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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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20-34


 賊は大人しく鎧を外していく。


 警備通路からは弓、目の前にはエレナが杖を光らせ(ただ光らせてるだけ)注意深く監視。


「モタモタしてじゃないよ!」


 びくりと体を震わせる。


「ここ、解いてくれ」

「ここか?…」

「ありがとよ」


「終わったら整列!」

「…」

「返事は!」

「はい」

「あんた達は死んでいてもおかしくかったんだよ?わかってんの?」

「あいー」


 気の抜けた声。


「やっぱり、腕一本折りましょうか?」

「副長、しなくていいです」


 今度は一人づつ、身体検査。


「お前からだ。こっち来な」

「おれ?」


 渋々といった感じで前に出る。


 レスターがナイフなど隠してないかを検査。


「ん?これは…」


 やっぱり隠してか。


「それは…」

「隊長」


 レスターが投げて来たのは、金の入った革袋。


 中には小金貨が数枚。銀貨もある。


「報酬が十万というは嘘ではないようですね」


 賊の革袋を覗き見ていたミラーズがそう話す。


「みたいだね」

「それはどうするんです?」

「もちろん没収。こっちは物入りなんだよ」

「嘘だろ…帝国に帰れるだけの金はくれるはずじゃなかったのかよ!」

「こんなに必要じゃないでしょ」 

「帰れたって食っていけねえじゃねえか」


 賊達が講義の声を上げる。


「真っ当に生きて来なかった自分達を呪うだね」

「自業自得ってやつだ」

「…」


 何も言えない賊達。


 あたしは真っ当な道から外れる所だった。

 その寸前で留まり運良く、シュナイダー様に助けらた。

 

 もし、あの時シュナイダー様がいなかったら、目の前の賊のようになっていたかもしれない。


「素直に出しな。無理やり取ってもいいんだよ?。この意味、わかるよね?」


 要するに、怪我したくなかったらって話。


 賊達は渋々ながら、金を出す。


 それを集めて、中から千ルグ分を賊一人ひとりに渡した。


「これだけ…」

「もう少しくれよ!」

「お前ら、自分たちがした事を考えろよ!」


 レスターが怒りを顕にする。


「後ろを見なよ」


 賊達の後ろ、そこには死体がいくつも転がっている。


「あんた達の自業自得の結果だよ。こっちも仲間を失った」


 賊達は死体から目を背けた。


「仲間を失った気持ちがわからないわけないでしょ。本当の所、あんた達も斬り伏せたい気分なんだよ。こっちは」


 あたしだけじゃない。他の誰かが斬りかかっても、おかしくない。


「早々に降伏したあんた達は、話の分かる奴だと思いたい。納得の行く奴は、さっさと立ち去りな」


 賊達はお互いを見る。


 誰が声をかけるわけでもなく歩き始めた。


「あんたの名前を聞かせてくれ」


 賊のひとり、エレナに浮かばれて怖がっていた奴があたしに話しかける。


「ヴァネッサ・シェフィールド」

「竜騎士ヴァネッサね。クソみたいな土産話ができたぜ…」

「それは、よかったね」

「…」


 奴はあたし達を一睨みすると、仲間ともに立ち去って行った。



「尾行つけますか?」

「いらないよ」

「いいんですか?」

「出すならタイガとユージだけど、二人の疲労度考えたら無理はさせれない」


 二人は十分に役目を果たした。


 六番隊を連れて来た。

 二人にとっては大仕事だった。さらに尾行しろなんて…。


 疲労度を考えたら、集中力がもたないと思う。

 そのせいで尾行に気づかれるおそれがある。


 できれば尾行をしたいのが本音だ。

 あいつらが帝国に帰れば、野良竜騎士と魔法士に会うはずだから。

 


 賊から集めた金を全額ミラーズに渡した。


「なんです?」

「あんた達にやるよ」

「しかし…先程、物入りと」

「向こうの奴も持ってるでしょ。たぶん」


 死んだ賊の遺品はまだ手つかずだ。

 何かしらの実入りはある。


「ここまで来てくれた感謝も込めて。きれいな金じゃないけどさ」

「まあ…そうですね…」

「リカシィで美味しいものでも食べていけばいい」

「はい…」

「捨てても構わないよ」


 そう言ってミラーズの肩を叩き、あたし達は敷地ないへ入って行った。

 


 僕は警備通路から降りて、ヴァネッサを出迎える。


「あまりいい情報はなかったみたいだね」

「そんな事ないよ」


 そう言って彼女は僕の肩を掴み、顔を寄せた。


「シュナイダー様を殺った奴が関わってるぽい」

「え?」


 ヴァネッサはそれだけ言うと、すぐに顔を放す。


「後で詳しくね」

「あ、ああ…」


 今ここには、シュナイダー様の暗殺された事を知らない者が多数いる。

 

 シュナイダー様の暗殺については機密事項だ。



「次は、どこぞの村から連れて来られた者達に話を聞こうか」

「ああ」


 賊に連れて来られたという民間人達は、敷地内の北東に集められている。

 その周りには兵士を監視目的で数名配置していた。

 直上の警備通路にも兵士を配置している。


 武器と鎧など装備は回収済みだ。


 僕とヴァネッサ、それにミラーズ副長ともに民間人達のもとへ。

 レスターとミラーズ副長の部下も一緒に。

  

 民間人達の人数は二十五名くらいだっと思う。


 半数以上が男性で、女性や子供のほうが少ない。


 ミラルド先生とシエラが、民間人の怪我人を手当てしている。

 手当てが終わるのを離れて見ていた。

 見つつ、ヴァネッサから捕虜から得た情報を聞く。


「金目当てで賊について来たって話らしいんだけどさ…」

「身なりが良いように見えないから、その通りかもしれない」

「あたしには解せないね」


 金額によるだろうけど、手っ取り早くお金が手に入るなら…賊について行くかもしれない。

 

 

 怪我人の手当てが終わったようだ。


「先生。怪我の程度は?」

「軽症のみです」

「そうですか…」


 とりあえずはよかった。


「でも、ずいぶん疲れているみたいですよ」


 シエラがそう話す。


「そう…。ありがとう」

「はい」


 ミラルド先生とシエラは去っていく。


「疲れか…」

「行くかい?」

「うん」


 ヴァネッサはレスターを先に行かせる。


 レスターは監視中の兵士に何かを耳打ちした。

 その後。こちらに手上げる。


民間人達が僕達に気づき、立ち上がった。


「ウィル様、この辺で」

「ああ」


 レスターが横に腕を出し、止まる。


 彼らまでちょっと距離がある。話ができない距離ではない。


 僕の前にレスターとヴァネッサが並び立つ。

 二人の間から民間人達を見る形になる。


 僕の身に危険が及ばないためのものだろうが、少し窮屈だ。


「僕はここ、シュナイツの領主、ウィル・イシュタルだ。代表者と話がしたい」


 ざわつく民間人の中から男性が一人、前に出てくる。


「そこで止まれ」


 レスターがそう声かけ、男性は足を止めた。


 比較的長身で、見た目は僕より年上に見える。三十前後か。


「私はルクサ・マンダール。代表者というわけではないが…」

「あんたが代表者じゃないなら、なんで前に出てきたの?」

「はい…」

 

 ヴァネッサの問いに困った様子。


「ヴァネッサ、高圧的過ぎるよ」

「はいはい…」


 彼女の気持ちはわかるが、落ち着かなければいけない。


「何から訊こうかな…。帝国から来たらしいけど、どのあたりから」

「北部です」


 

 北の検問所から帝国の帝都までは街道ある。

 検問所と帝都を結ぶ東西の道だ。


 ほぼ直線。起伏もあまりにない。 


 街道周辺から北は北部になる。


 帝都はイースタニアの北東。海に近い所に位置している。


 マンダールさん達が居た村は街道より北。

 中央より検問所に近いそうだ。


「山間部であまりいい土地ではないです」

「そこに賊が来た?」

「竜騎士じゃなくて?」

「竜騎士かどうかは分かりませんが…報酬をやるからと…」

「実入りのいい仕事からって従った?怪しさ満点でしょ?」

「そうなんですが…前金で五万ほど…」


 五万…。


「一人づつ、全員にですか?」

「いえ、まとめて…」


 そうだとしても、大金だ。


「怪しいから受けるなという者もいました。ですが…」

「欲が出た?」

「はい…。その人について行くか、行かないかで村は二分し、私はついて行くと決め彼らとともに村を出たのです」

「あんたは言い出しっぺなんだね?」

「はい…」


 当初、彼らは仕事の詳細は分かっていなかった。


 町へ指定された物の買い出しと運搬。


 それだけなら、何も問題もなかった。それだけなら…。



Copyright(C)2020-橘 シン

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