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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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20-38


「ヴァネッサ」


 戻るとすぐにウィルが、そばに来る。


「どうしたの?」

「食糧が底をつく」

「あー…」


 それはなんとなく分かっていたけど…。


「もうニ、三日伸ばせないの?」

「マンダールさん達がいなければ…それに六番隊が滞在するなら、さらに必要だよ」


 そういう事か。

 イレギュラーだもんね、完全に。


「いなかったとしても、そんなに持たない」

「仕方ないね…」

「人選は任せよ。こっちは買うべき物をリストアップしておくから」



 買い出し警備に関しては六番隊を頼る事にした。


 六番隊全員で行ってもらって、ポロッサで半数を駐屯地へと帰ってもらう。


「よろしいのですか?」

「ああ」

「再び襲撃されるおそれがありますが」

「これ以上は頼れない」

「数日いても問題ありません」

「ありがたいけど…」


 六番隊に初めて感謝の言葉をしたかも。


「後は、あたしらでなんとかするよ」

「そうですか」


 ミラーズは異を唱えなかった。


「もう一つだけ頼みたい事があるんだけど…」

「なんでしょう?」

「マンダール達をワーニエまで送って行ってから、駐屯地へ帰ってもらえる?」

「はあ…構いませんが、話によれば彼らが行きたいのはもっと先では?」

「うん。ワーニエ以降は、ミャンと誰か任せるから。そこまででいいよ」

「わかりました」

「悪いね」


 ミラーズは何も言わず、首を横に振るだけ。


「隊長にも感謝してるって伝えて」

「わかりました」

「ないかしらの処分が出たら、あたしを殴り来ていいからとも」

「ここまで殴りには来ないと思いますが」

「そう?」

「お前のほうが来い、と言いますよ。多分」

「行かないよ、あたしは」

「でしょうね」


 そう言って、お互いに笑う。



 日が傾き、あたりがオレンジ色に染まって行く。

 その光景を見ながら、呟いた。


「あたしは、隊長失格だよ…」

「そんな事はありませんよ。戦況を聞きましたが、死者数名ですんでいるのは、あなたの手腕でしょう」

「誰も死なせなくはなかった。ステインが死んだのは、完全にあたしの落ち度だし」

「部下失うのは辛いでしょうが、上に立つ者として避けられない道です」

「頭じゃ分かってるんだけね…未経験ってわけでもないし…」

「自分も部下なくしています。お気持ちは分かるつもりです」

「ああ…」

 

 後輩に諭されるなんてね…。


 シュナイダー様ならなんて言うかな。


 ここを乗り越えて進め、とか、私の辛さがわかるだろう、か?

 

 嫌なら辞めろ。これかも?。



「今日はほんとに助かったよ」

「いえ」


 あたしは姿勢を正し、敬礼する。

 ミラーズもアタシに習った。


 それから、ミラーズから離れ館へ向かった。



 

 僕は執務室で棟梁と友人宛の手紙を書いていた。


 領民達の家を建てるには、棟梁達の力を借りなけれいけない。

 その他、友人達へ助けてほしいという内容の手紙を書く。


 頼らずにできるのが、理想だろう。

 

 領民家は壊され…自ら壊したんだけど、家財道具一式がない.

 元の生活を取り戻すには多くの物が必要だ。


「これでよしっと…次は…」


 執務室のドアが開けられ誰かが入ってくる。


「ウィル様?…」

「やあ」


 シンディだった。


「申し訳ありません!手伝いもせずに…」

「手紙を書いていただけから」


 彼女は何度も頭を下げる。

 

 彼女に非はない。

 今彼女には、リアンを見てもらっているんだから。


「何かお手伝いできることは…」

「あー…大体終わったよ…」

「…」

「そ、そうだ。封筒を用意してくれ」

「はい!。かしこまりました」

 

 シンディはすぐに棚へを向かう。


「何枚ご用意すればよろしいのですか?」

「そうだな…」


 僕は指を折り数える。

 

「七枚、頼む。内一枚は大きめの物を」

「はい」


 封筒に手紙を入れ、差出人と宛名を書いていたらヴァネッサが執務室へやってきた。


「ヴァネッサ…何かあった?」

「いや、何もないよ」


 彼女はそういいながら、リアンの席に座る。


「シンディ。紙とペンもらえる?」

「はい。だたいま」


「もしかして、六番隊へのお礼に手紙?それなら僕が書いたよ」

「いや、六番隊宛じゃなくて、クローディア様に」

「クローディア様…陛下付補佐官の?」

「そうだよ。なんでまた」

「今回の襲撃を報告しとく。ここ以外にも襲撃がある可能性あるかもしれないし、注意発起も兼ねて」

「なるほど…。報告なら僕の方でやってもいいよ?」

「戦況報告もやってくれる?」

「え…それは無理かな…」


 それはできないな。

 

 適任者はやはりヴァネッサだろう。


 襲撃当初から指揮をし、戦闘に見てきた。



「どうぞ」

「ありがと」


 ヴァネッサは、シンディが用意してくれた紙に戦況を書き始める。下書きもなしに。

 それに早い。


「すごいね…」

「なにが?」

「下書きなしで大丈夫?」

「大丈夫だよ。慣れてるから」


 慣れるものなのか?。


「王都にいた頃は、報告書書くの班長の仕事だったし。嫌いだけどね」


 そう言いながら、手は休めない。


「少しくらいなら間違ってもいいんだよ」

「いやいや…」

「線二本で訂正すればいい」

「クローディア様に見せるんでしょ?奇麗に書こうよ…」

「正式なものじゃないんだから、いいんだって」


 ちゃんとしたものを提出したいな。

 カッコ悪いのは恥ずかしい。


「あんたとリアンの名前も書くから」

「ええ?それはやめてよ」

「なんで?」

「訂正だらけだし…僕が書いたと思われたくない。それに、正式なものじゃないんだろう?」

「そうだけど、一応必要じゃない?」

「まあ…うん…なら、本文はヴァネッサ・シェフィールドが書いたって明記してよ」


 僕は、語気を少し強めに言った。


「はいはい…」


 

 ヴァネッサから明日、買い出しに出る事、六番隊が護衛につく事を聞く。


「それは助かる」


 シュナイツからもレスターとサムが参加する。


「六番隊は3分の2くらい出してもらって、ポロッサで半分以上帰らせる」

「そうなんだ…」

「とりあえず再襲撃はないという前提で。そうしないと六番隊に頼りきりになる」

「うん」


 ヴァネッサとっては苦渋の決断だったろう。


 六番隊は非正規任務。

 いつまでもシュナイツには居れない。


「それからマンダール達の護衛を頼んだ。ワーニエまでだけど」

 

 これは意外だった。


 六番隊にとってマンダールさん達の事は、シュナイツの事以上に関係ない。


「だから、ワーニエまでにしておいた」

「そこから先は?」

「場所がわかってるミャンと、同じくわかってるタイガとユウジ」


 三人か…。


 もう少し護衛を出してほしいが、シュナイツの警備もあるからこれが限界だろう。


「わかった。君の判断に任せるよ」


 

「あんたは誰に手紙書いたの?そんなにさ」

「まずは棟梁と六番隊の隊長に」

「隊長に?いらないよ」

「そういう訳にはいかない。礼儀として出すの当然でしょ?」

「副長来てるし、口伝えでいいと思うけど」

「ヴァネッサはそれでいいかもしれけど、領主がそれじゃ失礼にあたる」

「ああ、そう…」


 ヴァネッサだってシュナイツの隊長としてお礼の手紙を書くべきだろう。

 本人は恥ずかしいのか、面倒くさいのか知らないけど。


「で、後は?」

「ジョエルとマリーダ姉さん、それから乾物屋と鍛冶屋の友人に」

「鍛冶屋、来てくれるの?」

「わからない。一応」


 鍛冶屋はヴァネッサの要望でもある。


 武器の修理をして欲しい。

 しかし、シュナイツでできる事は限られる。

 せめて、剣や槍を奇麗に研いでほしいというが、ヴァネッサの要望。


「香辛料を扱っている友人がいるけど、多分無理」

「あー、喧嘩別れしたままなんだっけ?」

「うん…」


 彼女には来てほしい気持ちと、来てもどんな顔でどんな言葉をかけていいのか、わからない複雑な気持ちがある。


 

 棟梁と違って、友人達が来る可能性は低い。

 

 みんなそれぞれ自分の商売をしているし、シュナイツに来るメリットがないからだ。


 僕はやきもきしつつ、待つことになる。


 

Copyright(C)2020-橘 シン

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