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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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14-4


「シャイア様、一つ聞いてもよろしいですか?」

「何かな?」


 館へ戻る途中、でシャイア様に質問をしたのです。


「アリス様もシャイア様がお鍛えになられたですか?」


 父の話ではアリス様はシャイア様以上の実力の持ち主というこでした。


「私はアリスに稽古をつけた事はない」

「え?本当ですか?」

「ああ」

「では、誰かお鍛えになられたのですか?」


 シャイア様は立ち止まり、少し間をおきます。


「とある時期からアリスは私を超える力を持ったのだ」

「…どういう事ですか?」

「私にもわからない。一体全体、どうしてこんな事になったのか…」

 そう言って小さく息を吐きました。


「運命と言ってしまえばそれで終わりだが…アリスはそんな力を望んではいない。私もサマンサもだ…」

 

 シャイア様は眉間に皺をよせます。


「この事についても話さなければいけないな」

「無理に問いただす事はいたしません」

「そうか…ありがとう…」

 

 それだけを言うと館へ向かいました。

 わたくしも自室へ戻り汗を拭き、着替えます。


 そして、メイドにサマンサ様が呼んでいると言われ、サマンサ様の元へと向かいました。


「怪我はないようね。よかったわ」

「はい」

「どうだったかしら?」

「手も足も出ず…」

「そうでしょうね…」

 サマンサ様は苦笑いを浮かべます。


「あなたは若いのだから、これからよ」

「はい。シャイア様も伸びしろがあると」

「あの人が言うのなら間違いないわ。期待していますよ」

「はい。精進します」

 わたくしは頭を下げました。


「運動をしたらお腹が減ったでしょ?昼食よ。これをアリスとターシャの所に持って行ってくれる?あなたの分もあるから、一緒に食べて」


 トレイには大き目のサンドイッチが三つとティーセット。

  

「わかりました」

 

 アリス様は昼食は自分の部屋でお一人で摂るの日課だという。

 朝食と夕食は出来る限り家族で一緒に摂るようにしている。

 と、サマンサ様は話してくれました。


 トレイを受け取り、アリス様のお部屋へ。


「アリス様、昼食をお持ちしました」


 戸口に出たのはターシャ。


「昼食を持って来ました」

「そう。ありがとう」

「三人で食べるようにと、サマンサ様が」

 ターシャが部屋の中のアリス様を振り返ります。

 わたしくもアリス様を見たのですが、あからさまに顔を背けられてしまいました。


「ターシャ。なんとか取り次いでいただけますか?」

 小声でそう彼女に伝えます。

「ジルにしちゃ弱気じゃない?」

「そうも言われもて仕方がないです。どうしていいか分からないのですから…」

「明日以降、大変よ」

「分かっています」

「私も時間がかかったんだから」

 ターシャは苦笑いを浮かべた後、トレイを持ってくれました。

「これは 貸し よ」

「返えすあてがありません」

「ふふっ、もう真に受けないでよ」

 彼女はそう言って部屋の中へ戻って行きました。わたくしも彼女に続きます。


「アリス様。昼食です」

「うん、ありがとう」

「今日はジルも一緒ですけど、いいですよね?」

「うん…」

 アリス様はわたくしとは視線を合わさず頷きます。


 多少強引でもいいのでしょうか。

 ターシャはアリス様の扱い方(失礼な言い方ですが)を熟知しているようです。


 丸いテーブルを三人で囲むように座ります。


 それぞれの前にサンドイッチが乗ったお皿が置かれました。

 ティーセットは真ん中に。


「それじゃ、いただきます」

「いただきます…」

「いただきます」


 最初に口をつけたのはターシャでした。

 わたくしはまだです。


「おいしい。さっすがサマンサ様」

 ターシャがそう話します。


 わたくしはアリス様を見ていました。

 彼女はサンドイッチには手をつけず見つめたまま。

 そして、サンドイッチを横から覗き込むです。


 サンドイッチはごく普通のもののように見えます。


「どうされました?」

「トマト入ってる?」

「入ってますね」

 ターシャが自分のサンドイッチを見ながらそう答えます。

「アリス様、好き嫌いはいけませんよ」

「うん…」

 ターシャの窘めに頷きますが、サンドイッチには手をのばしません。


「トマトがお嫌いなのですか?」

「…」

 わたくしの問いには、頷くだけ。


「はあ…。お母様は嫌いだって分かってるのに…」

「好き嫌いあると綺麗になれないんですよ」

「別に綺麗でなくていい」

 と、アリス様は言いますが、彼女はどう贔屓目に見ても整った顔立ちをしています。


 すでに綺麗です。


「ジルはどうして食べないのよ」

「え?ああ…食べます」

「ちょっと待って…」

 ターシャはそう言ってわたくしを止めます。

「はい?」

「ああ、なるほど」

「なんですか?」

 彼女は自分のサンドイッチを見て頷いています。

「ピクルスが入ってるから躊躇してたんでしょ?」

「…そういうわけではありません」

 

 本当です。

 苦手、というだけで食べれないわけではありません。

 さすがにお皿いっぱいを出されたら拒否しますが…。


「ピクルス好き」

「トマト大丈夫です」

「うーん…じゃあ、こうしましょ」


 ターシャはアリス様とわたくしのお皿を引き寄せます。

 そして、ティーセットの中にあったスプーン二つを取り出しました。

 

 アリス様のサンドイッチからトマトを取り除き、わたくしのサンドイッチからピクルスを器用に取り出し、入れ替えました。


「下品よね、正直」

 そう言いつつもお皿をわたくし達に返します。


「ターシャ、ありがとう」

 アリス様は喜んでサンドイッチを頬張りました。

 わたくしも一口食べます。


「いつもこんな事を?」

「ごく偶にね」

「偶にですか…」

「サマンサ様は感づくから多用は厳禁」

「なるほど」


 昼食を食べ終え、ティータイムとなります。


 会話はターシャが積極的に話し、場を盛り上げていました。


 アリス様はターシャとは話すものの、わたくしとはあまり話しません。

 

 紅茶も飲み終えたので、トレイにお皿を乗せて立ち上がります。


「お下げします」

「私もそろそろ失礼しなくちゃ」

「ターシャ、もう行っちゃうの?」

「すみません。今日は訓練場の方にも行かないといけませんので…」

 

 そう言えばシオンがそっちに行っていましたね。

 

「そう…」


 アリス様は顔を伏せます。


「また来ますから。それでは失礼いたします」

 ターシャは丁寧に頭を下げました。

 わたくしも頭を下げ、ターシャとともに部屋を出ます。


「ねえ、ジル。教練所はどうするの?」


 教練所とは、一般的な教養と他に体術や武器術を学ぶ所です。

 

 初等、中等、高等と別れています。

 何歳から学ば始めなければいけない、何歳までに学び終えなければいけないといった決まりはありません。

 高等まで学ぶ必要もありません。初等まででも構わないのです。


「ハーヴェイ家に住み込むという事ですので、学校には行きません」

「そう」

「単位は高等まで全て取得済みですので、行かなくても大丈夫かと思います」

「うわぁ。もう取ったんだ…私、一般教養が残ってる…」

 ターシャは苦笑いを浮かべます。


「出席日数は?」

「それも大丈夫かと思うんですが…お母様に事情説明と確認に行ってもらう事になってます」


 ハーヴェイからの命あれば、出席日数が多少、足りなくても修了証はいただけると思います。

 

 わたくしは特に修了することにこだわってはいませんでした。

 学ぶべき事はすべて学びましたから。


「じゃあ、ここで」

「はい。また今度」

「うん」


 ターシャと玄関で別れ、わたくしはダイニングへ。


「ごちそうさまでした、サマンサ様」

「お口にあったかしら?」

「はい。とても美味しかったです」


「あら。綺麗に食べたわね」

「…はい」


 サマンサ様はトレイを見つめます。

 

 トマトとピクルスを入れ替えのが分かったのでしょうか?


「まあ、いいでしょう。今日は、大目に見ます」


 そう言うとトレイを受け取りました。


「何かお手伝いする事はありますか?」

「そうね…」


 アリス様のお部屋に戻ろうかと思いましたが、明日以降で良いというお話でしたので時間が空きました。


「特にないわ」

「そうですか」

「夕食の時まで部屋でお休みなさい。今日は色々あって疲れたでしょう?」

「わかりました。そうさせていただきます」


 わたくしは自室に戻り、荷物の整理と仮眠を少し取りました。

 

 そして、夕食。

 ハーヴェイ家三人とともにという事になりました。


 美味しくいただいたのですが、アリス様との会話はありませんでした。


 こちらから話しかけても、うん か いいえ のみ。

 明日以降が思いやられます。

  



Copyright(C)2020-橘 シン

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