか?腹いっぱい食べたいんだけど…」

「お腹いっぱい食べるほどないよ」


 まあ、こればっかりはな…。

 

 ユウジが採ってきた木の実なんて朝食を済ます。


「クァンさん、どうやって見つける?」

「それなんだけど、待つしかないと思うんだよね」

「お前がそういうなら、それしかないな。俺にはどうすればいいかわかんねえし」

「少しは考えてよ…」

「考えるって」


 こういうのは、ホントにユウジのほうが得意だから任せる。


「ただ待つのもな。暇すぎる」

「交代で御神木の周りを見るのはどう?」

「ああ、いいんじゃね」

「食べれるものがないか探しながら」

「どっちしろ探さないといけないからな。一石二鳥だ」


 さっそく俺から周囲の探索に出た。

 

 日が落ちるまでやったけど、今日はクァンさんには出会わなかった。

 

 翌日も昼まで待ったが、クァンさんは姿を見せない。


「もしかして、今日も来ない?…」

「うーん…」

「早く来てくれよ…」

「薬草を採る時期じゃないのかも」

「時期とかあるのか?」

「わからないけど…」

 ユウジと一緒にため息を吐く。


「一旦、帰ってさ。ミャン隊長にもう少し詳しく聞こうぜ」

「うん…」


 俺は立ち上がり、腰を伸ばす。


「なあ、ユウジ」

「ああ…」

「聞いてんのかよ?」

「聞いてるよ。ちょっと待って。今、考えてるからさ」


 ユウジは地べたに座り、腕を組んだまま目を閉じている。


「クァンさんは…」


 お、何か思いついたか。


「クァンさんは薬草を採ってどうしてるんだろう?」

「どうって、自分で使うか売るか」

「やっぱり売るよね?売るなら売る相手と会うはずだ」

「そうだな」

「今いないなら誰かに会っているのかも」

「誰とだよ」

「誰でもいい。今は誰かじゃなく、どこで会っているか売っているかが重要だ」

「そうか、売ってる場所が分かれば、クァンさん会えるかも」

「ああ、そういう事だ」


 いいぞ、ユウジ!。


「この辺で売ってるのはどこだろう」

「この辺じゃ…近いのがワーニエ。後はポロッサ、リカシィあたりか?あーそれと検問所の近くとか?」

「あとは小さい村と集落か…」

「王都は?」

「王都まで含めたら見つけるのは無理だよ。待っていたほうがいい。時間はかかるけど。それに…」

「それに?」

「クァンさんは年配者だ。馬を使ったとしても、体力はいる。遠出はしないはず…だから王都はない、と思いたい」

「なるほど」


 ユウジの考えはあっているんじゃないかと思う。


「んじゃ、ワーニエから行ってみようぜ」

「そうしたいんだけど、行き違いなるかもしれないんだよね…」

「それなら俺が行って、お前が待つ」

「単独行動は…」

「優柔不断すぎるぞ、お前」

「すぐ突っ走る君に言われたくない」

 ユウジはそう言って立ち上げる。


「行き違いなったら、その時考えよう」

「お、行くか?」

「ああ。まずはワーニエに行ってみよう」


 ワーニエに急いで向かう。


 そして、ワーニエの露店での聞き込み。

 

 薬草を売買してる商人はいなかった。

 だけど、クァンさんだって食事やその他の買い物はするはずだ。

 露店の商人にクァンさん事を聞いて回る。


 しかし、クァンさんを見たという商人はいなかった。


「マジか…」

「一人くらいはいると思ったけど…」


 町にある共同井戸の水を飲みつつ休んでいた。


「ポロッサ行くか?…」

「うん、行ってもいいけど自信がなくなったよ…」

「収穫ゼロだもんな…」


 何かしらの情報を得られると思っいた…で、何もなし。


「もう夕方だぜ…」

「今から行ってもポロッサにつく頃は夜中だよ」

 さすがに寝てるよな。


「すまない、井戸を使いたいんだが…」

「どうぞ」


 若めのおっさんがやってきて、手桶に水を入れる。

 それから布袋から黒っぽい何かを水に入れ、棒でかきまわし始めた。


「くっせ!」

「ははは、やあほんとにすまない」

 おっさんは笑いがら、かきましている。

「何ですか、それ?」

「これは傷薬だよ」

「へえ、かき回すだけで完成ですか?」

 ユウジは興味津々で聞いてる。

「いや、後は火にかけて水分を飛ばしたら完成だ」

「なるほど」

「なるほど、じゃねえよ…」

 

 何でそんなに興味津々なんだよ…。


「もしかして、あなたは薬草師ですか?」

「いや、わたしは医者だよ」


 聞けば、俺達が通ってきた警備隊にいるらしい。

 薬が切れたから降りてきたんだと。


「まさか、ここでこの薬草が手に入るとは思わなった」

「珍しい物なんですか?」

「この辺ではね。手に入れるには王都あたりまで行かなければいけない。送ってくれと手紙を出そうと思っていたら、これを売ってる人がいてね」

「売ってる人?!その人ってまさか」

 ユウジの肩を揺さぶる。

「タイガ、落ち着いてよ」

「どうかした?」

「いえ…その売ってた人ってどんな人でした?名前は分かりますか?」

 ユウジは焦りつつ尋ねる。

「名前はわからないが、かなり年配の女性だったよ。それに獣人だと思う。猫耳だったから」

「キター!ユウジ、間違いねえって!」

「タイガ、背中叩くのやめて…」


「背丈は低かったですか?」

「ああ、たぶんね」

「で、会ったのはいつですか?」

「今朝だよ」

「今朝!?」

「それで、その人がどこに行ったか分かりますか?」

「わたしとの取引を終えて、森に入っていったよ」

「森ってそこの深き森ですか?」

「そうだよ」

「マジか…」

「危ないから行かない方がいいって声をかけたんだけど…」

「ありがとうございます!」

「ああ、うん…」


 クァンさんは森にいる!。

 俺達は走り出した!。


「ユウジ!急げ!」

「ああ、わかってるよ!」


 急いで森に戻る。


「行き違いなった?御神木からワーニエまでは誰もいなかったよな」

「気配もしなかったよ」

「もう、なんだよ…」

「愚痴っても仕方ない。御神木へ急ごう」

「おう」


 俺達は全力で御神木へ戻った。

 

 けど…。


「はあ…はあ…居ねえし…」

「誰もいない…」


 御神木を周りを一周したけど、誰かいた痕跡もない。


「嘘だろ…」

「今、こっちに向かってるのかな」

「ここに来るまでは特に何も…また行き違いか」

「もうすぐしたら夜だ。もしかして…夜中じゅう歩いている?」

「まさか。ばあちゃんなんだぜ」


 なんだよ、もう…くそっ。


「クァンさーん!いますかぁ!」

「タイガ…」

「お前も呼べ。近くにいるかもしれない」

「うん。クァンさん!」


 俺達は四方に呼びかけるが、声は森の中に消える…。


「クァンさーん!」

「うっさいわ!小僧共!」

 

 どこからか声が響く。


「クァンさん?…クァンさんですか?」

「だったらどうだというんじゃ。名乗る義理はない!」


 どういう仕掛けが分からないんだけど、四方八方から声が聞こえる。


「ここは神聖な場所だ。お前達のような不届き者が来て良い場所ではない。さっさと立ちされ!」

「不届き者…」


 ゲオルグの手下だったし、そう言われても仕方ねえけど、もう違う!。


「クァンさん!僕達はミャン隊長に頼まれて来たんです!」 

「ミャンじゃと?という事はシュナイツから来たのか?」

「そうです。どうか出て来てください。お願いします」

 

 俺達は周囲を見回す。が、気配が全くしない。


「どうなってんだ?…気配も物音も聞こえねえぞ…」

 

「ここにミャン隊長からの手紙とウィル様達のサインが入った書類もあります!」

「頼むから出て来てくれ!俺達の初仕事はクァンさんに会う事なんだよ!会えないと帰れないんだ!」


 帰れない事はないんだけど、泣きついてみた。


 御神木の北側の方で音がした。


 草木を踏みしめる音が近づき、そしてクァンさんが現れた。



Copyright(C)2020-橘 シン

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