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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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57/142

15-5


 今度はタイガとゲイルさんの対戦。


 ゲイルさんはもう準備万端のようだ。

 隊員相手に軽く練習している。


「お前の準備ができしだいやるぞ」

「ああ、待っててくれよ」


 タイガは外套を脱ぎ準備を始める。


「タイガ。気をつけたほうがいい」

「何をだよ?」

「ゲイルさん、強いよ。多分」

「強いったって、吸血族じゃねえし」

「吸血族の僕達に、わざわざ体術で挑んで来るんだよ」

「バカなんだろ。返り討ちにしてやる」


 体術に関しては、僕よりタイガの方が上だ。

 それはタイガ自身も自覚してるし、才能があることも自覚してる。

 自信過剰は禁物だと、注意された事は一度や二度じゃない。

 

 怖いもの知らずが、悪い方に行ってしまうのが心配だった。


 準備ができたタイガは僕から離れ、ゲイルさんの方へ向かって行く。


「これはいい試金石になりそうだね」

「はい」

 ヴァネッサ隊長とジルさんが話してる。


「十五でゲイルに勝てるなら、才能あるんじゃない?」

「はい。逆ならそれなりという事でしょう」

「タイガは負けますよ」

「あんた、友達でしょ?そんな事言っていいの?」

 ヴァネッサ隊長は苦笑いを浮かべる。

「いいんです。受けて立ったのはタイガですし、身をもって知るのも勉強かと」

「若いのに言う事が大人だね」

「そんなんじゃ…」


「あんたはなんで受けなかったの?」

「ゲイルさんには勝てない、そう思ったから」

「やってもいないのに?」

「あの人は、僕らなんかより明らかに経験を積んでいます。年上だし」

「それだけ?」

「通路から飛び降りた時の体の使い方とか、それに…」

「それに?」

「あの硬そうな拳。教官があんな拳でした」

「なるほどね」


 僕は負けたくなくて逃げているんだと思う。

 

「いい判断だと思うよ」

「ありがとうございます」

「だけど、あたしはもうちょっと突っ走ってもほしいかな。若いんだしさ」

「明らかに無謀だとしてもですか?」

「状況によるでしょ?今ここは戦場じゃない。生きるか死ぬかってわけじゃないんだからさ、経験を積むにはいい機会だと、あたしは思うよ」

「そうですね…」


 体術は正直苦手だ。

 吸血族だから身体能力を活かすべきだと思うけど、そんな性格じゃない。


「あたしとしない?」

「え?隊長と?」

「あたしはゲイルより下手だから、ちょうどいいと思うよ」

「…」

 僕は迷って何も言えなかった。

「嫌かい?」

「嫌というわけでは…。隊長は女性ですし…」

「女は殴れない?」

「はい」

「あんた、優しいね」

 ヴァネッサ隊長は笑いながら肩を叩く。


「戦場じゃ、男女は関係ないからね。いい機会だから、あたしとやりな。いいね。」

「え?…。あの、それは命令ですか?」

「そうだよ」

「えー…」

 僕はジルさんを見た。

「なにか?」

「なにか?じゃなくて…」

「ジル見たって、ダメだよ」

「ゲイルとタイガが終わったら、すぐやるよ」

「はい…」

 

 なんてことだ。

 なんでこうなった。

 ため息しか出ない。


 吸血族である自分を恨んだ。


 タイガとゲイルさんの対戦は始まろうしている。

 兵士達が興味津々で集まり、人垣ができてしまった。


「前の方座ってくれよ。見えないって…」

「どっちが勝つと思う?」

「わかんねえな。ゲイルはここだと三番手だろ、体術は。でもな…」

「ああ、相手は吸血族だぜ」

「十五じゃ、俺達と変わらねえかもな」

「俺はゲイルに賭けるぜ」

「何を賭けるんだよ」


 もう完全に見せ物と化している。


「いいねえ。盛り上がってるねえ。やんややんや」

 ミャン隊長は屋根の上に寝っ転がったまま、手を叩いている。


「わたくしとアリス様が、シュナイツに来た時を事を思い出します。わたくしもゲイルさんと手合わせをした時もこのような感じでした」

「へえ、そうなんですか」

 

 当然ながらジルさんが圧勝。


 タイガとゲイルの試合が始まりそうだ。


 タイガは人垣が気になるのか、チラチラと群衆を見いている。

 

「何か言ってやったら?集中できてないよ」


 ヴァネッサ隊長の言う通りだと思う。 

 

「タイガ!外野は気にするな!」


 彼は僕の言葉を聞いて、親指を立てて見せた。

 そして、大きく深呼吸としてから、体をほぐすように小さく飛び跳ねる。


「いいぜ!」

「よおし…」


 タイガとゲイルさんが近づき、構える。


「いつでもいい。かかってこい」

 ゲイルさんが手招きをする。

「速攻で終わらせてやる!」


 最初に仕掛けたのはタイガだ。

 一気に距離を詰め、攻めたてる。


 実力不明の相手に突っ込んで行ける。

 あれがタイガ。

 

 良く言えば、勇気がある。悪く言えば、無謀。

  

 僕なら様子を見るんだけど。

 

「いい動きじゃない?」

「少し大振りですね」

「いかにも若いって感じで、あたしは好きだよ」

 ヴァネッサ隊長とジルさんがそう話している。


 確かにタイガは動けてると思う。

 でも、変だ。

 

 ゲイルさんが攻めてない。

 防戦一方だ。


 タイガが押している?

 

 いや、違う。

 ゲイルさんはタイガの攻めを防ぎ上手く受け流している。 

 

 有効打はないに等しい。


 タイガ自身は分かっているのかは分からない。

 

 常に攻めたて、攻撃の手を緩めない。


「さすが、吸血族だね。スタミナの持ちがいい」

「ゲイルさんがうまく対応してるのもさすがです」

 と、ヴァネッサ隊長とジルは二人を誉める。


 タイガの必死の表情だ。だけど、全力じゃない。

 それに比べゲイルさんは余裕さが表情に出ている。


 ここでタイガが一旦、距離を取った。


「おい!おっさん!なんで攻めて来ないんだよ!」

「攻めなきゃいけない理由ないだろ」

「勝負だろ?攻めずに勝てんのかよ」

「勝負つけたいなら、さっさとつけろ」

 ゲイルさんは笑顔で手招きする。

「てめえ…」


 ゲイルさんは有効打を与えられないタイガを煽る。


 タイガは構えながら、出るべきタイミングをステップしながら測っていた。

 煽られたタイガは、きっと勝負に出る。

 全力で攻めるはず。


 ゲイルさんも構えたまま動かない。

 構えはさっきと同じ…じゃない。


 右足を少し引き、左半身をタイガに見せる形だ。

 左腕は少し前、拳は完全には握ぎっていない。攻守、どちらにでも対処できるようにだろう

 ここまではさっきと同じ。

 

 右手はしっかりと握られたいた。さっきは握っていなかったのに。

 鍛錬と実戦で使い込まれた硬そうな拳。


「行くぜ、おっさん!」

 タイガが声を上げる。

 ゲイルさんは何も言わずに、口角を少し上げるだけ。

 そして、右手を握り直し、脇を締める。


 タイガが前へ出た。


「ダメだ!タイガ!」

 僕は嫌な予感がして、思わず声をかけた。

 

 タイガは二歩踏み出した所で止まってくれた。


「なんだよ!」

 出鼻をくじかれたタイガは当然怒る。


「いいよ。行っても」

 ヴァネッサ隊長が僕の背中を押す。

「はい。ありがとうございます」

「ゲイル!」

 隊長は何かを身振りをゲイルさんに見せる。

 ゲイルは構えを解き、タイガから離れた。


 僕はタイガに駆け寄り、彼の腕を掴みゲイルさんからさらに離れた。

 

「なんなんだよ…」

「無闇に突っ込んじゃだめっだって」

「前に出ねえと、勝てないだろ」

「教官から馬鹿みたいに突っ込むなっていつも言われてただろ」

「お前はもっと前に出ろって言われてたじゃねえか」

「僕の事より、今は君の事でしょ」

「ああ、そうだな…」

 タイガは苛ついた表情だ。

「じゃあどうすんだよ」

「ゲイルさんの動きをよく見た方がいい」

「見ろったって、俺のほうが完全に押してたじゃん」

「それは違う。ゲイルさんは君の動きを観察していたんだよ」

「は?」

 タイガは驚き、ゲイルさんを見る。

「ジルさんが君の攻めは大振りだって、それはゲイルさんも分かってるはず。なのに、隙をつかず守りに徹した」

「…」

「僕が止めなかったら、君は一発でやられていた」

「そんなの…お前がそうおもっているだけだろ…」

「ああ、僕の想像だよ」 

 

 そう僕の想像でしかない。

 

「お前は、細かいとこよく気づくよな。落ち着いてるし」

「君のように、勇気を持って前に出たいと思う事があるよ」

「俺のは無謀って言うんだ。自分で言うなって話しだけど」


 僕とタイガが性格が正反対なんだ。

 鏡写しのように。

 そのせいで喧嘩になる事もあるし、うまく行く事もある。


「で、無闇に突っ込なければいいのか?」

「うん。相手の動きをよく見て、スタミナは僕達のほうがある。持久戦に持ち込めば…。負けるだろうけど」

「お前さ…俺に勝ってほしいのか、負けてほしいかどっちなんだよ」

「どうやったって負けるよ。一発でのされるか、少しも食らいつくかの違い。どっちがいいかは君次第だ」

「…わかったよ」


 僕はタイガから離れる。

 

「作戦会議は終わったか?」

 ゲイルさんがこっちに近づく。

「ああ、終わったぜ」

「おう。今度は様子は見ない」

「最初から見るなよ」

「すぐに終わるかもしれないからな」

 ゲイルさんは笑顔を見せつつ構える。

「ムカつくぜ、おっさんっ」

「それが目的だからな」

「くっそぉ…」

「タイガ!…」

「分かってるよ」


 タイガも構えて、試合が再開される。



Copyright(C)2020-橘 シン

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