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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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15-3


「呼び捨て…失礼だろ…」

 タイガがそう呟く。


「彼は弓兵隊の一員です。アリス様とわたくしが来る前は隊長を務めていました」

「降ろされたのかよ。かっこ悪ぅ…」


「ジル、そいつら受け入れるのか?」

「そうなるかと思います」

「大丈夫なのかよ」

 そう言いながら苦笑いを浮かべてる。

「ゲオルグの手下ですが、任務内容を教えてもらえず、雑用だけをしていたようです。それに実戦経験もないようですし、脅威にはならないかと…」

「やっぱり、ガキか…」

「俺はガキじゃねえよ!おっさん!」

「おい、やめろよ」

 僕はタイガを制したんだけど…。


 声をかけてきた人が警備通路を躊躇なく飛び降りて、こっちに来る。

 警備通路はそれなり高さがあるんだけど、飛び降りても表情は崩れず平静だった。


「俺もおっさんなんて呼ばれる歳になっちまったか」

 苦笑いを浮かつつ近づいてくる。


「さっきはすまなかったな」

「別に構いません」

 僕はそう言ったんだけど…。

「構うぜ」

「状況みたら突然来た僕らを疑うのは当然だろ」

「だけどよ。関係ないソニアさんにも向けてたじゃねえか」

「だから、俺が悪かって…」

「もうやめなさい。あたな方の疑いは晴れています」

 ジル様が強く窘める。


「こいつらには何をさせるんだ?」

「まだ決めていません。ウィル様とヴァネッサ隊長達を交えて決めるつもりです」

「そうか…じゃあ…」


 彼は僕達を交互に見る。


「俺と一戦手合わせしてくれ」

「手合わせ?」

「ああ。体術得意だろ?」

「まあな。その辺の賊程度なら余裕だぜ」

「いいねぇ」

 

 笑顔でそう言ってるだけど、その笑顔が不敵に見えた。


「やってもいいぜ」

 

 タイガはやる気満々だ。

 彼は好戦的で、怖いもの知らずな所がある。


「僕はやめておきます」


 彼は強い。

 僕はそう思った

 

 通路から飛び降りた時の身のこなしや、吸血族は体術が得意だと知っているのに手合わせを申し込んできた様子から、自身の体術に自信をもってる人じゃないかっておもったんだ。

 自信だけじゃなく、実力もあるはず。

 そうじゃなければ、自ら対戦を申込んだりしない。


「いいですよね。ジル様」

「怪我をしないように、気をつけてくれれば」

「そいつは慣れてるから大丈夫だ。任せてくれ」

 手合わせを申し込んだ彼が頷く。


「俺はゲイルだ」

 ゲイルさんが右手を差し出す。

「タイガ」

「ユウジです」

「よろしくな」

 ゲイルさんと握手をした。


「もう仲良くなったの?」

 ヴァネッサ隊長が館から出てくる。


「体術の手合わせを申し込んだだけですよ」

「早速かい?」

「隊長もどうです?」

「やめとくよ」

「そうですか。うんじゃこれで…後でな」

 ゲイルさんは手を振り去って行く。


「これからうちの領主と会ってもらう」

「はい」

「あの、アリス様は…」

「今は就寝中です。ご挨拶は後ほど」

「そういう事。じゃあ、ついて来て」


 ジルさんとヴァネッサ隊長の後をついて行く。


「ウィル様はなんと仰っておりました?」

「とりあえず受け入れるのは構わないってさ。ライア達も同じ」

「とりあえずですか…」

「助けるって具体的どうするのかを考えないといけないね」

「確かに」


 前を行く二人がそう話しながら、館に入っていく。


 館の中は結構、人がいた。


 北側の出入りから入って階段へ。


 二階からメイドさん達が数名降りて来た。


「みんな、可愛くて綺麗じゃね?」

「うん…」

 僕はそれよりも厨房からの料理のいい匂いが気になった。

 お腹が減っていたから。


「いらっしゃいませ」

「あ、どうも…」


 挨拶をしつつ、二階上がる。


「ウィル様は謁見室ですか?」

「うん。こんな時じゃないと使わないから」

 隊長は笑いながら言う。


 謁見の扉の前。

 外套を脱いで、その時を待つ。


「失礼のないようしてください」

「はい」

「膝をつく必要はないからね」

「いいんすか?…じゃない、いいんですか?」

「そういう事されるのウィルは好きじゃなから」  


 領主を呼び捨て?。

 許可を得ていると後で聞いた。

 上下関係が厳しい所ではないらしい。


「シュナイダー様もそうでしたね」

「ああ、そうだね。あの人場合、うやうやしくされ過ぎて嫌気がさしてたんだよ」

「そうなのですか」


「シュナイダーって誰?」

「王国の英雄だよ。教科書に乗ってたろ」

「そうだっけ?」

 タイガは一般教養に関しては苦手なんだ。


「あたしさ、昔一回だけシュナイダー様に対して片膝をついた事あるんだよ」

「一回、だけですか?」

「そう、一回だけ」

「何かあったのですか?そうしなければいけない事情が?」

「いろいろね…あたしも若かった」

 なぜかしみじみ頷いている。


 と、ここで扉の内側からノックがされた。

  

「おっと、いいみたいだね」


 隊長とジルさんに続いて謁見室に入る。


 僕とタイガは立ち止まり、先の二人は奥へ歩いて行った。


 謁見室の一番奥に椅子があって、その前にウィル・イシュタル様。

 ウィル様の右手に六名(隊長とジルさんを含む。ソニアさんはいない)。

 左手にもう一人。


「めっちゃ、かわ…」

 タイガが言ってるのはウィル様の右手の一番近い位置いる女性。

 

 僕は反対側いる眼鏡をかけた女性のほうが好み。


 僕達は部屋の真ん中まで行き、挨拶と自己紹介をした。

 ウィル様達からも挨拶と自己紹介。


 驚いたのは、翼人族がいた事。

 

「ライア隊長、失礼ですが、背中の…本物ですか?」

「紛うことなき本物だ」

「触りたかったら、百万ルグが払ってくださぁい。ふふっ」

「ミャンのは冗談だから」


 ライア隊長は女性というのもちょっと驚いてしまった。

 言われなければ、男性だと勘違いしていたはず。


 という事は、隊長はみんな女性という事になる。

 これは前領主であるシュナイダー様の嗜好らしい。


「タイガとユウジ。ヴァネッサから事情は聞いたよ」

「はい」

「みんなと話し合って、受け入れる事にした」

「ありがとうございます」


 まずは一安心だ。


「受け入れるが、シュナイツとして君達にできる事は少ない」

「ここにいる事を許可してくれるだけで十分です」

「山の中で寝るよりはずっといい」

 タイガの言う通りで、食べ物を探すのも苦労する。


「ここいるなら、何かをしてもらわないいけないね」

 ヴァネッサ隊長が腕を組みながら話す。

「働かざる者食うべからずだよ」

「なるほど」

「俺は何でもするぜ」

 タイガは自信たっぷりだな…。


「具体的には何をすればよいでしょうか?」

「それを今から考える」

「普通に兵士で良くない?」

 そういったのは補佐官のリアン様。

「兵士だけじゃもったいないんだよね」

「ヴァネッサの意見に同感だよ。吸血族としの能力を生かしたい」

 

 ウィル様は、僕らを吸血族として僕らをそれなり評価してくれいるようだった。

 でも…。


「ウィル様に意見するつもりはないのですが、彼らは若く経験豊富とは言えません。わたくしやアリス様と同様に考えるのはよろしくないかと…」

「ああ…そうなのか…」


 これは否定できない。

 中等までの教練は受けているが、中等までは基本なのだ。

 

 体術に自信があるか?と聞かれれば、ないと僕は答える。

 体術の訓練をしていないわけじゃないんだけど…。


 体術もジル様には到底及ばないし、殺気や気配に少し敏感なことぐらいが、僕らの実力だろう。

 

「じゃあ、どうする?」

「うーん、買い出しの護衛はどうだろう?」

「それ、竜騎士隊でやりたいんだよね。訓練兼ねて」

 ライア隊長の意見にヴァネッサ隊長は異を唱えた。


「二人にしかできない事はないかな」

「しかって言ってもね…」


 中々、いい意見が出ない中、ミャン隊長が手を上げた。

 

「何でもしてくれるんでしょ?」

「はい」

「じゃあ、アタシのばあちゃんに会って来て」

「え…」

 

 


Copyright(C)2020-橘 シン

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