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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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13-7


 ミャン隊長が倒れた姿を見たわたくしは怒りを覚えました。


 彼女は気さくで屈託のない方です。


 ミャン隊長とヴァネッサ隊長と一緒に短槍の型を作った時、とても感謝されました。


「いや~助かったヨ」

「いえ…わたくしは何も…。元の型が半分出来てましたし」

「それでももう半分はジルのおかげだヨン。持つべきものは友だネ」

 そう言って笑顔で肩を叩かれのを覚えています。


「あたしは無視かい!」


 身体能力は高く、わたくしも気を抜けば負けてしまう程です。

 

 その彼女がゲオルグにやられ気を失う。

 わたくし達を受け入れたくれた大事な人が倒された。さらにアリスも狙っている。

 許しがたい事でした。


「ゲオルグ!許さない!」

 

 ナイフを両手に、ゲオルグへ突撃する。


「はあああああ!」


 ゲオルグに斬りつけ、蹴りや肘打ちを食らわせる。


「ふっ…」


 しかし、全てが弾かれ防がれてしまう…。


「はあ…はあ…」

「混血しては、やる。だが、お前の父はもう少し出来ていたぞ。我を止める事はできなかったがな」

 お父様…!。

「黙れ!父の仇、今ここで取る!」

「ふはははっ!。仇か、いいぞ。さあ、やってみろ」

 ゲオルグは両手を広げる。


 ナイフを握り直し、低い姿勢のままゲオルグに向かって走り出す。


 奴のすぐ横をスライディングで通り抜け、背後へ。

 すぐに立ち上がり背中を狙う。


 いける!


「覚悟!」


 右手のナイフを突き出し、奴の背中の中心に突き刺し…。


「甘いな」

「な…」


 ナイフはゲオルグの脇の下の間にあり、空を刺しただけだった。


「見えなかったか?」


 見えなかった…。

 少しだけ横に移動しただけ。


 見えなかっただけじゃない。

 完全に攻撃を読まれていた。

 ゲオルグは背後を取られても振り返る事はなかった。 


 距離を取ろうとしたが、腕を捕まれと同時に引っ張られて肘打ちのもろに顔面に食らってしまう。


「うぐっ!」


 腕を捕まれてまま、腹や背中を何度も打たれ、終いには放り投げられてしまいました。


 一矢を報いる事も出来ないのか…。

 自分を情けなく思いました。


「ジル!」


 アリス様の声が遠くに聞こえる。

 

 ここで終わってはいけない。

 

 空中でなんとか姿勢を変えて地面に降りる。


「はあ…はあ…」


 両手にはナイフがまだある。


 口の中の血を吐き出す。


 呼吸を整え、ナイフを構える。


「ほお…まだやるのか?その意気込みは褒めてやろう。だが、何が出来る?」


 何も出来ないかもしれない。だからといって、何もせずに諦めたくはない。


 わたくしが倒れれば、次はアリス様です。

 少しでもゲオルグにダメージを与えておきたい。


「ジル!もうやめて!」

 アリス様…。


 わたくしはアリス様に精一杯の笑顔を見せました。


「レヴァリエ家を継ぐ者として、この程度で倒れるわけにはいきません!」

「御託はいい…」

 そう言って、手招きする。

 

 いいでしょう。


 わたくしは呼吸を整え。そして、ゲオルグへ向かう。


 走る速さを徐々に上げていく。


 ゲオルグの手前で軽く飛び、体を横回転させる。

 つむじ風…いえ、竜巻のイメージです。


 高速回転しながら、ナイフによる突きと斬撃、蹴りや肘打ちを連続で叩き込む。


六花旋風迅(りっかせんぷうじん)!」


 父から教わった技です。


 この技でゲオルグに思いの全てをぶつける。


 ですが、渾身の攻撃は避けられ弾かれてしまいました…見るも無残に。

 父から貰った形見と言えるナイフまでもが折れてしまう…。


「期待したほどではないな!」

 見えない動きで首を捕まえる。

「自分の血を呪うがいい!」

 それから真上に投げられ、地面に着く直前にゲオルグの掌底がわたくしのお腹にめり込む。


「ぐはぁ…」


 わたくしは後ろ、アリス様達の方へ突き飛ばされてしまいました。

 

 転がるわたくしを受け止めたのはゲイルさんでした。


「ジル!」

「ゲイルさん?…うっ!ゴホッ!ゴホッ!」

 咳き込んで血を吐く。

 お腹のひどい痛みで息ができない。


「ジル!ジル!」

「ア、アリス様…」

「…ジル…」

 アリス様が泣いている。

「申し訳…ありませんでした…」

「…」

 彼女は何も言わずにわたくしを抱きしめる。

 

「ジル!大丈夫かい?」

「大丈夫、です…」

 わたくしは立ち上がろうとしますが、足に力が入りませんでした。

「ゲイル、ジルのを館へ連れて行くんだよ」

「はい」

「大丈夫です、本当に…」

「無理することないぜ」

「アリス様の側に…いたいのです。無理をしてでも…それがわたくしの使命だから」

 そう言って、アリス様を見る。

「うん。見ていて、ジル」

「はい…」

 アリス様が立ち上がる。


 彼女は外套を脱ぎ、自分のナイフを確かめる。


「アリス、ちょっと待ちな」

「はい?」

 ヴァネッサ隊長がアリス様を止めました。


「あんたの実力は知ってるけど、今回ばかりはあんただけに任せられないよ。あたしの判断で加勢する。エレナの魔法もあるんだから、これで…」

「結構です」

「え…」

 アリス様はきっぱりとヴァネッサ隊長の提案を断りました。


「あんた…刺し違えるなんて考えてないよね?」

 アリス様は首を横に振ります。

「わたしは負けないし、逃げたりもしない。ここにいるために、わたしがゲオルグを倒してくる。ヴァネッサ隊長も見ていてください」

「見てるけどさ…」

 ヴァネッサ隊長は何か言いたそうな顔で、わたくしを見ました。


「ヴァネッサ隊長、手出しは無用にお願いします。わたくしはアリス様を信じています」

 

 アリス様は負けない。

 わたくしにも確信とまではいかないまでも予感がありました。

 希望と言うべきかもしれませんが。


「分かったよ…」

「ありがとうございます。アリス様、ご存分に」

「うん」

 アリス様は大きく頷く。


 ゲオルグに向かうアリス様の後ろ姿。

 その小さな背中が頼もしく見えました。


 不安ですか?


 不安も心配も、なぜかありませんでした。不思議ですね。


「ゲイルさん、肩を貸してください」

 わたくしは膝に手をつき立ち上がる。

「無理すんなって」

「大丈夫だという姿をアリス様に見せたいのです。アリス様を心配させては実力は発揮できませんから」

「お前ってやつはほんとに…」

「何か?」

「別に…。ほらよ」

 わたくしはゲイルさんに助けてもらい立ち上がりました。


 アリス様はゆっくりとゲオルグの方へ。


 わたくし達から見て横向きに対峙します。


「素直に血よこせば、痛い事はしなくて済むぞ」

「わたしの血が欲しいのなら、力ずくで奪えばいい。あなたが今までそうしてきたように」

「ふっ」

 ゲオルグが笑みを浮かべる。


「ゲオルグはアリス様の血を手に入れ、独裁を望んでいるのです」

「独裁って…今もそうでしょ?」

「吸血族だけではありません。世界を手に入れるつもりなのです」

「まさか…嘘でしょ」

「嘘ではありません」

 わたくしは首を振る。


「かつて吸血族と他の種族で争い事があったのはご存知でしょう」

「知っちゃいるが、あれは吸血族が悪い…すまん、お前らの事じゃなくて…」

「ええ、昔の話です。吸血族は他の種族の無差別に捕らえ、その生き血を飲んでいたのです。それが争いの原因です」


 しかし、人間との交わりが増え始めます。

 混血が普通となると吸血族の本能が薄れ、自らの自制よって他の種族との争い事なくなっていく。


「争いはなくなったんだから、ゲオルグが戦う意味はないと思うけど?」

「今は、そうです。しかし、ゲオルグは争い事があった時代の生き残り」

「生き残りって年いくつだよ」

「二百五十歳は超えています」

「マジで…」

「その殺伐とした時代の記憶が、頭から離れないのでしょう」


「じゃあ、なにかい。ゲオルグは未だに他の種族と戦争中だって思ってるの?」

「おそらく」

「クソジジイの個人的な恨み巻き込まれたのかよ、俺達は?」

「巻き込んだのは、わたくし達にも原因があります」

「お前らは何もしてない。被害者だろうが」

「そうですが…」


 わたくし達も原因はあるのです。間違いなく。


「今更、原因どうこう言ったって仕方無いよ。あたし達には何もできない。アリスも見守るくらいしかね」


 ヴァネッサ隊長の言う通りです。

 

 すべてはアリス様に託されたのです。



Copyright(C)2020-橘 シン

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