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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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31/142

13-11


「ジル!」

 わたくしに起こった事態にゲイルさんとヴァネッサ隊長が駆け寄ります。

 ですが、わたくしはそれを手で止めます。

 そして、二人に小さく頷きました。

 二人は理解してくれたようで、数歩の所で止まってくれました。


「アリス様は十分に戦いました。どうか、心優しいアリス様にお戻りください…」

 わたくしはアリス様の両肩を掴み訴えます。

「まだ足りない…」

 そう言ってナイフをねじり上げる。」

「くうっ!…アリス様ぁ…」

 

 わたくしはアリス様を抱きしめました。


「わたくしはここにいます…分かりますか?。一人ではありません。一人になんかさせません。お約束を、誓いを破ったりなんかしませんから…どうか、お戻りを…」

 耳元でそう囁く。


 ナイフがさらにねじりられ、引き抜かれる。

 それともに出血し、意識が遠のく。


 さほど出血はしてないんですが、ゲオルグとの戦いでダメージが大きかったでしょう。

 ふらつき膝をついてしまいました。


 その時にナイフが鳩尾から引き抜きられます。


「おい、ジル!」

「大丈夫です…」


 アリス様を見上げました。

 

 彼女はわたくしを見て、それからわたくしの鳩尾から引き抜かれたナイフを見つめます。

 そして、そのナイフついたわたくしの血をひと舐めするのです。


「ジル…」

「アリス様?…」

 アリス様のか細い声に答え、立ち上がりました。


「どうして、ジルの血が…」

「違いますっ。それはわたくしの血では…」

「これはジルの血…その傷…わたし…わたしが、ジルを…なんで…」

「アリス様、落ち着いてください。わたくしは大丈夫ですから…」

「嫌…わたしがジルを…なんで…」

 アリス様は取り乱し始め、呼吸が荒くなります。


「はあ、はあ、はあ…」

「いけません!アリス様、わたくしはここにいます」

 

 首を横にふりながら後ずさるアリス様。


「いや…いや…いやあああああぁ!」

 

 アリス様は発狂し、叫び声をあげました。同時に金切り声も。


「アリス様!」

「来ないで!わたしはジルを…大事なジルを傷つけて!…なんで…。あああああぁ!」

「アリス様!!」


 お腹を押さえアリス様に近づきます。

 その前に誰かがアリス様に近づきました。


「アリス!ごめん!」

 ヴァネッサ隊長がアリス様を殴り倒し、後ろから抱きしめ動きを止めます。

 ですが、ヴァネッサ隊長の腕の中で暴れてしまいます。


「いやあ!ジルが!わたしが!」

「落ち着くんだよ!アリス!」

「ん!んー!」

 ヴァネッサ隊長はアリス様の口を塞ぎ、耳元で話していました。


「よく見なよ。ジルは生きてる。あんたは確かにジルを刺したけど、これくらいで死んだりしないでしょ!わかるかい!」

「んー!んっ…ん…」

「アリス様…」


 アリス様は少しづつ落ち着き始めます。


「アリス、終わったんだよ…全部…。ゲオルグも一巻の終わりさ」

「…」

「大丈夫かい?大丈夫でしょ?」」

 

 アリス様は小さく頷きます。

 ヴァネッサ隊長はゆっくりとアリス様の口から手を離します。


「ジル!」

 ヴァネッサ隊長はアリス様を解放しました。


「アリス様!」

 わたくしはアリス様をしっかりと抱きしめます。


「ジル、こめんなさい」

「よいのです。大丈夫ですから」

 わたくしの出血は止まりかけていましたから。


「芝居は終わりか?…ふっ…はあ…はあ…」

「ゲオルグ…」


 アリス様はゲオルグに気づき近づきます。


「我を倒しても、配下の者は多数いる…まだ、終わらんぞ…」

「終わりです。あなた以上の強さを持つ吸血族はいません。それに…」

 わたくしはアリス様を見ます。

 彼女は小さく頷きました。

「真実を知れば、アリス様の血を求める事が無意味だと分かるでしょう」

「真実だと…知れた事」

「永遠の命と最強の体ですか?」

「そうだ」

 わたくしは首を横に振る。

「違うだと?…馬鹿な!伝承には、特別な力があると…」

「特別な力とはなんですか?具体的な内容は書かれていません」

「だが…」

「あなたが勝手に、そう思い込んでいただけです」

「ふざけるな。シャイアがアリス様を隠し、その血を独占しようとしたではないか」

 ゲオルグが怒り、体を震わせます。

「隠したのは守るためです。勝手に都合のよい解釈をしたあなたから…アリス様もお気持ちも知らずに…なんて事をしてくれたのです」

「ジル、もういい」

「しかし、アリス様…」

 アリス様はわたくしを気遣い背中を擦ってくださいました。


「ゲオルグ。真実をあなた自身で確かめなさい。望み通り、わたしの血を与えましょう」

 彼女はそう言うとご自分の指先を噛みます。

 その指先から血が滴り落ちていく。

「おお…」

 ゲオルグが身を乗り出します。


「さあ、あなたが望んだわたしの血です」

 アリス様は指先をゲオルグの口に近づけます。

「ちょっと!何やってんの!?」

 ヴァネッサ隊長が慌てて割り込んできました。

「ヴァネッサ隊長、大丈夫です」

「大丈夫って…」

「見ていてください」


 ゲオルグの口にアリス様の血が滴り落ちる。


「これが…伝承の血…力が湧き上がる!」

 そう言うと胸に刺さったアリス様のナイフを自ら引き抜きます。

 胸の刺し傷は見る見る間に塞がっていきました。


「おいおい…やべえって…」

 ゲイルさんとヴァネッサ隊長は後ずさります。


「我の思い違いだと?。ならば、これはどういう事だ。これのどこが思い違いだと言うのだ!」

 ゲオルグは立ち上がりナイフを高々と掲げます。

「これで吸血族は再興する!。我が道に敵なし!」


 そう叫んだ瞬間、ナイフがゲオルグの手から落ち、地面に刺さります。


「ジル…ゲオルグの指が…」

「はい」

 ヴァネッサ隊長が異変に気づきました。


「ん?なんだ…」

 ゲオルグは不思議そうに自分の手を見つめる。

「どういう事だ…これは…」


 ゲオルグに起こった異変。

 彼の指先から石化が始まっていました。


「それが、あなたが求めた血の真実です」

「なんだと…」

「アリス様の血には永遠の命等をもたらすものではありません。死をもたらすものなのです」

「馬鹿な…」

 ゲオルグはアリス様に手を伸ばしますが、その手の指が砕け散ります。

「あああ…くそぉ…」

 膝をつき狼狽するゲオルグ。


「何故、言わなかった?…」

「聞く耳を持たなかったはあなたです。話し合い場であなたは、アリス様の父君を罵倒し、進言を無視。自分達に都合の良い情報を鵜呑みして、同胞を殺し始めた…」

「確かな情報だと…まさか、我を落としていれようとしたのか…あいつが…」

 そう言ってる間に石化が進行して行きます。

 

 落胆と困惑がゲオルグの顔に表れます。


「なんという事だ…我の失策だと…」

「ごめんなさい…」

 アリス様はゲオルグに謝罪しました。

「何故お前が、謝るのだ…」

「わたしの血がこんなものでなければ…」

 彼女は涙を流します。

「お前から多くを奪った我に涙するのか」

「わたしは誰も傷つけなくなかった。あなたさえも…」


「慈愛…それだけでは、生きては行けん。身を滅ぼす言葉だ」

「死に際でも、アリス様を愚弄しますか…」

「愚弄ではない。警告だ」

「吸血族は、あなたが思っているほど弱くはありません。皆、誇りを持ち強く生きています。例え、滅びゆく運命だとしても、その誇りは消えません。絶対に」

「だと良いがな」

 

 ゲオルグの石化は手足から始まり首のあたりまできいてます。


「最後に言い残す事はありますか?」

「今更…」

 笑顔で笑いを漏らす。


「我の吸血族に栄光あれ…」

 そう言うと全身が石に変わってしまいました。


 アリス様は石に変わってしまったゲオルグに近づき、肩に手を触れます。

「安らかに…」

 そう言葉をかけると、砂塵となり崩れさってしまいました。


「ゲオルグはゲオルグなりに吸血族を思っていた…。わたしには出来ない…どうすればいいのか…」

「ゲオルグのやり方は間違っています。アリス様はそのままでよろしいのです。煩わしい事はわたくしが請負ますから」

「うん…ありがとう…」


「ジル、アリス」

「ヴァネッサ隊長…」

「終わりだよね?」

 ヴァネッサ隊長は真顔で言います。

「はい」

「…説明、してくれるよね?」

「はい」


 当然ながら、アリス様の血の真実をお教えしました。

 

 アリス様の血は永遠の命等を得られるものではなく、死をもたらすものであると。


「死ぬのは吸血族だけかい?」

「はい。吸血族の血がわずかでも混ざったいれば、たちまち石に砂に変わってしまうのです」

「なんで言ってくれなかったの?」

「申し訳ありません。無用の混乱…いえ、怖がらせたくなかったので…」

「あんたね…」

 ヴァネッサ隊長はため息を吐きます。

「ジルは悪くない。悪いのはわたし…」

「良いとか悪いとかじゃない。内容にもよるけど、お互いの信用に繋がるでしょ…言って欲しかったよ、あたしは」

「申し訳ありません…」

「ごめんなさい…」

 わたくしとアリス様は頭を下げました。


「なんかおかしいなって思ったんだよね。作戦会議の時にさ、アリス様の血をジルがってあってでしょ?」

「はい」

「アリス様が異常に拒否したから…こういう事かって今更納得してる」


「おれは納得出来ないですね」

「ゲイルさん…」

 ゲイルはわたくし達に背を向ける。

「おれは言ったよな?最初に教えてほしいって」

「はい。仲間、だからと…申しわけ…」

「謝らくていいって。お前はどう思ってんだよ」

「勿論、仲間と思っております」

「わたしも…」

 彼はわたくし達に振り向きます。

「なら、なんで言わなかった?」

「ですから…混乱と恐怖が…」

「馬鹿にするんじゃねえよ。おれ達はその程度の事であたふたなんかしねえって!」

 彼は声を荒げ話していました。

「不幸背負ってますって、幸薄い顔しやがって…そういうのを共有するのが仲間ってもんだろ?少なくてもおれは!いつでも出来る覚悟と自信はあるぜ」

 そう言うとため息を吐き、去って行きます。

「やってられねえよ…。おれは帰ります、隊長」

「みんなにも帰るように、伝えて」

「はい」


「ゲイルにもみんなにも悪い事をした…」

 アリス様は顔を伏せます。

「それが分かっているなら、みんなに説明して謝ればいい」

「やはり説明しなければいけませか?」

「しなきゃ不信感が残ると思うよ。実際、見られているわけだしさ」

「そうですね」

 

 レスターやガルドさん以下比較的軽症の兵士達はこちらを見ていました。


「それが嫌なら…。今ここで、シュナイツを立ち去る」

「嫌です」

 アリス様が即答する。

 そんな彼女にヴァネッサ隊長は笑顔を見せます。

「あたしも嫌だよ」

 そう言って、アリス様に近づき肩を抱き、頭を撫でる。

「あたしがそばにいて手助けするから…。とりあえずは戻ろう」

「はい」


 館へも戻ろうした時、アリス様がわたくしに倒れ込みました。


「アリス様!」

「…」

 彼女を支え、一度地面に寝せます。


「落ち着きな。息はしてる」

「はい…。先ほどまで普通にしていらしたのに…」

「安心して気が抜けたのさ。体力も消耗してるし」

「…そうですね」


 アリス様の顔は苦悶の表情ではなく、穏やかな顔でした。


「そういや。負傷した左目も光っていたけど、治ったのかい?」

「どうでしょう…」

 

 一応、確認します。


「失礼いたします」


 アリス様の左目をそっと開けました。

 

 眼球は真っ黒で治ってはいませんでした。


「不思議な力で治るではないかと思いましたが…残念です」

「仕方ない。こうやって生きてるだけでも御の字だよ」

「はい、本当にそうです」


 アリス様を館の部屋へ運び、やっと息をつきました。 



 アリス様に関する事情説明は、後日行われました。


 彼女のご意向で領民にも伝えられます。


 ウィル様、リアン様にはより詳しい説明をしました。

 

 リアン様には、お聞かせしたくはなかったのですが…。


「私も仲間でしょ?。大丈夫だから、言いなさい」

 そうおっしゃるのでご説明いたしました。

 顔色が少し悪くなった程度でしたので安心しました。


「事情は分かった」

 ウィル様はわたくし達の説明を聞き終え、頷きます。 


「二人はこれまで通りシュナイツにいるんだよね」

「はい。よろしければですが…」

「もちろん、構わないよ。ね?リアン」

「ええ。いてほしいし、いてくれないと寂しくなるわ」

 お二人は笑顔でそうおっしゃってくださいました。


「ありがとうございます」

「ありがとう。ウィル様、リアン様」

 わたくしはアリス様とともに頭を下げました。


 そして、アリス様がお約束した勝利の口づけを、希望者にされたのです。




Copyright(C)2020-橘 シン

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