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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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20-25


「誰かいる?…ねえ…」

「ベッキー?」


 彼女のベッドに近づき顔を照らし、覗き込む。


「ベッキー、大丈夫?」

「あー…」


 彼女は眉間に皺を寄せる。


「エレナ様?…」

「ええ」


 薄っすらと目を開け、私を見た。そして起きようとする。

 が、起き上がる事は出来ない。


「あれ?…」

「あなたは、魔法力を大量に消費した。覚えている?」

「…そうだった」

「今は回復中だから、まだそのままで。あなたは一度経験してるからわかると思う」

「はい…」


 ベッキーは大きく深呼吸をする。


「あの、水もらえます?」

「ええ。カリィ、お願い」

「はい」


 カリィは、テーブルの小さな水瓶からカップに水を入れて持ってくる。


「どうぞ」

「ありがとう…」


 カリィに背中を支えられ、水を飲む。


 ベッキーを皮切りに隊員達が目を覚まし始める。


「頭、痛ったぁ…」

「嘘…起きれない…なんで…」

「どうなっているんだ、これは…」

「くそ…体が動かねえ…」


 口々に辛さを呟く。

 

「無理に動こうしないで。そのまま、楽にしていい」

「はい…」

「やば…魔法を使い過ぎるとこうなっちゃんだ…」


 時間とともに辛さは抜け、通常へと戻る。


「戦況は?ゴーレムはどうなったんです?」

「ゴーレムは倒した」


 実際、倒したのは私ではないけど。


 当時の事についての記憶は曖昧だ。


「敵は一旦引いて、今の所動きはない」

「そうですか」


「僕達の魔法力はお役に立ちましたか?」

「もちろん。あなた達の協力がなければゴーレムを倒す事はできなかった。感謝している」

「エレナ様に感謝されちゃった」

「僕は、今回何も出来ていないと思っているから、複雑な気持ちだよ」

「そう思っているのはお前だけじゃねえって」

「私は一番遅れているので、役にたったと言われてもあまりぴんとこないです」

「あなた達全員の功績だから、自信を持っていい。あなた達は着実に成長している」


 私にも、成長できず足踏み状態だった時期があったから気持ちはわかる。


「今はとにかく休んで。戦闘が終わったわけではない」

「わかりました」


 全快まで三日かかるかもしれないと説明した。


「三日?三日も寝たまま何ですか?」

「いいえ。朝には普通動けるようになる」

「よかったぁ…」

 

 リサが安堵の声を漏らす。


「動けるからといって、魔法力が回復したわけではない事に注意して」

「はい」


「エレナ様は、ずっと私達のそばにいてくれたんですか?」

「ええ」

「俺達はもう大丈夫です。隊長も休んでください」

「わかっている」


 隊員達は私を気遣ってくれた。


「カリィも居てくれたの?」

「はい」

「マジで?ありがとう」

「いえいえ。感謝されるほどでは…ついさっきまで寝ていたんですよ」

「それでもだよ」


 カリィは意外と体力があると思う。


 私よりあるはず。


 

 兵舎がノックされ、ヴァネッサがランプ片手に入ってきた。


「ヴァネッサ隊長?…」


 一番出入り口近いエデルが驚く。


「ヴァネッサ隊長が来たの?」

「ああ」


 男女を仕切りでリサ達にはヴァネッサは見えない。


「気がついたみたいだね」

「今ちょうど、気がついた」

「そう」

「すみません。何もできず…」

「魔法士としての役割りは十分果たしてるから大丈夫。今は休んでいな」

「はい…」


「全員、気がついてるのかい?」

「ええ」


 ヴァネッサが彼らの一人ひとり確認して回る。


「大丈夫そうだね?」

「ええ。朝までには動けるようになる」

「そう」


 ヴァネッサは安心したように頷く。


「僕達が倒れた後、どうなったんですか。ゴーレムを倒したのは聞いたんですが…もう少し詳しく聞きたいです」

「わたしも…」

「それからライア隊長はどうなったのでしょうか?」

「そう、それも」

「あー…」


 ヴァネッサは言い淀み、私を見る。


「申し訳ないけど、私は一旦部屋へ戻る」

「エレナ様、ありがとうございます。そうしてください」

「それじゃ、また後で…」


 カリィは彼らが動けるようになるまで残ると言って兵舎に留まった。


 私は兵舎を出る。

 出た瞬間、彼らが驚く声が聞こえた。おそらくライアの事を聞いたのだろう。


 部屋へ戻りベッドに寝そべる。


 魔法力はある程度回復したが、人としての体力を消耗していた。それと気疲れ。

 

 私は、着替えもしないまま眠りについた。

 



 アタシは叫びながら医務室を飛び出した。


 二階へ上がり、見張り塔を駆け上がる。

 塔の上には誰いない。


 膝を抱え、泣いた。


 大好きなライアの翼がなくなる。

 こんなに悲しい事はない。


 ライア自身はそれを受け入れていた。ヴァネッサもウィルも。


 信じられない。


「アタシが、おかしいの?…」


 何がなんだかわからない。


 今、こうしている間にライアの翼が!…。


 もうシュナイツを出て行こうかと考え始めていた。


 翼を失った後の彼女を支えようって気にはならないのかい?あんたはさ!。


 ヴァネッサの言葉が頭に響く。


「ライアを支える…」


 何をすればいいのさ…。


 また涙が溢れてきた。

 

 

 夕方になり、空が赤くなる。


 見張り塔の床扉が開き、誰かが顔を出す。


「リックス?」

「ここでしたが、隊長」

「なんだよ…」


 慌てて涙を拭く。


「何しにきたの?あれでしょ、ヴァネッサに言われてきたんでしょ?」

「そう邪険しないでくださいよ」

 

 彼はそう言って何かを、アタシの前に出す。


「食事を持って来ただけです」


 いつも食べてるアレ。


「食べたくない」

 

 そう言った瞬間、お腹がなった。


「…」

「…」


 リックスは何も言わず顔を引っ込める。


「何なんだよ、もう…」


 目の前に置かれた食事を見つめる。

 

 シュナイツで初めて食べたのもこれだった。

 いつもこれ。多少、材料や味付けが違うけど、だいたい同じ。


「アタシは別にお腹が減ってるわけじゃないからね。残したらもったいないから食べるだけだから」


 いったい誰に言いわけしてるんだ?。


「いただきます」


 食事は全部食べた。


「あー美味しかった…じゃない!いつもの味だシ!」


 

 食事した後も塔の上で過ごした。


 暗くなって夜を迎える。

 星がいつも以上に奇麗に見える。


 下の敷地内は、いつもと違う。

 この時間なら兵舎に明かりがあるはずだけど、真っ暗だ。

 そのまま見張り塔から周囲を眺めていた。


 そして、夜中。


「エレナだ。それとレドかな?」


 二人が館へ向かっていくのを見つける。


 エレナ…彼女が魔法をうまく使っていれば…。


 当時のアタシは、エレナを恨んでた。

 エレナがミスをしなければ、ライアは翼を失わずにすんだかもしれないから。


 今は、別になんとも思ってない。

 ライア自身がなんとも思ってないように。



 足元で床扉が開く音がした。


「リックス?食べたからね。食器持っていってよ」

「はい」


 はい、の声がリックスじゃない。


「ん?」


 床扉から顔を覗かせていたのはアリスだった。 

  



Copyright(C)2020-橘 シン

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