20-33
シュナイダー様は竜騎士と魔法士の二人組に殺られた可能性が高い。
目の前の賊は、竜騎士と魔法士が手引してると証言してる。
そいつらとしてもあたし達としても、二度目襲撃ってことになる。
シュナイダー様の仇かもしれない奴がすぐそこにいた!…。
「もっと詳しく話すんだよ!」
「話せって、これ以上の事は知らねえよ」
「ふざけんじゃないよ!」
あたしは剣を抜きかける。
「隊長!」
レスターがあたしの肩を強く掴む。
「ちっ…」
抜きかけた剣をゆっくり収めた。
「ヴァネッサ隊長は、竜騎士と魔法士の二人組に心当たりが?」
「…いや、別に…」
ミラーズに平静を装いつつ、そう答えた。
ミラーズ達はシュナイダー様が、暗殺された事は知らない。
この事は機密事項だ。
つい感情的になってしまった。
「そうですか…」
ミラーズがちょっと訝しんでいるね。
「もう一人の魔法士ってどんな奴だ?」
レスターが賊に訊く
「女だ」
「女?」
「ああ」
美人だったと別の賊が証言する。そんな事はどうでもいい。
「すんげぇ奴だ。驚いたよ」
「だろうね。で、名前は?そいつも名無しかい?」
「いや、クリスティナって名乗っていた。本名どうかは知らん」
クリスティナね。
「そいつはシファーレンから来たそうだ。どうりで魔法がすごいわけだ」
「シファーレン…」
「シュナイツにえらく執心だったな」
「ここに?」
「正確にはここの魔法士らしいが」
「エレナに?」
あたしは後ろを警備通路にエレナを呼ぶようサインを出す。
程なくしてエレナが現れる。
「エレナ。あんたが対峙した魔法士はシファーレン出身らしいよ」
「シファーレンから?」
「あんたに執心だと」
「恨んでるらしいぜ。あんたを」
賊が半笑いでそう話す。
「クリスティナって名の魔法士に心当たりは?」
「…ない。恨まれる事はしてないけど…あるとすれば私が起こした例の事件ぐらい」
「あれで怪我したとか?」
「だとしたら、私に責任がある」
「魔法士は健康に見えたけどな」
「逆恨みですかね?」
逆恨みであんな事されちゃあね…。
「その魔法士の年齢は?」
「年齢なんて知らねえよ…」
そう答える賊の体が宙に浮く。
エレナが魔法を使っていた。
「おい!なんだよ!」
「真面目に答えて」
「答えてるじゃねえか!年はお前と同じくらいに見えたぜ!…ふざけんな!降ろせ!おい…」
「シファーレンのどこから?」
「知らないって」
「クリスティナ以外の名前は?」
「それだけだ」
賊は縛られたまま宙で焦り暴れる。
あたしの身長と同じくらいの高さに浮かされていた。
「私を恨む理由は?」
「だからさ!しっ知らねえって!降ろしくれ!」
「その魔法士は何故いない?」
「さっきいなくなった!」
「いなくなった?」
「気がついたらいなくなっていたんだ!」
「モヤが消えてたのはそれかい?」
「おそらく。魔法を施した本人がいなくなって消失した」
「下ろしてくれって!高い所は怖いんだよ!」
大した高さじゃないのに。
こんな奴らに手を焼いていたなんて、情けない話だよ。
「降ろしてやりな」
「いや、もう少しそのままで」
ミラーズがそう言って前に出る。
「資金について訊きたい」
「あー、そうだね」
「金や物資は竜騎士が調達していたのか?」
「知らねえよ!金の出処なんて!…」
「あんたさ、何知ってんの?」
「下っ端の俺に訊くなつうの!」
こいつはそれなりの情報持ってそうなんだけど。
「おい!バカ!…やめろ!」
エレナの魔法で賊がどんどん上空へ上がって行く。
「おお」
ミラーズが関心してる。
「ちゃんと話せば!降ろしてやるよ!」
そう叫んだけど、届いてる?
「下っ端では情報は得られないのでは?」
「あいつが一番知ってそうだし、他はどうだか」
一応訊くか。
「金の出処、資金を出してる奴について知ってる奴はいる?」
賊達は首を横に振る。
面倒くさそうな顔にムカつく。
「エレナ、こいつらも同じように上に上げて」
「了解」
賊達全員が浮かび上がる。
「生かすも殺すもこっち次第なんだよ。開放してほしけりゃ、さっさと情報吐きな」
宙に浮かんで怖がる奴もいれば、楽しんでる奴もいた。
「こいつら…」
「エレナ。もういい…降ろして」
賊全員が降ろされる。
「勘弁してくれ…」
「だったら金の流れを吐け!」
レスターが軽く蹴って凄む。
「パトロンがいる…たぶん」
「パトロン…」
「竜騎士だとしても、扱える金額がでかすぎるぜ」
「お前達はパトロンは見てないんだな?」
「パトロンのパシリみたいのは見たが、名前も顔も…」
「知らないんでしょ」
賊に報酬を支払い、装備を与える。
金を持ってるといえば富豪?。
富豪だとしたら、シュナイツを襲う理由が分からない。
なんのメリットがあるのか?。
「この程度の情報では、何もわかりませんね」
レスターがため息を吐く
「ないよりはマシだよ」
「どうします?」
殺しても死体の処理をしないといけないからね。
面倒くさいよ、全く。
「今後の事もあります。ニ、三人に残して処刑すべきかと」
ミラーズがそう提案する。
「全員ではなく?」
「はい。見せしめですよ。帝国に帰して何があったのかを語ってもらう。この状況を知れば、シュナイツに手を出しにくいのではないでしょうか」
「なるほどね」
抑止力になるか…。
「うちの領主は優しくてね。これ以上の殺生は好まないと思うよ」
「そうですか…」
「レスター、訊いてもらえる?」
「はい」
レスターが警備通路の兵士にサインを出す。
「イシュタル卿の許可が出ないとすると、目の前の賊は解放となりますが」
「仕方ないんじゃない?殺す価値もないよ」
「ウィル様は身ぐるみ剥いで、帝国に帰れるだけの金を渡して解放と」
「ほらね?」
ミラーズが苦笑いを浮かべる。
「まあ、いいでしょう。証言が多ければ信憑性も増しますし」
「非戦闘員について訊いてほしいと、ウィル様が」
「非戦闘員?」
「こいつら、女子供を連れていたんだよ」
「まさか奴隷ですか?…そうなら、極刑ですが?」
ミラーズが剣に手をかける。
「おいおい待ってくれ!金を渡してるんだから奴隷じゃねえだろ!」
「それはこっちで判断するよ。どっから連れて来たの?」
「帝国にある小さな村らしい」
「らしいって、あんた達が連れてたんでしょ?」
「連れて来たのは例の竜騎士だ」
また竜騎士か…。
「雑用に使えって」
「それで一緒に来たわけ?」
街道を使わず山中を歩いて来たらしい。
「女の魔法士が魔法で道を作っていたから大した苦労はなかったぜ」
「距離があるでしょ」
「田舎もんは体力あるし、ついて来れば追加の報酬があるんだと」
金か。
そりゃ生きて行くには金は必要だけど、賊について行かなくてもいいだろうに…。
それとも相当困っていたのか。
「大した情報は手に入らなかったね」
「下っ端の小間使いではこの程度でしょう」
「腕一本折る、というのどうでしょうか?あっさり吐くかもしれませんよ」
ミラーズが笑顔でそう話す。
「あんたが折りたいだけじゃないの?」
「ふふ…」
彼はただ含み笑いをするだけ。
「と、とりあえず身ぐるみを剥ぎますか?」
「だね」
武器は取り上げたが、鎧は来たままだ。
賊全員の縄を解き、鎧を外させた。
Copyright(C)2020-橘 シン




