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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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12-10


「母からの手紙、頂いてもいいですか?」

「もちろん、構いません」


 わたしは鞄に手紙をしまう。


「それから…叔父と叔母の所在は分かりますか?」

 

 本当は叔父と叔母ではない。

 でも、家族という意味では、印象深いのはこちらの二人だったりする。


「訪ねた事はあるんです。でも、居なくて…近所の人に聞いても引越し先もわからないと…」

「そうでしたか。先輩の所在は分かっています」

「そうですか。よかった…」


 しかし、今行くわけにはいかない。

 そこで、手紙を書く事にした。

 

 ベルガさんに紙やペンを借りる。


 バンクス夫妻には、感謝の言葉と近況。

 いつかはわからないが、会いに行きたい事を書いた。


「手紙は私の名で出しておきます」

「はい、ありがとうございます」


 マックス宛の手紙に母について書いた。

 大した情報じゃないんだけど。


「いえ、マックス様も知りたい情報でしょう。母の存在は知っていても、詳細は教えていませんでしから…」


 肉親がいた事が、彼の励みになってくれたらと思う。

 

 マックスへ手紙もベルガさんに頼む。


「よろしくお願いします」

「お任せください」


 後は何か忘れている事はないかな?。

 

 大丈夫。


「じゃあ、わたしはこれで。突然の訪問、失礼しました」

「何を言います。お嬢様が立派に生きておれた。それだけで、自分は嬉しいです。以前の無礼をお許しください」

「わたしは全然、気にしていませんから」

「ありがとうございます」

 ベルガさんは深々と頭を下げる。

 

 感謝したいのはこっち。

 父の事を色々聞けた。


「南部へ行くのでしたね」

「はい。どうしても直接届けたい大事な手紙があるんです」

「お気をつけください。ここからはいい道ではありません」

「分かっています」

 初めての道じゃない。途中までは…。


「本来なら、自分がお供すべきでしょうが…この老体では、足手まといとなりましょう」

 

 ベルガさんは竜騎士だが、自分の竜は病気で無くしている。


「そのお気持ちだけで十分です」


 ベルガさんと、しっかりと握手をした。

 竜騎士らしい、武骨で熱い手。

 シュナイダー様を思い出す。


 別れるのは惜しいが、もう夜だ。

 翌日以降のために睡眠と取らなけばいけない。


 ベルガさん宅を後にした。


 翌日、午前中に必要なものを買い揃える。

 特に保存が効く食べ物が中心。

 それと防寒と防雨対策。

 

 山間部は天気が変わりやすい。その対策はしっかりしたい。


 少し荷物が増えたが、必要な物だから仕方無い。


「頑張って」

 馬にそう話しかける。

 無理はさせたくないが、ここからは無理をしなければいけないだろう。


「行きますか」

 馬に乗り込み、町の南側へ。


 町はずれ。

 南部への道へ出ようする所に革鎧を着た人が一人馬とともに佇んでいた。


 早速、賊かと思ったけど…違うみたい。ていうか目立ち過ぎ。


 警戒しながら近づいて行く。


 なんだか、見覚えがあるんですけど…。


「…ん?」


 ベルガさん?。ベルガさんだ、間違いない。


「ベルガさん!」

 わたしの呼びかけに、彼は振り向き手を挙げる。


「どうしたんですか?」

「いやぁ…。どうにも、お嬢様の事が心配になりましてな…」

 彼は苦笑いを浮かべる。


「途中までお供させてくれませんか?」

「それは構いませんけど…」

「ありがとうございます」

 

 ベルガさんは、馬に乗り込む。

 彼は左腰には、年季の入った長剣が下げられていた。

 戦争当時から使っていたものだろう。


「それでは、参りしょうか」


 わたし達は馬を進める。


「そんなに心配でした?」

「ええ、まあ…」


 女一人旅はやっぱり心配よね。


「剣術と体術は習っているんです」

「ほお…」

「剣術は翼人族の方から、体術は吸血族の方から」

「なんと…翼人族と吸血族から…。どちらも剣と体術では勝てる者はいないといいます。自分は相手した事すらないというのに…」


 ベルガさんは驚きつつも、笑顔で話す。


「いい師をお持ちだ。羨ましい」


 そんな事を話ながら、道を進む。


 道はやはりいい道ではない。だけど、道幅は広い。

 馬五頭が横に並んでも余裕があるかも。


「この道は戦争前に拡張したのです。兵士や物資の輸送効率のために。元は半分以下でした」

「へえ」


 その道を周辺の集落から来たであろう人達が行き交う。


 休憩を挟んで、さらに進む。


 先の道は分かれ道になっている。

 右は王国への道。

 当然ながら、わたしは左へ行く。


「私はここまでとしましょう」

「はい。ありがとうございます」

 わたしは拳を突き出す。

 ベルガさんも笑顔で、拳を突き出しお互いに軽く拳同士を合わせる。


「左の道の先に村があるはずです。今日はそこまでにしておいたほうが良いかと」

 

 その村の先はいつくか村や集落が点在している。

 さらにその先は小高い丘になっており、そこを越えると南部地域の北側になる。


「分かりました」


 ベルガさんと別れ、分かれ道を左へ。


 二日かかって丘の麓にある村に近づく


 悪路は続く。で、また雨。


「もう…」

  

 ムカついても仕方無い。

 村は見えている。

 

 小雨の中、村へ少し急ぐ。


 麓との村の農家に納屋を借り、一晩過ごす。

 翌日には雨は上がっていたので、村の出発。


 丘超えの道は比較的整備されていた。


 丘の頂上で昼食を兼ねて休憩。


 丘の上は木々が少なく周囲の景色がよく見える。


「ここまではまずまずね」

 

 このあたりは一度来てるし、ウィル様の情報通り。

 

 問題はこの先…。

 

 わたしは単眼鏡を取り出し覗く。


 丘を下りきった所に小さな集落がある。

 そこから南に伸びる道が、南部の山間部へ行く道だ。


「まず山を一つ越える…」

 小さな単眼鏡では道の様子は見えない。

 ウィル様が言うには馬車通れるほどの整備はされてるというけれど、油断はしちゃいけない。


「慣れているから、言えるのよね…」


 単眼鏡をしまい、丘を下る。

 下った所ある集落で情報収集。


 南の山はそれほど高くはなく、越えるのは苦労はしないだろう、とのこと。


 その先の方が厳しいらしい。


「まあ、馬で行くなら大丈夫。歩きなら覚悟が必要だな」


 ウィル様が荷馬車で行き来してたから、苦労はしないと思いたい。


 集落でも納屋を借り一夜を明す。


「さてと、行きますか」


 朝食と準備運動を済ませ、集落を出発。


 山道は意外に良かった。

 多分、人の往来があるためだと思う。


「流石にこの時間は、誰もいないわね…」


 時間が惜しい事と、突発的なトラブルがあったら嫌だなと思い、日の出直後に出発した。

 

 標高はまだ高くはないが、肌寒い。


 峠には昼過ぎに到着。


「特に何もなしっと…」


 人の往来が多いと峠だと、休憩所なんかを営んで人がいる。

 ここはなし。


 峠を超えて下りになり始めた所で、休憩(食事)に入った。


 馬に付けた荷物を一旦下ろし、草を食べさせる。


 この山を越えると集落がるあるらしい。


 休憩を終え、荷物を馬に取り付け終えた所で、物音に気付く。

 

 道の両側、左右の茂みから二人づつ、計四人の男達がでてくる。


「出たわね…」


 賊は少ないと聞いてたけど…少ないのであっていないわけじゃない。


 賊達は嫌な笑顔を浮かべながら、わたしの周囲を取り囲む。


「上物だぜ」

「おい、ねえちゃん。大人しくしてりゃ手荒なことはしねえ」

 

 あら、そう。


「まずは有り金全部出しな」

「お金だけで許してくれるのかしら?」

「んなわけねえだろ!」

 

 ですよね。


 男達は武器を手にする。

 全員が手斧。

 

 こういう状況は初めてじゃない。

 落ち着いて対処すれば、大丈夫。


 だけど、分が悪い…。流石に四人が相手じゃ…。


 わたしは馬の鞍を叩き、先に行かせた。

 馬は竜の様に戦えないから。

 

「さっさとしろ!」

「はいはい…」

 わたしはお金を出さず、ショートソードを抜く。


「てめえ、俺ら四人とやろうってのか?」

「やけになってるのさ」

 賊達は警戒なんてしていない。


 馬鹿にされてる。


「痛い目に会いたくなかったら、立ち去りなさい」

 ショートソードを賊達に向ける。

 賊達は笑い出した。


「あははは。笑わせんなよ」

「痛い目にあ会うのはてめえだってぇの」


 そうですか。


 わたしは腰を落とし、ショートソードを構える。


「さあ、かかって来なさい!馬鹿ども」

 



Copyright(C)2020-橘 シン

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