20-27
多目的室に起床したジルと見張りの当直が開けたアリスが入ってくる。
「おはようございます」
二人は壁に寄せられた自分達の椅子を持ってきてテーブルにつく。
「アリス。北側以外に気配はあった?」
ヴァネッサの問いにアリスは首を横に振る。
「北側以外に気配は感じない」
「そう」
陽動作戦を仕掛けてくるという意見もあったが、それはないようだ。
朝食が運ばれ来て、雑談を交えながらの食事となる。
その雑談は盛り上がる事はなかった。
ミャンはあんなだし、リアンもいないからなんだけど、何よりまだ戦闘中だってというものある。
動きあったのは、その日の昼前だった。
「隊長!」
兵士が一人駆け込んでくる。
「敵の様子が見えるようになりました!」
モヤがなくなり敵陣が見えるようになった、という報告だった。
ヴァネッサとエレナ、ミャン、ジルとともに屋上へ。
「あれま、丸見えダ…」
「エレナ。千里眼の方はどう?」
「問題ない」
エレナが両手の人差し指と親指で作った輪の中に、敵陣の様子が写っている。
僕は大きな単眼鏡を借りて覗いた。
特に目立った動きはない。
弓矢対策なのか、木板をいくつか立てているのが見える。
火を焚いているのか、煙が上がっていた。
「どういうわけかわからないけど、見えるにこした事はない」
ヴァネッサがそう話す。
「敵が動いたら、すぐ知らせるんだよ」
「了解」
彼女は屋上いた兵士にそう指示する。
しばらくの間観察していたが、特に変化はないので戻ろうかと歩き出した時だった。
「隊長!誰かがこっちに来ます!」
「誰かってね…報告は明瞭に、言ってるでしょ」
「ヴァネッサ、そんな事言ってる場合じゃないぞ」
エレナの千里眼に映る光景。
女性、子供がこちらに向かって走ってくる様子が映っていた。
それを追う者。
追ってくる者から女性達を守ろうしてる者。
「これは…」
「仲間割れでしょうか?」
襲撃の初期、女性達いる報告はジルとアリスからあったのを思い出す。
「理由はわからないが、女子ども 危害を加えようとしている。助けよう」
「助けるって、賊の自作自演の可能性もあるし…」
「かもしれないけど、まずは助けないと…もし間違っていたら…」
無抵抗のまま殺される所なんて見たくない。
「わたくしが行きます」
ジルが屋上から飛び、一気の防壁内側の警備通路に降り立つ。そして外へと出ていった。
「アタシも行く!」
「ミャン…」
「暴れ足りないんだよネ。ライアの事でむしゃくしゃしてたシ!」
ミャンも屋上を飛び降りた。
「敵兵、さらに接近!」
「たっくも…」
ヴァネッサはため息を吐いた後、屋上から身を乗り出す。
「動ける者は全員、非戦闘員の救出へ出ろ!竜騎士もだよ!あたしも出る!竜の用意をしな!」」
「ありがとう、ヴァネッサ」
「礼を言うのは早いよ。これで敵の自作自演だったら終わりかもね」
彼女はそう言うと全力で駆けていく。
「私も援護に行きます」
「頼む」
エレナも屋上から去って行った。
僕も下へ降りるか。
「状況報告を随時頼む。この下にいるから」
「了解です!」
「急げ!」
ヴァネッサ隊長の命令で出撃準備に追われる。
「鎧を着たやつから竜の準備に回れ!」
レスターが声を張り上げライノ達に発破をかけていた。
「レスター。俺は先に出る」
「出るって竜はどうするんだよ?」
「後で持ってきてくれ」
「後…」
「ミャン隊長とジルが先に行った。援護が必要だろ?」
「わかったよ…」
レスターの半分呆れた顔に見送れながら、門へ向かう。
女子供に刃を向けるとは…。これだから賊は!。
「用意が出来てる奴はいるか?」
「自分、行けます!」
声をかけてきたのは、短槍を手にしたリックスだった。
こいつは剣兵だったんだが、ミャン隊長の短槍に惚れ込み鞍替えしている。
ミャン隊長ほどには短槍を使いこなしていなが、中々の腕前だ。
持ってる短槍は長槍を短く切ったもの。
「よし。俺と来い!」
「はい!」
「気合い入れてかかれよ」
「了解!」
拳を合わせる。
「救出した者は、北東の角に集めな!兵士をそばにおいて監視すんだよ!」
館から出てきたヴァネッサ隊長が指示をする。
「ガルド、前に出過ぎるんじゃないよ!」
「わかってますよ」
隊長に答えてリックスともに外に出る。
女性が子供の手を引きこっちに向かって走って来ている。
その向こうにミャン隊長をジルが賊と戦っていた。
リックスを連れ二人の元へ急ぐ。
「まずい…」
ミャン隊長とジルが囲まれて身動きができなくなっていた。
さすがにあの二人でも、この人数は裁ききれないか。
囲みの外でも小競り合いしている者達がいる。
「どっちが賊です?」
「多い方だろ」
少人数でなんとか戦いになっているが、戦い慣れしてないのは見ただけでわかった。
「てめえら、俺が相手してやる!かかって来い!」
俺達に気づいた賊が一気に襲いかかってくる。
賊に剣を弾き飛ばし、切りつけた。
大した装備じゃない賊は首から胸、腹にざっくりと切り裂く。
断末魔とともに倒れ込んだ。
「次はどいつだ!」
リックスも短槍を振り回し賊とやり合っていた。
「囲め!囲んで畳みかけろ!」
賊が後ろに回り込もうとする。
「ガルドさん!」
「させねえよ!」
賊と戦っていた少人数の集団と一緒に距離を取る。
「お前ら、ついて来い!」
「はい!…」
疲れた様子でなんとかついて来た。
「はあ…はぁ…あ、ありがとう…ございます…。あの、私達は賊ではなくて…」
「話は後で聞く。今は生き残る事を考えろ!」
「はい…」
どう見ても賊には見えなかった。
賊なら目を見ればわかる。こいつらは腐った目じゃない。
「リックス!下がれ」
「はい!」
リックスは背を向けずに後退りする。
「弓矢の射程まで誘い込む」
「わかりました」
警備通路に合図を出す。
「くそっ」
「どうした?」
「奴らついてきません」
読まてるだと。
くそったれ、やるじゃねえか。
「クアアァ!!」
背後から、竜の叫び声が聞こえる。
振り向くと竜がバリケードを軽々しく越えた所だった。
「やっとか」
俺の竜だ。
さらにその後ろからヴァネッサ隊長やレスター達、さらに兵士が門から出てきたのが見えた。
竜が俺の前で急停止する。
「待ってたぜ」
すぐに騎乗して、軽く首を叩く。
「久しぶりに大暴れするぞ!」
「グアアアッ!」
いい叫びだ!。
「リックス。お前達はバリケードを越えられないように守れ」
「了解!」
「抵抗するやつは全員切り捨ろ!」
「はい!」
数じゃまだ負けてるが、混乱に乗じてここで反転攻勢ができると考えていた。
ヴァネッサ隊長達と合流。
「ガルドはスチュアートとサムを連れて右へ」
「了解!」
「レスターはあたしと左へ行く。ヘマするじゃないよ」
ライノ、ステイン、ミレイは打ち漏らした敵兵を殺るよう指示された。
「周りを見て、囲まれないようにするんだよ」
「はい!」
「お互いに声を掛け合え。お前らならできる。気合いを入れけ!」
「訓練を思い出せ。落ち着いてな」
「了解」
三人に緊張が見て取れたが、実戦をやらずに成長はない。
俺達は敵集団へ突撃していった。
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