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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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20-26


「アリス?」

「はい」

「なんダ…」

「食器持って行きます」

「いや、いいよ。そのままでいいかラ」

「いいんですか?」

「うん」

 

 アリスは扉から出てくる。


「アリス、体はいいノ?」

「はい。もう大丈夫です。夜ですから」


 吸血族は、やっぱり太陽が苦手なんだ。


 昼間は辛そうな顔をしてたけど、今は元気。


「ミャン隊長はずっとここに?」

「うん…まあ…」


 アリスは、それ以上聞かずにアタシに背を向ける。


「ライア隊長の事、聞きました。とても、残念です…」

「エレナが…魔法士のエレナがうまくやっていれば、ライアは翼をなくさずにすんだんだ」

「そうかもしれない。けど、もう起きてしまった事を悔やんではいけない」

「そうだけどさ…」

「わたしはジルのミスで、左目を失った。でも、ジルを恨んではいない」


 アリスは振り向き、アタシを見つめる。


「わたしとジルの連携がまだ未熟だった。お互いがお互いを感じる事が出来てなくて、自分の事で精一杯だった。わたし自身のせいでもある」


 彼女は静かに話す。


「失敗から学ぶ事が大切なんだと思う」

「だから、エレナを恨むなって?」

「うん」

「アタシはアリスみたいなお利口さんじゃないから…」

「わたしは利口さんじゃない。わたしもライア隊長と一緒に向かっていればと思っていて、すごく後悔している」


 彼女はそう言って両手を組んで力を込める。


「恨むなら、わたしもエレナ隊長と同じように恨んでほしい」

「アリス…」


 アリスはヴァネッサから待機してるよう指示されていたから、悪くない。

 なのに彼女は後悔していた。


 恨んでも、ライアの翼は元には戻らない。


「恨んだりしないよ…。アリスも…エレナの事も…」

「ありがとうございます…」


 彼女は近づいて来て、そっとアタシを抱きしめる。



 恨んでも何も変わらないくらいわかっていた。

 でも、そうしないと自分を気持ちどこに向けていいかわかんなかったんだ。


 ライアのために、これから何が出来るか考えようと思う。


 アリスともに見張り塔で警戒しつつ、朝まで過ごした。



 多目的室には、あたしとウィル、ガルド、オーベルだけがいた。


 ウィルはずっと戦闘が終わった後の事を考えている。


「オーベルさん」

「はい」


 呼ばれたオーベルが椅子からすぐに立ち上がった。


「オーベルさんも休んでください」

「お気持ちは嬉しいのですが、誰一人メイドがいませんと…」

「大丈夫です。子供じゃないので、一人できますよ」


 オーベルはあたしを見る。


「あたしも休んだほうがいいと思うよ。ウィルの言う通りあたしら子供じゃないからさ」

「オーベルさんに倒れられたら、みんな心配しますから」

「倒れたあんたがいうと説得力あるね」

「だろう?」


 ウィルは笑顔で答えた。


「メイドの仕事は今日だけじゃないでしょう?」  

「もちろんでございます」

「なら、休んでほしい」


 ウィルは上から命令することは滅多にない。


「僕らは大丈夫だから。…リアンの事をお願いします」

「わかりました…。お言葉に甘えせていただきます」


 オーベル本人は納得いった表情じゃなかったけど、多目的室を出ていった。


 彼女は真面目な人だから、こういう時自分が率先してメイドとしての努めを果たそうとしたんだと思う。


 

 多目的室には三人だけ。


 テーブルには発光石が入ったランプが二つ。


 ウィルは、ずっと戦闘が終わった後の事を考えていた。


「こんなに緊張する当直は久しぶりですね…」


 ガルドがそう呟く。


「シュナイツに来た初め頃は、毎日こんなだっけね?」

「はい」


 まだ兵士も少なく。防壁も未完成だった。


 兵士総出で、防壁を作っていたんだよ。あたしら竜騎士も例外なく参加してさ。



「ヴァネッサ。シュナイダー様なんでこんな所に領地を開いたの?」

「こんな所だからだよ」


 僻地にはどうしても賊や不穏分子が巣くう。

 それをできるだけ減らそうとシュナイダー様は考えたらしい。

 

 実際、被害報告は来ていた。

 だけど、今回の襲撃は度を越してる。


 あたしは、違和感を持っていた。



 夜が明け、空が白み始める。


 レスターが多目的室へとやって来た。


「おはようございます。おれが寝てる間に変わった事は?」

「ねえよ」

「そうか」

「寝てくる。後、よろしく」

「ああ」


 ガルドはレスターと交代で休み。


「失礼します」


 敬礼して多目的室を出ていった。



「ウィル様はずっと起きていたんですか?」

「ああ。戦闘が終わった後の事を考えていたよ」

「後ですか?」


 ウィルは、レスターにメモを見せる。


「なるほど…お金がかかりそうですね」

「それは仕方がない。必要経費と割り切るしかない」


 ウィルは肩をすくめた。


 補助金を出してもらって本当によかった。


 補助金がなかったらどうしていたんだが…。


 

 

 朝になり、朝食の時間になるが、いつものメンバーは集まらない。


 リアンとライアはいいとして。エレナ、ミャン、ジル三人は朝食の時間には現れなかった。


「休んでいるんだろう。呼ぶ必要はない」


 同感だね。


 休める内に休んでおかないと。


「おはようございます」


 アルが多目的室にやってきた。


「おはよう。マイヤーさん」

「おはようございます。申し訳ありません。寝入ってしまいまして…」

「いいんですよ」

「はい…」


 アルは本来早起きで、ウィルよりも起床し多目的室の清掃等をこなしている。

 そのアルが遅れてやって来た。やはり疲労が溜まってんだ。

 

 アルを含め非戦闘員も疲労が溜まってきている。


「紅茶を入れてまいります」

「いや…」


 ウィルは断ろうしたが、アルは聞かずに多目的室をそそくさと出ていった。


「あ…」

「いいんじゃない?」

「マイヤーさんの年齢を考えたら、無理はさせたくないんだけど…」

「何もしないでいるのも辛いよ」

「そうだけどさ…」


 アルが戻ってきて紅茶が配られる。


「美味しいです」

「ありがとうございます」


 あたしが淹れると、こううまい紅茶にならないんだよね。

 コツがあるのです。と、アルは笑顔で話す。


 アルも椅子に腰掛け、紅茶を飲む。


 その日は何事なく、平穏だった。




 僕はいつも通りの時間に起床する。


 前日は、敵に動きがなく無事に過ごす事がてきた。


 一日程度で疲れが取れたり怪我が治るわけじゃないが、束の間の安心となった


「おはようございます」

「おはようございます。ウィル様」


 賊の襲撃が始まってからは、マイヤーさんとハンスがそばについていた。


「何か変わった事はない?」

「はい。今のところはありません」


 何もないまま、終わって欲しいがそうはいかないだろう。


 胴鎧だけ身に着け、部屋を出る。


 ちょうど、ソニアがリアンの部屋から出てきたところだった。


「おはようございます」

「おはよう。リアンの様子は?」

「はい。眠りが浅いようですね…」

「そう…」


 うなされて何度も起きてしまうらしい。

 

「今はシンディさんがそばに…」


 そう話すソニアは疲れた表情だ。


「申し訳ない…」

「ウィル様が謝る必要はないかと」

「全く責任がないわけじゃないから…」


 リアンに対して何も出来ない自分、すごく悔しかった。


「君も休める時に休んでくれ」

「はい」


 多目的室にはヴァネッサとミャン、エレナがすでに席についていた。


「ハンス。君も朝食を食べて来てくれ」

「はい。失礼します」


 敬礼して去っていく。



「みんな、おはよう」

 

 そう言っていつもの席につく。


「おはようさん」

「おはヨ…」

「おはようございます」


 ヴァネッサとエレナはいつも通りに見えるが、ミャンだけはいつもの明るさがない。


「ミャン」

「ン?何?」

「あの、えっと…大丈夫?」

「大丈夫だヨ」

「そう…」


 ムードメーカーのミャンが黙り込む姿。このなんとも言えない違和感….


 原因は知っての通りライアだが、ミャンがいつも通りになるように、僕は願っていた。




Copyright(C)2020-橘 シン

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