14-18
「誰だ!そこで止まれ!」
北側の警備通路から響く声。
それを合図に通路下に兵士達が集まる。
あたしは訓練を一旦やめて、通路の下に行く。
「どうしたの?」
「詳細を報告しろ!」
ガルドが叫んでいる。
「ボロボロの外套を着込んだ奴が向かってきます」
ボロボロの外套?。
「人数は?」
「二人です!」
二人…。まさかね…。
「隊長、もしかして…」
「もしかして?」
「先日の吸血族では?」
「あたしも思ったけど、断われたしね…」
とりあえず、通用口からガルドと一緒に二人を確認。
「どう見ても、あの二人ですよ」
「ほんとだね…」
気が変わって来てくれたんだね。
「シュナイダー様に報告してきて」
「はい」
ガルドは小走りで館へ入っていく。
「警備!不審者じゃないよ!通常時に戻りな!弓矢なんか向けなくていいから!」
昨日、賊がちょっかい出してきて過敏になってたんだよね。
あたしは通用口を出て、二人の元へ。
「お久しぶりです。ヴァネッサ隊長。突然のご訪問、お許しください」
「別に構いまないよ。今日はどうしたのさ?」
「実は…」
「恩返しに来ました…」
アリス様がそう言ってるんだけど、目が半開き。
「恩返し?…ってあんた、大丈夫?」
「はい…少し眠い…」
「ははは!やっぱり昼は苦手かい?」
彼女は小さく頷く。
「とりあえず、入りなよ」
「はい」
二人を敷地へ招き入れる。
「どうしてまた恩返し?あんた達の事情が解決したの?」
「いいえ、まだです…。ですが、アリス様がどうしてもと」
「わたくしも当然ながらしなければいけないと思っていました」
「そう」
自分達の事が解決していないのに、恩返しとは。
義理堅いねぇ。
あたしは嫌いじゃないよ、そういうの。
アリスとジルを珍しがって、兵士達はジロジロ見てる。
「なぁに見てんの!」
あたしは睨みを効かせる。
「ごめんね。客人は珍しいから。館に入っちゃて」
「はい。お邪魔します」
「お邪魔します…」
北口から館に入る。
ちょうどガルドが降りてきた所だった。
「シュナイダー様は?」
「謁見室にいます」
「そう。あんたもレスターと一緒に謁見室に来て」
「了解」
ガルドが出ていって、あたし達は二階に上がる。
「ヴァネッサ隊長」
あたしを呼んだのはシンディ。
「ご用意できてます。ですが、リアン様が…」
「リアンがどうしたの?」
シンディが耳打ちしてくる。
「リアン様が吸血族と聞いて動揺してます。会いたくないと」
「あら…」
「シュナイダー様が良い人達だと説得しましたが…」
「しょうがないね…。リアンはとりあえずいいから。あんたも同席して」
「はい」
謁見室のドアの前にアリスとジルを案内する。
「ここが謁見室」
「はい」
「謁見なんて名前がついてるけど、大層な部屋じゃないから。気軽にね」
「はい…」
って話してるとガルドとレスターが通り過ぎて行ったのが見えた。
「じゃあいいかい?」
「ちょっと待ってください」
ジルとアリスは外套を脱ぎ始める。
「外套はくたびれてますので…かと言って脱いでもあまり変わらないのですが…」
「そいつは仕方がないさ。シュナイダー様は気にしないから」
「はい…」
あたしは外套と荷物を預かり、謁見室に二人を入れた。
謁見室に入ると、シュナイダー様が笑顔でお立ちになっていました。
他に眼鏡をかけた女性。シンディさんです。
と、ガルドさん。それと初対面の竜騎士。この方はレスターさんです。
シュナイダー様は近くに来るように手招きをしています。
わたくし達はシュナイダー様に近寄り頭を下げました。
「お久しぶりでございます。シュナイダー様」
「お久しぶりです」
「うむ。して、今日はどうした?遊びに来た…わけではないようだが?」
シュナイダー様はそう言ってヴァネッサ隊長を見ます。
隊長は頷きつつシュナイダー様の隣に移動していました。
「はい。先日、わたくし達はシュナイダー様に…」
ここでアリス様がわたくしの腕を掴みました。
「わたしが言う」
「はい」
「わたし達が、ここに来たのは恩返しの…ためでございます」
「恩返し?」
「はい。先日、シュナイダー様達に窮地を助けられ、食事とお金までいただきました。そして、礼だけ言ってお別れしました」
「うむ」
「助けれてくれたシュナイダー様に対し、恩を返さないの失礼千万。本日は、謝罪とシュナイツにて、わたし達にできる事があるならば、奉仕したく参ったのでございます…」
アリス様はたどたどしいながらもご自分の気持ちをしっかりとお話になりました。
「だ、そうですよ」
「なるほどな…」
ヴァネッサ隊長は肩を竦め、シュナイダー様は少しだけ笑顔です。
「謝罪は必要ない。前にも言ったがこちら勝手に助けただけだからな」
「はい」
「奉仕と言ったが、こちらの頼みを聞いてくれるという事でよろしいか?」
「はい。もちろんでございます」
「何でもする…します」
「そうか」
笑顔で頷くシュナイダー様。
「シュナイダー様の要望に出来る限りお答えしますが、お一つ条件がございます」
「条件?」
「はい。わたくし達は追われる身。追手がシュナイツまで来た場合はここを離れる所存です。その時までの期限付となります」
「期限付か…うーん…」
シュナイダー様は腕を組み唸ります。
「シュナイダー様。まずは二人を迎え入れましょう。やってもらい事は大体決まってますし」
「そうだな。わかった。二人ともよく来てくれた。短い時間かと思うが、お前達の才、存分に発揮してくれ。期待している」
「はい。仰せのままに…」
わたくしとアリス様は丁寧に頭を下げます。
「ここからは肩苦しい挨拶はなしだよ」
ヴァネッサ隊長は笑顔で手を叩きました。
「あたしとシュナイダー様。それからガルドは知ってるからいいとして…。後ろにいるのが、シンディね」
「シンディ・グロムと申します。事務官を務めさせていただいてます。よろしくお願いします」
「ガルドの隣がレスター」
「どうも」
レスターさんは小さく会釈をします。
「で、補佐官がいるんだけど…」
「リアンは怖がって執務室に籠もったままだぞ」
「一目見れば普通だって分かるのに…」
ヴァネッサ隊長はため息を吐きます。
「仕方ないかと…」
これは予想していた事です。
「ヴァネッサ。リアンを連れてこい」
「いいんですか?」
「挨拶ぐらいはしなければいけない。礼儀に反する」
わたくしは無理強いする必要はないと進言したのですが…。
「顔見せだけだから」
ヴァネッサ隊長はそう言って、謁見室を出て行きました。
しばらくすると声が聞こえてきます。
「嫌だって!」
「大丈夫だって言ってるでしょ。あたし達と変わんないから」
「嘘!昔、本で読んだもん。牙が生えてるって」
あるにはあります。
どういう構造かは分かりませんが、隠すことが出来るのです。
「そういや、見た事ないな」
「ミャン隊長のは見た事ありますけど、ジルさんと隊長のはないっすね」
「見せてくれよ」
ゲイルが興味深げに見つめてきます。
「今ですか?…」
「今以外にないだろ」
隊員達もわたくしを見ていました。
「…分かりました」
正直いうと見せたくはありません。
吸血族として誇りはもっていますが、この牙だけはいただけません。
必ずしも必要かというと、そうではありませんから。
口元を手で隠し、牙を出して皆に見せます。
「ああ…思いっきり生えてんな」
「見立ちますね…」
「もういいぜ」
牙を元に戻しました。
「それ、どうやってんだよ」
「聞いてどうするのですが?」
「いや別に…」
「でしたら、お話しする必要はないでしょう」
「はい…」
不機嫌な言い方だったかもしれません。
「お互いに顔を見るだけでいいから」
「見るだけよ。謁見室には入らないからね!」
「わかったって…」
シンディさんが西側のドアを開けました。
「ほら。あの二人だよ」
リアン様はヴァネッサ隊長の後ろに隠れて、顔半分だけを見せています。
「はじめまして。アリス・ハーヴェイと申します」
「ジル・レヴァリエです」
リアン様は小さく会釈するだけ。
「リアン。ちゃんと挨拶をしなさい。淑女ならばな」
「淑女…」
淑女という言葉を聞いたリアン様はヴァネッサ隊長の後ろから姿を見せます。
そして、咳払いを一つ。
「…補佐官の、リアン・ナシル。よ、よろしくね…」
リアン様は笑顔を見せますが、その笑顔は引きつっていました。
そして、すぐに姿を隠し走り去って行ってしまいました。
「ちょ、リアン!」
「もう良い。十分だ。今のリアンしては上出来だろう」
「はい」
この時はリアン様の事情を知らず、何の事かと不思議に思っていました。
リアン様との初対面はこのような形になってしまいました。
ですが、今は普通に世間話が出来るまでになってます。
「こんなところか…」
シュナイダー様がヴァネッサ隊長に話しかけます。
「次は部屋を決めないと」
「ああ、そうだな。シンディ、二人に部屋を用意してくれ」
「かしこまりました」
「あの、良い部屋でなくて結構です」
「いい部屋は埋まってるから、後は似たりよったりだよ」
「そうですか…」
長居するつもりはなかったので、出来る限り簡素で狭い部屋を用意していただきました。
「で、あそこかよ…あそこ物置部屋だったろ」
「はい」
「はいって…もう少しいい部屋あったんじゃないか?」
「わたくしはどこでもいいので、アリス様もそう望んでいました」
「名家のお嬢様はどこ行ったんだよ」
「それは昔の事です」
以外に慣れるものです。
シンディさんが謁見室を出て行きます。
残っているのはシュナイダー様とヴァネッサ隊長、それから竜騎士が二人。
わたくし達の事情を話す機会と思いました。
「皆様。聞いてほしい事があります」
「聞いてほしい事だと」
「改まってどうしたの?」
「アリス様とわたくしの事情をお話ししようと思います」
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