20-32
「先程の暴言については報告しませんので、ご安心を」
ミラーズ副長はそう言ってくれた。
「ありがとうございます」
「…」
ヴァネッサは特に何も言わない。
僕の方から礼を言うように促したが、頭を下げるだけだった。
「竜騎士隊としては、賊の数、出どころが気になるところです」
「ああ。あたしもどうにも腑に落ちなくてね」
「その賊と一緒に極普通の村人が混じっている。僕はそっちも気になる」
「捕虜と村人は隔離してあるから、話を聞きに行こうか」
僕達は襲撃の真相を確かめるため、まずは捕らえた賊を尋問することにした。
賊は縛り上げ敷地の外、バリケードのところに集めて立たせている。
武器類は当然取り上げ、防具もない。
僕は敷地外に出てはいけないという事で北側の警備通路に登り、上からその様子を見る。
あたしの目の前には賊が十名並んでいた。
神妙な顔つき。
尋問には、シュナイツからあたしとレスター。
六番隊からミラーズと部下一名
その部下一名はレスターと一度会っていて面識がある。
尋問の前に賊の装備品を調べた。
「比較的良い装備ですね」
「賊が買えるような品じゃないね」
ミラーズの言葉にあたしは同感。
「はい。品が良すぎますし、ほぼ同じデザインのような…」
「確かにな…まさか、まとめて発注した?」
「そこまでの資金力があるとは思えませんが…」
レスターとミラーズの部下がそう話す。
「賊もピンキリだからな」
「にしても…隊長、どう思います?」
どう思うか…ね。
「バックに誰かいる可能性?…」
「賊を支援してる奴がいると?」
「支援なしでこの日数を戦えるとは思えない」
「同感です」
ミラーズもあたしの考えと同じ。
「それはそれで誰が支援してるのか、疑問が残りますけど」
「そいつは直接訊くさ」
今度は賊に話を訊く。
賊には訊きたい事がたくさんある。
賊は怯えて目を合わせない。
威勢は消え失せていた。
「とりあえず…あんた達はどっから来たの?」
「…」
黙り込む賊。
「言っちゃいけないきまりでもあるわけ?」
「…」
ミラーズが無言で近づき、賊の胸ぐらを掴みぶん殴った。
「って!何すんだ、てめえ!」
「口がきけないのかと」
彼は殴った賊の隣にいた奴も問答無用で殴る。
腹を殴られた賊がうめき声ともにうずくまった。
さらに隣の賊も…。
「あんたの所の副長、優しい顔してえげつない事するね」
「六番隊で、一番怖いのは副長なんですよ…」
「へえ」
「くそが!…無抵抗なんだぞ」
ミラーズに殴られた賊が悪態をつく。
「殴られるだけなら、まだいい方です。以前、隠れ家について、口を割らない奴に問答無用でナイフをふともも刺したり、指折ったりと…」
「ガルドの方が、まだ可愛く見えますね」
「そうだね…」
「くはぁ…」
賊がまだ一人倒れた。
「隊長そろそろ止めないと…」
「言ってやめるの?これ」
「大丈夫ですよ。副長!その辺で!」
ミラーズは胸ぐらを掴み振りかぶった所で動きを止める。
あたしは彼に近づき肩を叩く。
「それくらいでいいから」
「はい」
振り返った彼は笑顔だが、目が笑ってなかった。
賊は意気消沈。
「もう一度訊く。どっから来たの?」
「イースタニアだ…」
「帝国から?」
イースタニア帝国は、あたし達がいるセレスティア王国の東に位置する国。
あたしとミラーズはお互いを見る。
「帝国からわざわざ、シュナイツまで来たと?」
「ああ…」
街道ではなく、山中を歩いて来たらしい。
まあ、あの人数がぞろぞろ歩いていたら怪しいからね。
「シュナイツを狙った目的は?」
「拠点にするには理想的らしくて…」
シュナイツは三方を山に囲まれていて、攻めるとすれば北側からだけになる。
いいって言えばいいけど、だからってここを落とすためにあの人数を用意するか?。
どれだけ金持ってんだか…。
「らしいとは、お前達は詳しい状況を聞かず来たのか?」
ミラーズがそう訊く。
「相当な金をくれるってんで」
「どれくらい?」
「一人十万ルグ」
「十万!?」
賊の人数から換算すれば合計一千万は下らない。
相当なんてもんじゃない。
「本当かよ…」
「前金で半分もらった」
「残りは?」
「成功したら貰えるはずだった…」
賊程度にこんな大金を用意できるはずがない。
やっぱり裏に誰かいる。
「首謀者は誰?名前を言いな。容姿、風貌その他。知ってる事、全部吐け!」
「よくわかんねえ…」
「わからないわけがないだろう!」
そう言った賊の頭をレスターが殴る。
「ほんとに知らないんだって!。名前は教えてくれねえし、いつも目指し帽だったし」
「何か特徴あるでしょ?」
「特徴ってあったか?」
「目つきが悪いってくらいか?」
目つきが悪いのはあんたらも全員だっつうの!。
「もう一度殴りましょうか?」
「やめてくれ!」
「俺達は無抵抗なんだぜ?」
「シュナイツ攻めておいて言える口かよ!」
「あいつは竜騎士だ…」
ミラーズに殴れずにすんだ賊が呟いた。
「竜騎士?」
あたし達はお互い見る。
「間違いないのか?」
「たぶんな」
「適当な事言って、早く終わらせようとしてるだろ?」
レスターが剣を抜き、賊の前に突き出す。
「腰に下げてた剣が、あんた達と同じ長さたったぜ。竜は見なかったが」
竜騎士が扱う剣は少し長めだ。
見る奴が見れば竜騎士と判断できてもおかしくはない。
レスターに剣を収めさせる。
「帝国から来たという事は、帝国の竜騎士でしょうか?もしそうなら大問題ですよ」
ミラーズの部下が、少し焦り見せつつそう話す。
「正規の竜騎士じゃねえよ」
「なぜ、そう言える?」
「あいつの目は、戦闘狂の目だ。尋常じゃねえから覚えてる」
戦闘狂ね…。
「で、その戦闘狂がお前達を率いていたと?」
「途中までな」
「シュナイツには来てない?」
「ああ」
「そいつは本当に戦闘狂かい?シュナイツに来てないって、何してんの?」
「知るか、俺が訊きてえよ」
野良の竜騎士が賊を操ってる?
金と賊を集めるのにはコネが必要だと思うけど、それができる奴なのか?
「他に特徴は?」
「後は…魔法士がいたな」
「それはもう知ってるよ」
「いや違う。そうじゃなくて…」
「何が違うって?」
「この前のゴーレムだろ?嫌でも覚えてる。どう見たって魔法だ」
「その魔法士と、俺の言ってる魔法士は違う」
「魔法士が二人いた?」
魔法士が二人いたなんてね。
でも、二人がかりしちゃ規模が小さいような。
「ああ。二人いた。うち一人は竜騎士の知り合いのようだ」
「知り合い?」
「よく話しこんでいるを見た」
「その魔法士の名前も顔も知らないんでしょ?」
「まあな…」
「まあなって…お前らよくそんな奴の言う事聞いていたな?」
「策はよく練られてた。シュナイツ周辺の地形も、館も、戦力も…まるで見て来たかように詳しかった。驚いたよ…ここに来て。ほぼ同じだった」
「なんだって…」
これには言葉を失う。
綿密に練られた作戦だった。
だけど、いつ情報収集した?
襲撃まで特に変化はなかったはず…
「まるで見て来た?…竜騎士と魔法士…まさか!…」
あたしは思わず賊の胸ぐらを掴み、凄む。
「あんた!本当に、竜騎士と魔法士の名前知らないのかい!」
「知らねえって!」
「嘘だったら、ただじゃすまないからね!」
賊を放し腰の剣を握った。
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