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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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13-4


「南西から来る…」

「森の中にいますが、まだ動きがありません」

「様子見かな」


 館の屋上でアリスとジルともに話す。


「人数は?」

「ゲオルグと…他十名」

「ですね」

 アリスとジルはお互いを見て頷く。


「十名か…。賊なら舐めてんのって言いたいけど、吸血族だからね…」

「はい」

「どの程度の実力か分かる?」

「そこまでは…」

「だよね」

 分かれば、対応しやすいけど仕方無い。


「気休めかもしれませんが、わたくし以上の者はいないかと」

「理由は?」

「はい。アリス様と逃亡中、始めに追って来たのは皆精鋭でした。しかし、そう数はいません。その者達は不本意ながら排除しました。その後は、数で攻める方法に方針転換したようです。ですので精鋭ではないかと思われます」

「うん…。しばらく追っ手はこなかったし、その間に鍛え上げる事は出来る」

「訓練は飽くまで訓練。実戦経験のあるわたくし達には敵わない…と、思います」

 そう願いたいね。


「向こうの斥候は?」

「いません」

「出していなくも分かってるだろうね」

「はい」


 あたしは腕を組み、考える。


「南西か…よし」


「南の草原に兵士を展開する」


 屋上を降りて、兵士達に指示。


「敵は南西の森にいる。こっちは南側の防壁を背に兵士を配置する。さあ、始めるよ!」

「了解!」


 最低限の見張りを残し、全兵士を南の草原へ展開する。

 

 夜目が効く魔法はすでにかけてある。


 最前列にはレスター、ガルドを含む四班。十二人

 竜には乗ってない。

 と、ミャン。


 その後ろは槍兵と剣兵の混成。スチュアートとサムがいる。

 ここにはライアもいる。

 さらにその後ろに弓兵隊。

 

 そして、魔法士隊。隠し玉。

 使わずに済むなら、それに越したことない。


 魔法士隊の後ろに、あたし、アリス、ジル、それとゲイルが控える。

 

「…にしても、夜目が効くこの魔法、すごいね」

「ナイトビジョンと名付けた。色彩の判別ができないから、改良の余地はまだまだある」

 エレナはそう話すけど、機能としては十分と言える。


「隊長!」

 ガルドが叫んだ。

 彼が指差す方向に人影。

「来たか」

「うん…」

 アリスが頷く。


「急いて隊列を組め!」

 レスターが声を上げる。 

 まだ隊列は組み上がってない。


 大丈夫。

 ゲオルグ達は森から出て来たが、そこから動かずに様子見している。

 

 向こうはあたし達を見て、戦う気満々だってわかるはず。

 どう出て来る?。


 こちらの隊列を組んでいる最中に、向こうはゆっくりとあたし達の正面に移動する。

 そして、ゲオルグの前に手下たちが横一列に並んだ。


 ゲオルグはかなりの長身だった。ガルドより大きいかも。

 外套を着ているので分からないが、筋骨隆々という感じだろう。


「あいつがアリス隊長よりも手練れだって?」

「はい」

「力で押すタイプだろ?アリス隊長の素早さについて来れないんじゃないか?」

「ああ見えてアリス様と変わらない素早さです」

「マジか?…どうすんだよ、体重差がありすぎるぜ…」

 ゲイルが不安を口にする。

「それは後だよ。あたし達は手下の排除が目的なんだからね」

「はい」


 ゲオルグの手下の一人がこちらにやって来るのが見えた。


 最前列、レスター達の前で止まる。


 ガルドがサインを送って来た。


 ゲオルグからの伝言?。


「聞くかい?」

「聞きましょう」


 武器をガルドに預かけてから来るようサインを出した。


 兵士を左右に分け、その間を手下がゆっくりとこっちに来る。


「そこで止まりな!」

 

 混成班の中で止まらせる。


 あたしとジルが前へ出る。その後ろにアリスが続く。


 真っ黒な外套にその下も黒い革鎧。身長はあたしとおなじくらい

 頭もすっぽりとマスクで覆っていて、紅い目だけを覗かせている。


 手下はマスクの顔だけの部分を外した。

 風貌は若い男かな。

 

 そして、ジルとその後ろのアリスを見る。 


「伝言って何?」

「あなた達に用はない」

「わたくしが聞きます」

 手下が頷く。

「ああそう…」

「ゲオルグは何と?」

「我が元へくれば、争い事はしないと」

「拒否すれば?」

「…」

「言わずもがな、というわけですね」

 手下は頷くだけ。


「ヴァンヴェール様への伝言あれば」

「馬鹿って」

 あたしの言葉に手下が驚き表情を見せる。

「え?…あの」

「そう伝えてください」

「よろしいのですか?」

「はい。ゲオルグに(くだ)る事はありません」

「分かりました」

 手下はそう言うと防具を被り、立ち去ろうとする。

「待って」

 アリスが声をかけた。


「あなたもゲオルグに人質を取られていますか?」


 ゲオルグは人質を取って無理やり従わせる事もしているらしい。


 手下は振り向く。    


「人質?…家族は全員殺されましたよ。あなたを慕っていたために…」

「ごめんなさい…」

「もう、いいんです。どうなっても構わない」

自棄(じき)になってはいけません」

 ジルはそう声をかける。

「家族の元へ行きたい…そんな奴らだけです。ここに来たのは」

 そう呟く手下。


「自分はゲオルグに従っているわけではありません」

「じゃあ、何でここにいるの?」

「さっきも言ったでしょう?家族の元へ行きたい。願いはただそれだけ」

「死に場所を求めて、ここに来たのかい?」

「…」

 手下は何も言わない。


「アリス様。お元気で…」

 丁寧に頭を下げて、手下は去って行ってしまった。


 覚悟は出来てるんだ。


「やりづれぇ…」

 兵士の誰かがそう言った。


「あんたらも覚悟決めな!向こうは、失う物はないから強いよ」

 こういう手合が一番厄介だし、やりたくない。


「俺達には守るべきものがある!覚悟を見せてやるんだ!死にたいなら、死なせてやろうじゃねえか! 」

 ガルドが声を張り上げる。


「賊が見ているかもしれない!ここで怯んだら笑われるぞ!シュナイツ魂を見せてやろうぜ!」

 レスターがそう鼓舞する。


 兵士達が拳を挙げ、叫ぶ。


 あたし達は元の位置に戻った。


「さてと…どう来る?」


 こっちから攻め込む事はしない。

 向こうはの狙いはアリスだ。待っていれば、向こうからやって来る。

 焦っちゃいけない。


「アリス、大丈夫かい?」

 あたしは彼女の肩を抱く。

 

 細い肩。

 こんな小さな体にゲオルグとやり合う力があるってんだから不思議だね。


「はい…」

「アリス様に責任はございません。ですから…」


 責任はないって言われたってね…。


「これは試練なんだよ。辛いだろうけど、乗り越えないといけない。さっきの奴にみたいに死んで楽になろうとする奴もいけど、でもそこで終わり」

「はい」

「いまここで終わったら、あんたを慕ってくれた人達の気持ちや努力が無駄になる。でしょ?」

 彼女は頷き、涙を拭う仕草をする。


「わたしは負けない。絶対に」

「その意気だよ」

 ジルを見ると、あたしに向かって小さく頭を下げた。頷きだけを返した。

 ジルは何も言わなくても分かってるはず。

 アリスを命をかけて守ってきたんだから…。


「弓兵隊いいかい!」

「いつでも」


「出し惜しみはなしだ!射ちまくれよ」

「おう!」

 側にいるゲイルが発破をかける。


「魔法士隊!あんた達が作戦の要だよ!」

「了解です!」

「ああ、緊張したきたぁ」

「大丈夫だよ」

「この緊張感…久しぶりだ。気合がはいるぜ」

「嘘でしょ…笑ってるし」

「私語は止めて」


 あたしはすぐ前にいるエレナの肩に手を置く。


「ごめんね、エレナ。あんたには不殺の誓いを破ってもらう事になるかもしれない」

「いつかはそんな時が来ると思っていた」

「そう…」

「私だけが、手を汚さない。そんな都合がいい所ではない事は承知している」


 エレナにとって、ここは楽園じゃない。

 自分の失態で追放されたとはいえ、不本意だろう。


「任せて」

 彼女は、肩に置いたあたしの手に自分の手を重ねた。

「ああ」

 あたしはエレナの肩に置いた手に力を入れる。


「ライア!」

 ライアは振り向き、親指を立てる。


「ミャン!」

 彼女は振り向かず、軽く手を挙げるだけ。


 そっけないけど、ミャンなりに集中力を高めてる。


「さあ、かかって来な…」

 あたしは剣を抜いた。


 ゲオルグ勢との戦いが、いよいよ始まる。

 



Copyright(C)2020-橘 シン

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