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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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14-5


 当初、アリス様と関係は最悪だったと言っていいでしょう。


 シャイア様から常に側にいるようにと言われ、アリス様のお部屋で二人っきり。


 ですが、お互い何も話さずに時間だけが過ぎていくのです。

 

 アリス様はお勉強かお裁縫をして過ごしていました。

 それか庭でサマンサ様と土いじり。

 お花を育ていました。


 訪ねてきた者達へ挨拶もきちんされる。

 

 しかし、よく話すのはご両親とターシャだけでした。


 こうなってくると嫌気が差してくるのです。


 わたくしも話さない事に決めました。


 必要最低限の報告と連絡のみし、無視を決め込んだのです。


 わたくしにも自尊心があります。

 

 ハーヴェイ家の下とはいえ、それなりの家系に生まれ育ってきたのです。


 ここまでされる謂れはありません。 



「我慢比べか?」

「はい」

 ゲイルさんは、ふっと笑います。



「ジル、アリスとはどうだろうか?」

「…」

 シャイア様にどう答えるべきか?。これが辛かったです。


 シャイア様としては、アリス様とわたくしをターシャのような関係にしたかったのでしょうが、どう考えても無理そうです。


「わかった…」

 シャイア様は答えないわたくしを察し、それだけを言いました。


「申し訳ありません」

「君が謝る事ではない」

「いいえ。わたくしもアリス様を無視しておりますの…」

「…はははっ」

 乾いた笑いを漏らすシャイア様。


「そうしてしまった気持ちは分からなくはない…。そんな事をしたところで君がいなくなるとは思っていないだろう」


 きっとわかってくれるはずだ、とシャイア様は話します。


「申し訳ないが、引き続き頼む」

「はい、承知しました。それでは失礼します」


 シャイア様の書斎を出ようとしたわたくしは足を止めました。


「シャイア様」

「ん?何かな?」

「アリス様と体術の試合をしたいのですが」

「やめておきたまえ。実力差がありすぎて訓練にならない」

 シャイア様は首を横にふります。


「あの小さな体にシャイア様以上の実力があるとは思えないのです」

「私が嘘をついていると?」

「いいえ、そのような事は…」

「すまない。意地の悪い言い方だな。うーん…そう望んだとしてもアリス自身が断るだろう」

「アリス様自身の承諾はあれば、許可していただけますか?」

「…まあ、それならいいだろう。しかし、どうする?アリスが素直に頷くとは思えないが…」


 わたくしにもどうすべきかわかりません。

 が、どうかにてアリス様との接点を増やさなければ、彼女の関係は深まらない。

 それも事実です。


「アリス様、わたくしと体術のお手合わせをしていただけませんか?」



「どストレートだな、おい」

「アリス様にはあれこれ策を練るよりも直接的に言ったほうが良いのではと」

 唐突過ぎてアリス様は少し驚いていましたけど。



「アリス様はシャイア様を超える体術の実力をお持ちと伺いました。是非とも、お手合わせをして…」

「嫌っ」

 即答でした。

「わたくしもそれなりの自信があります」


 アリス様はわたくしの言葉を無視して本棚に向かいます。


「自信がないのですか?」

 

 わたくしがそう言うと足を止めます。


「わたしがやりたくないだけ。それに意味ないし」

「そうですか…負けるのが嫌なのかと」

「負ける?負けるはあなた」

 アリス様は振り向きます。

「実際にしてみなければ分かりません」

「しなくても分かる。あなたは絶対に勝てない」


 彼女はわたくしを睨むように見つめてきます。


 その時のアリス様が、とても怖かったという印象を今でも覚えています。


「勝てない…」


 そうですか…。


「では、賭けをしませんか?」

「賭け?」


 賭け事は好きではありませんが、この場合アリス様との手合わせのためと割り切るしかありません。


「わたくしが負けましたら、お食事に出てきたトマトはわたくしが全ていただきます」

「え?全部?」

 

 アリス様が興味を持ってくれました。


「トマト全部、あなたが食べるの?」

「はい」

「たぶん…お母様が許してくれない」


 確かにサマンサ様のお許しを得なければなりませんね。


「お母様の許しがあるなら考える」

「そうですか…」


 手間が増えてしまいました。


 ですが、トマトの件だけで前向きになってくれた事は幸いです。


「わたくしが勝った場合は…」

「そんな事にならない。考えなくていい」

「ですが…」

「お母様に話をしてきて」

「…はい」


 

「どんだけ嫌いなんだよ、隊長は。嫌な思い出でもあるのか」

 ゲイルさんは苦笑いを浮かべます。

「よくわかりません…」


「ここでもスープに入ってる時ありますよね?どうしてるんです?」

「全てわたくしの方に避けてきます。でも、ウィル様達の前では食べますね」

「なるほど。礼儀はわきまえてるんだな」

「一応恥ずべき事とわかっておるのです」

 


「…という事なのですが…」

「事前に一言相談してほしかったわ」

「申し訳ございません」

 

 当然ながらサマンサ様はいい顔はせず、どうしようかしらとこめかみを押さえます。


「まあ、別にトマトを食べなくても生きて行けるから食べなくてもいいのだけれど…」

「アリス様の分をわたくしが食べますので」

「あなたが食べてもあの子の体には入っていかないでしょう?」

「はい…そうですね」

 

「分かりました…いいでしょう。許可します」

「ありがとうございます」

「でも、ジル」

「はい」

「この賭け、不公平でなくて?どうやっても、あなたはアリスには勝てないのよ」



「お母様が許してくれた?本当?」

「はい」

「信じられない…」


 アリス様の顔には驚きと嬉しさの両方が現れています。


「いかがですか?わたくしと試合していただけますか?」

「うん」

 アリス様はしっかりと頷きます。


 アリス様の承諾はいただきました。

 次はシャイア様への報告です。


「アリス様がすると言ったのか?」

「はい」

「何をしたんだ君は?」

「実は…」


 事情を聞いたシャイア様は呆れ顔で首を振ります。


「アリスが話をのむはずだ…。これはあの子を甘やかす事になるぞ」

「これぐらいしか思いつかなかったので…」


 シャイア様は頭を抱えます。


「仕方ない…か。ここで試合をするなと言えば、今度はアリスが抗議に来るしな」

 ため息をしつつもそう話します.

「それにアリスの許可があればと言ったのは、そもそも私だ」

「それでは、シャイア様も了承していただけけると」

「ああ。だが、勝手に始めるのはだめだ」

「はい」

「日時は私が決める。それまではいつもどおりに」

「かしこまりました」


 そして、数日後。


 場所は、シャイア様との圧倒的は実力差を見せつけられた林の中。


 指定の時間。夕食の前でした。


 林にはシャイア様とわたくしだけ。アリス様はまだ来ていません。


 わたくしは準備運動をしていました。

 

「よくアリスと戦おうと思ったな」

 シャイア様がそう話しかけてきました。

「こうでもしなければ、アリス様がこちらに興味を示してくれません」

「なるほど」

「実際、この件でまともに会話ができましたから」

 

 あいかわらず言葉数は少ないですが、大きな一歩と言えるでしょう。


 と、そこに現れたのはターシャとシオン。


 シャイア様の前で跪きます。


「シャイア様、お待たせしました」

「うむ」

「周囲には人影はございません」

 シオンはそう言います。

「このまま引き続き周囲の警戒を頼む」

「了解いたしました」

「ジル、頑張ってね」

「え?ええ…」


 二人は再びそれぞれ別れて林の中へ消えて行きます。


「シャイア様、今のは?…」

「うむ…あまり人目に付きたくないのだ」

「はあ…」


 わたくしにはなんの問題があるのかわかりませんでした。

 

「お待たせしました」


 アリス様がやってきます。

 ですが、鎧は身につけておらず、普段着のまま。


「鎧はいいのですか?」

「いらない」

「でも…」


 シャイア様を見ますが、頷くだけ。これでいいという事ですか。


「わかりました」

「では、始めようか」

「はい。アリス様、武器は使いますか?」

「わたしは使わない。使いたいなら、どうぞ」


 アリス様が使わないなら、わたくしも使わない事にしました。


「どちらかが降参するまでということだったが、それでいいか?二人とも」

「うん…はい」

「それで構いません」


 そう答えたわたくし達に向かってシャイア様がため息を吐きます。


「できれば、こんな事はしてほしくないんだがな…」

「トマトがかかってる。絶対やる」

 アリス様は意気込んでいました。

「トマト…」

 シャイア様は頭を抱えます。


「わかったよ…。二人とも離れて」


 わたくしとアリス様は十分な距離を取り、対峙します。

 

 左足を少し引き、腰を落として身構えました。


「では、始め!」



「来た来た!」

「おいおい、興奮すんなって。アリス隊長とジルの試合なんて何度も見てるだろ」


 ゲイルさんの言う通り、シュナイツでは何度もアリス様にお手合わせをして頂いています。

 アリス様の方が当然ながら強いので、胸を借りるという形になりますが。


「見てるけど、何度見てもすげえなって」

「あんな感じだったんでしょ?」


 隊員達の会話が盛り上がっていますが、アリス様との初対戦は盛り上がりもせずに、あっさりと終わってしまうのです。



Copyright(C)2020-橘 シン

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