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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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33/142

13-13


 アリス様の口づけもいただくべく、長蛇の列ができています。


 わたくしはお止めになったのですが、アリス様のご意思は変わらず兵士達の頬に口づけをされてました。


 高貴な家系であるアリス様がなんてことを…。

 わたくしはできるだけ視界に入れないようにしていました。


 全員が希望したわけではありません。

 全員ではない、その中にゲイルさんもいました。


「よろしいのですが?」

 弓兵隊の宿舎の前に座り込んでいるゲイルにそう尋ねました。

「何がだよ?」 

 ため息を吐きつつそう言います。


「アリス様の口づけです」

「興味ねえな…」

 ゲイルさんは機嫌が悪いようでした。

 それもそのはず、仲間として振る舞わければいけなかったのにそれが出来なかった。


 彼を…いえ、彼を含めシュナイツの方々を裏切る形になってしまったのです。


「…」

「…」


 アリス様の所に兵士達が集まり盛り上がっている中、ここは重い雰囲気。


 謝罪はしたものの、彼の機嫌は変わりません。


 このままでは任務等に支障が出かねません。


「イヤッホー!」

 アリス様の口づけを貰ったミャン隊長が喜んでいます。

「喜びすぎだ」

「あ、ライアも反対側にキス頂戴」

「ぼくがする理由はないだろう?」

「理由なくてもいいから」

「お断りだ」

「エー!」

「うふふ」

 アリス様はミャン隊長とライア隊長のやり取りを見て笑っていました。


 アリス様の兵士への口づけがやっと終わり、こちらへとやってきます。


「ゲイル。あなたにも、よければ。わたしは構わないから」

「俺はいいですよ」

 彼は首と手を横に振る。

「じゃあ…」

 アリス様はわたくしを見ます。

「ジルがしてあげて」

「はい?」

 わたくしはアリス様が言っている意味がわかりませんでした。


「あの…どういう事でしょう?」

「ジルがゲイルのほっぺに口づけして」

「何故、わたくしが…」

「あー、そいつはいいな」

 ゲイルさんが勢いよく立ちがります。


「よくありませんし、そんなはしたない事はいたしません」

「お前がしてくれたら機嫌が直るかもしれないな」

 彼は言いながら、わたくしに近づきます。

「そんな事…卑怯ではありませんか…」

「口づけ一つで直るなら、手っ取り早くて安いもんだろ?」

「安い…」


 わたくしは少し怒りを覚えました。


 口づけとは尊いものだと思っていたからです。


「深く考えすぎだろ、お前…」

 ゲイルさんはため息を吐きます。

「頬じゃなくていいって、ここにしろ」

 そう言って右手の甲を上にして差し出しました。

「…分かりました」


 正直言うと、したくはありませんでしたが、しなければ彼の機嫌は直らないようですし、周囲がわたくしを見てましたので仕方が無く…。


 わたくしはゲイルさんの右手を取り、その甲に軽く口づけをしたのです。


「ありがとよ」

 そう言うと、彼はわたくしが口づけをした所に自分の口づけを重ねるようにしました。


「お、間接キス」

「その手があったか…」

 周囲の兵士達の声。

 

 よくわからないのですが、感心しています。


「え?どういう事ですか?」

「お前…」

 ゲイルは苦笑いを浮かべています,

「アリス隊長もそうだけど、お前も育ちが良すぎて世間知らずだよな」

「アリス様は特異な環境でしたからですが、わたくしは一般常識はわきまえてるつもりです」

「そうかよ…」

 彼はわたくし達から離れていきます。

「じゃあな。おれ、警備のシフトだから」

「待ってください。間接キスとはなんですか?」

「おれとお前は口づけしたって事だよ。間接的に」

「え?」


 間接キスとはそういうことと初めて知りました。


「わたくしとゲイルさんが?…」

 そう思った途端、顔が熱くなります。


「待ってください!取り消しを」

「おいおい、できるわけねえだろ」

 彼は振り向き、また右手の甲に口づけをしました。


「ジル」

 ゲイルさんは真顔で話しかけます。

「おれは、お前と普通にキスしたいと思ってるよ。こんなんじゃなくてな」

 右手を見せながら、そう言って去って行ってしまいました。


「あの、どういう意味ですか?…」

「ジルさん…」

「マジで?」

 周囲の兵士はわたくしの様子に困惑しているようです。

「キスしたいって事は、好きって事だよね」

 アリス様の言葉に周囲の兵士達が頷いていました。


 ゲイルさんがわたくしの事を?…。

 知りませんでした。 


「結構、わかりやすい態度出していましてけどね」


 恋愛事に興味ないまま過ごしてきたわたくしは

 やはり、世間知らずだったのでしょうか。 


 しかし、これはどうすればいいのでしょう…。


「ジル」

「はい」

 アリス様が話しかけてきました。

「おめでとう」

 そう笑顔で言います。

「は?…」

「ゲイルはジルの事、好きなんでしょ?だから、おめでとう」

「あっ。あ、あのアリス様、勘違いされています!。わたくしはゲイルさんの事はなんとも思っていません」

「ほんと?」

「本当です」


 アリス様がおめでとうと言った意味。

 

 吸血族は子供を授かりにくい種族でして、子を種族を増やす為、早く結婚する事を推奨しています。

 ですので、相思相愛で適齢期であれば、即婚約となる事は不思議ではなく日常茶飯事なのです。

 

 しかし、先程申し上げたとおり、わたくしは恋愛に興味がなくゲイルさんに対して特別な感情はありませんでした。


「残念…」

 アリス様は息を吐き肩を落とします。

 

 わたくしは、アリス様が恋愛事に興味があった事に驚きました。

 どっちが世間知らずなのかわかりませんね…。


 と、とにかくゲイルさんの事は特に何とも思っていない事は確かです。


 しばらくゲイルさんの顔を見れない日が続きました。


 まあ、それはいいのとして…。

 

 アリス様とわたくしに対する脅威はなくなりました。


 まだゲオルグの手下が残っているので、里に戻りらないといけませんが、それはまだ先の話です。


 


「最大の脅威が去った事に安心しました」

「心配で眠れない夜もありましたから」


「わたくし達を助けてくださったヴァネッサ隊長やウィル様を含めシュナイツの方々には感謝を申し上げ…感謝しきれない程の借りが出来たことは言うまでありません」

「借りを返すべく、出来る限りの貢献を誓っています」


「隊員達とのコミュニケーションですか?」

「もちろん、出来る限りの努力をしています。ゲイルさんに言われた通り、食事や会話等を積極的に行っています」

「以前より良くなったではないでしょうか」


「ジル。あんた、ゲイルとの個人的な仲はどうなってんの?」


「ヴァネッサ隊長?。ゲ、ゲイルさんとの仲は今、関係ないのではありませんか?」


「うん、まあ。あたしが気になっているだけなんだけどさ」


「では、ここで申し上げなくても…」


「だいぶ距離が縮まってきたんじゃない?」


「あの、ですから…」


「あたしはいい事だと思うよ。アリスを守るのも大事だけど、自分の事も考えないと」


「はい…」


「あたしは叱っているんじゃないからね」


「分かっております」


「ゲイルの事が嫌いなら話は別…」


「嫌いではありません。わたくしの経験不足でしょう。いまいち距離感がわからないだけすので…」


「そう…。そういう事なら、もう言わないよ。その距離感は必ず見つかるから、深く考えるんじゃないよ」


「はい…」


「アリスとジルの話は一旦、ここまででいいね」


「まだ話すべき事がありますが?…」


「今度でいいでしょ?意外に疲れるし、食事にしよ」


「分かりました。ということですので、失礼致します」



エピソード13 終

Copyright(C)2020-橘 シン

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