20-20
翼人族も剣に手をかける。
そうでなくっちゃね。
「たあああ!」
一気に距離を詰め、先手を取る。
突きは避けられけど、半回しで石づきを当てにいく。これも避けられた。
その後もアタシの攻めは当たらず、避けられるかいなされるかのどっちか。
「なんでかかってこないノ?」
「実力が分からぬ者に、先手は愚策と習った」
「あっそう。ならもう、わかったでしょ?」
アタシはそう言って構えを解き、手招きする。
翼人族は無表情で剣を抜き、剣先をアタシに向けたまま動かない。
何だよ、もう!。
しびれを切らしたアタシは、翼人族に向かっていく。
アタシの槍は、さっきと同じくいとも簡単に避けられてしまう。
避け方がまた独特で、翼でふわり浮かび上がり、右へ左へ避ける。
やりづらいなぁ…でも、ちょっと楽しいかも?。
剣の動きが読みにくい。
それと翼を使った体捌きなのか、全体的に予測をつけづらい。
アタシの距離より内側にすぐに入られる。
「くそォ!」
「ミャン!もういいって!あんたじゃ相手にならない」
「ヴァネッサなら相手になるっていうノ!?おっト…」
「あたしでも相手にならないよ。喧嘩する気はないってんだからさ、もうやめなって…」
喧嘩売ったアタシが引けって?
そんな小っ恥ずかしい事できるか。
翼人族の剣さばきの速さに驚いたけど、目が慣れてきた。
「ここだ!」
足元に狙って槍を突き出す。
隙を狙ったはずなんだけど、翼人族はふわりと浮かび、槍の上に降り立つ。
「ふえ?」
そのまま槍の上を走り、アタシに向かってくる。
全然、翼人族の体重を感じなかった。
腕まで歩いて、頭を踏んづけて超えて行く。
「踏み台にされた!?」
振り返る間もなく、背中を突かれる
負けた。本当なら背中を後ろから刺されていただろう。
「良い槍さばきだが、荒削りだな」
後ろからそう囁かられた。
「もう少し相手の動きを…」
「フフッ…アハハ!」
アタシの笑いながら振り向く。
「いやぁ、中々楽しかったヨ!」
「おいっ…」
思わず抱きつく。
「最近、相手に飢えていたんだよネ。ヴァネッサは逃げるしサ」
翼人族の肩をバンバン叩く。
翼人族は訝しげにアタシを見る。
「あーゴメンゴメン。アタシはミャンだよ」
「ぼくはライア・ライエ…」
「よろしくネン」
「あ、ああ…」
ライエと握手をした。
細め腕。この腕で、どうやって剣を操ってんだろ?。
シュナイダー様達が近づいてきて挨拶をした。
お互いに自己紹介。
ライアはシュナイダー様と知って驚いてたね。
「部下の無礼、申し訳ない」
「無礼じゃなくて非礼。あたしからも申し訳ないね」
「いえ、大した事ではありません」
「しかし、見事な剣だった。流石は翼人族」
「お褒めいただきありがとうございます」
ライアは丁寧に頭を下げる。
「男のわりに華奢なのに、やるじゃないか。体の使い方がうまいんだね」
「え?あ、ああ…はい…」
ライアが頬を掻く。
「ヴァネッサ、失礼だヨ!」
「は?」
「ライアは女の子だヨ!」
「えええ!?」
これにはみんな驚いてたねぇ。
「ごめんね」
「いいや。男性に間違われる事には慣れてる」
アタシは匂いで分かったし、抱きついたに胸もあったから確信したよ
小さいサイズだけど。
「これはこれで、ありだな…」
シュナイダー様がそう呟くと、ヴァネッサはため息を吐いてた。
「で、ここに来た目的は何なの?」
「いや…特に目的はない」
「翼人族は放浪するのが通説だが、本当か?」
「はい。ぼくは各地を回っていますが、定住してる者います」
「へえ」
なんか自由気ままでいいなって思ったよ。
「君は、定住したくないわけか…」
「いえ、したくないわけではありません。翼人族というだけで目立ちまして、見世物になってしまうことが多く、人が集まり、更にそれに目をつけて商売人まで集まってしまう…。そういう事は、ぼくが望むところではありません…」
「なるほどな」
ライアは小さくため息をはき、シュナイダー様は苦笑いを浮かべる。
小さな村を選び、一日二日程度の滞在をするというのが定番だったが、人里を離れると今度は賊に狙われるというデメリットもあったとライアは話す。
「ここはそういう事はないよ。見ての通り田舎だし、賊が出たとしてもあんた一人じゃないからね。安心しな」
「ああ、ありがとう」
ヴァネッサが居たいだけ居ればいいと話す。
「ただ漠然と過ごすのは暇だろう?。その剣術を兵士達に教えてはくれまいか?」
シュナイダー様が頭を下げた。
ライアがすごく慌ててたね。
「人に教えるほどの技量は持ち合わせてはいません」
「何言ってんのさ。あんたの剣は相当なもんだよ」
「そうかな?…」
「そうだヨ」
「…」
「食事と個人部屋を用意しよう。メイドもつける。これでどうか?」
ライアは迷いつつも、了承する。
「じゃあ早速、あたしと。誰か、模擬剣持ってきて!」
ヴァネッサとライアの試合は、すごかったね。
ヴァネッサの本気を久しぶりに見たよ。
アタシの時より気合入っていたんじゃない?。
彼女は、滞在は一週間程度と考えていたみたいけど、今でもシュナイツにいる。
ずうっと、居てほしいよ。アタシは。
ライアはアタシのスキンシップにも文句は言わず、受けれてくれた。
ふわふわの翼で包まれて寝た事ある。
アタシ、寝相悪いから一回だけだけど。
え?話それすぎ?。
いやいや、ライアの事ならもっと語れるよ?。もういい?。そう…。
それで…何の話だっけ?。あっそうそう!。ゴーレムを倒すって話ね。
ゴーレムに突進するアタシは槍を強く握りしめる。
ライアの翼の仇を取るんだ!。
胸まで埋まったゴーレム。
その頭部に狙いを定める。
「喰らえ!千槍裂破!」
ゴーレムの頭めがけ、槍を何度も突き出す。
普通の人には残像にしか見えないと思う。それくらい速く突き出した。
「あだだだだっ!…砕け散れ!」
頭を壊した後、体は崩れていくけど、それにも槍を突く。
「はあ…はあ…ざまあ見ろ…」
やった…やったよライア。翼の仇は取ったよ。
「ミャン隊長!戻ってください!」
「ハイヨ!」
そう叫ぶリックスに手を上げて答えた。
ゴーレムは三体とも破壊した。
ガルド、ジル、ミャンを呼び戻す。
「エレナ、もういいよ。ご苦労さん、ゴーレムは倒したよ?」
「…」
彼女は、立ち姿勢のまま動かない。
「エレナ?」
彼女の肩に手を乗せた瞬間、ぐらりと体が崩れ落ちる。
バリケードの頭がぶつけそうなるところで、体を支えた。
「エレナ!」
体を仰向けして、口元に耳を当てる。
一応、息はしてるけど…すごく小さい。
嫌は予感はこれか?…やめてくれ!。
「隊長…」
「レスター、敷地内に撤退する。三人を呼び戻して…」
「了解。ガルド!戻れ!ジルさんも!」
「ミャン隊長!戻ってください!」
エレナの背中と膝裏に腕を回し、抱きかかえる。
「周囲を警戒しろ!撤退する!」
レスターの扇動で、敷地内へと撤退した。
敷地内には負傷者が多数。寝てる者いる。
「こんなに…無事はやつは何人いるの?」
「半数いないと思うよ…」
ウィルが意気消沈で答える。
「エレナは大丈夫なのか?」
「わからない。一応、息はしてるけど…」
あたしはしゃがみ込む。
エレナは元々、色白の顔だがさらに白くなっている。
「エレナ!」
何度か頬を軽く叩くが、反応はない。
「フリッツ先生を呼んで来てくれ!早く!」
「先生には何もできないよ…魔法力を大量に消費したんた」
「だけど…」
何かできないか、というウィルの気持ちはわかる。
わかるけど、こればっかりはどうしようない。
エレナの額かかる髪をそっとよける。
「エレナ、聞こえるかい?」
あたしは彼女に話かけた。
「よく頑張ったよ、あんたは…だから、死ぬんじゃないよ。戻って来な…こんな所で死んだら、つまんないよ…」
あたしはエレナの体をそっと抱きしめる。
小さな体。
この体のどこにあんな魔法力があるのか、未だに信じられない。
「ええ…本当につまらない…」
「エレナ?」
驚いてエレナの顔を覗き込む。
彼女はうっすらと目を開け、あたしを見る。
「私は何もしていない…そんな人生はつまらない…」
「そうだよ…驚かすじゃないよ、全くさ…」
あたしは溜まった涙慌てを指で拭く。
「大丈夫かい?」
「ええ…魔法力を使いすぎただけ…時期に回復する」
「良かった…」
ウィルも安堵の表情を見せる。
「エレナ隊長は無事だ!」
ガルドが大声で周囲に知らせた。
兵士からも安堵の声が聞こえる。
「大声はやめて…頭が痛くなる…」
「すみません…」
「あたしも大声で言いたいよ」
「ほんとにやめて…」
エレナはこめかみを抑えた。
「隊員達は?」
彼女は体を起こそうとする。
「無理するんじゃないって」
「大丈夫…」
「リサ達は兵舎に運んだよ。カリィをそばにつかせている」
「そうですか。ありがとうございます。私も兵舎に行きます…」
ふらつきつつ立ち上がろうとすした。
あたしは体を支えつつ止める。
「エレナ、だめだって」
「私だけでは無理だった。彼ら協力があったこその対抗策だった。だから、そばにいてあげたい」
エレナがこんな事を言うなんてね。
他人に興味ない性格だったのに。
エレナが変わった。
あたしはその事が、嬉しかった。
「わたくしがお供します」
ジルがそばに来る。
「アリスは?」
「部屋でお休みになってます」
「そう」
エレナがジルの手を掴み立ち上がる。
膝に力が入らないのか震えてた。
「参ります」
「お願い」
足元がおぼつかないエレナがジルが支え兵舎へと向かう。
「ジル!あんたも休むんだよ!」
「はい」
あれじゃ酔っ払いを支えているみたいだ。
「ヴァネッサ隊長!ウィル様!」
シエラが焦った様子でこっちに来る。
「エレナはもう大丈夫だよ」
「え?」
「ほら」
「あ、はい…じゃなくて!ライア隊長が!…」
「ライアがどうしたの?」
「危ないのか?」
「いえいえ、命に別状はないんですが、残ったもう片方の翼を切り取ってくれ、と…」
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