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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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26/142

13-6


 囲い込みを抜け出した手下がこっちに来る。


 弓兵では、対応出来ない。射線上に味方いる。

 的を外せば味方に当たる。


 ジルがナイフを抜いた。

 アリスもナイフに手をかけている。


「あたしが行く。任せな」


 二人には、二人にしか出来ない事をしてもらうんだ。

 ここはあたしが行かないとね。

 

 あたしは長剣を納め、背中からショートソードを抜き手下の方へ駆ける。


 吸血族は基本ナイフを使って来る。振りの素早いナイフに長剣では不向きだ。


「ここは、通さないよ!」


 手下は迷わずナイフを抜き、斬りつけてくる。

 それをショートソードで弾き、逆にショートソードを突きだす。

 これは簡単に避けられ蹴りを繰り出して来る。


「やるじゃないの」

「…」


 マスクをしているので表情は分からない。


 やはり、ナイフ裁き体捌きは、吸血族だけあってうまいし、素早い。

 だけど、アリスやジルほどじゃないね。


「死ぬ覚悟があるなら、本気を見せてみな!」

「ちっ」

 舌打ちが聞こえた。


 突きや切りつけ、蹴りや手刀等を繰り出し、手下の攻撃を避け防御する。


「その辺の兵士や賊と同じと思ったら、大間違いだよ」


 手下の動きが鈍り始める。が、横一閃のナイフが腹を掠める。


「おっと」

 

 胴鎧はだけは、竜騎士用(鋼を材料にしたもの)のをつけていた。

 これがなかったら斬られていたかも。


 隙きをついて相手の右脇腹にボディブロー。

 これが効いたのか、右脇腹を押さえて動きが止まる。


「くっ」


 手下の向こう側にナミが見えた。

 緊張で顔がこわばっていたね。


「ナミ!準備出来てるかい?」

「は、はい!。出来てます!」


 良い返事だ。


 緊張しててもいい。自分の役割と状況が分かってるならね。


 あたしは、腹を押さえつつナイフを向ける手下に近づく。


 ナイフを素早く何度も突き出してくるが、俊敏さはない。

 

 ショートソードでナイフを弾き飛ばし、膝蹴りを下腹部に入れて腕を取り、後ろ手にひねり上げる。


「くうっ!」


 ショートソードを捨てて、手下のマスクを剥ぎ取って、髪を毛を鷲掴みする。


「ナミ!今だよ!」

 ナミの方へ向けた。

「はい!。…照射!」


 紫色の光の束が、手下の顔を照らす。

 

「うああああっ!熱いぃ!ぐあああああ!」

 苦痛で暴れる手下を押え込む。

「覚悟ができてるんでしょ?」

 片手で光を遮ろうするが、その片手も後ろ手する。

「止めてくれぇ!」

 泣き叫ぶ手下。


「スチュアート!」

「はい!」

「あんたがとどめを刺してやりな」

「了解」


 手下の背中を蹴り、剣を構えるスチュアートの方へ押し出す。

 スチュアートが、顔を押さえ悶える手下に一気に距離を詰め、その勢いそのまま、胸を刺し抜く。

 

 手下の苦悶の声が消え、砂へ変わる。

 

 スチュアートの剣には鎧だけが残された。


「ヴァネッサ!」

 ライアが制圧完了のサインを送ってきた。あたしはそれに手を挙げ答える。


 後は、右側だけか。


「隊長!」

 その声に振り向く。

 ゲイルが制圧完了がサインをしていた。


 まずは手下達を制圧。

 ここまでは予定通りだ。


 次はゲオルグ。

 こいつはアリスとジルに任せるしかない。


「負傷者は館へ。残った者で隊列を組み直せ!」

「了解!」


 隊列を組み直し備える。


 隊列を全体的に少し下げて、アリスとジル、それとエレナとともに一番前に出る。

 ゲイルも前で見たいと言ってきたので許可した。


「隊長。前に出なくても…」

 ガルドはゲオルグを懸念してるのか、そう声をかけてくる。

「あたしはアリスの戦いを見たいんだよ」


 あたしが見たからって、何かが変わるわけじゃない。


 見守りたいっていうのが正しいのかも。


 今のアリスの雰囲気は良くない。

 萎縮してる感じ。


「ゲオルグがこちらに…」


 ジルの言葉で前を見る。


 大きな巨体がゆっくりをこっちに来る。


「この威圧感…」

「何だ。腹にズシリと…」

 レスターとガルドが困惑してる。


「目も合わせてねえのに…何だこいつは」

 ゲイルも震える手と押さえている。


 奴との距離はまだあるのに…この殺気。


 あたしも手が震えだした。こんなのは初めてだ。

 

 ゲオルグが止まった。

 すぐそこだ。十歩も歩けば手が届く。

 

 マスクはつけていない。真っ黒な鎧を身に着けている。

 髪型は長髪で 髪の毛全部を後ろに撫で付けたような感じ。


 異様に紅い目。

 

「久しいな、アリス」

 低い声。

「ええ…そうですね」

 アリスは絞り出すように話す。


「いい加減、おまえの血をよこせ。さすれば望み通りしてやろう」

「望み通り?わたしの望みは静かに暮らすこと。それがあなたにできますか?」

「吸血族が平穏に暮らそうというのが、間違いなのだ」

「今までそうしてきた。あなたがそれを壊した」


 ゲオルグが高らかに笑う。


「お前の血が、そうさせたのだ」

「わたしの…」


「アリス様の血は、お前の様な者のためにあるではない!」

 ジルが前に出て叫ぶ。

「どれだけアリス様が苦労されたか、お前には分からないでしょう」

 彼女にしては、荒い口調だ。


「混血がしゃしゃり出るな!」

「なんですって…」

「下賤の者が出る幕ではない。純血同士の会話に入るな!無礼だぞ!」


 ジルの肩が震えていた。

 恐怖ではなく、相手にされない悔しさからだろう。


「まずは、吸血族の王たる我に跪くの礼儀ではないか」

「誰が、あなたに跪くなど…」

 

「誰だか知んないけどさ、アリスをいじめる奴はアタシが許さないヨ」

「バカ…」 

 

 ミャンが短槍を手に前に出てくる。


「こっちはあんたには従わないって言ってるノ」

 腰を落とし短槍を構える。

「ミャン、止めな…」

 あたしは彼女の肩を掴む。


「ようはさぁ、こいつを倒せばいいんでしょ?」

「あんたが相手出来る奴じゃないって、わかんないの?」

「そんなのやってみなくちゃわかんないじゃん」

 ミャンはあたしの手を振りほどく。


「アタシがやってやるよ!」

 彼女は駆け出し、ゲオルグに向かって行く。

「ミャン!…」


 ミャンは全速力でゲオルグへ突撃していく。

 素早い短槍の突きがゲオルグに…。


「ぐっ!なァ!?」

 ゲオルグはミャンの首を掴んでいた。

 

「なんだい今のは…」

 ミャンの首を掴むまでのモーションが全く見えなかった…。


「くっ、離せ!…」

「獣人程度が我に敵うと思ったのか?愚かな…」

 

 ミャンは蹴りや短槍を当てるが、ゲオルグは避けるどころが防ぐ事すらしない。


「我を倒そうなどと思うな!恥を知れ!」

 ゲオルグはそう言って、ミャンの腹に拳を叩き込む。

「ぐはぁ…」

 たった一発で、ミャンの体から力が抜ける。が、短槍は離さない。


 ゲオルグはミャンの体をこっちに大きく投げ飛ばす。


 まるで木の棒でも、投げるように軽々と。


 あたし達の頭の上を越えて行く。 


「まずい!壁に当たる!」


 ミャンに意識があるなら空中で姿勢を変える事は出来るだろうが、今は…。


「僕に任せろ!」

 ライアがふわりと浮き上がり、ミャンを空中で捕まえ降り立つ。


「ミャン!大丈夫か!?」

「うっ…ああ…」

「意識はありそうだが…」

「ライア、そのままミャンを館に」

「分かった」

 あたしの指示でライアが館へと飛び立った。


 ミャンの突進をいとも簡単に止めるなんて…。

 ゲオルグは強いなんてもんじゃない。


「ミャン隊長…」

 ジルが呟く。

 握る拳に力が入って震えてる


「分かったか?貴様らなど、赤子の手をひねるようなものだ」

 うんざりとした様子で息をはく。

「アリス、我に従わぬのなら、ここにいる全員を殺す」

 そう言ってニヤリと笑う。


「そんな事、誰がさせるものですか!」

 

 ジルがナイフを両手に構え、ゲオルグへ走り出す。


「ジル!やめて!」

 

 アリスの制止を声を聞かず、ジルはゲオルグへと向かって行った。



Copyright(C)2020-橘 シン

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