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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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14-11


「里を出入りするためのゲートは既に封鎖され検問してるはずだ」

「なら道なき道を行く」

 父の言葉にシャイア様が答えます。

「そっちもじきに手が回る。急いだ方がいいな」


 外にいた者を呼び状況を聞きます。


「包囲網は狭められつつあります。一気に攻めこないのが嫌らしいです」

「高を括っているんだろう。なら付け入る隙がある」

「はい。北側が手薄と斥候から報告が」

「わかった。アリスとジルは北側へ向かえ。シオンとターシャもだ。追手に見つかったら、別れて追手を分散させろ」

「はい」


 アリス様は何も言わず俯いたまま。

 そんな彼女を無視してシャイア様は話を続けます。


「斥候ともに今すぐ発て」

「俺たちはどうする?」

「派手に立ち回ってこちらに注意を引きつける」


 母とサマンサ様が外套を脱ぎました。

 

 外套の下は戦闘用の鎧。 


「少しキツくなってしまって…」

「私もです」


 二人共も、うふふっと笑います。

 笑っている場合ではないのですが…。


「お母様達は投降してはいかがですか?いえ、投降してください」

「そんな情けない事ができますか」

「情けないとかそういう事ではなく…」

「家の名を汚すわけにはいかないのです」


 わたくしはお父様を見ますが、首を横に振るだけ。

 説得しても無駄という事ですか…。


 わたくしの心配をよそに笑顔で会話する様子が場違い過ぎてなんとも言えない気持ちになりました。



「なんつうか肝が据わってるな。吸血族はみんなそうなのか?」

「そういうわけではないと、思います。あの時は、悲観的にならないように振る舞っていただけでしょう」



 嫌でも別れの時はやってきます。


「さあ、お行きなさい」

「お母様、わたくしは…」

「分かっています。同じ気持ち、ですから…」


 母はわたくしと強く抱きしめてくれました。そして、父が二人ごと抱きしめてくれる。


「ジル。生きて、生き抜いてくれ…」

「はい…」


 アリス様達も別れを惜しむかように抱き合っています。


「お嬢様方、そろそろ出発しましょう」

「はい。アリス様、行きましょう」

「うん…」


 案内役の付添人二人とターシャ、シオンとももに、ハーヴェイ家を出発しました。


 ゲオルグの一派に見つからないように北へ向かいます。

 

 一気に行きたいところですが、周囲の状況を見つつ目立たないように進みます。


「焦れったいわね…」

 ターシャが愚痴をこぼします。

「我慢するんだ。ここで見つかるわけにはいかない」

「わかってるって」

 シオンの窘めにターシャがため息を吐きました。


 アリス様は移動中、何度も後ろを振り返ります。

 ご両親の事が気になるでしょう。

 振り返りたびにため息を吐いていました。


「巡回が多くなってきたな」

「迂回するか?」

「時間をかけたくないんだが…」


 付添人がそう会話をしています。


「ここまで来たら強行突破したほうがよくない?森に入っちゃえば見つからないわ」

「森で待ち伏せしてる可能性もある」

「そうだけど、いつまで茂みに隠れてるわけ?」

「こういう事は経験者に任せたほうがいい」

「二人共喧嘩腰になってますよ。静かにしてください」

 ターシャとシオンの会話を止めました。


「そろそろいいだろう。行きます」

「はい」

「待てっ」

「どうした?」

「この気配は…」

「まさか…嘘だろ。なんでここにいる?」

「情報じゃ本拠から動いていないだったはず…」

 付添人は何かに驚きお互いを見ます。

「どうしたのですか?」

「ゲオルグが近くにいます」

「なんで?なんでこんな辺ぴな所にいるのよ?」

 ターシャが焦り出します。

「分かりませんが、今は動かずにできるだけ気配を消してください」


 どうしてここいるのかはともかく、ここで見つかっては元も子もありません。


 何か恐ろしいものが近づいて来るのが、わたくし達も分かりました。


 その殺気と威圧感に背筋が凍り、震えさえくるのです。

 ゲオルグの姿が見えない距離にもかかわらず…。


 議場で見た時には特に何も感じませんでしたが…ここまで殺気を放つ人物だったとは…。


 アリス様は小刻み震えていました。

 わたくしはアリス様の手を握ります。そんな事くらいしか出来ませんでした。


 やがて殺気は少しづつ小さくなっていきます。遠ざかって行ったのだと思います。

 

「はあ…」

 わたくしは大きく息を吐きます。皆もそうでした。


「やっば…」

 ターシャがそう呟いた時です。

 突然、茂みが掻き分けられたのです。


 ゲオルグの殺気に気を取られ、近くの気配に気づきませんでした。


 茂みを覗く者(おそらく男性)と目が合います。


 驚いた表情のまま、わたくし達を見回しました。


 付添人は咄嗟にナイフを抜きますが…。


「お願い…」

 ターシャが小声でそう言い、人差し指を口の前に立てます。


「おーい。そっちはどうだ?」

 茂みを覗く者の後ろから声。


「…誰もいないな」

「そうか…」

「この辺ははもう見たんだろ?」

 そう言いながら後ろに振り返り背を見せます。

「もう一回見ろとさ」

「何回、巡回させるんだよ…」

「知らねえよ」

「たった五人で把握できる広さじゃないじゃん」

「森を見に行った連中が戻ってくるんじゃね?逆に俺たちが森に行くのかも」

「戻って来たって、十数人程度じゃあんまり変わらないと思うけどな…」

「下っ端は言うことを聞いてりゃいいのさ、気にすんな」

 

 会話が声が遠くなり聞こえなくなりました。

 

「助かった…」

 

 ゲオルグと今のとで、疲労感が一気に増します。


「どういう事でしょうか?わたくし達を見逃してくれたのは」

「ゲオルグに従っている者が全員支持してるわけではないかと」

「議長のように人質と取られている可能性も?」

「あるでしょうね」


「今の教練所の一学年下の後輩よ…」

「どおりで見覚えがある思った」

 ターシャとシオンがそう話します。

「話した事はないんだけど…」

「向こうもこちらを知っていて見逃してくれたのかもしれない」

「見逃してくれたのは嬉しいのですが、もし見逃したとゲオルグに知れたら…」


 わたくし達のために命を奪われるとしたら…。

 そうでなくでも、罰せられるやもしれません。


「こちらには関係ないことです」

「気になされる必要はありません」

「はい…」


 見逃しくれた者の無事を願いました。


「さっきの話じゃ森の中にも巡回がいるらしいな」

「しかし、数は多くなようだ。森に入ったら速度を上げよう。いいですか?」


 わたくし達は頷きます。


「アリス様もよろしいですね?」

「うん…」

 わたくしの問いに力なく答えます。


 周囲を警戒しつつ、北側の森を目指します。

 

 難なく森に到着。


「やっとね…」

「少し休憩しましょう」


 茂みを探し、その中で休憩しました。


 この森は深く木々が生い茂っています。


 隠れて移動するにはいいですが、逆に待ち伏せにも最適となります。


 わたくしは母が持たせてくれた鞄の中身を確かめました。


 中には数着の着替え、櫛やブラシ、火打ち石、包帯と当て布など。

 

「これは…」

 目についた革袋。中身はドライフルーツがぎっしりと入っていました。


「アリス様、いかがですか?」

 彼女に勧めますが、首を振り断られします。

「お腹が空いていませんか?」

「いらない」

 お嫌いではないはずです。むしろ好物なはず。


 アリス様はハーヴェイ家を出発した時からずっと思い詰めた表情です。


 付添人にも勧めますが、こちらにも断られしまいました。

「自分達はいりません」

「食べれるうちに食べておいてください」

 そう言いつつ、周囲を警戒してます。


 わたくしはレーズンを少し食べて革袋を鞄にしまいました。


 ターシャとシオンも何かを食べたようです。


「これを渡しておきます」

「これは?」

「地図です」

 

 渡されて地図を開きます。

 地図は二枚。

 里と里周辺が書かれた物と、里の外が書かれた物。


 ターシャとシオンにも同じものが渡されました。


「このまま北に向かうと谷があります。そこを横切って、さらに山を超えると、川あってそこを超えれば里ではありません」

「はい」

「川を下るか、川を横切って更に山を越えれば、吸血族以外の町か村があるはずです」

「なるほど」

「大きな道もあるはずです。あとは出来るだけ目立たずに…」

「目立たずにって、それだけ?」

 ターシャは不満げです

「後は自分達でどうにかしろ、という事ですね」

「はい。申し訳ありません」

 付添人は頭を下げます。


 付添人に抗議しても埒が明きません。

 なんとか逃げて生き延びなければいけません。


 正直、不安ばかりでした。

 

 わたくしは里を出たの数回だけ。吸血族以外の町がどうなっているのかあまり詳しくは知りません。


「そんなに大差はないよ」

「そうですか…」


 ターシャとシオンは、頼まれ事をこなすため時々里を出ていて、わたくしよりも詳しいです。


「とりあえず、この鎧は脱いだ方が良いわ」

「…でしょうね」


 里でも普段着でこれを来てる者はいません。

 

 ターシャに幾つか質問をしていると付添人の一人が周囲を見つつ呟きます。


「妙だな…なんだ…」

「どうかしましたか?」

「静かすぎませんか?」 

「別に良いんじゃない?」

 ターシャは楽観視してるようです。

「何事もない、いつもの状況なら気にならないんですが…」


 確かに、今は穏やかではない状況なのです。


「この辺だけが、静かなのかも」

「そうなら、いいが…」

 シオンがそう呟き周囲を見回しましています。


「行きましょうか。妙な感じはありますが、いつまでもここに留まっているわけには行きません…」

 そう言って付添人の一人が立った時…。


 彼の肩口にナイフが突き刺さったのです。


Copyright(C)2020-橘 シン

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