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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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15-2


「あたしらも十五で、ほっぽり出されたら何もできなかった」

 そう言いながら、わたしの肩に手を置く。


「ソニア、ご苦労さん。怪我はないみたいだね」

「はい」

「で、この二人はどこで拾って来たの?」

「こことポロッサの間です」

「そう」

 

 ヴァネッサはタイガ君とユウジ君を見つめます。


「アリス隊長を狙って吸血族が来たって本当なんですか?」

「本当だよ」


 ヴァネッサ隊長から当時の状況を聞いた。

 かなら大変だったみたい。

 

 それとアリス隊長の秘密。


「アリス隊長の血が、吸血族を殺す?そんな事…」

 驚いたのはわたしだけじゃなく、タイガ君とユウジ君もだった。

「マジすか…」

「アリスの血は不老不死を得られるって…」

「それは偽の情報です」

「じゃあ、ゲオルグは偽の情報を信じてアリス様を?」

「そうです」

「アリス様だけじゃねえ…あいつは同じ吸血族も殺してる。反逆だって…」

 タイガ君が地面に拳を打ち付けた。


 二人の家族は人質に取られ連絡が取れないという。


「ゲオルグは、アリス様の血で砂へと変わりました」

「本望だったろうさ。望んでいたアリスの血で砂に変わったんだかね。ざまあないさ」


 吸血族の間で激しい戦闘となった。


「怪我人がかなり出てね」

「あの、ハンスも?」

「うん。大したことないよ。もうピンピンしてる」

「そうですか」


 よかった…。


「ヴァネッサ隊長、二人の処遇いかがいたしましょう」

「いかがって、言われてもねぇ…」

 ヴァネッサ隊長は頭を掻く。


「とりあえず。あんた達、名前は?」

「タイガ」

「ユウジ」

「タイガとユウジね」

「この方はシュナイツ竜騎士隊の隊長です。兵士全体の指揮も務めています」

「よろしくお願いします」

 二人は両膝をついたまま頭を下げる。

「よろしく、の前にあんた達はゲオルグの手下だったんでしょ?」

「あいつはもういないから…」

「いないから、アリスやジルに鞍替えするの?都合良すぎない?」

「仕方ないんじゃありませんか?いない人物の手下に意味はないと思います」

 

 ヴァネッサ隊長の厳しい言葉に思わず反論してしまった。


「だからって、諸手で受け入れるわけもいかないでしょ。油断させといてアリスを殺るつもりかもしれないし」

「しないっすよ、そんな事は!」

「する意味がありません」

「本当にしない?誓える?」

「はい!」

 二人は威勢よく返事をする。

「よーし…」

 ヴァネッサはニヤリと笑顔を見せた。


「立って、ケツ向けな」

「え?」

「は?」

「さっさとケツ向けるんだよっ」


 二人は立ちあがり、後ろを向く。


 出た…これは例の制裁である。

 わたしは受けた事ないけど、竜騎士達や兵士がヴァネッサ隊長にお尻を蹴られる所を見た事がある。

 すごい音がして、蹴られた方はその痛さに大半が叫び声をあげてしまう。


「あたしがケツを蹴っても叫び声をあげなかったら、信じてあげる」

「はあ?それだけでいいんすか?」

「そうだよ。余裕でしょ?」

「いいんですか?ジルさん」

「構いません。この程度の事は耐えられなければいけませんし、この程度で済むなら楽なものです」

 ジルさんは淡々と話します。

 そうですか…。

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 わたしはタイガ君とユウジ君の正面に回る。


「言っておくけど、すごく痛いからね!」

「隊長さんは女性でしょ?余裕ですよ。ソニアさん。」

「僕達も訓練してますし」

「いやいやいや。想像以上、何倍も痛いんだから。蹴られて、吹っ飛ぶのよ。わたしは何人も見てる」

「え?」

「吹っ飛ぶ?」

 二人はお互いに顔を見てから、ヴァネッサ隊長を振り返る。


 ヴァネッサは不敵な笑顔を見せた。


「ふっ…」

「あはは…マジで?…」

「全力はやめてほしいんですけど…」

「全力でやんなきゃ意味ないでしょ」

「あの、レヴァリエ様…」

「ヴァネッサ隊長がするというなら、止める事はできません。わたくしは隊長よりも下の者なのですから」

「え、レヴァリエ様よりも上?」

「アリス様よりも上です」

「そういや呼び捨てだった」

「無駄は話いいから。どっちからやんの?」


 どっちから言われ、二人はお互い譲りあう。


「お前から行けよ」

「いや、お先にどうぞ」

「あんた達さ…若いんだから、積極的に手を挙げないと」

「ヴァネッサ隊長。若いんだからの、意味がわかりませんよ!」

 思わずツッコんでしまった。

  

「じゃあ、僕が…」

「よぉし…ユウジだったね。左向いて」

 ユウジ君の左側に立ち、入念に素振りをする。


「うめき声ぐらいならいいけど、それ以外はダメだよ。吸血族の意地を見せてみな」

「はい」

「声が小さい」

「はい!」

「行くよ!」


 ヴァネッサ隊長はワンステップ入れてから、体重の乗った蹴りを繰り出した。

 

 ユウジ君に蹴りが当たった音が響く。


「んんんぐっ!!」


 ユウジ君は前のめりになって飛ばされ、倒れ込む。


「ユウジ!」

「…」

 タイガ君の呼びかけに手だけを挙げて答えた。


「中々いい根性してるねぇ」

 ヴァネッサ隊長は満足げ。


「アリスとジルはこれの何倍のも痛みに耐えて来たんだよ」

「はい…」

 ユウジ君は立ち上がった。その目から涙がこぼれていた。


「次、タイガ」

「はい…」

「想像以上だよ。斜め上だよぉ」

「ビビらせんなって」

「さっさと準備しなよ」


「あんた、震えてるよ」

「そ、そんな事…あ、ありませんよ…はは…」

 タイガ君は声も震えていた。


 ヴァネッサ隊長は警備通路にいた兵士達に何かサインを出した。


「おい!気合いが入ってねえぞ!それでも吸血族か?」

「大したことねえな!」

 煽り指示だった。


「うっせえ!こんなの屁でもねえよっ!」

「言ったね?あんたの気合い、見せてもらうよ」

「おう!やってくれ隊長!」

「行くよ!」


 さっきと同じようにワンステップ入れてからの蹴り。


「んんんくぅ!!」


 タイガ君も飛ばされ倒れ込む。


「タイガ?…」

「痛てえ…」

 うずくまったまま、ポツリと呟く。


「よく耐えたね」

「そ、それじゃ、助けてもらえますか?…」

「その話は別。中には入っていいよ」

「ええ…そんな…」

 二人は肩を落とした。


 

 僕達はソニアさん達に続いて、敷地の中へと入った。


 僕達を見つめるシュナイツの兵士達。

 

 異端者…いや、アリス様やジル様を狙っていた宿敵ゲオルグの手下。

 敵対者と言ってもいい。

 疑心に満ちた目だ。


「あんた達はここで待ってて」

「はい」


 ヴァネッサ隊長にそう言われ、ジル様とともに留まる。

 隊長はソニアさんと一緒に館へと入っていった。


「あなた達、本当によろしいのですか?」

「何がです?」

「わたくしやアリス様に従うとなれば、ゲオルグの残党から狙われるでしょうし、アリス様の血の真実が知れ渡りれば、アリス様を嫌悪する者達からも避けれるやもしれません。里にもしばらくは帰れませんよ」

「どうやっても、僕達は行く宛はありません」

「ゲオルグの残党なんかと一緒されるのはごめんだぜ。里に帰れないのは寂しいけど」


 タイガの言う通り、ゲオルグの残党と同一視されるのは嫌だ。


「そうですか…。多分、アリス様はあなた達を歓迎するでしょう」

「マジすか」

「お優しい方ので」

「ありがたいです」


 ジル様は小さくため息を吐いた。


「あなた達はアリス様に対して嫌悪感はないのですか?」

「別にないっす」

「僕もないです」

「血の真実を知ってもですか?」

「血を飲まなけば、いい話かと…」

「まあ、そうですが…」

「ジル様はずっとアリス様のそばにいたわけですし」

「わたくしは覚悟ができていますから」


 後でアリス様とジル様が、里を離れた時や逃亡中、それとゲオルグがシュナイツに来た時の話を聞きました。

 よく生きてここまで来たなって。

 ジル様は敬意に値します。


「アリス様に忠誠を誓っていただくの当然として、シュナイツの領主ウィル・イシュタル様にも忠誠を誓っていただきます」

「はい」

「どんな人、なんですか?」

「若い方です。わたくしよし少し上くらいの年齢ですね」

「へえ」

「また、蹴られたりします?」

「そういう事をされる方ではありません。安心してください」


 あの蹴りは、完全にトラウマになっていた。


「ジル!」

 

 警備通路からジル様を呼びかける声がする。

 

 そっちを見ると、さっき僕達に弓矢を向けてきた人がこっちを見ていた。


 


Copyright(C)2020-橘 シン

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