14-2
「ハーヴェイ家からの命を拒否したらどうなる?」
「無所属を言い渡されて、後ろ盾がなくなるでしょうね。極々普通の家になるかと思います」
使用人など雇う事は出来なくなるでしょう。
「あの、吸血族ってどうやってお金を稼いでるんです?商売とかをしてるイメージないんですけど」
吸血族は表立って活動することはないので、そう思うのはよくある事です。
吸血族は他の種族と争いが終わり人間と交わり始めると、吸血族としての身体能力を活かし要人の護衛や諜報部員として雇用される事が多くなります。
守秘義務があり、どこの誰に雇用されているかは絶対に明かしてはいけません。
雇用されて、その報酬の半分を、里に収める決まりなっています。
その配分は長老会が決め、配分される。
ハーヴェイ家など有力な家系から配分され、さらに下に配分される。
「どこにも所属していなかったら?」
「生きて行ける最低限のみ配分ですね。あとは必要に応じて何か商売をするか、農業など。あえて里を出る者もいます」
「へえ。どこかに所属していたほうがメリットは多いわけだ」
どこかに所属していれば互助を受ける事もメリットとしてあります。
「はい…ですが、わたくしの身に起こったような事になると…」
「デメリットになるか…」
ゲイルさんはなるほどと、頷きます。
わたくしに起こった事は異例中の異例ですが。
ともかく命令には逆らう事は出来ません。
ハーヴェイ家に住み込むようにと書いてあったので、その準備をし始めます。
「何故、わたくしが…」
「わたくしの方が年上なのですよ…」
「はあ…もう…」
これほどまでに悪態をついたのは初めてでした。
鞄四つに服や必要なものを詰め込みます。
「ジル様…」
「なんですか!」
「ひっ…」
思わずメイドに叫んでしまいました…。
「あっ、ごめんなさい。つい…」
何をやっているんですか、わたくしは…。
「いいえ…」
「何か?」
「いつお戻りになるのですか?」
「…わかりません」
書面にはいつまでとは書いてありませんでしたから。
「そうですか…。いない間、私はどうすれば…」
「お母様が言いつけを守っていればよいです。時間があくと思うので、勉強をしてもよいでしょう」
「はい…」
戸惑うながらも頷くメイドに寂しさを感じます
メイドにまで影響が及ぶとは…。
後日、ハーヴェイ家へ向かいます。
「ジル…申し訳無い」
「…」
わたくしは父を無視しました。
「この人の、失態をあなたに尻ぬぐいさせてしまってごめんなさい」
「お母様に謝られても…」
「そうですね…。良い経験が出来ると、前向きに考えましょう」
「はい」
良い経験…どう考えても良い経験なるとは思えませんでした。
「いってまいります」
家を出て、ハーヴェイ家へ。
ハーヴェイ家はの屋敷はそう遠くはありません。
鞄を持ち歩くわたくしを、何事かと振り返る人々。
レヴァリエ家の人間が何をしているかのと思っているでしょうね。
「ジル!」
「はい?」
脇道から呼ぶ声に振り向きます。
声がした方には二人。
「ターシャ、シオン…」
ターシャ・ファストフードとシオン・ファストフードがこちらにやってきます。
二人は双子の兄妹。
友人です。
シオンが兄で、ターシャが妹です。
ターシャは髪は短め。シオンは長髪でした。
二人とは幼馴染。年齢も同じ。
同じくハーヴェイ家に属しています。
「何なんなの、その荷物」
「これは…」
顛末を聞いた二人は当然ながら驚きます。
「本当かい?それは」
「嘘でしたら、ここにはいません」
「よりによってシャイア様に…」
「親しき仲にも礼儀ありと…」
そう、ですよね…。
父とシャイア様は友人同士。しかし立場はわきまえないといけません。
「わたくしの事は気にせずに。お二人はお出かけですか?」
「君と同じだ」
「アリス様に会いに行くの」
そうでした。
二人はハーヴェイ家によく出入りしていたのでした。
「荷物を持とう」
シオンがわたくしの鞄を持とうと手を出します。
「いえ、結構です」
「ハーヴェイ家の屋敷まではまだある。無理をすることない」
「いうほど重たくないので…」
「持たせてあげて。兄貴はジルに良い所を見せたいんだから」
「いや、僕は別に…。ほら、貸して」
シオンは半ば奪うかのように、わたくしの鞄を持っていってしまいました。
「ありがとうございます」
わたくしはハーヴェイ家への道すがら、二人にアリス様の事を聞きます。
「お二人はハーヴェイ家のご息女アリス様とは仲がよろしいのですか?」
「うん」
「そうですか…わたくしはどのような人物なのか存じ上げないので…」
「会った事あるでしょ?」
「一度だけ」
「一度だけ…意外ね。レヴァリエ家はハーヴェイ家とは近いんじゃなかった?」
「まあ、そうなんですけど…」
親同士は交流はあるものの、一度会ったきりです。
「仲がいいっても、最近よね?」
「ああ。ここ一年ほどかな。僕は、アリス様とは仲がいいわけでないよ。仲がいいのはターシャの方さ」
「そうですか。どのような方ですか?あまり喋らないという印象しかありません」
「変わったお人じゃないわ。普通だと思う。結構、お喋りよ。人見知りはするかも」
「なるほど」
人見知りだとしたら、あの時に喋らなかったのは納得いきます。
ハーヴェイ家の屋敷までもう少しの所まで来ました。
「シオン。ありがとうございました」
「どういたしまして。僕はここで失礼する。近くに訓練場があるんだ。父を手伝って来るよ」
「はい」
シオンは訓練場へと向かった行きました。
ハーヴェイ家の屋敷はとても広いです。わたくしの自宅の倍以上はあります。
正面の門で立ち止まり、館を見つめます。
「ジル、行かないの?」
「正直にいうと行きたくありません…。なぜ、わたくしがよく知りもしない者の側仕えにならないといけないのですか」
拒否できない事は分かっていますが…。
「恨むならおじさまを恨むのね」
「恨んでます。事態が発覚して以降、口を聞いてませんから」
「あら…」
「はあぁ…」
ここで立ち往生していても仕方がありません。
「ターシャ、お先どうぞ」
「うん」
彼女は普通に屋敷に入り、普通に館へと入って行きました。
ここで怖気づいてはレヴァリエ家の者として面目が立ちません。
いや、すでに面目は立っていないのですけど…。
わたくしは大きく息を吸い、屋敷へと踏入ました。
そして館のドアを叩きます。
「どちら様でしょうか?」
玄関先に出てきたのは、執事と思われる人。
「レヴァリエ家から来ました。ジルと申します。シャイア様の命より参上いたしました。シャイア様にお目通りをお願いいたします」
「少々、お待ち下さい」
わたくしは玄関先で待ちます。
待っている間、使用人達が行き交い、わたくしをチラチラと見て行きました。
「やあ」
館の奥からシャイア様が表れました。
「久し振りだね」
シャイア様は怒っているようには見えず、穏やかな表情です。
「シャイア様。この度の父の失言、申し訳ありませんでした」
挨拶もそこそこに、謝罪し頭を下げました。
「それはもういい。済んだ事だ」
「そう言っていただけると痛み入ります」
「謝るべきはこちらかもしれん…」
「それはどういう…」
「いやいや、何でもない。さあ、来てくれ」
「はい」
シャイア様の招きに、荷物を持とうとした時です。
「彼女の荷物を部屋の方へ」
「かしこまりました」
使用人が荷物を持って行ってしまいます。
「自分で持ちます」
「いいんだ」
「しかし、わたくしはアリス様の側仕えという事ですし、客人扱いをされるわけには…」
「いいんだよ。さあ」
納得いかないまま、シャイア様に促され館の奥へと進んでいきました。
「流石にレヴァリエ家の者を足蹴にするわけにはいかないだろう?」
「そうされてもいいくらいの失態を父は犯しました。それに表向きの体面もあります」
「真面目だな。君は」
シャイア様はそう言って笑います。
寛大な方と前々から思っておりましたが、これほどとは予想外です。
「最上級のもてなしとはいかないが、それなりの待遇をするつもりだ」
歩きながら、そう話します。
「そう私が決めた。気にせずに生活してくれ」
「はい…かしこまりました」
シャイア様がお決めなったのなら、反対する余地はありません。
それに従うだけです。
「まずはアリスに会ってもらう」
という事でアリス様のお部屋へ赴くのです。
Copyright(C)2020-橘 シン




