表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/142

13-10


「もう、誰も傷つけさせない…」

 

 アリス様の体から出る気。 


 彼女は眼帯を自ら外す。

 そこには瞳はありません。しかし、真っ赤に光っていました。


「アリス様!いけません!」

 わたくしはアリス様の様子を見た瞬間に、彼女を止めようと飛び出そうとしました。

 ですが、ヴァネッサ隊長に止められます。


「ジル!近づいちゃだめだよ」

「アリス様を止めないと…早く」

「どうして?アリスも気を扱えるなら、ゲオルグに対抗できる」

「だめ、だめなんです」

 わたくしは首を横に大きく振る。

「アリス様は気の制御ができないのです」

「できないって、今現に…」


 確かにゲオルグの放った気を受けても、アリス様はびくともしない。


「今のアリス様は自我を失っています。あるのはゲオルグへの怒りのみ」

「失っちゃまずいのかい?」

「自我があることで、抑えていたのです。自我がなくなれば、無制限に開放されて…」

「暴走する…。ミレイみたいぶち切れてるわけか」

「はい…。ゲオルグは倒す事はできると思いますが、もしかしてしたらわたくし達も巻き添えに…」

「そいつはまず過ぎる。ミレイなら一発殴ればいいけど、アリスはそうもいかないよ」

 ヴァネッサ隊長は唇を噛みます。


「貴様も使えたのか。当然いえば当然」

 ゲオルグは不敵に笑う。

「血に選ばれただけはある。さあ、来い!。伝説の血の力を我に見せてみよ!」

 

 その瞬間、アリス様が消え、ゲオルグが飛ばされました。


「うがぁっ」

 転がりながらも体制を整え立ち上がるゲオルグ。


 なんという、力…。

 手も足も出なかったゲオルグをたった一発で飛ばしてしまう。


「今のは…」

「アリス様がゲオルグのみぞおち辺りに肘を入れたように見ました」

 速すぎてわたくしにもはっきりと見切る事はできませんでした。


「だからさぁ、おれにも分かるように戦ってくれねえかな…」

「ゲイルさん!大丈夫ですか?」

「なんとかな。お前は…大丈夫そうだな」

 ゲイルさんを助け起こします。

「助けようとした、おれが馬鹿みたいだぜ…」

「そんな事は…」

「自己責任なんだからほっときなよ」

 ヴァネッサ隊長はそう話してため息を吐きました。


「良い。やはり戦いはこうでなくは!」

 ゲオルグがアリス様に突撃し、攻撃を加える。


 その攻撃は速すぎて、ヴァネッサ隊長達には残像しか見えません。


「どうなってんの?アリスが攻められっぱなしだよ」

「アリス様はゲオルグの攻撃を全て受け止めています。右手のみで…」

「マジか…アリス隊長、すげえ…」


 受け止めているアリス様の体勢は変わりません。

 体重差があり、ゲオルグの攻撃も一発一発が重いはずですが…。


 ゲオルグに初めて焦りの表情が見えます。


「くっ!。これならば!」

 ゲオルグは右拳に気を纏わせたままアリス様の顔めがけ突き出す。


「ふっ…」

 ゲオルグは笑みを浮かべますが…。


 アリス様は左手でゲオルグの拳を受け止めていました。それをゆっくりとひねる。

「くそっ」

 ゲオルグは左拳も同じように突き出しますが、受け止められてしまう。


「…」

「貴様!…」

 

 アリス様はゲオルグの拳を離し、反撃をします。


 わたくしにもはっきりとは見えない凄まじい速さの攻撃。

 

「アリス様…」


 わたくしは非常に心配でした。

 アリス様が無表情なのです。

 

 ゲオルグを圧倒するその力。

 そんな力をアリス様は望んでいない。


「我を追い込んでいるだとぉ!?」


 ゲオルグはアリス様の攻撃に避けるのもままならず、打ち込まれる突きや蹴りを防御体勢のまま耐えるしかない。

 

 一旦、距離をとるものの、すぐに追いつかれる。


「フン!」

 アリス様の隙きを、やっとの事でつき、ゲオルグの蹴りがアリス様の胸に当たり倒れます。ですが、彼女は何事もなかったように立ち上がる。

  

「…」

「馬鹿にしおって…」

 

「ゲオルグ、引きなさい!あなたではアリス様に勝てない!」

「だから馬鹿にするなと言っている!」


 ゲオルグはわたくし達に向かって腕を薙ぐ。


 いけない!


「伏せてください!」


 ヴァネッサ隊長とゲイルさんにそう言いながら、二人を守るように立ち、ゲオルグの気の衝撃波に耐えるため腕を交差させて踏ん張る。


 衝撃波を待っていましたが来ず、腕の隙間から見ると、アリス様が立っていました。


「アリス様?…」

「…」

 アリス様は何も言わず、ゲオルグと近づいて行きます。


 アリス様が守ってくれた?。

 まだ自我が残っているのでしょうか?。


 残っているのなら、取り戻す方法を考えなければ…。


「アリス様!…」

 わたくしの声には反応を示さず、遠ざかっていくアリス様


「やっぱり、自我を失っているようだね…」

「ヴァネッサ隊長…。はい…」

「止められるのはあんただけだよ?あたし達も協力するけどさ」

「はい。ご協力感謝します」


 今は見守るしかありません。


 ゲオルグは自分に近づいたアリス様に攻撃を仕掛けますが、彼女には効きません。


「何故だ?。どこからそんな力が出てくるのだ!」

 狼狽するゲオルグ。


「ならば、これならどうだ?」

 

 ゲオルグはアリス様に突進します。が、彼女の横をすり抜け、わたくしの方に向かってきました。


「ジル!逃げろ!」


 逃げるわけにいきません。すぐうしろにはヴァネッサ隊長とゲイルさんがいるのです。


 一気に迫られ左手で胸ぐらを掴み持ち上げられる。


「アリス!お前の血と交換だ。拒否すればコイツの命はないぞ!」


 アリス様は背を向けたまま。


「アリス様!わたくしに構わず、ゲオルグを討ってください!」

「黙れ!」

 ゲオルグの拳がお腹にめり込む。

「うっ!…」

「ジル!ゲオルグ、てめえ!」

「ゲイルさん…離れ、ください…」


 ヴァネッサ隊長がゲイルさんを引っ張り離れていきます。


「どうする?アリスよ」


 アリス様は背を向けまま、右手を横に出します。

 すると、手放したナイフがどこからともなく現れ、アリス様の手に収まります。

 彼女のゆっくりと振り向き左手を横に。左手にも同じようにナイフが収まりました。


 そして、アリス様が消え、わたくしは地面に落ちました。ゲオルグの腕ともに。


「なっ…」


 ゲオルグの腕は、肘からバッサリと斬られていました。


 アリス様が回し蹴りがゲオルグの頭にあたり、その勢いで転がります。


 わたくしを掴んでいたゲオルグの腕は砂へ変わりました。


「腕一本など、どうにでもなる」


 ゲオルグは右手で腕の傷口を掴む。そして、傷口から斬り落としたはずの腕の先を引き出します。


 腕の再生。

 こんなに早くできるとは思いませんでした。


「なんて事…」


「はあ…はあ…」

 さすがゲオルグも腕の再生には体力を消耗したようです。


「あなたには死を与える…。覚悟しなさい」

 アリス様は抑揚のない、低い声でそうゲオルグに告げる。

「馬鹿を言うな。我が小娘一人に負けるなどあるものか…」

 ゲオルグは息を整え身構えます。


「アリス様…もう、おやめください。後はわたくし達が…」

「…」

 彼女は何も言わずにゲオルグに近づいて行きます。


 アリス様は素早く近づき、通り過ぎながらゲオルグの脇腹を切り裂く。

 そして、背中を切りつけ、正面に回り込み胸、手足を切りつけていきます。

 何度も何度も…。


 着ていた鎧は切り刻まれボロボロになって落ちていきました。


 ゲオルグはアリス様を捕まえようとしますが、出来ずに一方的に斬り刻まれだけ。

 

「くそっ!…。こんな所で…こんな所で果てる訳にはいかのだ!」


 ゲオルグは叫び声を上げる。そして、体全体から気が吹き出す。


「うおおおおおっ!」


 気でアリス様を吹き飛ばし、その彼女へ突進する。


 突き出す拳も蹴りも、アリス様には当たらない。


「ゲオルグ…」

 哀れに思えてきました。

 

 無理と分からずに、ただアリス様の血を求め立ち向かっている。


 その強さを別の何かに向ける事は出来なかったのでしょうか…。

 

 ゲオルグは消耗し、片膝をつき動きを止める。


「はあ…はあ…」

「それで終わり?」

 アリス様はゲオルグに向かって問います。


「こんなはずはない…認めんぞ!」

 アリス様は強がるゲオルグに近づき…。


「ぐあああぁっ!」


 ゲオルグの胸にナイフを突き刺す。


「やったか?…」

「いや、まだ生きてるよ」

 ゲイルさんとヴァネッサ隊長がそう話します。


「アリス様!」 

 わたくしはアリス様の元へ走りました。


 彼女はゲオルグの胸にナイフを突き刺したまま、ナイフを握っています。


「アリス様…終わりました。ナイフをお離しください」

「まだ終わっていない…死んでない」


 虚ろな目。


 わたくしはナイフを握っているアリス様の手を引き剥がすように離していく。


 ゲオルグがそのナイフを掴もうする。


「お止めなさい。それに触れればあなたの心臓は止まります。そうなる事はあなた自身もわかっているはず」

「くっ…」

 ゲオルグの手が震えています。


「アリス様、目を醒ましてください。もう戦う必要はないのです。どうか…んんっ!」

 アリス様のもう一つのナイフがわたくしの鳩尾に刺さました。



Copyright(C)2020-橘 シン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ