表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/142

12-9


「おお、雨が上がったようですな」

 

 窓の外は、綺麗な夕焼けだった。


「もうこんな時間…」

「食事のご予定はございますか?」

「まだ決めていません」

「そうですか。行きつけの店がございます。よろしければご案内しますが…」


 ベルガさんの行きつけか…。


「いつもそこで食事を?」

「毎日ではありませんが、よく行きます」

「それじゃ、お願いします。ベルガさんもご一緒にどうですか?」

「自分とですか?」

 ベルガさんは驚く。

「老いぼれと行っても楽しくありませんよ」

「そんな事は…。特定の誰かがいるのなら無理は言いません」


 ベルガさんは一人暮らしようだ。

 夕方だけど、誰も帰って来ていない。


「自分は独り身ですが…」

「なら、ぜひ」

「はあ…分かりました」

 少し渋々といった感じで彼は頷く。


 荷物は置かせもらって、早速お店へ。


 お店は町の中心部にあった。


 畏まった感じではなく、飲み屋といった風でもない。

 食事とお酒、どっちもいける.


 席に着き、料理を注文する。お酒はなし。


「まさか、お嬢様と食事をすることになるとは…。ヨアヒム様に恨まれてしまいます」

「恨むなんて…。心の狭い人だったんですか、父は?」

「いえいえ、そんな事はございません」


 ベルガさんからは父の事を色々聞いた。

 戦前戦中戦後と父に仕えたベルガさんだからこそ、知ってる父の素顔。

 噂話も笑い話も泣ける話も沢山あった。


 それから父の墓の場所も聞く。

 残念ながら、宮殿内にあり気安く行ける所でない。

 帝都内に慰霊碑あるという。(他の戦士者とともに慰霊するものだけど)


「今更、悔やんでもしかたない事。マックス様とソニア様、お二人を空から見守っているでしょう」


 料理が運ばれ、それを食べ始める。


「ベルガさんは、どうしてマックスの側にいないんですか?」

「その必要はないかと思います」


 父が皇帝陛下と約束した事に、軍の全権を陛下が持つ、という事がある。


「陛下が軍の全権持っていれば、ザイレムといえども安々と行動はできますまい。これでマックス様、お嬢様もですが、命を狙われる事はないかと思います」

「なるほど」

「絶対という事はありません。マックス様には護衛に優秀な兵士を付けさせています。もう老いた竜騎士は必要ない」

 ベルガさんはそう話す。


「お嬢様もご自分の事は口外しないよう、お気を付けください。腰のショートソードもあまり見せないように。特に帝国では…その剣の事を知っている者は、自分だけではありません」

「分かりました」

 もちろん気をつける。


「マックス様のご様子はいかがでしたか?」

「元気だったと思います。普段の様子は分かんないので、多分」

「そうですか。しかし、なぜ検問所に?…」

 

 ベルガさんはマックスが検問所にいた事を知らなかった。

 わたしはその事情を話した。


「なるほど…」

「本人は、ベルファスト家を引き継ぐ事に気乗りしていない様子です」

「存じております。父と言われても、実感がないとおっしゃっておられた」

「しっかりして、と言っておきましたけど」

「はははっ、そうですか」

 ベルガさんが笑う。

「戸惑ってはいますが、マックス様は根は真面目でございます。きっと、良い領主になれると、自分は信じています」

 彼の目には迷いはない。


 マックスはマックスのペースでやればいいと思う。

 父の道じゃない、マックスの道なのだから。



 料理は美味しかった。


「ここのお代は自分が払います」

「いえ、わたしが…」

 

 比較的安いけど、二人分となるとそれなりする。


「退役金が余っているので、大丈夫です」

「お金は持っているほうがいいです。いつ何があるか分かりませんから」

「それはお嬢様も同じ。ここは自分に支払わせてください。ヨアヒム様の代わりに」

「父の名を出すのは卑怯ですよ…」

「今日だけは卑怯もので結構」

 彼は笑顔だ。


 結局、わたしは押し負けて、ベルガさんが支払った。


 荷物を取りにベルガさん宅へ。


「ありがとうございました。突然の訪問なのに」

「礼などいりません。お嬢様でしたら、いつでも来てくださっても結構です」

「はい」


 ベルガさんに、聞きたい事がまだあった。 


「あの、ベルガさんはわたしの母の事はご存知ですか?」

「ええ、もちろん」

 当たり前よね。

「そうですか…」

「それが何か?母君様に何かありましたか?」

「いえ…。そのわたし、母を知らないんです」

「なんですと。知らない?ずっとご一緒にだったのでは?」

 わたしは首を横にふる。

「顔も名前も知らないんです」

「まさか、そんなはずは…」


 ベルガさんが言うには、母とわたしはマックスとは別れ、ベルガさんの先輩の竜騎士夫妻ともに潜伏生活していた。


 最初、叔父と叔母だと、聞いていたが後に違うと判明する。

 

 わたしの名前、ソニア・バンクスのバンクスは先輩竜騎士の名前。

 そう欺く事で身を守っていた。


「自分はそのように聞いております。不定期ですが、近況の手紙を先輩から貰っていました」

「その方達しか知らないですし、その方達ともに王国に…」

「どういう事だ…」

 ベルガさんは椅子に座り、腕も組む。


「王国に逃れ、シュナイダー殿にも会えて、お嬢様を確かに預けたと報告も貰っています。母君様からもです」

「母からも?」

「はい。しかし、お嬢様は知らない…」


「母からの報告って手紙ですか?」

「はい」

「まだありますか?」

「はっ!まだあります!」

 ベルガさんは慌てて部屋の奥へ。

 タンスの引き出しをいくつも開け探している。


「あった、ありました」

「見せてください」

 わたしはその手紙を受け取る。


「差出人は…ファーラ…マリオン…」

「そうです。その方がお嬢様の母君です」

「わたし…この人、知ってる…」

「やはり、ご存知でしたか」

「でも、違う。この人は、わたしがいた寄宿学校の先生です…なんで…」

 

 この先生の事はよく覚えている。.

 勉強の事、寮での生活の事、何でも相談に乗ってくれた。


「ファーラ先生が、お母さん?…でも、何で言ってくれなかったの…」

「何か、そうしなければならかった事情があるのでしょう」

「それはそうかもしれないですけど…」


 

 両親の事を調べ始めた時、最初に行ったのが寄宿学校だった。

 何かわたし関する資料があるのではないかと思ったから。

 でも、ないと言われる。

 わたしの個人資料を見せてもらいたかったが、なぜか拒否される。


「なぜです?わたしが、自分自身の資料を見て何か悪い事があります?」

「ありません。しかし、そう言い付けられているのです」

「どこの誰に言い付けられているんです!?」

「それも申し上げる事はできません」

 

 なんなのよ!もう。


 納得いかないまま寄宿学校を去ろうとした時だった。


「ソニア!」

呼び止められ、振り向くとファーラ先生だった。

「ファーラ先生。お久しぶりです」

「久しぶりね。今日はどうしたの?」

「今日は…」


 いきさつを話した。


「ご両親の事…そう…」

「ほんとムカつく」

「落ち着いて。何事も冷静さが大事よ」

「はい…」

 

 ファーラ先生はいつも落ち着いている。

 ボヤ騒ぎがあっても、煙で慌てる生徒達を的確に避難させていたっけ。


「自分の資料が見れないって、意味がわかんないですよ」

「そうね。ここじゃなくシュナイダー様に聞いたらどう?あの方があなたの後見人でしょ?」

「聞いた事あるんです。遠回しに拒否された感じで…」


 そんな事より、自分の将来を考えろって。

 それは分かってるし考えてるけど、今は両親の事を知りたい。


「そう…。他に行く宛は?」

「帝国に行こうと思います。叔父と叔母いるはずですから」

「場所はわかっているの?」

「いえ…」

 名前が分かっているから、そこから探すしかない。


「明日もう一度会えるかしら?」

「ええ。大丈夫ですけど…どうしてです?」

「私があなたの資料を見てくるわ」

「え?先生が?でも…」

「あなたはダメでも、私なら大丈夫」

「大丈夫って…。勝手に見ていい物じゃないようですけど…」

「見るだけなら問題ないわ。持ち出すのダメでしょうけど」

 

 わたしは何故そこまでしてくれるのか、不思議だった。


「約束して。資料の情報を知っても、何も聞かないと」

 彼女は強く念を押す。

 わたしは不思議に思いつつも了承した。


 先生がくれた情報はいくつかの人物の名前と住んでいる場所。 



「そこにはベルガさんの名前もありました」

「そうですか」

「叔父と叔母の名前も…」



「…」

「私にできることはこれだけです。あまり見る時間がなくて…」

「どういう事ですか?」

「何も聞かない約束です。さあ、お行きなさい。真実をあなた自身で、見抜き、見極めるのです」

 先生はそれ以上は何も言わなかった。


 先生がくれた情報を頼りにいくつかの人物に聞き回り、やっとの事で自分がヨアヒム・ベルファストの娘である事を突き止める。



「きっかけはファーラ先生だった。ファーラ先生があの時何もしてくれなかったら、まだ知らなかったかもしれない」

「お嬢様の事を助けようとしてくれたのでしょう」

「なら、自分が母だと教えてくれても…」

「いきなり告白されては混乱すると思われたか…」

 そうだけど…。

「ある程度、情報を得てから…これもおかしいですね」

 

 よくわからないが、母の判断だったのだろう。


「…とりあえず、ファーラ先生が母という事で間違いないんですね?」

「はい。間違いございません」


 母の情報を得られたのは幸いだった。


 何故、母はわたしと一緒じゃなかったのか、それを確かめないといけない。

 まずは、ヨハンさんへの手紙を届けないと。

 それから、母に会いに行きたい。

 わたしは手紙を見つめ、そう思った。

 

 


Copyright(C)2020-橘 シン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ