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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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32/142

13-12


「あんた達は行かなくていいの?」

 

 アリスが約束した勝利の口づけに兵士達の列が出来てる。


 でも、ライノ、ステイン、サム以外の竜騎士は行かずに宿舎の前にたむろしてる。


「自分は興味ないです」

「おれもです」

 ガルドは、訓練はしばらく中止と言ったのに、体を動かしている。模擬剣は持っていないけど。

 レスターは地べたに座ったまま。

 


「スチュアートとミレイもかい?」

 二人も頷く。

 

 二人は宿舎の前に座っている。


「冷めすぎじゃないの?」

「お言葉ですが、隊長には関係ないかと…」

「そうだけどさ」

 スチュアートが苦笑い浮かべて言う。


「イヤッホー!」

 ミャンがアリスに口づけをもらい喜んでる。


 なんでミャンが混じってんだか…アリスは気にしていないみたいだけど。


「それにしても…」

 レスターが何かを話しかける。

「なんだい?」

「いや、死んだ奴がいなくて良かったなって」

「ああ。そうだね…」


 ゲオルグが 気 を使えると知った時はどうなるかと思ったけど、大事にはならかった。

 だけど、兵士ほぼ全員が何かしらの怪我をしてる。

 あたしもその一人。


「隊長の怪我は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ」

 そうガルドに答える。

 実際、大した事ないし。包帯は巻いてるけど。


「あんた達も大した事なさそうだね」

「ぼくは後ろの方にいたから全然…」

 ミレイは話しかけながら井戸の方を見る。

「どうしたの?」

 井戸の方を見るとカリィが水を桶に汲んでいた。

「すみません。ちょっと、失礼します」

 彼は小走りにカリィの方へ向かう。そして、彼女に気さくに話しかけ笑顔を交わす。

 笑顔で話しつつ、水汲みを手伝う。


「ずいぶんと仲良さそうじゃないの。いつの間にかさ」

「結構、前からですよ」

 スチュアートがそう話す。


 スチュアートが言うには、ミレイは早朝に走り込みをしているらしい。

 カリィがメイドの中で一番早起きらしく、ミレイと会う事が多いとか。


「へえ、それできっかけで仲良くなったっと…」

「傍目から見ればですけどね」

「やるじゃないか。隅に置けないね」


 他人の浮いた話って嫌いじゃないよ。

 自分のは嫌だけど。


 ミレイは取手のついた桶二つを両手に持ち館へ向かう。カリィとともに。

 そして、館の中に入って行った。


 どこまで持って行くの。

 と、思ったらすぐに出てきて、こっちに帰ってくる。


「ご苦労さん」

「え?あ、はい。失礼しました」

「いいや」

 あたしは笑顔で首を横に振る。


「あの…ぼくの顔に何かついてますか?」

 ミレイはあたしに見つめられて、ちょっとバツが悪そうにする。

「なんにもついてないよ」

 そう言いながら立ち上がった。

「喧嘩なんかしないで、仲良くするんだよ。末永くね」

 彼の肩を軽く叩く。

「はあ…あっ、カリィとは、そ、そんなじゃなくて…」

「あたしは、カリィとは言ってないけど?」

「…」

 ミレイは顔を赤らめ視線を外す。


「はははっ。じゃあね、あたしは執務室に行ってるから。ガルド、休める時に休んでおかないと体にガタが来るよ」

「はい」

 って言ってやめる奴じゃない事は分かってるけど、一応言っておく。


 館へ行く途中でゲイルとすれ違う。

 何故か右手を見ながらニヤついていた。


「あんた、何ニヤついてんの?」

「え?ああ、いや別に…」

 ゲイルはニヤついたまま。

「ジルって、いい女だなって。個人的に」

「こっちもかい…」

「はあ?」

「何でもないよ…。大事にしなよ」

「分かってますよ」


 執務室に向かう。 

 二階に上がると、エレナが自室から出る所だった。


「ちょうど良かった。あなたに聞きたい事がある」

「なんだい?」

「 気 について詳しく」

 エレナは真面目な顔で(彼女はいつも真面目だけど)訊いてくる。


「ああ、それね…」


 正直いうと、あたしにもわからない。

 不思議な力としかね。


「具体的に」

「 気 は身体能力を高くするみたい」

「みたい?」

「教えてくれたシュナイダー様も詳しくなかったんだよ」


 身体能力を高くする。

 明らかに尋常じゃなく動けたり、力強くなったり。


「後、魔法のように 気 そのものを武器として使う事もできる」

「ゲオルグの様に?」

「うん」


 アリスも使っていたね。


「魔法のようなものと考えていいものなのか」

「たぶんね」

「よくわからない」

「集中力を高めてイメージする所は似てるかもね」

「そう…。あなたも使える?」

「一応ね」

「どの程度?」

 エレナは興味津々で訊いてくる。


 あたしができるのは、丸太に拳が入る程度の穴を開けることができる。

 剣に気を纏わせ、それを放つ。


「さほど強力ではない」

「まあね」

「シュナイダー様はどの程度の事が?」

「あの人は…」


 三人分くらいある木に幹を半分削ってた。


「そんなに…」

 エレナは驚いてる。

「削って倒した木が城内だったもんだから、兵士が集まって来てさ…」



「何事ですか!?シュナイダー様!」

「いやぁ…別に特に大した事はない。幹が腐っていたようだ。後処理を頼む」


「って、しれっと立ち去るっていう…エレナ?」

 彼女は顎に手を置き、真剣な眼差し。

「え?ごめんなさい。聞いてなかった」

「まあ、いいけど」


 探究したがるのは、研究を主とする魔法士の職業病か。


「出来れば、あなたが 気 を使う所を見せてほしい」

「あーそれはダメ」

「どうして?」

「それやると肘が痛くなるんだよ。あたしは下手くそでさ」

「体に負担がかかると?」

「たぶんね。でも、シュナイダー様は特に痛くなったりしないから。あたしは向いてないんだよ」


 詳しくないあたしが説明する事は限られている。


 エレナは納得いってないようだけど、それで納得してもらうしかない。


「ごめんね」

「いいえ」

「もしかしたらシュナイダー様の兵法書に書いてあるかも。時間がある時に探してみて」

「ええ、そうする」


 あたしも 気 に限らず兵法書は読んでおかないといけないね。


 エレナとは別れ執務室へ。

 

 執務室にはフリッツ先生がいた。


「先生?何やってんの?」

「ん?うーん…」

 浮かない顔だ。


「薬が足りなくなるかも」

 ウィルがそう話す。

「王都でしこたま買って来たでしょ?」

「これだけの怪我出たら足りなくもなる」

 先生は頭を抱える。

「薬だけではない。包帯や当て布もな」

「買いに行くかって話をしていたんだ」

 なるほど。


「行くとしたらリカシィまで行かないと…」

「そういう事なら竜騎士隊を出すよ」

 あたしの提案にウィルは渋る。

「また襲撃が来ないかな?」

「あたしはないと見てるけど」

「ゲオルグの手下が残ってるって…」


 確かにゲオルグが言っていた。


「だけど、薬が足りないままはよくないでしょ?」

「うーん…」


「竜騎士に行ってもらいましょ。しかたないわ」

 リアンは竜騎士が行くには賛成みたい


「虎の子の竜騎士隊を出すのは反対だよ。あの襲撃なかったら、構わないんだけど…」

 ウィルは襲撃の第二波を恐れている。


「襲撃があったとしても、ゲオルグがいない分、向こうの戦力は相当落ちる。それに吸血族の弱点を突く事もできるから、心配するほどの事はない。あたしはそう思うね」


 これはウィルを安心させるためじゃなくて、あたしの経験則からの考え。


「君の考えを否定するわけじゃないけど…」

 ウィル自身も迷ってるんだね。


「薬がないわけじゃないからなぁ。いよいよなったら、竜騎士に行ってもらうしかないだろう」


 とりあえずは状況を見るという事で落ち着いた。


 リカシィまで行かせるとなるとスチュアートとミレイかな。竜の足が速いからね。


「状況は知らせた。わたしは戻るよ」

「はい、ありがとうございます」


 先生は執務室を出ていった。


 わたしは先生が座っていた椅子に座る。


「どうぞ」

 アルがすぐさま紅茶をくれる。

「ありがと」


「君は何か用でも?」

「別にになにもない。暇だから来ただけ」

「暇って…」


 実際、暇だし。

 

 あの襲撃で多数の怪我人が出て、訓練はしばらく中止だから。


「あんなに怪我人が出るとは思わなかったよ…。相手は十人だったよね?」

「ああ。人数は大した事はなかったけど、相手が悪すぎた」


 怪我人は出たけど程度は軽い。


 ウィルにとっては初めての襲撃になった。

 彼には衝撃的な出来事だったのかもしれない。


「みんな、平然としてるのが不思議だよ」

 ウィルは苦笑いを浮かべる。


 外じゃアリスの口づけで盛り上がってるしね。


 感覚が違うんだね。


「修羅場くぐって来てるからね」


 今回の襲撃がまだまだ穏やかものだったと後に知る事になる…。

 



Copyright(C)2020-橘 シン

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