13-3
「吸血族との戦闘についても私に考えがある」
そう言って、手を上げたのはエレナ隊長。
「考えって、魔法でどうこう出来るのかい?」
「出来る」
エレナ隊長はヴァネッサ隊長の疑問に自信を持って答える。
「聞かせてもらおうじゃないの」
「私は吸血族が何故、太陽が苦手なのかという事に注目した」
「それってちゃんと理由があったんだ…」
「はい」
ウィル様の呟きにエレナ隊長が頷く。
「吸血族は太陽光に弱い。しかし…ジル、手のひらを見せて」
「はい」
わたくしは手のひらを出し、エレナ隊長へ向ける。
そこに彼女が魔法の杖の先端を発光させ、わたくしの手のひらの真ん中だけを照らす。
「見ての通り、何の変化もない」
「特に変わりません」
「これは、魔法による光と太陽光では特性が違うから」
「同じ光じゃない?」
ウィル様の指摘にエレナ隊長が頷く。
「そうです。少し違うのです」
「太陽光は一色ではない」
「色があるのか?」
「そう」
「この中で虹を見た事がある人は?」
彼女は周囲を見回す。
「全員、見た事あるんじゃない?なくてもどんなものか知ってる」
「あれは太陽光を色を分ける自然現象。だいたい七色に分けられる。そのうち紫色に吸血族は弱い事を発見した。ジルに実験を協力してもらって」
「紫色だけに?ほんとかい?」
懐疑的だったのはヴァネッサ隊長だけではありません。
その場の皆だそうだったと思います。
「ええ。今から見せる。ジル、悪いけどもう一度手を出して」
「はい」
わたくしはまた手をひらをエレナ隊長に向ける。
エレナ隊長は、先程とは違い杖の先端に紫色の光を出し、それでわたくしの手を照らす。紫色の光の筋が手の平に当たる。
すると、光があたった所から煙が上がり出す。
「うわぁ…」
「分かった。もう止めてくれ」
「はい」
ウィル様の指示で、エレナ隊長は止める。
わたくしの手のひらには、赤い跡が残った。
「ジル、大丈夫?」
アリス様がわたくしの手のひらを見る。
「大丈夫です。火傷をしたような感覚です」
「分かる。太陽の下だとヒリヒリするから」
「なるほどね。吸血族に有効なのは分かった。デメリットはある?」
「デメリットは距離が離れると効果は減衰する」
「ってことは魔法士も前に出ないといけない…」
魔法士は基本的に後方からの支援する、というのがヴァネッサ隊長の考えです。
剣も体術も不得手(エデルさんの様な方もいますが、特異な例です)な以上、前線で戦うのは危険です。
「うまく魔法士のそばまで誘い込むしか…」
「連携が重要になるな」
「連携は訓練通りにやればいい」
レスターさんとガルドさんの言葉に、ヴァネッサ隊長が反応する。
「どう誘い込むかは考えないといけないね」
「エレナ、その紫色の魔法はあんたしか使えないの?」
「いいえ、魔法士隊全員出来る」
「出来ます!」
リサさんは自信を持って手を上げる。
「出来るものの、個々人で効果にばらつきある。が、吸血族に対する有効度は変わらない」
「そう。後でその魔法詳しく聞かせてもらえる?」
「ええ、構わない」
「あーちょっと…」
ゲイルさんが手を挙げました。
「その紫色の光は鎧や服の上からでも有効なんですかね」
「遮蔽物あれば、効果はない」
「となると、裸にする方法も考えないといけないんじゃ…」
確かにゲイルさんの言う通りです。
「いや、大丈夫でしょ?」
ヴァネッサ隊長は特に心配してる様子はないです。
「ここがガラ空きで、一番有効だと思う」
そう言って、自分の目を指差す。
「なるほど」
視界を奪う事は非常に有効です。
「全員、一斉に目を潰す方法を考えないといけないけどね」
それは後ほど考える事になりました。
「次、班編成なんだけど…」
「いつも通り、四人一班じゃないんですか?」
「吸血族が何人で来るか分からないからね…」
ヴァネッサ隊長は迷っている様子です。
「うーん…三人一班で行く」
「三人?訓練ではいつも四人だが…大丈夫か?…」
そう言ったのはライア隊長。
「やる事は変わらない」
「うーむ…君ら竜騎士は慣れているからいいが…皆はどうだろう?」
彼女は部屋にいる全員に訊く。
「大丈夫でしょう」
「ド素人じゃないんで」
「ぼくは、ド素人だが…」
「いや、隊長の事じゃないですよ」
隊員達の言葉に、ライア隊長は分かっているよと苦笑いを浮かべる。
「班編成は竜騎士を中心にしていいのかな?」
「それはいつも通りでいい」
竜騎士を中心にとは、竜騎士を班長としその下に班員を割り振る事です。
竜騎士だけでは、班長は足りませんので、他は隊長や実力や経験から班長を決め、班員と割り振ります。
「ライノ、ステイン、ミレイは班員の方にね」
「了解」
「あたしにはゲイルだけを付けて」
「ゲイルだけ?ライノかステインでも…」
そう勧めるレスターさんでしたが…。
「いや、いいから」
「何か考えが?」
「特にないよ。あたしよりも他に回したほうがいい思っただけ」
「そうですか」
レスターさんがメモを取る。
「アタシいらない」
「あんたはいいよ。あんたについて行くの難しいし」
「だよねえ」
「でも、ちゃんと指示に従いなよ」
「あいあい」
「後、アリスとジルには誰も付けない」
ミャン隊長同様、ついて来れる者はいません。
しかし、連携訓練はしておりますので問題はありません。
「あんた達はゲオルグの相手だけをしてもらう。あたしらじゃ手も足も出ないから」
「はい。お任せを」
「任せて」
「魔法士全員を班長して、班員を付けて」
「ちょ、ちょっと待って下さい。わたし、班長なんてやった事ないんですけどぉ」
「私もない」
魔法士は後方から支援が主なので、前線を想定した連携訓練には参加していません。
「大丈夫。護衛みたいなものだから」
「護衛ぇ?…」
「あんた達は吸血族の弱点を突いてもらう。でも、向こうだって馬鹿じゃない。弱点を突いて来るのが魔法士と分かったら、狙いは魔法士に向く可能性がある」
「ひえぇ…」
「だから、班員を付ける」
「了解した」
「細かい所は後で、やるとして。何か質問、意見はある?」
「領民は?事前に説明とか」
ウィル様が手を上げ、質問しました。
「もちろんするよ」
領民の方々にまでご迷惑をかけてしまったのは、本当に心苦しいです。
「…ないなら、作戦を煮詰めていくよ。今回は吸血族が相手で、読みづらい所もあるから何パターンも作るかからね」
ヴァネッサ隊長の号令で、本格的な作戦会議が始まりました。
竜騎士達が中心に作戦を考え、ライア隊長が中心となり班編成をする。
「僕は仕事に戻るよ。ヴァネッサ、よろしく頼む」
「ああ、任せな」
「アリス様はお休みを」
「うん」
お二人は、多目的室を出て行かれました。
これ移行は訓練を控えるよう指示されました。
「いつ来るか分からないからね。体力は温存したい」
作戦会議には当然ながら、わたくしも参加。
丸一日かけて作戦を計画しました。
その後も修正を加えられ完成。
「これは飽くまで基本。状況応じて、対応していくからね」
臨機応変に、とは言いますが、そう安々と出来るものではありません。
しかし、ヴァネッサ隊長はやってのけてしまう。
彼女自身の経験、それとシュナイダー様のご指導の賜物でしょう。
四日が経過
「だいぶ近づいてきた」
わたくもゲオルグの殺気を感じました。
「どれくらいで来そうだい?」
「明日の夜…」
ヴァネッサ隊長は大きく息を吐く。
「準備は出来てる。全員に伝える」
兵士、使用人、領民全員にその事は伝えられました。
襲撃当日の夕刻、兵士と使用人全員が集められる。
「みんなに集まってもらったのは、もう分かっていると思う。アリスとジルの件にすついてだ。詳細はすで話してある通り。アリスによると、今日の夜に来る可能性が高い。詳しくはヴァネッサの方から…」
ウィル様は踏み台を降り、ヴァネッサ隊長が踏み台に上がる。
そして、兵士達を見回す。
「今更言う事はないんだけど、相手が吸血族だからってビビる必要はない。そのための作戦は立てたし、演習もした。作戦は飽くまで予定だからね。臨機応変に頭使うんだよ」
「はい!」
兵士全員が気合いの入った返事をする。
「今回、相手の目的はシュナイツじゃなくて、アリスだ。だけどアリスはあたし達の仲間。仲間を傷つけようとする奴は実力で排除する。いいね」
「はい」
「下手こいた奴は、張り倒すからね。分かってんの?」
「はい」
「全っ然、気合いが伝わってないよ!」
「はい!!」
リアン様が耳を塞いていました。
「これ必要なの?…」
「各自、作戦を確認しておくように」
再びウィル様が踏み台に上がりました。
「僕からは作戦について、特に言うことはない。というか何も言えない。素人だから。ヴァネッサには座っていればいいってまで言われてるし」
「いやいや、大丈夫すっよぉ。任せてください」
「サム、お前言い方が軽すぎるんだよ…」
レスターさんがサムさんに呆れています。
「もちろん、任せるよ。みんな、頑張ってくれ」
ウィル様は敬礼をする。それに答えるように兵士全員が敬礼を返しました。
次、アリス様も言いたい事があるようで踏み台に上がった。
「皆さん、ごめんなさい。わたしのために大変な事になってしまって…。でも、皆さんの助けがとても嬉しく心強く感じる」
アリス様はご自身の気持ちを優しく話す。
「ずっと、ジルと二人きりだった。ここに来て、二人きりじゃなくなった。だから、私はシュナイツが好き。ここにずっといたい…」
少し涙声に聞こえました。
「いいんだよ。ここにいて…」
ヴァネッサ隊長が、アリス様の後ろから声をかける。
「はい、ありがとう…ございます」
「みんなの力を貸してほしい。ゲオルグは強いけれど、勝って見せる」
静まり返る兵士達。
そんな中、拍手をする者が一人。
それはゲイルさんでした。
拍手は少しづつ増え、全員が拍手をする。
「ありがとう…。もし、勝つことが出来たら、勝利の口付けをみんなにあげたい」
「え?…」
「は?…」
また静まり返る兵士達。
わたくしは非常に驚きました。
「マジで…」
「うおおおおおお!」
「おれ頑張る。超頑張る!」
盛り上がる兵士達…。
「ほっぺだよ」
「アリス様、そんなはしたない事はお止めください」
彼女の後ろから、そう耳打ちする。
「いいの。それくらいしかお返しができないから」
「ですが…」
「あんたらね…。まだ終わってないんだよ!落ち着きなよ!」
ヴァネッサ隊長はたしなめていました。
「おい。それはわたしも対象に入っているのか?」
そう言ったのは、フリッツ先生。
「先生にはあたしがしてやるよ」
「お前のなんかいらん。噛みちぎられそうだしな」
そう言いながら両頬を隠しています。
その仕草に笑い声が起きていました。
「もう、なんなの…」
リアン様が少し嫌悪感を顔に出ています。
「あんたたちね、終わる前から後の事考えるんじゃないの。今、目の前の事に集中するんだよ!」
「はい!」
という事で、準備が進められました。
夕食後、領民達を防壁の中へ。
領民達に動揺や混乱はありませんでした。
こういう事は初めてではありませんし、ヴァネッサ隊長へ信頼度の現れでもあります。
女性、子ども、お年寄りを万が一に備え、館の中へ。
料理人達は長期戦に備え、夜食の準備。
メイド達も料理人達やフリッツ先生の手伝いをしていました。
そして、日が沈み、夜が更けゲオルグ達が現れるのです。
Copyright(C)2020-橘 シン




