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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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52/142

14-19


 アリス様とわたくしの事情を四人にお話ししました。


 同胞から追われている理由。

 アリス様の血の事について。

 ですが、アリス様の血が吸血族を殺すという部分については隠したままです。

 流石に動揺すると思ったのです。


「なんと…」

「アリス…大変だったね…」

「はい…」

「なるほど。お前達をあそこまで執拗に狙っていたのは、そういうの事にだったのか」

「必死になるわけだね」

 シュナイダー様とヴァネッサ隊長は合点がいったようです。


「次の追手はどれくらいで来そうなんです?」

 レスターさんがそう尋ねてきます。

「具体的にいつか分かりません。半月後か、一ヶ月後か…もっと早く来るかもしれませんし、遅いかもしれません…明確にお答えしかねます。申し訳ございません」」

「今来てもおかしくはないと?」

「今日明日という事はないでしょうが…」

「そうですか」

「追手が来たのなら、すぐにここを離れますのでご安心を」


「追手よりも、吸血族が蜂起しようとしてる方が状況的に危なくないですか?」

 ガルドさんが眉間に皺を寄せて、そう言いました。

「吸血族の数は少ない。驚異になるとは思えないな」

 そう言ったのはレスターさんです。

「数は少ないけど、吸血族だからね。それにもしアリスを手に入れたら厄介になる。シュナイダー様、一応王都に知らせた方がいいんじゃないですか?」

「落ち着け。この程度の事は把握してるはずだ」

「そうですか?」

「クローディア直属の諜報部があって、そこに吸血族がいる。吸血族の内情は把握していない訳がない」

「へえ」


 王国の諜報部に吸血族いたとしても驚きはしません。


「連絡すれば、なぜ知ってるのかとつつかれるやもしれん」

「なるほど。アリスとジルを引渡せってなったり?」

「そこまでするとは思わんが、話は聞きたいだろうな」

「ここにいるとわかったら、二人の居場所が里に知れるか」

 

 いくら箝口令を敷いても限界はあります。

 遅かれ早かれ情報は伝わるでしょう。


「それでなくても、シュナイツにいることはバレるだろうしな。状況を見れば馬鹿でもわかる」

「だったら黙ったままでいいですね」


「俺達以外にはなんて言うです?包み隠す全部言っちゃうですか?」

 ガルドさんの尋ねにヴァネッサ隊長は考えています。


「そうだねぇ…。適当に」

「適当って…」

 レスターさんが苦笑いを浮かべています。

「ここは二人に任せるべきだろう。どうだ?」

 シュナイダー様はわたくし達に任せると仰ったのです。

「一応、隠しておいたほうが良いかと…」

「わたしも同意見」

「追われていた理由はなんて言う?」

「宝を盗んだ」

 アリス様がそう言いました。

「お宝?そんな物あるの?」

「知らない…」

「わたくしも知りません」

「なんだいそりゃ…」

 ヴァネッサ隊長がため息を吐きます。

「ははは!それで良いではないか」

「説得力にかけると思いますが…」

「構わん。長居するわけではないしな」


 

「お宝ねえ…。ある意味、アリス隊長がお宝だよな」

「わたくしにとっては宝も同然です」

「そうだな」

 ゲイルが笑います。


「で、居付いてたと」

「はい」


 こんなに長くシュナイツにいるとは思いませんでした。

 さらに、一度ならず二度も助けていただくという…。

 

「お前ら二人がいなかったらキツかったぜ」

「そうでしょうか」

「大助かりなのは間違いない」

 隊員達全員がゲイルさんの意見に同感のようです。


「自分、後からここに来たんで、アリス隊長とジルさんが来た時の様子ってどんな感じでした?」

 隊員の一人が手を上げ、そう尋ねてきました。

「衝撃的だった」

「だな」

「だから、どう衝撃的だったんです?」

「まず、体術で一番だったゲイルがジルさんにあっさりやられた…」

「今なら俺がジルに勝てないとか当たり前だろ?ジルやアリス隊長が来る前は、ここじゃ一番だって自負もあった」

 ゲイルさんは腕を組み話します。

「手も足も出ないなんて、マジで衝撃的だったぜ」

「ゲイルだけじゃないんだぜ。ガルドさんやレスターさんも…」

「ヴァネッサ隊長は?」

「もちろん」

 そう言って首を横に振ります。


「十人以上を同時に相手した時は焦りましたが…」

「嘘つくなよ…全員のしただろ…」

「ええ…見たかったなぁ」

「トラウマもんだぜ…」


 シュナイダー様は大笑いしていましたね。

 


「さすがは吸血族」

「わたくしはまだまだです。アリス様の方が上です」

「あんたより強いっての?…」

 ヴァネッサ隊長は開いた口が塞がらない様子。

 

 当のアリス様は昼間なので、就寝中です。

 夜の警備を担当しています。


「その体術を、ぜひ兵士達に教えてほしい」

「かしこまりました。出来る限りの指導を努めされていただきます」

 

 こうして、わたくしとアリス様は弓兵隊所属となり、恩返しとして体術の訓練を承ったのです。


 教えるということは中々難しいものでした。

 シュナイダー様やヴァネッサ隊長にご相談した事もありました。


「教える事に関しては、あたしも勉強中なんだよね」

「そうなのですか?」

「あたしはここに来る前は王都で班長やってて、部下は三人までしか持った事がなかった。で、こっちに来てからは、こんなに…何十倍にもなっちゃて、指導もそうだけど指揮管理もしなくちゃ行けない。シュナイダー様にまだ頼ってる部分がある」

 ヴァネッサ隊長は肩を竦めます。

「なるほど。竜騎士は大変なのですね」

「まあね。教え方に関してどうこう言える立場はじゃないんだけど…褒めて伸びる奴と厳しめにした方が伸びる奴と、勝手に伸びる奴がいるんだよね」

「はい」

「その辺の加減は経験していくしかない」

「そうですか…王道はないですね」

「そうだね。それはあんたも経験してるでしょ。強くなるために努力して悩んだ事ない?」

「あります。伸び悩んだ時期は辛かったです」

「そういう気持ちはここにいる全員が持ってる」

「経験則から相手側に立ったほうが良いと」

「そういう事だね」

 ヴァネッサ隊長は笑いながらわたくしの肩を叩きます。

「プレッシャーとかけるわけじゃないけど、期待してるよ」

「はい」


 

「お前は指導者としても才はあるよ」

「そうでしょうか?…」

 正直、指導者として上手くできているのか疑問に思う事はあります。


「ジルさんは教え方上手だと思いますよ」

「ゲイルより確実に上手い」

「それはいえる」

「おいおい…」

 

 肩を落とすゲイルさんに、隊員達は大笑いしました。

 

「それでは、わたくしはこれで…」

 笑いが収まったところで立ち上がります。

「えーもう少しいいでしょ」

「酒の席じゃないんだよ」

「すみません。もう休まないと…」

「そういう事だ」


 わたくしは食事に使った食器を全員分集め籠に入れます。

「俺らがやっておくぜ」

「いいえ。わたくしが戻しておきます」

 もうお嬢様ではないのです。

 何でも人任せにするわけには行きません。


「では、皆さん。おやすみなさい」

「お疲れ」

「おやすみなさい」


 食器が入った籠と空の鍋を持って弓兵隊の宿舎を出ました。

 食器と鍋は厨房に戻す事になっています。


「ジル」

「はい?」

 ゲイルさんが宿舎の外に出ていて、わたくしを呼び止めます。

「何でしょう?」

「別に用ってわけじゃないんだが…礼を言いたくてな。ありがとうな」

「お礼を言われる事はしていませんが」

「さっきの話さ」

「それこそ、お礼をされる話ではありません」

「お前とアリス隊長とっては辛い話しだったろ?」

「ええ…まあ。でも、気持ちの整理ができていますので」

「そうか…」

 彼はそう言うと、視線を泳がせます。

「あの、もうよろしいですか?」

「ああ…すまん。じゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 

 彼は宿舎へと帰って行きました。

 何を言いたかったのでしょうか。


 厨房に食器と鍋を返し、自室へと戻ろうと思ったのですが、ふとアリス様と話をしたくなったで見張り塔へ向かいました。


 塔の中の螺旋階段を登って行きます。

 

 頂上まで上がり、出入口の扉を叩きました。


「アリス様。わたくしです」

「ジル?」

 出入口が開かれ、アリス様が顔を見せます。

「どうしたの?」

「話をしたくなったので…」

「話?でも、ジルは休まなきゃいけない時間だよ」

「分かっています。少しだけです」

 外に出て扉を閉めます。


「わたしは仕事中なのに…」

 アリス様は難色気味のようです。

 

 彼女はシュナイツに来てから、夜の見張りという仕事をいただきました。

 ご自分も役に立てると喜び、その仕事に誇りさえもっているです。


「ジルは東と南を見て、私は西と北を見る」

「はい」

 わたくしはアリス様の指示に従い、彼女に背を向けます。


「それで、話ってなに?」

「はい。…今まで色々な出来事があって…」

「それ、今話さなきゃいけない事?」

「いいえ。今ではなくもいいんですが…アリス様には失礼な事を数多くしてしまいて、申し訳ありません」

「ジル。わたしはジルの事、悪く思った事はないよ」

「ありがとうございます」

「むしろ、謝らなければいけないのはわたし。わたしの血のせいで、ジルを含めていろんな人たちに迷惑をかけてしまった…」

「それは違い…」

「分かってる…そう望んだわけじゃない。そういう運命だったって。このやるせない気持ちをどうすればいいのか、ずっと悩んできた」

「わたくしには分かります」

「うん。ジルは分かってくれている。だから、この気持ちは半分になった」

「アリス様…」


 彼女の言葉に目に涙が溜まり、視界が滲みます。


「これからもアリス様の負担を少しでも減らせるよう努力していきます」

「うん、これからもトマト食べてね」

「え?」

「え?」

 わたくしとアリス様は同時振り向きました。

「いい加減、食べてくれませんか?…」

「何言ってるの?今、負担を減らすって」

「そう言う意味ではなく…」  

「嘘つき…」

 アリス様が睨んできます。

「嘘はついていません。大体、ウィル様達の前ではお食べになるのに…」

「ウィル様には嫌われたくないから…」

「ヴァネッサ隊長からお聞きになっているかもしれませよ」

「そ、そうかもしれない、けどウィル様前以外は食べない」

「はあ…」

 ため息しか出ません。


「それはそれとして、アリス様」

「何?」

「わたくし、折を見て里に帰ろうかと思ってます」

「里に?どうして?」

「ゲオルグは亡くなりましたが、まだ配下がいます。その者達を除かなければ、真の平和は訪れません」

「そうだけど…一人で行くの?」

「はい。アリス様の手を煩わせる様な事はいたしません」

「一人じゃ危険」

「大丈夫です。ゲオルグでは相手になりませんでしたが、その他は有象無象。相手にならないかと」

「それでも危険過ぎる」


 アリス様がご心配になるであろうことは分かっていました。

 ですが、里の開放はわたくしの使命。

 そう強く思っていたのです。


 アリス様をお守りするために数々同胞を殺めてきました。

 里の開放はいわば償いなのです。

 せめて、このくらいの事しなければいけない

 

「必ず里を開放し、戻ってきます」

「うん…。今じゃないよね?」

「今すぐは行きません」

「黙って行かないで」

「はい。お約束します」

「ジルは約束を守る人だから、もう言わない…」

 とは言いますが、表情は曇っています。

「わたしも一度戻帰りりたいけど…」

「あまりお勧めできません」


 アリス様の血についての情報が伝わっているかもしれません。

 その場合、アリス様に対する印象は良くはないでしょう。


「わたしから始まった騒動だから、帰らないといけない。長老様にご挨拶したいし…」

「帰れる時がきっと来ます。まずは、わたくしが行ってきますから」

「うん」

 

「ジル、そろそろ部屋に戻って休んで。わたしは大丈夫だから」

「はい。では部屋に戻ります」

「うん。おやすみ」


 わたくしは部屋に戻り、就寝しました。



「わたしとジルは最初仲良くなかった」

「わたしがジルを遠ざけていたから、怖かったから…」

「もう誰も砂になんかしたくなったから」

「でも、何も知らないのに彼女はわたしに近づこうと努力してくれた」

「とても感謝してる。今こうやって話せるはジルのおかげ」


「今はとても仲良し。たまに喧嘩はするけど…」

「ヴァネッサ隊長が本音で喧嘩ができるなら、もう家族みたいなものと言っていた」

「本当にそう思う」

「ジルの事を単なる側仕えとは、もう思ってない」

「姉妹のような感じ。逃げてる時はわたしが妹になる時があったけど違和感がなかったし、他人からそう思われても嫌じゃなかった」


「たくさんに人に助けられて、今にのわたしがいる」


「里には一度帰ったよ」

「それはいつか話したい」

「長老様にご挨拶しただけだから、話すことは少ないかもしれないけど」



「アリス様、そろそろ夕食のお時間です」

「そう」

「今日はどちらでお食べになりますか?」

「ウィル様達と食べる」

「分かりました。では、行きましょう。失礼します」

「じゃあ、また今度」


「今日、トマト出ないよね?」

「さあ」

「出たら食べてね」

「…」

「ジル?」

「…」

「なんで、黙ってるの?ジル?」

「…」

「ジル!?」



エピソード14  終わり

Copyright(C)2020-橘 シン

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