表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/142

13-2


 多目的室では解散となりましたが、わたくしは弓兵隊の宿舎へ。


 ゲイルさんだけを呼び出す。


「少しお時間をください。お話したい事があります」

「おう」

 

 宿舎から離れ、屋敷側へ。

 

 隊員達が宿舎からこちらを見ている。


「まあ、気にすんな。話って?」

「はい、これから話す事を口外しないと約束してください」

「…重い話なのか?」

「重いというわけではありません。公表する時期ではないのです。たぶん、明日か明後日には皆知る事になります」

「そうか。分かった、言わないよ」

「ありがとうございます。それで、実は…」


 ゲイルさんには、アリス様とわたくしに追っ手迫っている事。

 強敵である事。

 アリス様の意見を尊重し、逃げるのではなく立ち向かう事にした事。

 そのためにヴァネッサ隊長達に協力してもらった事を話した。


「なるほど…来るべきものが来たって、感じか」

「はい…。いつかは来ると思っていました…直接来いと言いましたから」

「何で言っちゃうかなぁ」

「自分は動かず、手下に指示するだけ。返り討ちにしても、次から次と…それほどまでに欲しいのなら、直接来なさいと…」

「煽っているようにしか聞こえないぜ…気持ちは分かるけどよ…」

 

 わたくしも言って後悔しています。

 しかし、言わなくても来たことでしょう。


「話ってのはそれだけか?」

「はい。報告が遅れて申し訳ありませんでした」

 わたくしは頭を下げた。

「いやいや、そこまですることないって」

「いえ。仲間と思ってくれていた方々への対応ではありませんでした」

「ジル…。少し肩の力抜けよ」

「力んでいるつもりは…」

「そういう事じゃないって」

 ゲイルさんは苦笑いを浮かべ、わたくしの肩を叩く。


「なあ、俺達と一緒に食事しないか?たまにでいいから。アリス隊長も一緒にさ」

「食事ですか?…」

「ないだろ?」

「ないですね」


 他の隊長との食事は何度かあります。


「話さないとお互い分かり合うのは難しい。お前は遠慮しすぎて、壁が出来てるぜ」


 ゲイルさんの言葉に、わたくしはハッと気付かされる。


 吸血族だからと、皆と距離をおいていた。

 それが壁となり、ゲイルさん達に失礼な振る舞いをしてしまった原因か。


「嫌なら別にいいんだぜ。無理強いするつもりは…」

「いいえ。食事は一緒に取ろうと思います。アリス様もお伝えします」

「そうか」

 彼は笑顔で頷く。


「それじゃ、これでな」

「はい」

「強敵が来るらしいが、みんなで乗り切ろうぜ」

 彼が拳を出す。わたくしも拳を出し、彼の拳と合わせた。

「はい。よろしくお願いします」

 ゲイルさんは立ち去って行った。


 翌日、多目的室で作戦会議が行われました。


 各隊から隊長と数名の隊員が参加。

 ウィル様は同席しているが、リアン様は執務室に待機中。

 

 弓兵隊からはわたくしとゲイルさんが参加。

 アリス様も当直明けでお疲れなのに、本人の強い希望で参加しました。


 ウィル様達が食事用に使っているテーブルに、シュナイツ周辺の地図が広げられている。


「それじゃあ、始めるよ」

 ヴァネッサ隊長が手を叩く。私語が止み、静かになりました。


「まずは…ジル、あんたからこうなった経緯を説明して」

「はい」


 アリス様の血の事から、シュナイツに来るまでの事を大まかに説明した。


「…という事で、ゲオルグがシュナイツに向かっていると思われます」

「一週間ないって話。迎撃のための時間はある。向こうのかしらはアリスより強いらしいけど、数の利はこっちにある。ヘマをしなけりゃ勝てる。気合い入れなよ!」


「了解!」

「うっす!」


 ヴァネッサ隊長の掛け声に皆が声を上げる。


「ここまでで質問は?」

「はい」

 手を上げたのは、槍兵隊副隊長のリックスさん。


「なんだい?」

「あの、アリス隊長の血をジルさんが飲む、というはどうなんです?これで互角に…」

「ダメ!!」


 アリス様の声が部屋に響き渡る。


「それはゼッタイにダメ…そんな事をするなら、わたしが死んだほうが…」

 彼女は俯く。

「アリス様…」


 ヴァネッサ隊長は驚きつつ、わたくしを見ました。が、わたくしは何も言わず視線を外してしまいました。

 異常とも見えるアリス様の反応。

 訝しげんでも不思議ではありません。


「アリス様の血を飲めばいい、というのは尤もな考えです。ですが、わたくしはそれをしません」

「なぜです?」

「飲んだとしても、ゲオルグには勝てません。経験、練度どちらも、あちらがはるかに上だからです」

「当たり前の話だな」

 そう言ったのは、ガルドさんです。


「切れ味いい剣を持っていたって、それを活かせなければ、ただの鉄の塊だ」

「そういう事になります。それと伝承がまちがっている可能性もあり、そうだった場合、皆さんは落胆するでしょう」

「世の中、そんなにうまく行かないのさ。ね?」

 ヴァネッサ隊長は、そう言ってアリス様の肩に手を置くが、彼女は俯いたまま。


「あたしは不確定なものに頼るつもりは、更々ない」

「ですが、相手は吸血族ですよ」

「わかってるよ。だから、こうやって話し合う場を設けてんでしょ?。懸案事項を潰していくんだよ」


 吸血族が吸血族の相手をするの事に実力以外の問題は生じない。

 しかし、吸血族以外の者が吸血族の相手をするとなると厄介な問題が生じる。


「まず、襲撃は夜だって事」


 これは確定です。ゲオルグは純血の吸血族。

 太陽下は苦手としています。


「夜目が効くは奴は数人しかいませんよ」


 ミャン隊長と剣兵隊に数名。

 わたくしとアリス様も当然ながら夜は問題なく行動出来ます。


「夜間における戦闘については、私に考えがある」

 エレナ隊長が手を上げている。

「発光石でもばら撒く?」

「それも考えたけれど、得策ではない」

「どうして?」

「襲撃時間、戦闘範囲が確定していない以上、どれくらいの発光石を用意すれば分からないから。わかってから用意するのでは時間がかかる」

「なるほどね。で?」

「で、夜目が効く魔法を開発した」


 これには全員が驚いていました。


「マジで?」

「すげえな」


「あんた、いつの間に作ったの?」

「結構前」

「そういうのは報告してくれないと…」

 ヴァネッサ隊長は頭を抱える。

「報告が遅くなったのは謝る。だけど、必要とする状況ではなかった。夜に襲撃してくる賊は少数だし、アリスとジルで対処は十分に可能だった」

「そうだけどさ、一応ね」

「了解した」


「しかし、この魔法にはいくつか問題点がある…」

「君しては珍しく自信なさげだな」

 ライア隊長が、エレナ隊長にそう話す。

「自信がないわけではない。改良の余地がないという事。いや、あるのだろうけど見つかっていない。それで問題点の一つ目。この魔法は私だけしか使えない」

「そうなんですか?」」

 エレナ隊長のそばにいるリサさんが彼女に聞く。

「これを見て」

 エレナ隊長は手のひらに淡く光る魔法陣と思われる物をリサさんに見せます。

「これは…ちょっーっと難しいですね…あはは…」

 リサさんは苦笑いを浮かべています。


「魔法力をたくさん使うのかな?」

 ウィル様が手を上げてエレナ隊長に質問しました。

「魔法力の消費についてはごく少量です。しかし、複雑すぎて今の隊員達には無理です」

「そうなんだ」

「練習させますが、襲撃までに間に合わないと思われます」

「頑張ります…」


「問題点二つ目。この魔法を使うと夜目は効くが、小さな光、ロウソク程度の光でも眩しく感じてしまう」

「調節は出来ないのかい?」

「調節は出来る。夜目の効果を落とせばいい、だけど効果を落とせば…」

「夜目が効かなくなる…本末転倒か」

「そういう事になる」

 ライア隊長が腕を組み唸る。


「それについては大丈夫でしょう」

 そう言ったのはレスターさん。

「篝火代わりの発光石を仕舞って、暗くすればいい」

「夜目が効くならいらないね」

「館の中はさすがにいいよね?」

 ウィル様達、非戦闘員は館待機となるだろうから、灯りは必要。

「そりゃね。真っ暗じゃなにもできないし」


「以上かい?」

「ええ」

「効果時間ついては?」

「それについては問題ない。調節できる」

「わかりました」

 レスターさんは紙に魔法について書き込んでいる。


「次はどこから、何人で来るかって事なんだけど…」

 ヴァネッサ隊長はわたくし達を見る。

「申し訳ありません。それについては直前にならないと分かりません」

「だよね」

「斥候を出しますか?」

 ガルドさんの提案を、ヴァネッサ隊長は首を横に振り却下した。

「相手は吸血族だよ。斥候なんてすぐにバレる。捕虜なら御の字、悪けりゃその場で…」

ヴァネッサ隊長はそう言って、首を切る手振りをする


「アタシが行こうカ?」

 ミャン隊長が手を上げた。

「さすがのあんたも、吸血族に囲まれたら何もできないでしょ?捕まったら大幅に戦力が落ちる」

「アレ?アタシ頼られてる?」

「こういう時じゃないと、頼れないからね」

「エヘヘ、それはどうも」

 ミャン隊長は笑顔ですが…。

「隊長…普段は頼られてないって事ですよ」

「ええ!?そうなノ?なんデ?」

 彼女はリックスさんの言葉に驚きの声を上げる。

 その様子にクスクスと笑う者がちらほら。


「はあ…一番厄介なのは、吸血族ってことなんだよね…」

 ヴァネッサ隊長の言葉に皆がため息を吐く。

「機敏なのが困りますね。いくら数で上回っても、個々に潰されたら、数の利がなくなってしまいますよ」


 わたくしやアリス様くらいの実力者がそうはいません。ゲオルグくらいでしょう。

 その他は、極一般的は吸血族です。

 しかし、それに勝てるのは竜騎士達(ここではヴァネッサ隊長、ガルドさん、レスターさんの三名)とミャン隊長、ライア隊長ぐらいでしょう。


「後、怪我に強い点だね。剣で切りつけても、怯まない」


 吸血族の怪我の回復力は高く、骨折も度合いによりますが、一週間かからずに治ります。


「吸血族の弱点は心臓です。心臓を貫き、完全に止めれれば、葬る事が出来ます」

「サクッとできりゃいいけどな…難しいぜ」

 ゲイルさんが肩をすくめる。

 

 皆が押し黙る中、エレナ隊長が手を上げた。


「吸血族との戦闘についても私に考えがある」



Copyright(C)2020-橘 シン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ