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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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14-8


「どうしたんだ、ジル!集中出来ていないぞ!」

「はい。申し訳ありません…」


 あの胸騒ぎがシャイア様との稽古にも支障をきたしていました。


「この所、おかしいぞ」

「…」

「体に不調があるのか?」

「いえ…」 

「私について来れるようになってきたのに、これでは逆戻りだ」

「…申し訳…ありません」


 余計な事を考えず、集中しなければ…。


 自分の両頬を両手で叩きます。


「もう一度、お願いします!」

「ああ。…行くぞ!」


 お互い構えから動き始た途端、声が遠くから聞こえました。


「ご当主!」

「ん?なんだ!」


 使用人が駆け込んで来ます。


「どうした?ジルとの訓練中は声かけるなと…」

「申し訳ございません。緊急の要件でありまして」

「緊急?」

 

 使用人がシャイア様に耳打ちしまます。


「何?会議だと?次の会議はまだ先のはずだろう?」

「そうなのですが、先程伝令が来まして…」

「今から開くと?」

「はい」

「どういう事だ…。ジル、すまない。今日はこれで終わりにする」

「はい」


 シャイア様は戸惑いの表情まま会議へ向かわれました。


 予定にない緊急の会議…。

 気になったわたくしは会議を覗こうとシャイア様の後を追ったのです。


 会議が行なれる場所は里の中心。

 会議用の建物があるのです。


 そこでは代表者が集まり、吸血族をどのような方向に導くかを話し合う場所。

 

 会議場は壁で囲まれています。


 シャイア様を追いかけて会議場に来たものの、周囲は警備ため人員が配置されていました。

 

 会議場の周囲を見つからないように移動していると…。


「あれは…シオン?」


 警備の中にシオンを見つけました。 

 裏門のあたりにいます。


 いきなり出て行ったら、流石に怪しまれます。


 正面に戻り、警備に話しかけました。


「あの、すみません」

「何だ」

「シオン・ファスフォードはどちらにおられますか?」

「シオン?あいつに何か用か?」

「妹さんから伝言を頼まれまして…」

 ターシャ、ごめんなさい。あなたを使ってしまいました。

「伝言か…。あいつは裏門だ」

「そうですか。では、裏門に向かいます」


 裏門に行きかけると、すぐに止められます。

「待て、一人で行くな。俺も一緒に行く」

 そばに警備員に声をかけてから二人で裏門へ向かいました。


「お前、名前は?」

「わたくしですか?ジル・レヴァリエです」

「レヴァリエ…それは失礼した」

「構いません。敬語は不要です」

「うむ…」


 こういう時に自分の家が高位なのだと分かります。


「いつものより警備が厳重のようですが…」

「会議をやっています。緊急のものだそうで。参っています…出かける予定だったんですが…」


 彼は悪態をつきます。


 裏門も到着しました。


「シオン!お前に用だそうだ」


 呼ばれたシオンがこちらにやって来ます。


「ありがとうございました」

「いや。帰る時は俺に声をかけてください」

 そう言って警備員が去って行きます。


「ジル?どうしてここに?」

「ターシャから言伝を預かってます」

「ターシャから?」

「はい。ちょっとこちらに…」


 他の警備員達から離れます。

 そして、背を向け小声で話しはじめました。


「で、ターシャは何と?」

「すみません。嘘です」

「え?」

 当然ながら、彼は驚きます。

「シオン。あなたに協力してほしい事があるのです」

「協力?」

「会議場に入りたいのです」

「入りたいって…関係者以外は立入禁止だが」

「ですから、協力してほしいのです」

「うーん…」

 シオンはいい顔をしません。

「そもそも、なぜ入りたい?」

「会議の内容を知りたくて…あなたは気になりませんか?」

「気にはなるが…知ってどうする?知ったからといって、僕達にはどうする事もできない」

「そうですが…」

 

 確かにそうです。

 興味本位以外のなにものでもありません。


「そうだとしても、自分で確かめたいのです」

「君というやつは…最近、ちょっとおかしいぞ」

「はい」

「はあ…」

 シオンは大きくため息を吐きます。

「見つかれば、ライナス様に…いや、レヴァリエ家とハーヴェイ家にも迷惑がかかるがそれでも?」

「承知しています」

「全く…」

 シオンは呆れてもの言えないという表情でした。


 彼は他の警備員に断りを言って、正面と向かいます。


「どうするのですか?」

「この状況で忍びこむのは難しい」


 警備員が各所に配置されてますからね。


「正面から行く」

「は?」

「班長!」

 

 シオンが話しかけたのは、わたくしが先程話しかけた警備員です。

 

「おう。終わったか?」

「はい。あの、トイレを貸してくれませんか?」

「別に断りを入れる必要はないぜ。一言言って行けばいい」

「いえ、僕ではなく彼女です」


 え?。

 思わず彼を見てしまいました。


 シオンはわたくしを肘で小突きます。


「え?あ、すみません…急にお腹の調子が…」

 わたくしは苦笑いを浮かべつつお腹を押さえます。


「は?…んー…中にあります。今日だけですよ」

「ありがとうございます…」

「シオン、お前が連れてけ」

「はい。こっちだ」

「はい」


 シオンの後をついて行きます。


 トイレは議場の中ではなく外。


「どうするのか一言言っても良いではありませんか?」

「君が難題を言ってきた仕返しだよ」


 シオンがこんな事をする人物だったとは。意外でした。

 かなりの常識人と思ってましたから。


「あそこだ」

 彼は立ち止まり、指を指します。

「で、その上を見てくれ」

 視線を上に向けました。

「二階に小さなベランダがあるだろう?」

「あります」

「あそこから中が見えるし声も聞けるはずだ」

「この高さなら飛び移れます」

「できるだけ静かにね」

「はい。シオン、感謝します」

 わたくしは頭を下げまた。

「礼はいいから、早く行ったほうがいい。巡回が来るかもしれない」

「分かりました」

「長い時間は居れないから。呼んだらすぐに降りてくるんだ。約束だぞ」

「はい」


 数歩下がり助走をつけてベランダへと飛び移ります。

 

 ベランダは小さく、人よりも観葉植物を置くスペースのように見えます。


 窓には薄いカーテンがありました。


 見つからないよう身を隠しながら中を覗きます。


 議場の席は谷のようのなっており、議長らしき人物が一番下に座っていました。


 この場に全員が何を激しく言い合い紛糾しているようです。


「静粛に願います!ただいまの投票にてゲオルグ・ヴァンヴェールを族長とする事に決定いたしました!」


 なんですって!?。


「ふざけるな!」

 シャイア様が席を叩き立ち上がります。

「こんなものは無効だ!。いきなり呼び出し、事前通知もなしに投票だと!族長はまだ生きておれられるんだぞ!」

「口がきけん老いぼれは、もはや生きてるといえん」

 そう言ったのはゲオルグです。

「ゲオルグ…貴様、失礼にもほどあるぞ」

「事実を言ったまでのこと。族長の、王の席をいつまでも開けておくわけにはいかん」

「認めるものか…。議長!投票の無効を進言する!」

 シャイア様は強い口調で議長に迫ります。

「しかし…」

 議長は渋り、口ごもります。

 その議長に対しシャイア様達が抗議し始めました。

 その中にはわたくしの父もいます。


「議長、こんな事あっていいはずがない!」

「無効にしてくれ!」  

「議長!あなたには無効にできる権限があるんだ!」

 迫られる議長が口を開きます。

「無効にはしない…。家族を守らなければいけないんだ…」

 家族?。

「家族…まさか!ゲオルグ、貴様!議長の家族を人質に!…」

 なんてことを…。

「知らんな」

 そう言いつつ口角を上げ、ニヤリと笑います。

「言いがかりはよしてもらおうか」

 ゲオルグの腹心が前に出てきました。

「証拠を提出し正式に抗議しろ。証拠があるならな。ふっ…」

 笑みを浮かべています。

「貴様っ!…」

 シャイア様は腹心に迫りますが、わたくしの父ライナスが止めます。

「よせ!奴を殴れば、立場が悪くなるだけだ」

「くそっ…」


「今後は、このゲオルグが吸血族の王として取り仕切る!」


 シャイア様達の抗議は届かず、ゲオルグが王となってしまいました…。


「まずは…。シャイア」

「何だ?」

「貴様の娘、伝承の血の持ち主らしいな」

「お前は子供か?そんな噂を真に受けるとは」

「ほお…。嘘だと?」

「ああ、そうだ。どこの誰言い出した?」

 

 シャイア様は議場を見回します。


「嘘だと言うなら、それを証明して見せろ」

「この私が、嘘だと言っている!それが証拠だ」

「それで誰が信じる?」


 皆がシャイア様に注目します。


「娘を屋敷から外に出していないようだが」

「閉じ込めているような言い方だな。客人がくれば応対している」


 応対しているの事実です。


「伝承の血を独占しようとしているでは?」

 

 ゲオルグの腹心がそう話します。


「伝承の血ではない。そうだったとしても独占などしない」

「ならば、娘を連れて来い。我が直接、お前の娘の血を飲み確かめる」

「断る!アリスの血は誰もやらん!」

「そこまで強く拒否するとは。やはり、伝承の血だからではないのか?」

「勝手にそう思っていればいい。ゲオルグ、お前の命令には絶対に従わない」

「ふんっ…」


 ゲオルグは落ち着いた様子でシャイア様の話を聞いていました。


「ジル!…」


 シオンが下から呼びかけてきました。


「なんですか?」

「なんですか?じゃない。もう降りてこい。これ以上は怪しまれるぞ」


 もう少し居たいのですが…。


「分かりました…」


 わたくしは惜しみつつ、ベランダをおりました。



Copyright(C)2020-橘 シン

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