14-16
「ふざけんじゃねえ!」
あたしに刺された吸血族が右から突っ込んくる。
距離を一気につめつつ、ナイフを突き出してきた。
遅い…。全然、見切れる速度。
やっぱり太陽の下だと身体能力は落ちるみたいだね。
簡単に避けられたあたしを追撃するように突きと斬撃を繰り出しきた。
右手で繰り出しきた大振りの横切りを、右側にいなしつつ左手で強く掴む。
そのまま半周無理やり振り回し、転ばせ背中に乗って肩を極める。
「あたし程度にやられるようじゃ、まだまだだね」
「くっそぉ!」
腕をねじり上げ、肩と肘の関節を無理やり外してやった。
「ぐあああぁっ!」
悲鳴を上げる吸血族。
「吸血族でもやっぱ痛い?」
あたしは喉を切り裂いた。
悲鳴が止み、今度はのたうち回ろうする。背中を踏んづけて体重をかけた。
「次は誰?」
吸血族は驚いたようにお互いを見いている。
「ガルド!」
「一人片付けました。思ったより大したことないです」
ガルドの足元に両腕とも切り落とあれた吸血族が倒れている。
「さあ、これで三対四。どうする?」
「…」
「ここで引きな。悪い事は言わない」
「情けをかけているつもりか?我らに関わった事を後悔するぞ」
そういってナイフを構える。
まあ、仲間やられて黙って帰るわけがないよね。
あたしは足の下で暴れている奴の頭を蹴り昏倒させた。
「忠告は一度きりだからね」
「うるさい!お前ら、一斉にかかれ!」
リーダーの掛け声で、一斉に向かってきた。
結果?。
「竜騎士舐めてんじゃないよ、全く…。ガルド、そっちは?」
「完了です。隊長の方は?」
「こっちも終わり」
ジルとアリスを狙っていた吸血族は全員倒した。あっさりとね。
うめき声があたりから聞こえてる
まだ、とどめは刺していない
「このままでいいです…」
「いいのかい?またあんた達を狙ってくるんじゃないの?」
「ええ…たぶん」
そう言ってリーダーに近づき何かを話していた。
「今回はこれで引くそうです」
そう言ってる最中に吸血族はのろのろと立ち上がる。
「おいおい…」
ガルドがそう言って剣を構えている。
そりゃ驚くよね。
どう見ても致命傷なのにさ。
夢遊病者のように歩き去っていく。
お互いに肩を貸しながら。
あたしが最初に倒した奴は足を引っ張られて引きずられて行った。
「隊長、いいんですか?」
「本人がいいって言ってんだから」
林の中に追手が消えたところでジルがガクリと膝をつく。
「おっと…大丈夫かい?」
「はい…」
あたしは肩を貸し、立ち上がらせる。
「お構いなく…」
「あんた達を助けるのが命令だから。ガルド、その子は竜にのせて、荷物はあんたが」
「了解」
あたし達はシュナイダー様の元へと戻った。
「ここは?…」
覚えているは無理やり荷馬車に乗せられたあたりまでで、気がつくと納屋と思われる所で寝ていました。荷馬車に乗せられたまま。
外はもう夜でした。
「アリス様!」
飛び起きると隣で小さな声がします。
「うーん…」
アリス様は隣で寝息を立てていました。
「良かった…」
納屋は広くて、後で聞いた事ですが、村で共同で使っているものということでした。
納屋の奥から会話が聞こえます。
ランプを囲み何かを話してようでした。時折、笑い声も聞こえます。
とりあえず荷物を確認。特に変わった様子はなし。
助けいただいた礼をしなければいけません。
ですが、タイミングが掴めずにいました。
こちらから声をかけるべきか、向こうに合わせるか…。
まだ疲れが残っていて思考が追いついてませんでした。
「起きた?」
そう声をかけられ振り向くと、女性が笑顔でこちらにやってきます。
「はい…えっと…すみません、どちら様でしたか?」
名前を聞いたはずですが、思い出せない…。
「ヴァネッサ・シェフィールド。シュナイツで竜騎士隊の隊長をしてる」
そう言って差し出された右手。
それをわたくしは握ります。
ヴァネッサ隊長の最初の印象は力強いという感じです。
追手との戦闘では身体能力の高い事も印象深い。
竜騎士の戦闘を間近に見たはこの時が初めてです。
意外というと失礼でしょうが、中々の腕前です。
「わたくしはジル・レヴァリエ。助けていただきありがとうございます」
「いいや。やる事をやっただけさ。…こっちは気持ちよさそうに寝てるね」
「はい。こちらはアリス・ハーヴェイ様です」
「様をつけるってことは目上なのかい?」
「ええ、まあ…」
「そう」
シェフィールド隊長はそれ以上は聞いて来ませんでした。
「あんた達、食事は?」
「食事…」
「吸血族は血を好むらしいんだけど…」
「わたくし達はごく一般的は食事をしています」
「へえ」
「血を好むというのは昔の話です」
「そうなんだ、悪かったね」
彼女は苦笑いを浮かべました。
「いいえ、構いません」
わたくし達吸血族は総数が少なく、その情報もあまり知られていない事が多いです。
隠しているわけではないのですが…。
「だったら、お腹減ってるでしょ?うちらと一緒に食べない?」
やはり食事の申し出を断るのは失礼でしょう。
「はい。ありがとうございます」
「あっちで待ってるよ」
シェフィールド隊長は去って行きました。
「アリス様…アリス様…」
アリス様の肩をゆらします。
「あー…うん…」
無理に起こすの気が引けましたが、シェフィールド隊長達を待たせるわけにもいけません。
「アリス様」
「ジル?」
アリス様が目を開けます。
「お体は大丈夫ですか?」
「うん…大丈夫…」
気怠そうに体を起こし背伸びをしました。
「ここは?…じゃなくて、助かったの?」
「はい。実は…」
わたくしはシェフィールド隊長達が助けてくれた事をご説明しました。
「そうだったの…」
「あちらに」
アリス様が振り返ります。
「食事をご用意してあるそうです」
「そう…。感謝を伝えないと…行こう」
「はい」
荷馬車を降り、シェフィールド隊長達の所へ向かいました。
「失礼いたします」
「来たね」
シェフィールド隊長が立ち上がり、わたくし達を迎えてくれます。
「大丈夫かい?」
隊長はアリス様に声をかけます。
「はい。ジルから聞きました。お助けいただきありがとうございます」
「さすがは吸血族だね。回復が早い」
シェフィールド隊長は感心するように頷きます。
「あたしはヴァネッサ・シェフィールド。竜騎士隊の隊長やってる」
「わたしはアリス・ハーヴェイ。シェフィールド様、本当にありがとうございます」
二人は握手をしました。
「様、はいらないよ。ヴァネッサでいいから」
「はい」
「おい、ヴァネッサ。私にも紹介しろ」
ヴァネッサ隊長の後ろにいた鎧を着込んだ初老の男性が立ち上がります。
「はいはい…」
男性がわたくし達に前に出て来られました。
頭髪やお髭に白いものは目立つますが、割に体格は良く、若い感じがします。
使い込まれた鎧に歴戦の風格がありました。
「アリスとジル。こっちのは、あたしの上司でレオン・シュナイダー様。シュナイツの領主。一応」
「お前は、いちいち気に障る言い方するなぁ…」
「レオン・シュナイダー様?」
「どこかで…」
「教科書に…」
アリス様がポツリと呟きます。
そうです!。
王国の窮地を救った英雄。
竜騎士レオン・シュナイダー。
驚きました。教科書に乗るほどの偉人がこのような所に…。
アリス様とわたしは数歩下がり、片膝をつき頭を垂れます。
「失礼いたしました。シュナイダー様にお助けいただいたとは…」
「感謝の意に堪えません」
「ああ…まあ、助けたのは私ではないがな」
「言い出したのは、シュナイダー様ですよ」
「私は言うだけしかできんからなぁ」
そう言って笑います。
「さあ、もう膝をつくはやめてこっちで食事をしようではないか」
「ですが…」
「私はうやうやしくされるのはあまり好きではない。今はそんな時はないし、そんなことをされる人物でもない。さあ、こっちに」
シュナイダー様は気さくにわたくし達を招いてくれました。
外から村人達により大きな鍋が二つ持ち込まれ、それを囲むように座ります。
具沢山のスープと簡易なパン。それと生の野菜と果物が少し。
「こんな物しかありませんが…すまねえです。シュナイダー様」
「いやいや。これで十分。とても美味しそうだ」
「ありがとうございますぅ」
村人達は深々と頭を下げました。
「ご苦労だった。今日はもう良いから、休んでくれたまえ」
「はい…」
村人は去って行きます。
シュナイツでメイドになる予定という女性が、スープを取り分け配って行きます。
途中からわたくしも手伝いました。
全員に行き渡り、食事となります。
「さあ、いただこうか」
「いただきます…」
温かい食事は久しぶりで、とても美味しかったです。
「どうだ?口に合うかな?」
「はい、とても美味しいです」
「それは良かった」
シュナイダー様は笑顔で頷きます。
アリス様は夢中で食べていました。
「すごい勢いで食べてるね」
「美味しい…です」
ヴァネッサ隊長も笑顔でした。
「こいつも食べていいよ」
隊長がトマトをアリス様に手渡します。
トマトは…。
「トマト…あの、嫌い…」
「吸血族がトマト嫌いとはな、ははは!」
アリス様の言葉にシュナイダー様が笑います。
アリス様は顔を赤らめていました。
「笑い過ぎですよ。好き嫌いは誰にもあるでしょう?ね?」
隊長は、これはあたしが食べるとアリス様の手から取り、かぶりつきます。
「吸血族は赤い食べものが好きと聞いた事があってな…すまない。君も嫌いなのか?」
「わたくしは大丈夫です」
「ジルは、ピクルスが嫌い…」
「アリス様…」
「ほお」
「どうして?」
隊長が興味深げに聞いてきます。
「嫌いなのではなく、苦手なのです。子ども時に盛大にむせてしまって…。それ以来、どうにも…」
「またむせるんじゃないかって?」
「はい…」
恥ずかしい話ですが。
食事が終わり、少ない果物を分け合い食べながら会話となります。
当然ながら、話はアリス様とわたくしの事情になっていきました。
「あんた達は、どうしてあんな状況になってたの?」
「諸般の事情がありまして…」
「何か罪を犯したのか?掟と破ったとか?」
シュナイダー様は水を飲みながら尋ねてきました。
「いえ、何も…何もしていません」
「何もしていないのに、あそこまでやるかい?」
ヴァネッサ隊長は疑っているようです。
「悪いのはわたし…わたしのせい」
「違います。アリス様のせいではありません」
シュナイダー様とヴァネッサ隊長は、お互いを見て視線を交わします。
「助けてもらって、事情を話せないとは失礼じゃないか?」
ヴァネッサ隊長ともに助けていただいたガルド・ザインさんがそう話します。
「ガルド、やめな。助けたのはあたし達が勝手にした事なんだよ」
「ですが…」
「ヴァネッサのいう通りだ。私が判断した事だ」
シュナイダー様の言葉にガルド・ザインさんは黙します。
「言えんというなら構わん。吸血族の内輪の話なら聞いても、こちらには関係がないだろうしな」
シュナイダー様はこの話はこれで終わりだと言い、話を切り上げました。
「して。これからどうする?行くあてはあるのか?」
「…ありません。今まで通り密かに生きて、逃げていくのみです…」
これから先の事を考えると気が滅入りますが、それしか道がない以上、その道を進むしかありません。
「…そうか。もし良かったら、シュナイツに来ないか?」
「はい?」
シュナイダー様の突然の申し出に、わたくしとアリス様は呆然としたのです。
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